かんしょでん粉の市場価値の向上をめざして
最終更新日:2013年2月12日
かんしょでん粉の市場価値の向上をめざして
〜でん粉原料用かんしょの新品種「こなみずき」〜
2013年2月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
畑作研究領域 上席研究員 吉永 優
【要約】
(独)農研機構九州沖縄農業研究センターでは、国産かんしょでん粉の付加価値を高めるため、食品向けの高品質なでん粉を持つ品種の開発に取り組んできました。その成果として食用品種「クイックスイート」の系統の交配後代から新しいでん粉特性を持つ「こなみずき」を育成しました。「こなみずき」のでん粉は、従来品種のでん粉よりも低温で糊化し、でん粉ゲルの耐老化性が優れていることから、和菓子や水産練り製品などのでん粉を用いた食品の製造と品質の長期保持に役立ちます。
「こなみずき」の普及上の課題として、でん粉の品質向上や製造コストの低減があり、関係者が協力してでん粉の高品質化、でん粉需要拡大のための加工利用技術の開発に取り組んでいます。高収益を目指す農家の期待に応えるためには、でん粉の用途拡大を図り、付加価値を高め、でん粉工場も利益を出していくことが重要です。
はじめに
鹿児島県ではかんしょ栽培面積の約4割にでん粉原料用品種が作付けされており、地域の農業及び経済にとって重要な役割を果たしています。従来のかんしょ品種から製造したでん粉の約7割は糖化原料として利用されていますが、価格面でコーンスターチやタピオカでん粉などの輸入でん粉に対抗する競争力はありません。
かんしょ生産農家およびでん粉産業の経営安定のため、(独)農研機構九州沖縄農業研究センターでは国産かんしょでん粉の付加価値を高める高品質なでん粉をもつ新品種の開発に取り組んできました。平成21年に育成された「こなみずき」は「シロユタカ」にはない新規なでん粉特性をもっており、でん粉の耐老化性が大変優れているので、加工処理しない天然でん粉のままで葛餅、わらび餅や落花生豆腐などの食品を製造しても形や柔らかさを長期間保持できます。
本稿では、「こなみずき」の育成経過、含まれるでん粉の特性、今後の課題などについてご紹介します。
1.「こなみずき」の育成経過
「こなみずき」の育成で取り組んだ新規なでん粉特性とは、低温糊化性でん粉と言われるもので、平成14年に作物研究所で育成された食用品種「クイックスイート」で初めて見出されました。当時からこの低温糊化性でん粉は、高品質な食品向けのでん粉としても注目されましたが、「クイックスイート」は食用のため、でん粉収量が低い、赤皮ででん粉白度が劣る、萌芽性が悪いなどの課題がありました。そこで平成15年から栽培特性に優れ、白皮で多収の低温糊化性でん粉をもつ原料用品種の開発を開始しました。ところが、低温糊化性でん粉は遺伝的に劣性形質であり、後代に表現型として現れにくく、効率的な選抜法が確立されていない上、交配母本も限られていました。そのような困難な条件の中で研究担当者らが初期選抜から有望系統の特性評価まで精力的に取り組み、交配組み合わせの選定や選抜手法に工夫をするなどして「こなみずき」が育成されました。
「こなみずき」は、平成15年に「クイックスイート」の子供で低温糊化性でん粉をもつ「99L04−3」を母、でん粉原料用の「ダイチノユメ」の血を引く「九系236」を父とする交配を行い、平成16年以降、選抜・育成したものです。また、平成19年からは「九州159号」の系統名で県の農業試験場に配付され特性評価が行われました。その結果、白皮で「シロユタカ」に近いでん粉収量を示し、線虫抵抗性や黒斑病抵抗性が優れ、「クイックスイート」と同程度の低温糊化性で耐老化性に優れたでん粉を有することが明らかになりました。そして、さつまいもでん粉の糖化製品以外の用途拡大を推進している農水省やでん粉関連の企業からの要望を受けて、平成21年に「こなみずき」は新品種になりました。品種名の由来は、「みずみずしいままの糊化でん粉を長期間保つ希望のでん粉用品種」です。
2.「こなみずき」に含まれるでん粉の特性
一般のかんしょ品種のでん粉の糊化開始温度は約75℃ですが、「こなみずき」のでん粉はそれより約20℃低い温度で糊化する画期的なでん粉です(第1表)。これはでん粉粒を構成するアミロペクチンに短い側鎖の割合が高いという品種特性に由来しており、でん粉の結晶性が低下して、糊化しやすくなるためと考えられています。「こなみずき」のでん粉ゲルを冷蔵保存した場合、早期から離水が起こる「シロユタカ」に比べて10週後まで離水は見られず、硬度の変化も非常に少ないことが明らかにされ(表)、この低温糊化性でん粉が、でん粉ゲルの保水性と柔らかさを維持できる、すなわち老化しにくい優れたでん粉であることがわかります。この優れたでん粉の耐老化性は、和菓子や水産練り製品などのでん粉を用いた食品の製造と品質の長期保持に役立ちます。
写真3は試作中のくず餅の例で、左からこなみずき、シロユタカ、タピオカでん粉の順になっています。1日保存した後でも、くず餅の柔らかさに差があることがわかります。
3.今後の課題等
(1)普及方法、普及状況について(24年度の作付面積及び収穫予想量)
一部のかんしょでん粉メーカーが「こなみずき」のでん粉生産に取り組んでいます。しかし、新規なでん粉のため、でん粉の品質向上や製造コストの低減が普及上の課題となっています。そこで(独)農研機構は農水省の競争的資金を得て、鹿児島県、鹿児島大学やでん粉メーカーと協力して「こなみずき」の安定多収の栽培条件の確立やでん粉の高品質化、でん粉需要の拡大のための加工利用技術の開発を行っています。今年度は大規模なでん粉製造の実証試験も実施されており、今後も研究および成果の普及に関する取り組みを進めていく予定です。実証試験も含め24年度の作付面積は約25ha、収穫予想量は約700tと推定されます。
(2)農家の「こなみずき」への期待
一部のかんしょでん粉製造事業者によれば、「こなみずき」について、どの生産者も共通して(1)単収が比較的高い、(2)高収益、(3)栽培しやすい、との評価を寄せているとのことです。 生産者の期待に応えるためには、「こなみずき」でん粉の用途をより拡大し、付加価値を高め、従来品種より高く買えるようにでん粉工場も利益を出していくことが重要です。
おわりに
「こなみずき」はかんしょでん粉の評価を高め、食品向け用途の確保により、でん粉需要を拡大し食品産業を活性化するだけでなく、南九州のかんしょ生産農家やでん粉産業の経営基盤の強化に貢献できるものと考えています。今後関係機関が一層協力し、同品種普及の取組みを加速させていきたいと思います。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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