EUにおける最近の砂糖需給動向
最終更新日:2011年11月9日
EUにおける最近の砂糖需給動向
〜域内需給のひっ迫と生産割当制度をめぐる状況〜
2011年11月
EUは、かつて世界有数の砂糖輸出地域であったが、2006/07年度以降の砂糖制度改革により生産量、輸出量はともに減少し、純輸入地域に転じた。このことは世界の砂糖需給に大きく影響し、2009年以降の国際砂糖価格上昇の一因となった(なお、制度改革の詳細については砂糖類情報2009年5月号調査・報告「
EUの糖業事情(1)〜砂糖制度改革とその影響について〜」を参照されたい)。輸入はEUが特恵アクセスを認めているACP諸国(EUの旧植民地であるアフリカ、カリブ、太平洋諸国)およびLDC諸国(後発開発途上国)が中心となっている。
EUの砂糖生産、輸出規模は制度改革前に比べ縮小したものの、インドに次ぐ消費地域、また世界最大の輸入地域として依然、世界の砂糖需給に大きな影響力を持つ。このことから、本レポートでは近年のEUにおける砂糖需給動向について報告する。また、2014/15年度末で適用期間が終了する生産割当制度をめぐる最近の状況についても紹介する。
注:本レポートの数量は、断りがない限り白糖換算である。
注:年度はEU砂糖年度(10月〜翌9月)
2009/10年度以降、域内需給がひっ迫
EUは、2006/07年度から2009/10年度にかけて砂糖制度改革を実施し、加盟国全体の生産割当数量を合計1760万トンから1330万トンに削減した。この背景には、WTO裁定による輸出量の制限(年間137.4万トン)と、ACP/LDC諸国への特恵制度による輸入増加でもたらされる域内供給の過剰に対応する目的があった。生産割当を超える分(割当外糖)については、域内の食用に販売することができず、化学、医薬品など産業用途へ販売、WTOによる制限範囲内で輸出、あるいは翌年度の生産割当に繰り越すこととなっている。
このような中、EUでは2009/10年度以降、域内の砂糖需給ひっ迫が問題となっている。この主な原因として、主要輸入先のACP/LDC諸国からの輸入減少が挙げられる。制度改革以前の域内価格は国際価格の約3倍の水準にあり、このことがACP/LDC諸国にとってEUに砂糖を輸出するメリットとなっていた。ところが、制度改革により域内価格水準が引き下げられ、さらに2009年以降国際価格が域内価格を上回る水準にまで上昇したため、これらの国からの輸入が低調となった。域内需給のひっ迫を受け、欧州委員会は相次いで対策を打ち出した。
・2010年12月から翌8月まで、CXL糖*注1最大66万トンまで輸入関税撤廃(2010年11月)
・割当外糖50万トンの域内食用向け販売の許可(2011年3月) ・粗糖・白糖の無税輸入枠30万トンの新設(同)
・粗糖・白糖の無税輸入枠20万トン追加(2011年5月)
・2011年7月から9月末まで、入札に基づく砂糖の低関税輸入制度の導入(同)
英調査会社LMCによると、2011/12年度の砂糖生産量は、てん菜の豊作が見込まれることから、1740万トン(粗糖換算、前年度比14.4%増)と前年度からかなり大きく増加すると予測されている。ただ、域内の食用に販売することができるのは生産割当数量内であり、増産がACP/LDC諸国からの輸入減少を補完できないため、域内需給のひっ迫の解消は見込めない。現在のところ、欧州委員会は2011/12年度について前年度のような無税輸入枠などを設定していない。このため、2011/12年度の輸入量は380万トン(粗糖換算、同7.3%減)と、前年度から減少すると予測されている。一方、増産による割当外糖の増加予測を受け、輸出量は前年度比約2.2倍の220万トン(粗糖換算)の見通しである。これは、WTO制限の範囲内*注2である。なお、消費量はほぼ前年度並みの1870万トン(粗糖換算)の見通しである。
*注1:フィンランドの粗糖輸入割当に基づき、低関税(1トン当たり98ユーロ ※通常は339ユーロ)で輸入される粗糖、および2007年に加盟したブルガリアとルーマニアの関税割当制度に基づく無税輸入のブラジル産粗糖のこと。
*注2:2011年枠の余り70万トンと2012年枠135万トンの合計205万トン(粗糖換算で約221.4万トン)以下。
欧州委員会、2015/16年度以降生産割当制度の廃止を提案
欧州委員会は2011年10月12日、2013年以降の共通農業政策(CAP)改革案を公表した。同改革案のなかで、欧州委員会は砂糖部門について現行の生産割当制度の適用期間(2014/15年度末まで)終了後、同制度を廃止することを提案した。これは、割当数量の削減により域内における砂糖生産の規模縮小を図った前回の改革から大きく方針転換するものといえる。
欧州委員会は、生産割当制度の廃止を提案する理由として、砂糖業界の安定的かつ持続的な事業のために輸出の拡大が必要であることを挙げている。WTO規則上、生産割当制度により国内市場の安定を図る国の輸出は間接的な補助金付き輸出とみなされる。このため、現在、EUの砂糖輸出量はWTOにより制限されている。生産割当制度を廃止すれば、この制限が無くなり、輸出量が拡大することとなる。また、前述の域内砂糖需給ひっ迫も、欧州委員会が生産割当制度の廃止を提案した背景の一つと考えられる。
欧州委員会は、今回のCAP改革案について影響評価レポートを公表した。これによると、砂糖の生産割当制度を2015/16年度以降廃止した場合、2020/21年度のてん菜作付面積は180万ヘクタールと、同制度を廃止しない場合と比べ1.9%増加の見通しである。同様に、てん菜生産量は1.7%増加の1億1690万トン、砂糖生産量は1.7%増加の1780万トンと予測されている。増産により、てん菜価格は8.2%安の1トン当たり23.5ユーロ、砂糖価格は3.5%安の同389ユーロに下落すると見込まれている。
ユーザーは生産割当制度廃止に賛成の一方、生産者は強く反発
生産割当制度の廃止案に対する関係者の反応は様々である。欧州の大口砂糖ユーザー団体である砂糖需要者委員会(CIUS)は、生産割当制度の廃止を域内の砂糖需給ひっ迫問題の解決につながるとして歓迎している。一方、欧州てん菜生産者連盟(CIBE)は、同制度の廃止はてん菜産業にとって大きな打撃になると激しく非難した。前述の影響評価レポートについても不適切とし、生産割当制度を廃止すれば、価格下落による収益性の低下でてん菜生産は減少するとの見方を示した。欧州砂糖製造者協会(CEFS)も、影響評価レポートについてCIBEと同様の意見を表明し、域内砂糖供給の安定のために生産割当制度を継続すべきとしている。また、EUの主要な砂糖輸入先であるACP/LDC諸国は、同制度の廃止によるEUの砂糖生産拡大は、貧しい国々の砂糖産業に打撃を与え、EUへの輸出を見込んだ産業への投資を無駄にすると批判している。
欧州委員会による砂糖の生産割当制度廃止案については、今後、欧州議会および農相理事会での審議を経て承認を得る必要がある。仮に同制度が廃止された場合、EUの砂糖需給は大きく変わる可能性があり、このことは、世界の砂糖需給にも大きく影響するとみられるため、今後の議論の行方が注目される。
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