このように、エタノールブームは世界金融危機と国際砂糖価格の高騰で終焉し、多額の負債を抱えた事業者は資金力のある他社に買収され、砂糖・エタノール事業者の統廃合が進んだ。業界再編は依然進行中であり、農務省は現在、財務省、消費者保護機構と共同で実態調査を実施しているところである。
再編に伴う砂糖・エタノール事業者数の減少について、ブラジルの民間調査会社は、金融危機前には約200の事業者が合計で400工場を所有していたが、現在、事業者数は150にまで減少し、今後さらに減少して1事業者当たりの工場が増えるとみている。
業界の再編は大手による小規模事業者の買収にとどまらず、例えば2009年に業界最大手のCosanが砂糖小売大手NovAméricaを買収し、また同年に大手Santelisa Valeが仏系Louis Dreyfus傘下に入るなど、大手が大手を買収するケースもみられ、上位5社のマーケットシェアは業界再編前の1割から3割に高まったとされる。
また、関係者は最近の業界における主な動きとして、外資系企業の参入を挙げた。世界金融危機の発生で縮小した外資によるブラジルの砂糖・エタノール産業への投資は最近になって再び活発化しており、2010年2月にはインドの大手製糖メーカーShree Renuka Sugarsがブラジルの砂糖・エタノール事業者を買収した。
ブラジルでは外資系企業による砂糖・エタノール産業への参入に対し、特に規制は行われていない。政府内では外資系企業がブラジルで広大な土地を所有し、砂糖、エタノールの生産を行うことに対して懸念する声もあれば、自由な企業活動を政府が制限することについて反対する声もあり、コンセンサスが得られていない状態である。
今回の調査で訪問した関係者の大半は、他国の国営企業が土地を買い占めるなど国土保全を脅かす可能性がある場合を除いては、政府が外資に対し規制を行うことはないだろうとの見方を示し、外資による巨額の資金流入が産業の生産性および競争力のさらなる向上をもたらすと期待する声も聞かれた。
世界金融危機後、砂糖・エタノール産業は業界再編が進み、また、最近では豊富な資金力を持つ外資系企業の参入も活発になり、砂糖・エタノール事業者の経営規模は大きくなりつつある。大規模化で生産性と資金調達能力を向上させた事業者はブラジルの砂糖・エタノール産業を牽引し、国際競争力をますます高めると期待されている。
(2)−3 港湾船積み設備の強化が課題
2010年6月中旬頃からブラジルの砂糖輸出に遅延が生じ、これが国際砂糖価格上昇の一因となって注目を集めている。輸出遅延の原因について尋ねたところ、多くの関係者は港湾における砂糖の船積み能力の限界が主な原因であり、降雨による作業の中断といった一時的なものではないとした。さらに、砂糖輸出量が2010/11年度の水準以上となれば、輸出遅延は慢性的な問題になるだろうと指摘した。
サンパウロ州のサントス港、パラナ州のパラナグア港をはじめとする国内7カ所の砂糖輸出港では砂糖輸送船が船積みに1カ月以上待つ状態が続き、滞留する船舶数は例年の2倍以上に達しているとされる。
ブラジルの月間砂糖輸出量は世界的な需給ひっ迫を背景に2009年以降高水準で推移しており、特に2010年6月以降は、2009/10年度に主産地の中南部において大雨により生産が停滞し、一部の出荷が翌年度に持ち越されたこと、過去2年間に世界の砂糖需給がひっ迫した結果、2009/10国際砂糖年度の期末在庫率(期末在庫量/消費量×100)は24.5%と過去10年間で最低の水準となっている上、北半球の生産が10月以降に開始されるためブラジル産砂糖の引き合いが高まったことなどの影響を受け増加し、2010年8月の砂糖輸出量は過去最大の330万トンに達した。
政府は2007年1月に「経済成長加速化計画(PAC計画)」を打ち出し、インフラ分野での公共投資拡大を掲げ、船積み設備の更新や進水路の建設など港湾への投資を含む多数の事業計画を策定した。しかしながら、これらの大半は実現に至っていない。
この原因として、開発事業に必要な環境認可の取得に非常に時間がかかること、資金が不足していること、各省庁間の足並みがそろわないことが挙げられた。農務省は砂糖に限らず、ブラジル産農産物の輸出拡大に向けて港湾設備の近代化など国内の物流体制を強化することは急務であると認識しているものの、政府計画がなかなか実現しない事情から、外資を含む民間レベルでの物流体制の強化に期待を寄せているのが現状である。