米議会合同委員会の財政赤字削減協議が決裂、次期農業法の決定も来年に持ち越しか
最終更新日:2011年11月24日
米国の民主党、共和党で構成する議会合同委員会は11月21日、財政赤字削減の交渉が決裂したと発表した。同委員会は23日までに今後10年間で最低1.2兆ドルの財政赤字削減案を取りまとめることとなっていた。次期農業法は財政赤字削減案の構成要素の一つとして年内決定の期待が高まっていたが、今回の決裂により、同法の決定は来年に持ち越されるとの観測が広がっている。
(注)議会合同委員会
米連邦政府債務上限の引き上げを定めた2011年予算管理法により設置された特別委員会であり、両院からの超党派12名の議員で構成されている。同委員会は11月23日までに、今後10年間で財政赤字を最低1.2兆ドル削減する案を策定することとされていた。同委員会で承認された案は、12月2日までに議会とホワイトハウスに提出され、12月23日までに議会において採決が行われることとなっていた。
議会合同委員会に向けた次期農業法の検討内容
上院、下院農業委員会は10月中旬、議会合同委員会に対して次期農業法について今後10年間で230億ドルを削減する案を提出していた。しかし、具体的な削減内容は定まっていなかったため、11月23日の赤字削減案の期限に向けて、スタブナウ上院農業委員長(民、ミシガン)、ルーカス下院農業委員長(共、オクラホマ)を中心に検討作業が行われていた。最終的な提言内容は明らかにされていないが、上院農業委員長による特別委員会への提言の草案文書および関係者からの情報を総合すると、次期農業法について以下の内容が検討されていたものと推測される。
1.既存事業の廃止
直接支払い、ACRE(収入変動型対応支払)、CCP(価格変動対応型支払)およびSURE(補完的収入援助プログラム)を廃止し10年間で150億ドルを削減。
2.リスク管理対策
・ マーケティング・ローンは継続するが、綿花についてはブラジルとのWTO紛争を考慮しプログラムを変更。
・ リスク補てんプログラム(Ag Risk Coverage(ARC) program)を創設。農家収入が5年平均(最高と最低を除いた3年平均)の87%まで落ち込んだ場合、同プログラムより支払いを開始。農業保険との重複を避けるため、支払上限は収入の12%まで。例えば、農家の単収、又は価格のいずれかが13%を超えて低下した場合、作付面積(災害などにより作付できなかった面積も含む)の60%に対して補てん金を支払う。なお、ARCプログラムにおける一生産者当たりの支払い上限は10万5千ドル。
・ ARCプログラム以外の選択肢として、価格の落ち込みを補てんするプログラムを用意。作物年度の最初の5か月で価格が参照価格を下回った場合、作付面積の85%に対してこのプログラムよりに補てん金を支払う。同プログラムに用いられる目標価格は、小麦で5.5ドル、トウモロコシで3.64ドル、大豆で8.31ドル、米で13.98ドル。
3.農業保険
農業保険の対象に果物および野菜生産者を追加。また、綿花生産者に対しては、独立した収入保護プログラムを創設。
4.酪農対策
生乳生産者市場保護プログラム(DPMPP)および市場安定プログラム(DMSP)を創設し、現行の乳製品価格支持制度(DPPSP)、生乳所得損失補てん契約事業(MILC)および乳製品輸出奨励事業(DEIP)を廃止。
DPMPPは所得(乳価−飼料費)に着目したボランタリーのプログラム。また、DMSPは、需給が緩和した際に、生産者に生乳生産の調整を促す制度。なお、DPMPPを選択する生産者は、DMSPに参加することが条件。
5.環境保全対策
土壌保全事業(CRP)の対象面積を32百万エーカーから25百万エーカーに削減。
次期農業法に係る議論について、まずは全体の削減額をどう設定するのかが重要
両院農業委員長を中心とした次期農業法の検討は、財政赤字削減案に盛り込むことを前提に行われてきたことから、同案の見通しが立たない現時点において、これまでの検討内容の今後の取り扱いは分かっていない。
議会合同委員会決裂に当たって両院農業委員長は、「230億ドルの削減につながる農業法を検討してきたが、議会合同委員会決裂によりその取組も実質的に終了することとなった。党派を超えて委員会メンバーや関係者と議論が行えたことは大変喜ばしいことであった。来月以降も、次期農業法の検討を続けていきたい」との声明を発表した。
財政赤字削減の今後の予定としては、議会合同委員会が決裂した場合、2011年予算管理法に基づき、国防費を含む歳出から自動的に2013年1月1日から2021年末までの9年間で計1兆2000億ドルの削減が行われることとなっている。この場合、農業分野への削減割当は150億ドル程度といわれている。なお、CRPや補完的栄養援助プログラム(SNAP)などは削減対象から除外される見通しである。他方、オバマ大統領は9月の段階で、農業法関連の支出は今後10年間で330億ドルの削減が必要であると主張していた。次期農業法における全体の削減額をどう設定するのかが、最初の重要なポイントとなってくるであろう。
また、両院農業委員長を中心に非公開で進められてきた次期農業法の検討プロセスについて、多数の議員などから不満の声が上がっている。議論の中心メンバーの一人と目されてきた上院農業委員会のロバーツ議員(共、カンザス)からさえも、「両農業委員長はここ数週間、私を含めた委員会メンバーの意見を取り入れようとしてこなかった。検討されてきた次期農業法について、歳出削減が公平に行われたのか、また、目標価格を引き上げた新たなプログラムがWTOルールに遵守しているのかなどの懸念を有している。今後は過去の農業法に倣い、公聴会や委員会での審議を行うなど通常の検討プロセスに戻してほしい」との要請が出されている。
現段階で次期農業法について予断することは難しいが、今後の検討プロセスについては、公聴会などを活用したより開かれた形での議論が行われるものと推測される。
【上田泰史 2011年11月24日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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