肉牛供給不足などで牛肉パッカーが工場を閉鎖(アルゼンチン)
2010年1〜7月の牛肉生産量は、前年同期比22.0%減
アルゼンチン牛肉・牛肉副産物および取引会議所(CICCRA)によると、2010年1〜7月の同国の牛肉生産量は、前年同期比22.0%減の約152万1000トン(枝肉ベース、暫定値)となった。この原因としては、政府の牛肉政策に対する不信および2008〜2009年の深刻な干ばつにより、肉牛農家が繁殖用雌牛などを売却し、肉牛経営より収益性の高い穀物・油糧種子などの栽培に転向したため、肉牛供給が大幅に減少したためとしている。なお、国家動植物衛生機構(SENASA)によると、2010年3月現在の牛飼養頭数は、前回の調査(2009年9月)に比べ12.2%減の約4900万頭と見込まれている。
また、牛肉輸出については、同国政府が国内牛肉価格の値上がり防止のため、輸出許可書発行の制限など輸出管理政策を強化していることもあり、2010年1〜7月の牛肉輸出は数量(枝肉ベース)で前年同期比45.7%減の約18万6000トン、金額で同24.8%減の約6億7200万ドル(約577億9000万円、1ドル≒86円)となった。
アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)によると、同国の生体牛価格は、2009年上半期まで1キログラム当たり2〜3ペソ(約21〜63円、1ペソ≒21円)で推移していたが、同年下半期以降大幅に上昇し、2010年8月は前年同月に比べほぼ倍増の同5.1ペソ(約107円)となった。
現在、23〜24社が工場を閉鎖、3000人が解雇
こうした中、牛肉パッカーがと畜処理工場を相次いで閉鎖していると報じられている。パッカーの動きなどについて、CICCRAのスチィアリティ会長に確認したところ、以下の通りであった。
1 工場閉鎖の状況
現在、輸出パッカー(15〜16社)を含む23〜24社が工場を閉鎖している。これまで、3000人が解雇、7000人以上が一時解雇(レイオフ)された。同国政府は、パッカーに対しレイオフされた従業員への賃金を補償するなどの対策を立てているが、申請手続きが非常に煩雑なため、5社しか認められていない状況にある。
2 JBS社のアルゼンチン工場の一部売却計画
報道などによると、ブラジル最大の牛肉パッカーであるJBS社が肉牛の供給不足とアルゼンチン政府の輸出管理政策を理由に、同国に所有する8工場のうちブエノスアイレス州などの3工場を売却する計画があり、政府は売却先に対して特別融資を行うとのことだが、われわれは関知していない。
そもそも、売却先が見つかったとしても、肉牛が不足する現状では維持経費が掛かるだけで、採算が取れないのではないだろうか。
* 現地牛肉業界コンサルタント、イリアルテ氏にも確認したところ、JBS社は実際牛肉処理工場として利用している6工場のうち、3工場を売
却する計画で今年12月までに売却をしたいとのことである。
これに対して、アルゼンチン政府は、JBS社の同国からの一部撤退という政治的な影響や雇用問題を考慮して、大手スーパーマーケットに
政府からの特別融資で自社工場として買い取ることなどを打診するなどの対応を図っているとされている。
3 今後の見通し
さらに3〜4社が工場を閉鎖する可能性があるが、現在が一番悪い状況にあると考える。今後は牛飼養頭数が徐々に回復すると見込まれること、2011年10月ごろに予定されている大統領選挙の結果によっては牛肉政策が変更される可能性があることなどから、これ以上工場を閉鎖する可能性は低いとみられる。
しかし一方で、われわれは、工場が多すぎるとも認識している。国内の約690工場のうち、約150でアルゼンチンの牛肉の70%以上が生産されている。地方に数多く立地する小規模工場は(1)冷蔵施設がない、(2)副産物を処理できない−などの問題を抱えている。今後のアルゼンチンの牛肉輸出競争力などを考慮した場合、工場数を半分以上減らした方が良い。
4 飼養頭数の回復見込みおよび牛肉消費など
現在の繁殖雌牛の頭数から見ると、2006〜2008年の水準(約6000万頭前後)に戻るまで6〜10年かかるだろう。その間、牛肉の国内消費については年間1人当たり50キログラム台へと低下するものの、政府が牛肉の代替として鶏肉および豚肉の消費拡大に取り組んでいることから、これらの消費が伸びるとみられる。大統領選後に、輸出管理政策が緩和されることを期待するところであり、輸出については、パッカーの採算コストが見合う年間40万トンを目指したい。
【石井 清栄 平成22年9月24日発】
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