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EUのでん粉をめぐる状況

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最終更新日:2010年9月1日

EUのでん粉をめぐる状況 〜最近のでん粉製品需給と関連政策について〜

2010年9月

調査情報部 調査課

はじめに
 
 EUでは、主にコーンスターチ、小麦でん粉およびばれいしょでん粉が生産されており、小麦でん粉およびばれいしょでん粉については世界最大の産地である。また、我が国が輸入しているばれいしょでん粉は、ほぼ全量がEU産となっており(2009年の輸入ばれいしょでん粉1万2645トンのうちEU産は1万2593トン)、EUのでん粉需給は、我が国のでん粉需給と関係深いものとなっている。
 
 本稿では、このようなEUのでん粉をめぐる状況について、最近のでん粉製品需給と関連政策を中心に報告する。
 なお、本稿中の年度は7月〜6月である。
 
 
 
 
1.でん粉製品の需給
 
(1)生産
 
(1)−1 生産状況
  〜世界の生産量の13%を占める〜
 
 2009年におけるEUのでん粉製品の生産量は、約930万トンとなっており、世界のでん粉製品生産量(7200万トン)の13%を占めている。(図1)
 この内訳は、天然でん粉210万トン、化工でん粉190万トン、でん粉由来の甘味料などが530万トンとなっている(図2)。
 
 
 
 
 
 
(1)−2 でん粉原料作物の使用状況
  〜小麦でん粉、ばれいしょでん粉の最大の産地〜
 
 EUにおいて、でん粉原料として利用される作物は、とうもろこし、小麦、ばれいしょとなっており、いずれもEU域内でほぼ自給されている。ほかのでん粉生産地域と比較すると、原料に多様性があることがEUのでん粉生産の特徴と言える。
 
 でん粉製品生産量の原料別の内訳を見ると、2009年では、とうもろこしを原料としたものが最も多く49%(460万トン)を占めており、小麦35%(330万トン)、ばれいしょ16%(150万トン)であった。(図3)
 
 EUのコーンスターチ生産量が世界全体に占める割合は9%に過ぎないが、小麦でん粉については75%、ばれいしょでん粉については83%と、この2種類のでん粉の世界最大の産地となっている。
 
 
 
 
 また、原料作物のでん粉仕向け状況については、2008年では、とうもろこしが総生産量6300万トンのうち12.2%の770万トンがでん粉に仕向けられており、小麦が同1億4100万トンのうち4.9%の690万トン、ばれいしょが同6140万トンのうち12.9%の790万トンとなった。(表1)
 
 
(1)−3 天然でん粉の生産コスト
  〜ばれいしょでん粉は、コーンスターチ、小麦でん粉と比較して高コスト〜
 
 天然でん粉の生産コスト(2007年から2009年までの3年間の平均値)を見ると、コーンスターチはトン当たり198ドル(約17,365円、1ドル=87.7円、7月末日TTS相場)小麦でん粉が同125ドル(約10,963円)、ばれいしょでん粉が同289ドル(約25,345円)となっている。
 
 小麦でん粉の生産コストが最も低い理由は、副産物として得られる小麦グルテン(小麦たん白)が、食品や飼料向けとして需要が強く、市場価値が高いことである。同様に、コーンスターチの副産物には、コーングルテンや、コーン油などがあり、これらも近年、需要が増加しているところである。
 
 一方、ばれいしょでん粉については、小麦およびとうもろこしと比較して、副産物収入が少ない上に、でん粉歩留りも高くないため、生産コストが相対的に高くなっている。また、製造事業者が支払う原料ばれいしょ価格には、後述するように最低価格が設定されているため、一定の原料コストを要することも高コストの理由の一つである。
 
 
 
 
(1)−4 産業構造
 〜上位3社で生産量の約8割を占める〜
 
 EUのでん粉製品産業は、表2に示す24の企業が有する77の工場から成り立っている。近年は、企業の再編合理化が進められており、多様化を図る砂糖分野と連携する企業が増えている。
 
 EUのでん粉製品生産量(乾燥重量)の81%が上位5社で占められており、10社まで範囲を広げるとその割合は90%となる。生産量の上位3社は、Cargill社(年間300万トン)、Roquette社(年間240万トン)、Syral社(年間180万トン)である。このほかの主要企業としては、Tate & Lyle/Hungrana社、Avebe社、Emsland Strke社が挙げられ、この3社の生産量の合計は、年間210万トン程度となる。(図4)
 
 また、でん粉製品のうち、でん粉由来甘味料の生産量について見ても、Cargill社(年間180万トン)、Syral社(年間140万トン)、Roquette社(年間130万トン)が上位を占めている。
 
 
 
 
 
 
(2)消費
 〜加工食品向けは34%、製紙向けが25%を占める〜
 
 EUのでん粉製品の用途別割合は、大別すると、2009年に食品向けが60%、非食品向けが40%となっている。
 
 このうち、最大の仕向け先は、加工食品(ジャム、ゼリー、果物の砂糖煮、冷凍食品、インスタントスープやソース、肉・魚製品など)の34%で、次いで菓子・飲料(パン、飲料、菓子類、チョコレート、デザート、乳製品)向けの26%となっている。
 
 非食品向けでは、段ボールや紙製品向けが最大の25%を占め、医薬品、化学薬品(歯磨き粉、錠剤、乳液、化粧品、クリームなど)8%、そのほかの非食品向け6%、飼料向け1%となっている。
 
 
 
 
(3)貿易
 〜輸出はばれいしょでん粉および化工でん粉が主〜
 
 EUは天然でん粉の純輸出国であり、中でもばれいしょでん粉は、2009年の輸出量が41万トンと最も多い。ばれいしょでん粉の主な輸出先(2009年)は、中国(5万7000トン)、米国(5万2000トン)、韓国(3万4000トン)で、日本向けは1万2000トンであった。
 
 2007年および2008年は、ばれいしょが2006年秋に不作であったことや穀物価格の高騰を受けた作付転換により例年と比較して低い水準であったが、2009年にはばれいしょが豊作であったことから回復した。(2010年の輸出量の推移については、今月号の「海外のでん粉需給動向」EUの項を参照されたい。)
 
 小麦でん粉およびコーンスターチも、ばれいしょでん粉と比べ少量であるが輸出されており、2009年の輸出量は、小麦でん粉が5万3000トン、コーンスターチが5万6000トンであった。
 
 2004年までのコーンスターチ輸出量は小麦でん粉の約2倍であったが、域内使用量が増加したため、近年は小麦でん粉と同程度の水準で推移している。コーンスターチの主な輸出先はコートジボアール、チュニジア、マレーシアなどで、小麦でん粉の主な輸出先はスイスとトルコである。
 
 また、EUは、化工でん粉についても純輸出地域である。主な輸出国は、ドイツとオランダで、2009年の輸出量は、デキストリンおよびその他の化工でん粉(HSコード:350510)が27万4000トンで、主な輸出先は、米国(3万4000トン)、トルコ(3万2000トン)、ロシア(2万8000トン)で、日本向けは1万2000トンであった。膠着剤(HSコード:350520)については、2009年の輸出量は2万トンであった。
 
 
2.でん粉関連政策
 
 
 ここでは、EUのでん粉関連政策について、(1)でん粉製品関連政策、(2)ばれいしょでん粉関連政策、そしてでん粉産業に影響を与えた政策として(3)砂糖制度改革について紹介する。なお、小麦などを原料としているバイオ燃料に関連する政策などについては、前月号「EUのバイオエタノールをめぐる状況」を参照されたい。
 
 
 
(1)でん粉製品関連政策
 
(1)−1 輸入関税
 
 でん粉製品の輸入関税は下表3のとおりである。
 
 天然でん粉と糖化製品は、EUでは基礎産品(basic product、主に農産物が含まれる)に分類され、域内生産を保護する目的で、EU域外からの輸入には高い関税が課せられている。一方、エステル化でん粉およびエーテル化でん粉は、工業品に分類され、関税も比較的低く設定されている。ほかの化工でん粉は、関税率9.0%に加えて重量税が課せられるため、天然でん粉に近い水準になっている。
 
(1)−2 生産払戻金(Production Refund)と輸出補助金(Export Refund)
 
 EUはこれまで、主要な穀物の域内価格について、価格支持制度により、国際市場価格を上回る水準に維持していた。また、でん粉原料用ばれいしょについても最低生産者価格を設定してきた。
 
 その一方、これらの措置により、域内のでん粉価格が国際市場価格と比較して高いものとなることから、輸入品との競争力を賦与する目的で、域内のでん粉を利用するユーザーに対する生産払戻金(production refund)および輸出補助金(export refund)という支援措置を講じていた。
 
 このうち、生産払戻金は、EUにおけるとうもろこしや小麦価格が歴史的に国際水準よりも高かったため、これを緩和する目的で設けられ、その後、公平性の観点から、ばれいしょでん粉へも対象が拡大された。その額は、とうもろこしの域内市場価格と平均輸入価格(CIFロッテルダム)の差額に係数(1.6)を乗じて算定される。
 
 しかしながら、EUの共通農業政策(Common Agriculture Policy、以下「CAP」)は、財政負担の軽減などの観点から、介入価格制度などの価格支持を廃止する流れが強まり、EC72/2009によりこの生産払戻金制度は2009年7月から廃止された。ただし、2006年10月からこの生産払戻金の発動はなかったため、廃止された影響はほとんどないとされている。
 
 一方、輸出補助金は、でん粉だけでなく農産物に幅広く適用されている。その算定方法については、次のとおりである。
 
{(EUのFOB価格)―(米国のFOB価格)}×(製品の製造に要する原料の量を示す係数、表4参照)
 
 この輸出補助金制度について、EU委員会は、WTOドーハラウンドが決着した際には廃止するとしており、でん粉については2007年12月から交付がない状況である。
 
 
(2)ばれいしょでん粉関連政策
 
 
 ばれいしょでん粉については、でん粉原料用ばれいしょ生産者およびでん粉製造企業に対する固有の補助政策が存在する。これらの政策は、ばれいしょがEUにおける基幹作物の一つであり、また、競合するとうもろこしや小麦と比較して、長期保存ができないことから、コーンスターチ、小麦でん粉との平等性を保つ観点から実施されてきた。しかしながら、補助金を生産との関係から切り離すデカップリングや価格支持の縮小を狙いとして2008年11月に了承されたCAPの一部見直しへの提案(ヘルスチェック)により、以下(1)〜(4)に示すばれいしょでん粉関連政策は、一部形を変えて残るものの、原則として2011年度末(2012年6月末)までとされている。
 
 
 
(2)-1 生産割当制度(Production Quota)
 
 ばれいしょでん粉については、各加盟国に生産割当数量が定められ、各加盟国は、これを製造事業者ごとに配分している(sub-quota)。製造事業者は、生産割当数量内のばれいしょでん粉について、プレミアム(Potato Starch Premium、トン当たり22.25ユーロ、詳細は(2)-2で後述)を受けることができる。また、ばれいしょ生産者は、割当数量の範囲内で生産補助金(Production Aid for starch potato growers、ばれいしょ1トン当たり66.32ユーロ、詳細は(2)-4で後述)を受けることができる。
 
 加盟国ごとの生産割当数量は表5のとおりである。最も多い国はドイツで66万トン、次いでオランダ51万トン、フランス27万トンとなっており、この上位3カ国で割当数量195万トンの約3/4を占めている。各加盟国は、2007年度の割当実績に基づき、2009年度以降の製造事業者ごとの配分を決定することとなっている。
 
 製造事業者は、翌年度の割当数量から控除することを条件に、当該年度の割当数量を5%まで超過して生産することができる。しかし、これ以外で割当数量を超えた生産については、輸出補助金なしで輸出しなければならない。
 
 CAPヘルスチェックにより、2011年度をもって、この割当制度は廃止されることとなっている。
 
(2)-2 ばれいしょでん粉製造事業者を対象としたプレミアム(Potato Starch Premium)
 
 ばれいしょでん粉の製造は、生産割当による制限があるため規模拡大が難しいこと、ばれいしょの長期保存が難しいため工場の稼働期間が短いこと、コーンスターチや小麦でん粉のように副産物による利益が期待できないことなどを理由に、ほかの原料からのでん粉製造に比べて不利であると考えられている。
 
 そのため、ばれいしょでん粉製造業者に対して割当数量の範囲内で補助金が交付されており、単価はでん粉1トン当たり22.25ユーロ(約2,552円)である。ただし、この補助金を受ける条件として、製造事業者は、ばれいしょ生産者と毎年栽培契約を交わし、最低価格(詳細は(3)で後述)を上回る価格でばれいしょ生産者から買い上げなければならない。
 
 このプレミアムは、ヘルスチェックにより、2012年度から単一支払い制度に組み込まれることとなっている。しかしながら、その実態は、単一支払い制度の上乗せ分となっており、予算額についてもこれまでと同額で、その範囲内で各加盟国が生産量に応じて支払うことができるとされているため、実質的には大きく変わらないとみられる。
 
 
 
 
(2)−3 でん粉原料用ばれいしょの最低価格保証
 
 前述(2)−2のプレミアムを受ける条件となっている最低価格は、でん粉1トンの製造に必要なばれいしょ当たり178.31ユーロ(約20,452円)である。標準品のでん粉含有率17%のばれいしょでは、ばれいしょ1トン当たり35.66ユーロ(約4,090円)となる。
 
 この最低価格保証制度は、2011年度をもって廃止されることとなっている。
 
 
 
(2)−4 でん粉用ばれいしょ生産者を対象とした生産補助金
  (Production Aid For Starch Potato Growers)
 
 でん粉原料用ばれいしょ生産者に対しては、上述のように最低価格を保証しているほか、CAPによる直接支払いおよびでん粉1トンの製造に必要なばれいしょ当たり66.32ユーロ(約7,607円)の生産補助金が交付される。
 
 この生産補助金制度は、ヘルスチェックにより、2012年度から単一支払い制度に組み込まれることとなっているが、前述(2)−2のプレミアムと同様に、単一支払い制度の上乗せ分となっており、予算額についてもこれまでと同水準で、その範囲内で各加盟国が生産量に応じて支払うことができるとされているため、実質的には大きく変わらないとみられる。
 
 
 
 
(2)−5 関連政策の変更によるばれいしょでん粉産業への影響
 
 関係者によれば、ヘルスチェックによる決定が適用される2011年度までは、ばれいしょでん粉産業は大きな動きはないと見込まれるものの、2012年度以降は少なからず影響が生じる可能性がある。
 具体的には、でん粉原料用ばれいしょの最低保証価格の廃止によって、競合する作物の価格が作付け傾向へ与える影響が、これまでよりも大きくなることが考えられる。このため、ばれいしょでん粉製造事業者は原料の確保に対してこれまでより労力を割く必要が生じる。
 関係者は、こうしたことでばれいしょでん粉の生産コストが増加した場合、製紙業などの価格に敏感なユーザーにおいて、ばれいしょでん粉からコーンスターチや小麦でん粉への切り替えが進むと見込んでいる。
 
 
 
 
(3)でん粉産業への影響を与えた砂糖制度改革
 
 (3)−1 砂糖制度改革の概要
 
 EUでは、2006年度から、域内の砂糖需給バランスを調整するため、砂糖制度についても大規模な改革を実施している。砂糖制度には、異性化糖(isoglucose)もその対象に含まれるため、でん粉産業へも影響を与えるものとなっている。
 
 このEUの砂糖制度改革の内容および進捗状況について整理したものは以下のとおりである。なお、詳細については、砂糖類情報2009年5月号「EUの糖業事情(1) 〜砂糖制度改革とその影響について〜」を参照されたい。
 
ア.生産割当の600万トン削減
 2009年度までに砂糖などの生産割当数量を1900万トンから1300万トンまで600万トン削減することを目標に掲げた。この結果、生産割当数量を砂糖523万トン、異性化糖22万トン、イヌリンシロップ32万トンと、合計577万トンの削減が行われた。砂糖については、割当の買い増しが約100万トンあったため、実質的には、約420万トンの削減となっている。イヌリンシロップは、全割当数量の削減となった。
 
イ.介入価格から参考価格への変更
 割当糖に対する介入価格制度(いわゆる最低価格保証制度)を廃止し、2007年度からは、参考価格制度に移行した。従来の制度では、割当数量の範囲内の白糖1トン当たり631.9ユーロの介入価格が設定されていたが、段階的に引き下げられ、2009年度には1トン当たり404.4ユーロの参考価格が設定された。これにより、砂糖価格は36%の引き下げとなった。粗糖についても同様に、1トン当たり496.8ユーロから2009年度には335.2ユーロに引き下げられた。
 
ウ.てん菜生産者の最低保証価格を引下げ
 てん菜の最低価格が、改革前の1トン当たり32.9ユーロから段階的に引下げられ、2009年度には26.3ユーロとなった。ただし、これに対する補償として、てん菜栽培農家には、最低価格引き下げによる所得損失分の60%相当額が直接支払いにより交付される。
 
エ.輸出補助金の廃止
 割当糖に対する輸出補助金制度を2008年度より廃止した。この結果、2008年9月以降、砂糖に対する輸出補助金は支出されていない。
 
 
 
 
(3)−2 でん粉産業への影響
 
 業界関係者によれば、砂糖の介入価格はほとんどの甘味料市場価格の指標となっていたため、この引き下げは、異性化糖をはじめとする甘味料価格の下げ圧力となった。また、てん菜の最低価格の引き下げによって、砂糖由来甘味料の原料コストが減少することとなったため、砂糖産業のでん粉由来甘味料業界に対する競争力が強化されることとなった。
 
 また、異性化糖生産割当の削減により、ギリシャ、フランス、オランダ、ルーマニア、フィンランド、英国の6カ国は、異性化糖の生産から撤退することとなった。また、スペインとポルトガルは、大きくその割当数量を削減した一方で、ベルギー、ブルガリア、ドイツ、イタリア、ハンガリー、ポーランド、スロバキアは割当数量を買い増しし製造規模を拡大している。このようにEU内の異性化糖産業の集中化が進むこととなった。(表9)
 
 この異性化糖への生産割当制度は、2015年までの間は継続されることとなっているため、この間は政策による産業構造の大きな変化はないとみられる。
 
 
 
 
3.でん粉製品産業の今後の見通し
 
 
(1)でん粉製品需要の見通し
 〜中期的に増加の見込み〜
 
 業界関係者は、中期的に、EUにおける一人当たりでん粉製品消費量が毎年2%増加すると見込んでいる。これは、高齢化および健康志向の高まりを反映した、高付加価値の健康食品材料としてのでん粉製品需要の増加によるものである。
 
 食品や飲料に含まれる糖質の量や種類に対する消費者の関心は高まる傾向にあり、でん粉産業にとってはでん粉由来低カロリー甘味料や難消化性デキストリン市場などの分野でビジネスチャンスがある。また、EUでは、労働時間の長期化や、共働き世帯の増加などによって、冷凍食品や乳製品、デザート、ピザ、インスタント食品などの需要が大きく伸びており、引き続きこの傾向は継続するとみられることから、これらに使用されるでん粉需要の増加も継続が見込まれる。
 
 さらに新しい市場として、ロシアなど東欧も注目されている。東欧の食品・飲料産業は、経済成長、西洋風ライフスタイルの浸透、流通の改善によって、急速に成長しており、でん粉製品需要も伸びている。
 
 
 
 
(2)関連政策によるでん粉製品供給への影響の見通し
 〜短期的には大きな変化はない見込み〜
 
 EUのでん粉製品産業全体への影響と言う面で関連政策の変化を考えた場合、生産払戻金が廃止されたが、当該補助金の発動はしばらくなかったことから、でん粉製品産業への影響はほとんどないと思われる。しかしながら、ばれいしょでん粉については、固有の関連政策の一部が廃止される2012年度以降において、上述したとおり原料確保の面での影響があると見込まれている。
 
 長期的には、現在議論されている2013年以降の次期CAP改革の行方に左右されるとみられる。現時点において交わされている議論の要点については、以下のとおりである。
 
・2020年までの長期的な農業分野予算の枠組み。これについては、現在より縮小するとの見方が強い。
・農業が気象変動に対応し、また、持続可能基準を満たす必要性
・農産物の国際価格が不安定さを増している中での農業の在り方
・農業食品関連産業が競争力を保つ必要性
 
 2010年3月の欧州理事会では、こうした点を踏まえつつ、
 
 「EUが確立すべき農業モデルは、市場安定機能を持ち、かつ、農業が農村地域における基幹産業であり地域社会に貢献していることを農家収入に反映したものでなくてはならない。また、一方では、農産品の適正な価格形成や農業分野における適正な競争にさらに焦点を当てる必要がある。」
 
としている。
 2011年に方向性が示されるこの議論は開始されたばかりであるため、その行方については、引き続き注視する必要がある。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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