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清涼飲料と糖類

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最終更新日:2010年4月28日

清涼飲料と糖類

2010年5月

日本コカ・コーラ株式会社 技術・サプライチェーン本部 松田 義広

 炭酸飲料は昭和30-40年代の日本の経済成長と歩調を合わせて市場を発展させ、その次に果汁入り飲料が洋風の朝食時など、炭酸飲料と異なる飲用機会を得て市場を拡大してきた。

 その後、常温流通していた缶コーヒーは自動販売機の加温販売開始により、通年商材として夏場偏重だった飲料業界に大きく貢献している。

 さらに紅茶飲料、スポーツ飲料、ウーロン茶からブレンド茶、緑茶と発展した無糖茶へとカテゴリーを拡大し、容器も繰り返し使用するガラスびんからワンウェイの金属缶、ペットボトルと発展し、ここ50年で市場規模を50倍に拡大させてきた。

 この発展には種々の技術革新が貢献しているが、その中でも糖類の品質向上および一貫した安定供給の裏付けがあることを再認識したい。現在コカ・コーラシステム(地域に密着した国内ボトラー全12社と、マーケティングおよび原液供給を担う日本コカ・コーラ社、および共同設立した全国販社、調達会社などから構成される総称)では、糖類国内生産量の約15%を使用しており、国内でも有数のサプライヤー/ユーザーチームワークを組んでいる。

 甘味食品の起源は、はちみつとされ、熱帯地域のさとうきび、および寒冷地でも栽培できるてん菜からの製糖技術も開発された。日本ではその両方から砂糖が生産され供給されており、北海道・沖縄・南西諸島の基幹農業を担っている。

 砂糖の甘味は耐熱性を有し、加熱殺菌される飲料では栄養資源甘味材として代えがたく、さらに砂糖の加熱を進めると茶褐色に着色し、カラメル色素として用いられる。

 対して、異性化液糖は、栄養状況を改善すべくかんしょを原料に日本で戦後研究開発された甘味料で、糖質酵素工学の成果として画期的な製品であった。その技術はとうもろこしの大産地である北米に輸出され、1980年代に米国のコカ・コーラ?に採用されて以降日本国内でも使用量を拡大してきた。現在では需要および価格の点から北米産輸入とうもろこしを主原料として生産されている。

 さらに、ぶどう糖、果糖およびこの混合物として得られ、それぞれ特徴のある甘味を活かしてスポーツ飲料などに使用されているが、甘味の耐熱性は砂糖と比較して低い。

 また、飲料発展の過程で関連法規との相互作用も発展を遂げ、高度な食品安全と、バラエティあるフレーバー展開、容器サイズおよび形態の多様性を両立している。

 飲料は、口にした直後に飲用され体内に摂取される点で、喫食者(消費者)による最終検品工程を経る固形食品との違いが際立っている。つまり 飲料は、非透明容器(缶など)に入った状態で提供されることが多い。さらに、すぐに体内に吸収される。この結果、固形の食品と比べ、見た目で異常を見つけにくいと考えられる。このことは、食品安全の実現のアプローチ、その基礎となる原材料の品質に対する法的要求にもかかわっている。

飲料と糖類による食品安全の実現

 飲料固有の食品関連法規では、種々の規格・基準が定められている。混濁、沈殿物、重金属、微生物、かび毒などに対して規格が定められ、容器、密封性、製造工程中の殺菌条件などに種々の基準が定められている。その中で、炭酸飲料の日本農林規格に砂糖の灰分0.03%以下と数値規格がある他は、私たちユーザーが飲料に対する法規を満たすために必要な糖類の規格・基準を上乗せして定め、これがメーカー各位で実現され納入される、という企業間合意形成方式によって飲料製品の食品安全が確保されている。
  それら糖類の品質に対しては、リスクアセスメント(注1)とハザードアナリシス(注2)のアプローチを導入している。
 
(注1)職場の潜在的な危険性または有害性を見つけ出し、これを除去、提言するための手法。
(注2)食品の原材料および製造加工工程における潜在的な危害要因(ハザード)について、発生のしやすさ、発生した場合の危害程度、各々の危害要因のコントロールの方法(例:適正な加熱温度・時間等)を明らかにすること。
 
  食品安全の世界では、ハザードをアナリシスしコントロールせよ、というHACCPが品質保証の基本的なアプローチとなっているのに対し、例えば労働安全の世界では、リスクをアセスメントしマネジメントせよというアプローチとなっている。
  ハザードをコントロールしてゼロにできればリスクも自動的にゼロとなるが、ゼロにできないハザードが存在するのもまた事実である。例えば、密封製品中の微生物菌数を測定しようと開封したら、それは商品には成り得ない。このような状況に対しては同じ条件で同時期に製造されたまとまり、ロットやバッチ単位でのサンプリング検査を適用することになる。その際のロットサイズの大きさの決定や検査頻度、検査項目、判断基準の制定には、事故例を教訓とすることができる。すなわち事前情報の多さが予防活動の有効性を左右することになる。
  例としてさいころゲームを考えてみたい。基本ルールは、偶数の目が出たらリスク=ハザードとなり問題が表面化すると決める。
  さいころをひとつ振って偶数となる確率は1/2である。半数が不良になるかもしれない状況では製品安全の確保はおぼつかない。この確率を小さくするための最初の方法は、さいころの数を増やすことである。例えばさいころを4つ振って、全部偶数となる確率は1/16に低下させることができる。
  
 このさいころを増やす、ということは、品質規格の項目を増やすことに相当する。例えば砂糖の色調と純度のように類似した項目でもかまわない。もっとさいころを増やせば、それだけ偶数の目がそろう確率を低下させることができる。
 このように、さいころを増やしてリスク=ハザードとなる確率を低下させることで、一定の水準まで品質を保証することができる。現在コカ・コーラシステムが砂糖に対して26項目、果糖ぶどう糖液糖に対して34項目の規格項目を設定していることは、この考えに基づく。

 リスク=ハザードをさらに低下させるアプローチとして、正八面体、正12面体および正20面体の特殊さいころを例に考えてみたい。
 このようなさいころを使って、ルールを偶数から特定の数字、例えば6とすればぞろ目となる確率はさらに低下できる。これは品質規格の許容範囲を狭く厳格化することにあたる。例えば30±8よりも、30±3で管理するほうが規格逸脱の可能性は減らせる。

 この二つの手法により、糖類の品質に由来する問題を極限まで最小にして今日に至っている。問題はいつさいころが振られるか、つまり、品質がチェックされているか、である。それは最終的に、お客様の口に入る時である。多くのお客様に合格をいただいているからこそ、以下の事実がある。

 「全世界で1日に約50億杯の清涼飲料が消費されるうちの約16億杯をコカ・コーラ社の製品が占めています。」

 このことから、世界中の人々に認められた品質を維持し続けていると言えるのではないだろうか。

糖類と環境対応

 清涼飲料水をおいしく飲用するのに、飲用前に額に汗をかくほどの運動をすることは有効である。飲料による栄養が食事全体の栄養バランスのなかで適度な運動を伴って摂取されることが重要である。糖類の持つこのカロリーが、大地に根を張るさとうきび、てん菜、とうもろこし、かんしょおよびばれいしょの光合成作用の結果固定された大気中の二酸化炭素に由来することは、人類の糖類の摂取そのものが自然の循環摂理の一部であり、甘味をおいしいと感じることは本能であることを示している。

 目下、種々の甘味資源安定化施策および調整制度によりこれら砂糖、異性化液糖は量的にも品質上も安定して供給されている状況であるが、地球温暖化防止の観点からCO2削減が産業界全体に要請され始めるに至った。

 これは飲料業界にも等しく要請され、各原材料メーカーとともに容器の軽量化はじめ種々のアクションを実現しているところであるが、糖類でも調達にかかる輸送距離の最適化を進めている。

 環境対応を進めるにあたり、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を適用し、原料の起源から原料輸送、製品製造、販売、使用、廃棄の各段階ごとに排出されるCO2量を計算することは有効である。農産物栽培の場合、CO2を吸収する効果も数値化されることになり、国土保全、食料自給率、粗糖原糖生産地域の水資源への影響まで含め総合的に判断する材料の一つが提供される。

 糖類メーカーには、環境対応も品質の一部と位置づけ、食品安全を達成したアプローチを応用してCO2削減のための具体的なアクションを期待している。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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