高齢者や患者のQOL向上の視点から、病院や介護施設などでは、現場経験に基づき、一人一人の摂食・嚥下困難者の食環境を見極め、最適な食事の形態や物性などを判断し、咀嚼・嚥下補助食品が使用されています。
咀嚼・嚥下補助食品は、1980年代に市場に表れ始め、多様な食品の利用形態に合わせて、とろみ調整食品、水分補給型食品、栄養補給型食品、流動食用などがあります。
1994年には、厚生省(現厚生労働省)特別用途食品の中に、「高齢者用食品」の大区分と「そしゃく困難者用食品」と「そしゃく・えん下困難者用食品」の区分が設定されましたが、2009年改定で、高齢者だけでなく、様々な疾患による障害がある方を対象とするため、「高齢者用食品」の名称が除去され、「そしゃく困難者用食品」も、食品の硬さは製造者の基準であるとして除外され、現在は「えん下困難者用食品」として分類されています。
嚥下機能の低下した方に安全に食べていただくためには、やわらかいこと、まとまりがあること、くっつきにくいことが必須の条件です。誤嚥防止には、適度な粘度があって食塊を形成しやすく、ベタつかずに軟らかく変形しながら咽頭を滑らかに通過することが重要になっています。
基準では、「硬さ」「付着性」「凝集性」の3因子によって評価されています。「硬さ」とは、食物の力学的性質である硬い、軟らかいなどです。「付着性」とは、食物が口腔内にベタつく度合いのことであり、付着性が高すぎると口腔内や咽頭などに食物が張り付き誤嚥する可能性が高くなります。「凝集性」とは、まとまりやすさを示し、舌で押しつぶされた食物が結着し合って飲み込みやすい食塊を形成する能力のことです。食塊を形成しにくいと、気管に入りこみ誤嚥となる可能性が高くなります。
表1に「えん下困難者用食品」の許可基準を示します。この基準値は、実際に複数の病院で提供されている食事を測定した結果をもとに策定されています。
2002年には、日本介護食品協議会により、それらの食品群の名称を統合して「ユニバーサルデザインフード(UDF)」という呼称が提案され、その普及が進められています。ユニバーサルデザインフードにおいては、かむ力と飲み込む力を目安に、咀嚼・嚥下機能低下の程度に応じた4区分に食品を分類しています。それにより、咀嚼・嚥下機能の低下した方や高齢者に限らず、歯の治療などで一時的に食事が不自由となっている健常者を含め、より広範な方々が、QOLを維持する目的で、より安全に使いやすく咀嚼・嚥下食品を使用できるように取り組まれています。