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最近のアメリカ砂糖事情

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最終更新日:2011年11月29日

最近のアメリカ砂糖事情

2011年11月

調査情報部 上席調査役 宇敷 貴正
特産業務部 でん粉原料課 係長 宗政 修平

 

【要約】

1.2011/12砂糖年度の世界の砂糖生産量は増加し、世界の砂糖供給量は回復傾向となっているものの、ブラジルの減産や世界の砂糖消費量も増加することにより、期末在庫率は微減の見込みである。

2.米国の砂糖貿易において、メキシコは最も重要な相手国であり、メキシコ産砂糖の品質向上は今後の北米砂糖貿易の変化を見通す上で重要な鍵となっている。

3.「2010アメリカ人の食事ガイドライン」では、固形油脂と砂糖の摂取を減らすべきとの記載が盛り込まれたものの、削減目標を数値として盛り込むことは見送られた。

4.次期農業法案に対して、政治経済状況から不安と楽観の声が上がり始めているが、米国砂糖業界はノーコストプログラムを前面に出して、制度継続の働きかけを議会に行う模様である。

はじめに

 平成23年8月1日から3日まで、米国バーモント州において米国砂糖連盟主催により第28回国際甘味料シンポジウムが開催された。

 今回のシンポジウムでは、「財政赤字下の農業法」および「財政に負担のない砂糖制度」をテーマに関係者の活発な意見交換が行われた。

 この1年、砂糖の国際相場は需給の不安要因から近年まれに見る騰落を見せている。

 米国では、縮小しない財政赤字と失業率の高止まり(*1)に加えて、オバマ大統領の掲げる重要政策の停滞から見て、次期農業法における砂糖の政治的な環境は不安定な要素を持つと言える。

 米国砂糖業界にとって、多層化された貿易交渉の中で景気後退による影響を受けることなく次期農業法の現行の枠組みの継続を目指すことは最優先となっている。また、北米におけるNAFTA締約で当初、アメリカが意図していた砂糖市場の統一を視野に入れたとき、メキシコを含む新しい需給関係下で砂糖市場の安定を手に入れることが必要であり、このことは関係者の強い関心となっているところである。

 米国の予算削減圧力の中での次期農業法、国際相場の上昇局面での砂糖市場、メキシコを始めとする関係国との砂糖貿易を中心に米国の砂糖制度等をシンポジウムで得られた情報を基に報告する。

*1 2011年9月の米国雇用統計では失業率9.1%、4月以降9%を超えた状態が続いている。
 
 

1.世界の砂糖需給動向

 ・北半球の砂糖生産は概ね順調
 ・南半球の砂糖生産は減産
 ・砂糖消費は各国ともに拡大
 ・在庫量は増加、在庫率は縮小

 米国農務省(USDA)の見込みによれば、世界の砂糖生産は、2010/11年度に比べて増産傾向にあり、期末在庫は増加が見込まれるものの、砂糖消費についてもアジアを中心に増加が見込まれるため、期末在庫率は微減となる模様であるが、2011/12年度の世界需給は安定化の方向へ向かうと思われる(メキシコ、EU、中国、タイ、パキスタン、ロシアの生産量が主な増加要因となる)。

 北米では、米国はてん菜糖が主産地の水害等により若干減産となるものの、甘しゃ糖が前年度の作柄を上回りてん菜糖の減産を相殺する見通しである。メキシコは、砂糖の生産、消費ともに2010/11年度と同水準と見込まれている。北米自由貿易協定(NAFTA)締結後、NAFTAの域外からの輸入は増加傾向にあり、近年は米国の砂糖需給に少なからず影響を与えている。
 
 

2.米国砂糖をめぐる事情

 ・米国の国内需要増加
 ・砂糖の国内生産拡大は困難か
 ・溶糖能力の制約、タイトな在庫
 ・メキシコ産粗糖の一方的な輸出拡大は見込めず

 米国は、2008年1月1日をもってメキシコへの砂糖の関税割当(TRQ)を撤廃して完全自由化を行った。米国は、メキシコの国内需要を超えたものについて米国へ輸出されると想定し、当初はメキシコ産の砂糖生産量について変動はあるものの、砂糖の品質も高くはなく、メキシコの国内需要を大きく超えて生産されることはないと思われていた。

 実際にはそれとは異なり、メキシコ国内で砂糖から異性化糖へのシフトが起こり、メキシコ国内で余剰となった砂糖が米国へ輸出されるという構図が生じることとなり、メキシコ産の砂糖が米国へ輸出される結果となった。

 米国政府にとっての懸念は、米国産の砂糖が売れ残ることである。売れ残った砂糖は、米国農業法のエタノールプログラムの対象となって非食用アルコール向け原料として販売されるが、差損が生じる場合は政府が負担することになるためである。


(1)メキシコ粗糖輸出拡大の限界

 米国がNAFTA域内向けの砂糖のTRQを撤廃し2011年で4年目となるが、北米における需給環境(アメリカにメキシコの余剰となった砂糖が輸出される)における大きな変化は見られていない。米国農務省(USDA)のバーバラ・フェクス氏によれば、「メキシコの米国への影響力をみると、米国の砂糖消費は将来も継続して増加することが見込まれるが、現在の輸入粗糖のシェアは約3割であるのにもかかわらず、米国の溶糖能力は現在のタイトな状況が継続すると思われるほか、米国の精糖に対する品質の要求とメキシコ産粗糖の品質の関係から、米国への粗糖の輸出はメキシコが一方的に有利な状況とはならない」としている。

 この様な環境要因から、米国の砂糖需給は引き続きタイトな状況が続くと見られており、適正な期末在庫水準とされる15%を維持するためにTRQの運用等、難しい舵取りを迫られよう。


(2)米国の溶糖能力の不足から精糖の輸入へ移行する可能性

 さらに、同氏は、「米国の精糖経費が、原油価格の上昇に同調して上昇していることは、メキシコ産粗糖の輸入の抑止要因であり、また、メキシコからはかつてよりも品質が向上した精製糖が相当量輸入されるような状況になっていることから、当面、これ以上メキシコ産粗糖の輸入は増えないのではないか」とも述べている。
 
 
 
 
 メキシコの大手製糖会社ベータサンミゲルのホセ・ピント会長は、前述のフェクス氏同様、メキシコから米国への砂糖輸出が、また、米国からメキシコへの異性化糖輸出がそれぞれ拡大を続けることはないとしながらも、メキシコの砂糖市場について次のようにコメントしている。

 「メキシコの製糖工場は減少しているが、砂糖の生産量は増加傾向である。その結果、メキシコから米国に砂糖が、米国からメキシコに異性化糖が輸入される状況となっている。メキシコの異性化糖消費は増加しているが、一方で砂糖を輸出する立場にあるメキシコの砂糖メーカーには外国資本が入ってきている。米国・メキシコ砂糖市場は市場原理の下で動いている」
 
 
 
 
 過去に、メキシコから米国へ余剰在庫以上の砂糖が輸出されたことに対して、メキシコ側は十分な統計予測が出来なかったことによるものだと理由付けをしてきたため、複数年にわたって二国間で協議を行い、米国は対応策として、メキシコに対して砂糖の需給を把握するためのシステムやノウハウを提供することで、これを予防すると米国・メキシコ間で合意してきたところである。

 数年前までの砂糖業界によればメキシコ産の砂糖は品質が低く限られた用途にしか使えないとの認識で、特に清涼飲料向けに使用することは難しいという意見が強く、粗糖を輸入し、精製して使用するという形であった。しかし、NAFTA締結後メキシコからの輸入が増加した今、米国内の溶糖設備にこれ以上余裕がないことと、メキシコ産の砂糖の品質が向上してきていることから、今後は、清涼飲料向けにメキシコ産の精製糖を輸入する可能性が出てきたと言える。米国資本のメキシコへの進出は、これを間接的に裏付けるものと見て取れる。実際には、メキシコから米国に輸出される砂糖は減少していない。
 
 
(3)ノーコストプログラム

 米国の砂糖制度のポイントは、NAFTAにおける砂糖の需給不安定要因に対応していると言えることである。この制度は、6つのセーフティネットで構成されており2008年農業法の下、財政出動が皆無に等しいことからノーコストプログラムと総称されている。近年は、砂糖の国際相場の高騰により米国内の砂糖相場も上がっていることから関税割当TRQ以外は発動されない状態が続いている。
 
 
(3)−1 価格支持(ローンプログラム)

 さとうきびとてん菜は貯蔵性がないことから、砂糖を担保にしてCCC(Commodity Credit Corporation:商品金融公社)が製糖業者に融資を行う制度である。融資対象者は製糖業者とされており、原料作物の生産者は、この融資制度を利用する製糖業者に出荷することを通じて間接的に支持される仕組みとなっている。

 また、この価格支持制度は、期末に担保価値が融資額を下回った場合、融資を受けている者は担保である砂糖の没収を受けることにより返済を免除される仕組みとなっている。

 参考:2011/12年度の融資単価  甘しゃ糖 18.75セント/ポンド
                     てん菜糖 24.09セント/ポンド


(3)−2 在庫削減(PIKプログラム)

 PIKとは、Payment in Kindの略称で、減反面積に応じてCCC所有の在庫砂糖を減反報奨金の代わりに支給し、農家はそれを市場で販売できる制度である。

 作付済みのてん菜・さとうきびを減反の対象とする場合は、バイオエネルギー用に販売されなければならない。


(3)−3 販売割当(アロットメントシステム)

 前年度の8月に決定したOAQ(*2)を製糖事業者に対して食品向けの砂糖の年間推定消費量の85%を割り当てる。

 *2 OAQ:Overall allotment quantity、USDAが公表する販売量予想値をもとにした割当。
 参考:2011年度の推定消費量:945万6250ショートトン(1ショートトンは約907kg)。


(3)−4 関税割当(TRQs)

 米国は粗糖と精製糖に関して、WTO協定のほか、二国間の約束に従って最低水準(年間推定消費量の15%に相当)の関税割当を行うが、災害など緊急事態の場合は、4月1日を基準日にして割当数量を増やすことが可能。割当が不十分であれば、再割り当ても可能。国内市場が拡大し、ローンプログラムの融資において国内相場が下落することにより大幅な財政負担が発生しないと判断されれば、粗糖の関税割当を増やすことが出来る。


(3)−5 貯蔵施設融資制度

 てん菜およびさとうきびの経営安定に資するため、倉庫および製糖設備の建設若しくは増強を行う製造事業者に対して融資を行う制度。


(3)−6 エタノールプログラム

 NAFTAにより2008年からメキシコの砂糖を無税・無枠で輸入することが認められたため、砂糖の国内価格暴落を防ぐために新農業法で新たに導入された。この制度では、仮にメキシコからの輸入量の増加により、米国内の供給量が需要量を上回った場合、その余剰分を食用ではないエタノール用へと転用することとなる。

 余剰が発生した場合、CCCは入札を行い、エタノール製造業者へ売り渡す仕組みである。この砂糖は、粗糖、精製糖、精製過程の製品すべてが対象となり、米国内の製糖業者等が販売割当の範囲内で販売できる。

 財政負担については、入札で差損が生じた場合の費用負担にとどまるため、ローンプログラムの場合ほどではないが、コストがかかることに違いはない。


 米国の砂糖制度運用において、現在の環境で最も重要なことは、米国内の需給調整である。米国内の砂糖価格と供給数量のバランス(供給のタイミングも含めて)が崩れれば、エタノールプログラムなどの政府の費用負担が生じるだけにとどまらず、砂糖産業界の採算悪化と精製糖輸入増加をもたらし、ひいてはさらなる製糖会社の収益悪化を招くことになる。

 したがって、米国にとって最悪のシナリオを避けるためには、
1)メキシコに対して無計画な砂糖輸出を行わないように働きかけを行う 
2)米国内供給量の不足感が生じることによる輸入の増大を防ぐ(米国内産糖の供給のタイムラグを生じさせないためのTRQの適正な配分) 
3)米国内の適正な在庫及び価格水準の維持を図る−ことが重要である。

 メキシコの国内砂糖消費量が増大すれば上記の不安定要因は低減するが、そのようにならない場合は、米国内の製糖会社は自らメキシコ産砂糖との調整をする必要に迫られることになる。
 米国の需給不安要因は、単にNAFTA締結によるものではない。

 確かに、NAFTA締結により、米国とメキシコの砂糖に係る貿易障壁はなくなった。しかし、米国の砂糖の需給不安要因はNAFTA締結でなく製糖工場が最近の10年間で1割減少し、採算性の向上に加えて生産量も増加したことと、米国からの異性化糖輸入量が増加して、代わりにメキシコから米国への砂糖輸出が増加したことが背景となったことによるものである。

 米国におけるメキシコ産砂糖の問題は、国内の砂糖価格および適正在庫のコントロールを一層難しいものとしている。数少ない好材料は、砂糖の国際相場の高騰、米国内の砂糖需要の増加及び米国産砂糖生産の停滞である。


(4)米国の砂糖供給増を可能とする環境

 米国内では国内生産により、食品向け販売割当数量(OAQ)を達成できていない状態が続いている。

 甘しゃ糖の生産量は収穫面積がピークであった2000年前後から大きく変わってはいないが、主産地であるフロリダ州の環境問題により、生産地域におけるさとうきびほ場の拡大が困難なことから、作付面積の拡大が困難な状況となっている。

 てん菜の生産にあっても、環境問題から、作付面積を増やすことが出来ない状況となっている。しかし、てん菜糖の生産量は製糖技術の向上と共に面積の減少を補っている。2010砂糖年度では、2000年頃のピーク時に比べて、収穫面積は25%減少したが、単収は1エーカー当たり5.7ショートトン増加している。単位面積当たり産糖量にあっては、1エーカー当たり1トン増加している。

 米国では、OAQを上限として生産拡大が図れることから、今後の生産拡大に向けた問題の解決が望まれるところである。

3.砂糖消費の拡大

 ・米国内の砂糖消費は拡大
 ・清涼飲料向けの回復も続く

 米国内の砂糖消費は拡大傾向にあり、用途別の消費では実需(業務用)向けがその牽引役となっている。なかでも、清涼飲料向けが拡大を続けており、米国の大手飲料企業のソーダ飲料が異性化糖から砂糖に切り替わるなど、飲料向けの拡大が明るい材料となっている。
 米国砂糖協会のブリスコー会長からの情報によると、協会はこれまで「砂糖はナチュラル」をキーワードにマスメディアやインターネットを活用したキャンペーンを行ってきたところ、これらの試みが需要拡大に結びついてきたのではないかとの見方を示している。

 一方、「アメリカ人の食事ガイドライン」の様に懸念される材料も存在している。

 これまでガイドラインの中では、砂糖に関する文言は1980年以降2000年まで、「過剰な摂取をしないように」という一般的な記述にとどまり、2005年ガイドラインではより詳細な記述となったものの、一定の数値を設けて摂取量を制限する記載はなかった。

 2010年ガイドライン策定時において、ガイドラインの中に含まれる科学的根拠に基づいていないと判断される箇所を排除することをめざして、固形脂肪(solid fat)と添加砂糖(added sugar)をSoFAS(ソーファス)と名付け、その摂取制限を奨励している部分は科学的根拠に欠けるものであると、ガイドラインの原案から削除を要求していたが、これは受け入れられなかった。しかし、最低限目標である、一定数値を設けて砂糖摂取量制限するような記述とならないことは達成することが出来たとのことである。

4.次期農業法

 次期農業法成立の見通しについては、既に2013年の成立を危ぶむ向きもあるが、米国の砂糖業界関係者に共通する見通しは、ノーコストプログラムという政策的なメリットがあるため、次期農業法の現行の枠組み継続は期待できるというものである。

 一方、スクース農務次官代理はこの楽観的な感触にくぎを刺すことも忘れてはいない。「輸出拡大を軸に米国の経済回復を目論んでいるオバマ政権は2011年の農産物輸出額が1370億ドルに達し、400億ドルの貿易黒字となる見通しを示しており、この傾向を継続させる」と述べている。

 このことが次期農業法にどのような影響をもたらすのかは、現時点では未知数ではあるが、農業関係議員も以下のとおり同様のスタンスを取っている。

 ノースダコタ州選出のケント・コンラッド上院議員は、「農業予算は米国債発行限度額引き上げの条件となる2段階方式での負債削減策の、第1段階での削減対象とはなっていないが、2段階目の削減対象となることは明らかであり、財政支出は過去60年間で最も高いレベルに達していることから、歳入、歳出双方の側面から対策を講じねばならず、さらに、脆弱な予算基盤、大統領選挙年、国際社会への義務といった環境の中で、次期農業法策定作業は困難をきたすことが予測される。

 現行の2008年農業法は、過去100年間に策定されたものの中で、最良の農業法である。僅かな政府援助を受けた一握りのグループが、比類ない効率性と多様性をもって高品質の食を世界中の人々に供給しているという米国農業の事実は驚異的であると言え、次期農業法早期成立のため、このことを議会に伝え続けねばならない」と述べている。 ミネソタ州選出のコリン・ピーターソン下院議員(農業委員会)も同様の意見を述べている。

 「米国債発行限度額引き上げを審議するスーパー委員会による削減計画の内容は、今なお不透明であり、農業予算がこのカットの対象となることは避けられないだろうが、不当な比率でのカットは容認できない。削減の対象から外れるのはフードスタンプ(*3)くらいではないかと見ている。

 現行の砂糖プログラムは、政府負担がなく意図されたとおりの結果をもたらしている。次期農業法の中でも継続されるべきであり、農業委員会の中でも大多数の支援を得ており、修正される必要はないと考えている」

*3 フードスタンプ:USDA発行の低所得者に対する食料配給券。

おわりに

 米国の砂糖制度は農業法に盛り込まれたセイフティーネットとして構成されているが、これまで実質的な政府支出無しであることから、多くの支持を得ている。

 USDAは期待されたとおりの役割を果たしていると判断しており、今後とも、この役割を果たし続けることができると自信を持っている。

 また、実際の運用についても、実需者からは、砂糖が足りなくなると指摘を受けることもあったものの、2011年は既にTRQの再配分等の措置を行っているほか、新年度のTRQ配分についても前倒しで措置する等柔軟な対応を見せている。

 米国市場は、年間1000万トンの砂糖市場規模を持ち、多くの国にTRQ配分を与えており、世界の需給状況に対するプレゼンスは、今後も強まると見られることから、引き続き注目が必要である。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713