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欧州委員会、農業に対する世論調査結果を公表(EU)

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最終更新日:2016年1月12日

 欧州委員会は2016年1月6日、新たな共通農業政策(CAP、対象期間:2014〜2020年)が施行されて1年半後の2015年10月に実施した特別ユーロバロメーター(世論調査)の結果を公表した。新CAPは、市場志向性を一層強め、食料産業における生産者の位置付けを強化し、全体として効率性と透明性を以前より重視したものとされており、生産者への直接支払いは、より公平に、環境をさらに重視した上で支払われるようになっている。

 ユーロバロメーターは、通常、EUの一般政策や経済情勢などについて年2回実施されるが、今回、農業についてEU28加盟国の計約3万人の市民との対面調査により特別に実施された。農業に関する特別ユーロバロメーターは、2013年12月、2009年12月にも実施されている。
 調査項目は、(1)農業、(2)共通農業政策(CAP)、(3)生産者への補助金、(4)欧州委員会の提供する農業情報、(5)林業、(6)農産物表示であり、全17の質問により行われた。
 特別ユーロバロメーターの結果によると、農業の重要性がEU市民から広く理解され、CAPはEUの食料供給に大きな役割を果たしていると認識されているが、以下、農業に対するEU各国の市民の意識がうかがえる箇所を抜粋して紹介する。

 「農業と農村地域」については、「とても重要」と回答した者が62%と前回調査より9ポイント増え、「まあまあ重要」と合わせて「重要」と答えた者は94%(同2ポイント増)となった。
 また、「生産者の責任」として、「アニマル・ウェルフェアの遵守」が前回調査の5番目から最多の支持を得た「市民への多様な高品質農産物の提供」に続く2番目に上昇している。一方で、前回2番目の「農村地域の経済振興と雇用の確保」は4番目となり、「環境保全」は前回同の3番目となった。以下、5番目に「食料自給率の維持」、6番目に「農村地域の生活振興」と続いた。

 CAPの果たす役割としては、「農村地域の経済発展と雇用」、「食料産業における農家の位置付け強化」、「技術革新の推進」、「若者の就農支援」、「効率的生産の推進」がそれぞれ8割以上の支持を得た。しかしながら、加盟国別に見ると国ごとの特徴が現れており、「効率的生産の推進」が高く支持されたのはポルトガル(93%)、ブルガリア(90%)、ギリシャ(90%)、キプロス(90%)など比較的農業の効率化が遅れている国々であり、「農村地域の経済発展と雇用」への支持も、旧東欧圏の国々が上位に並んだ。

 また、CAPの効果としては、「貿易関係の改善」、「EU農業の推進」、「投資と雇用の拡大」、「気候変動対策」、「農村地域の通信インフラの整備」が5〜6割の支持を得たものの、それらに効果がないとする回答も少なからずあった。

 生産者への財政支援として、EU予算の40%および各加盟国予算の1%が当てられているが、これについては、「適正」(41%)、「過小」(29%)、「過大」(13%)、「不明」(17%)とされた。これも加盟国によって意見が異なる傾向があり、19カ国で「適正」が最多となったが、ラトビア、ルーマニア、エストニア、キプロスの4カ国では「過小」が最多となった。一方、スウェーデン、オランダ、デンマークでは「過大」にそれぞれ最多となる31%の回答があり、国ごとの農業の位置付けに対する違いが現れている。

 EU予算の40%をCAPに使用していることについては、「生産者への補助は、食料供給の確保に必要」(40%)、「生産者への補助は、持続的生産を促進」(33%)、「農業には人的・財政的支援が必要」(32%)、「EUでの農業生産は、海外よりコストが高い」(23%)、「農業への財政支援はEU予算ですべきもの」(17%)、「適正な配分ではない」(3%)との結果となった。

 生産者への財政支援の額については、「増やすべき」(45%)、「現状維持」(29%)、「減らすべき」(13%)となった。これについても加盟国によって意見が異なっており、旧東欧諸国で「増やすべき」が最多であったのに対し、ほぼ全ての旧西欧諸国で「現状維持」が最多となり、唯一、デンマークでは「減らすべき」が優勢を占めた。

 一方、EUの生産者補助は、環境基準、食品安全基準、アニマル・ウェルフェアの基準の遵守が義務付けられており(クロス・コンプライアンス)、これらに対応できない生産者に対する減額について、87%が「妥当」と回答している。
 また、EUの生産者補助は、環境対策や気候変動対策に資するもの(グリーニング)として実施していることについては、87%が「妥当」とし、「反対」は6%になっている。


【中野 貴史 平成28年1月12日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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