現在脳機能を測定するさまざまな方法が見いだされている。たとえば陽電子放射断層撮影法(PET)の場合、陽電子を放射させるアイソトープ(放射性同位元素)がついたブドウ糖に似た物質、デオキシグルコース(デオキシグルコースはブドウ糖の酸素が一つ欠けているもので、ブドウ糖と同じように細胞に取り込まれるが、利用されないので分解されない)を注射し、血液内から放出される陽電子を測定する。
活動が盛んな部位には血流が集中し、陽電子の放出が盛んになるため、脳の部分ごとの活動状況を調べることができる。たとえば言葉を話す時には前頭葉下部の言語中枢の部位に放射が見られる。思考をしている時には前頭前野に放射が見られるので、そこが刺激されていることが分かる。
機能的MRI(磁気共鳴画像)では、ヘモグロビンに酸素がついた酸素化ヘモグロビンと酸素を失った還元ヘモグロビンの磁場への作用が異なることを利用して、磁場の変化を調べることにより、脳内の活動変化を知ることができる。活動が盛んな部位では、血流量が増加、つまり酸素化ヘモグロビンが多くなり、磁気上の信号が変化して画像上で明るく映ることになる。恐怖を感ずると扁桃という部位が活動したり、快感を感ずると側坐核という部位が活動したりといった脳内の変化が分かるのである。
最近では近赤外線トポグラフィー(分析計)が開発された。これも、機能的MRIと同じく脳が活動すると酸素化ヘモグロビンが多くなるということを利用している。酸素化ヘモグロビンは還元ヘモグロビンに比べ、赤色を反射するので赤く見える。これを測定するのだ。
ではこのようなブドウ糖の取り込みで脳機能が活発になっていることは示されるだろうか。英国のオックスフォード大学の薬理学のスーザン・グリーンフィールド教授は人間がただ文章を読んでいる場合と、考えながら話す場合の脳の活動をPETを使って調べた(図3)。PETは前に述べたようにデオキシグルコースの取り込みを調べたもので、これはブドウ糖の取り込みと同じと考えられている。すると、ただ話している時には前頭前野の言語中枢が活動しているだけであるが、考えながら話す時には脳の広い分野が活動していることが示される。広い分野でブドウ糖が使われているのだ。