主要乳製品の輸出をめぐる動向(アルゼンチン)
全粉乳は、世界第3位の輸出国
米国農務省(USDA)によると、アルゼンチンは近年、生乳生産の増加および輸出に有利な為替環境が続いたことなどから、国際市場における乳製品の主要輸出国の1つとなっている。
2009年の輸出金額は軒並み減
国家動植物衛生機構(SENASA)によると、2009年の主要乳製品の輸出は、以下の通りとなっている。
1 全粉乳
2009年は、主要相手先であるアルジェリアやブラジル向けなどが増加したことから、数量で前年比42.0%増の約14万3000トンとなった。一方、金額では、2009年上半期において、2008年の国際金融危機に伴う国際需給の緩和などにより単価が下落したことから、同13.4%減の約3億3000万ドル(約313億5000万円、1ドル≒95円)となった。
資料:国家動植物衛生機構(SENASA)
2 チーズ
2009年は、主要相手先であるブラジルやメキシコ向けなどが増加したことから、数量で前年比17.1%増の約5万1000トンとなったものの、全粉乳の場合と同様の理由により、金額では同23.1%減の約1億5000万ドル(約142億5000万円)となった。
資料:国家動植物衛生機構(SENASA)
3 バター
2009年は、最大の相手先であるロシアについて、2006年〜2008年まで輸出が急増したが、国際金融危機の影響などにより大幅に減少したことから、数量で前年比14.2%減の約1万3000トン、金額で同54.2%減の約2400万ドル(22億8000万円)となった。
資料:国家動植物衛生機構(SENASA)
4 脱脂粉乳
2009年は、ベネズエラやペルー向けなどが減少したことから、数量で前年比3.9%減の約1万3000トン、金額では全粉乳の場合と同様の理由により、同54.2%減の約3100万ドル(29億5000万円)となった。
資料:国家動植物衛生機構(SENASA)
チーズでは、日本が主要輸出相手先の一つに
日本は近年、チーズ輸出の主要相手先の1つとなっており、2009年は数量で前年比74.3%増の4900トン、金額で同4.4%増の1300万ドル(12億3500万円)となるなど、前年と同様に6番目の輸出相手先となった。また、2010年1月〜2月では、数量で837トン、金額で284万5000ドル(2億7000万円)とブラジル、チリに続く第3番目の輸出相手先となっている。この背景としては、中国、ロシアなどの需要増加やオセアニア地域での干ばつなどにより、2005年〜2008年上半期まで乳製品の国際需給がひっ迫傾向で推移したことや、日本の主要輸入相手先である豪州の豪ドル高などによりアルゼンチンから日本へ輸出できる為替環境になったことなどによる。
なお、品目としては、イタリアンレストランなどの外食産業向けとしてゴーダチーズやモッツァレラチーズなどが輸出されている。
(注)アルゼンチンの対日向けチーズ輸出急増の背景の詳細などについては、2008年12月24日付け海外駐在員情報
「対日チーズ輸出は大幅減」参照。
ホエイ類の輸出が増加
ホエイ類については、近年、アルゼンチンからはブラジルやインドネシア、中国向けなどに輸出が増加している。アルゼンチン農牧漁業省(Minagri)によると、2009年は数量で前年比4.3%増の約3万8000トンとなったものの、金額では全粉乳の場合と同様の理由により、同35.0%減の5700万ドル(54億2000万円)となった。なお、2009年には、約800トンのホエイ類が日本に輸出されている。
業界団体による今後の見通し
また、今後の輸出見通しなどについて、アルゼンチンの乳業メーカーなどで組織される団体(Centro de la Industrial Leche:CIL)の関係者に聞き取りしたところ、以下の通りであった。
生乳生産の20%が輸出向け
「アルゼンチンの乳製品輸出については、生乳の余剰分が輸出に向けられている。具体的には、生乳(近年では、年間約100億リットル前後)の約20%が輸出向けである。同時に、国際需給の動向からも大きな影響を受けている。
2007年および2008年に輸出が減少した主な理由については、2007年は長雨により生乳生産が減少したこと、2008年は同年上半期まで国際需給がひっ迫傾向であったことから、政府が国内市場での価格上昇を懸念して輸出抑制策(輸出許可書発行の遅延など)を行ったことが大きい(2009年については、各乳製品の項目を参照)。」
今後は全粉乳、チーズ、ホエイ類の輸出を強化
「今後は、まず輸出実績の多い全粉乳、次に中規模の乳業メーカーを中心としたチーズの輸出に力を入れていきたい。また、チーズ生産の副産物であるホエイについては、従来から主に豚用飼料やハム類の添加材料などとして利用してきたが、今後は輸出にも力を入れていきたい。バターについては、最大の相手先であったロシアの需要が落ち込み、その他の国からの需要は今のところ見込めない。バターを生産する際に生じる脱脂粉乳についても、積極的に輸出する環境ではない。
アルゼンチンの乳製品の品質については、オセアニア地域と比べてもさほど遜色はなく、ハードタイプのチーズについてはEUに輸出している。しかし、価格面では、アルゼンチンも生乳生産コストが1リットル当たり20セント(約19円)と低コストではあるが、オセアニア地域の主要乳業メーカーより高い状況だ。なお、アルゼンチンの主要乳製品メーカーは、オセアニア地域を参考に輸出価格を決定している。」
2010年は前年並み、中・長期的には年8〜10%増の見込み
「2010年の乳製品輸出については、(1)国際需給、(2)天候条件、(3)経済状況、(4)政府の輸出政策次第であり、現在のところ前年並みの水準と見込んでいる。
また、中・長期的には、以上の4つの条件と合わせて、国内の消費動向を見る必要がある。チーズとヨーグルトは今後も国内消費量の増加が見込まれるが、その他の乳製品についてはあまり増加すると見込まれていない。現在、アルゼンチンの酪農構造は世界的なすう勢と同様に、小規模酪農家の廃業が進み、規模拡大が進んでいる。こうした状況の下、前述の条件で特段の状況変化がない限り、生乳生産は年2〜3%伸びることが予想され、輸出量は年8%〜10%程度増加すると見込まれる。」
以上のように、アルゼンチンの全粉乳輸出については、引き続き国際市場において一定の地位を保つことが予想され、チーズおよびホエイ類の輸出状況と合わせて注目する必要があるとみられる。
【石井 清栄 平成22年4月9日発】
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