日本人なら一度は小豆を炊いたことがあると思います。「あん」は炊いた小豆に砂糖を加え煮詰めることで出来上がりますが、その作り方にはコツが必要となります。美味しい「あん」を作るためには、小豆に関する知識とその知識に裏づけされた素材の特徴を確実に引き出す技術が必要になってくるのです。
【小豆の知識】
小豆の組織は細胞壁で隔てられた細胞の集まりからできています。その細胞には内部に数個から十数個のでん粉粒子とタンパク質などの内容物が内包されていて、最外層に強固な細胞壁が存在するという構造となっています。「あん」を作るためにはこの細胞一つ一つを単離した状態で取り出すことが必要で、その単離した細胞をあん粒子と呼びます。
【あん粒子を形成するために】
小豆からあん粒子を作り出す場合、小豆を粉砕したり小豆の細胞を破壊してでん粉粒子を露出させたりすると、完全な形であん粒子を作り出すことはできません。あん粒子を作るためには、細胞を破壊することなく、小豆の組織内であん粒子を形成させることが必要となるのです。
そのために、小豆は水とともに煮熟することが絶対条件となります。小豆は煮熟を始めると、小豆内部に急激に水が入り出すのと同時に熱が断続的に加わる状態が作り出され、この時、細胞内のでん粉粒子は糊化に向け、またタンパク質は熱凝固に向けた準備段階に入ります。そしてタンパク質はでん粉粒子が糊化開始温度(ほぼ60℃)に達する前に、でん粉粒子を取り囲む形で熱変性を受けて凝固します。この状態でさらに熱が加わると、タンパク質に取り囲まれたでん粉粒子も膨潤糊化を開始して、膨潤に伴う膨圧と細胞壁の壁圧が平衡に達した時点ででん粉の膨潤が終了し、小豆の組織が崩壊しないままあん粒子が形成されることになるのです。
粘りもなくさらりとした独特の滑らかな食感は、細胞内ででん粉の糊化(膨潤)が完了するという「あん粒子」独特の構造によりもたらされる訳です。
このようにして出来上がったあん粒子は、砂糖を加えてさらに加工することで、馴染みの深い粒あん・こしあんの形に変化を遂げていきます。
粒あんは、小豆組織内で形成されたあん粒子(煮熟豆)のまま砂糖を加えて煮詰めて仕上げたもの。一方こしあんは、あん粒子が物理的に安定な状態を維持しているのを利用して、煮熟豆から磨砕・篩分(ふるいわけ)・水さらし・脱水などの工程を経て生餡を取り出し、そこに砂糖を加えて煮詰めて仕上げたものとなります。