徳之島におけるさとうきび生産者の意識と行動把握の必要性と現状
最終更新日:2012年7月10日
徳之島におけるさとうきび生産者の意識と行動把握の必要性と現状
〜アンケート調査より〜
2012年7月
宇都宮大学農学部 准教授 神代 英昭
東京大学大学院 農学生命科学研究科 博士課程 今井 麻子
独立行政法人農畜産業振興機構 調査情報部 中司 憲佳
【はじめに】
当機構では、平成22年度の専門調査において、東京大学大学院農学生命科学研究科中嶋康博准教授等に対して、「徳之島におけるさとうきび生産の振興と製糖フードシステムの効率性向上の可能性」をテーマに調査を依頼し、徳之島におけるさとうきび生産・収穫システムの革新に向けた新たな取り組みに関して調査結果を報告した(
「砂糖類情報」2011年11月号参照)。
平成23年度については、前年度調査のフォローアップ調査として、さとうきび生産者の意識と行動の現状などを把握するため、当機構が宇都宮大学農学部神代准教授をはじめとするグループと共同で調査を行ったので、その調査結果を報告する。
1.徳之島におけるさとうきび産業(製糖のフードシステム)の現段階とアンケート調査の目的・意義
(1)徳之島における「電脳手帳」の活用がもたらした効果
さとうきびはほ場で刈り取った後、劣化が始まってしまうため、収穫後24時間以内に処理することが肝要となり、各ほ場でさとうきび収穫を終えた後、製糖工場に搬入し、工場内で製糖する一連の流れを円滑かつ迅速に行う必要がある。また、製糖工場の1日当たりの製糖処理能力が限定されているために、島全体における収穫・搬入・製糖を計画的かつ効率的に進めることが必要不可欠と言えよう。このような観点から各島で様々な工夫が行われているが、徳之島の特徴として、「電脳手帳」の活用があげられる。
徳之島では以前から、製糖工場が各地区に担当員(業務委託契約調査員)を配置し、ほ場ごとの植付、生育、収穫・出荷状況を記録するとともに、そのデータを集計し製糖工場に報告する仕組みを構築していた。そしてこのデータを基に、生産者、JAあまみ、輸送組合、南西糖業株式会社、行政など関係者が一体となり構成した「集出荷協議会」を中心に、収穫・搬入・製糖工程が計画的に実施されてきた。旧来のデータ収集・集計作業は、手書きの「営農手帳(野帳)」をベースとして行われていたため、多大な手間と時間を要する作業であった。しかし、平成17年度から導入した「電脳手帳」はこれらの作業を電子化したことによって手間が軽減すると同時に、データの精度や更新速度が向上し、また、製糖工場と各地区担当員と生産農家の間の連携を強化することにつながった。こうして、収穫以降の工程を常時監視・管理し、情報をリアルタイムで把握しながら、収穫・搬入・製糖の計画を柔軟に調整し実行していくシステムが構築されたのである。また、同時期に島内で機械収穫が急速に浸透したが(2000年38.4%→2010年90.4%)、これも収穫・搬入・製糖の計画的かつ効率的な進行にプラスに作用した。その結果、利用率(=工場歩留/買入糖度)が88%以上という高い数値が示すように、徳之島では高いレベルでさとうきび産業(製糖のフードシステム)の効率化が実現されている(以上の詳細は『砂糖類情報』2011年11月号:中嶋・今井「
徳之島におけるさとうきび生産・収穫システムの革新に向けた新たな取組」を参照)。
(2)生産段階に関わる生産者の情報把握の必要性
このように高いレベルでのさとうきび産業(製糖のフードシステム)の「効率化」を実現した徳之島だからこそ、次なる展開として「安定化」が重要になっており、その実現のためには生産段階に関わる生産者の意識・行動にも注目する必要性が高まってきている。
そもそも、さとうきびは代替作物の生産が困難な地域の基幹作物として、台風、干ばつ等の厳しい自然条件下で生産されており、生産はどうしても不安定にならざるを得ないが、この特徴は生産段階のみに留まらず、製糖工場および島全体に対しても大きな影響を与えてしまう。例えば、冬場の多雨・高温が続くと、適期収穫が困難となり、収穫・搬入・製糖工程の計画・スケジュールも変更が迫られる。また、台風、干ばつなどの災害や病害虫による被害が大きいと、島全体のさとうきびの生産量が減少し、製糖工場の稼働率や操業日数、収益性などの年間実績が悪化する。
このようなさとうきび生産の不安定性は、当然のことながら生産者個人の経営にとって悪影響をもたらすため、生産者自身でもそうした事態を回避するための対処行動を行っており、多くの場合、製糖工場への悪影響を緩和する方向につながっている。しかし、生産者個人の対処行動だけではなかなか乗り越えられない問題が残っている場合、島全体のさとうきびの作付面積や生産量の減少に発展し、製糖工場の操業度・収益性の悪化へつながる。こうした状況が長期化すると、多くの生産者の意欲が低下し生産量の低迷に歯止めが利かなくなり、製糖工場の安定操業ラインを下回るようになってしまう。最悪の場合には、製糖工場は閉鎖を余儀なくされ、その結果、島全体のさとうきびの生産が極めて困難な状況に陥る。こうした負の連鎖の特徴は、1)もともとは生産者個人の問題であったものが製糖工場およびさとうきび産業(製糖のフードシステム)全体にも悪影響をもたらし、最終的には生産者全体に跳ね返ってくること、2)悪影響の範囲・規模が次第に増幅していることの2点である。こうした負の連鎖を断ち切るために、さとうきび産業(製糖のフードシステム)の最上流にあたる生産者個人の生産に関する意識・行動を把握することが求められてくるのである。
「電脳手帳」を中心とした徳之島のこれまでの取り組みは、植付、生育、収穫・出荷などの生産段階の情報をリアルタイムで収集することを通じて変化の実態を早期に把握し、それに合わせて収穫・搬入・製糖計画を迅速かつ柔軟に変更することで効率化を達成していたわけだが、これらは生産の不安定性に対する事後的な対処行動と言える。このような仕組みを構築したこと自体、さとうきびの分野においては高く評価できるが、さらに生産段階そのものが安定化したとすれば、「電脳手帳」の仕組みは今まで以上により効果を発揮できるであろう。
さらに、徳之島において生産者個人に関するデータ収集と活用が必要な別の背景もある。徳之島では1992(平成4)年にハーベスターが導入されて以降、収穫作業の機械化が大きく進展するとともに、地域営農集団などの大規模経営の育成も進行し、収穫作業を中心とした労働生産性は飛躍的に向上していると考えられる。しかし、この動きと時期を同じくして、さとうきびの土地生産性(単収)は漸減傾向にある(図1)。この要因として、ハーベスター収穫の浸透によるほ場踏圧の影響の拡大や、堆肥の投入量減少が指摘されている。とはいえ現段階でハーベスター収穫を中止することは、これまで進めてきた収穫・搬入・製糖の効率化の点から見ると好ましくないので、今後は土作りや生産要素(灌水、肥料、農薬など)の適切な投入など、生産者個人レベルでの行動に注目することが重要になってくるのである(なお、徳之島における機械収穫の進展度合いとその効果、影響については、南西糖業株式会社の當氏によって整理されている。當好二「徳之島における「サトウキビ収穫機械化」の推移」『特産種苗』第12号、2011年11月)。
(3)アンケート調査の目的・意義
以上の状況を踏まえ、生産者個人の意識・行動を把握することを目的に、生産農家に対するアンケート調査を実施した。ちなみに現段階の「電脳手帳」では、出荷・搬入に関わるデータ(ほ場ごとのさとうきびの作型、品種、植付面積、収穫量など)を中心に収集・活用しているわけだが、設計上は、農機、肥料、農薬、家畜など生産に関する情報の記入欄も設けられている。しかし現在は、製糖工場で出荷・搬入に関わるデータ収集だけで手一杯であり生産に関する情報の収集までは手が回らない状況にある。また、このような調査・集計作業の負担の大きさに加え、生産者個人レベルの生産情報を定量的に把握することの意義と効果が、実際に調査を実施し結果が出てみないとわかりにくいことも影響していると考えられる。そうした意味でも今回のアンケート調査結果は、その一つの試金石として位置づくであろう。
また、本稿では島全体の状況と同様に町別の状況にも注目していくが、その目的は生産者の意識・行動の中にどの程度の地域差が存在するのかを検証するためである。徳之島の町別さとうきび収穫面積を図2に、単収を図3に示したが、生産実績の地域差は非常に大きい。
こうした地域差の背景には、気候、土壌条件などの自然条件の影響が大きいことは間違いないが、それと同様に、生産者の意識・行動の影響も大きいと考えられる。特に1つの島の中に3つの行政地区(天城町、徳之島町、伊仙町)を抱える徳之島では、生産者の意識・行動における地域差の存在とその影響は非常に大きいものと予想される。もっとも、現場の関係者は生産者の意識・行動に関する地域差について大体のところは経験的に把握しているのであろうが、今後の島全体のさとうきび産業(製糖のフードシステム)の展開を考える際には、生産者の意識・行動を定量的に把握することが重要になってくると考えられる。そうした意味で今回はアンケート調査結果を基に、生産者の意識・行動の現状と地域差をあぶりだすことを目的としたい。
2.アンケート調査の調査結果
(1)アンケート調査の実施方法
アンケート調査票は、南西糖業株式会社の27名の担当員・技術員に依頼し、担当地区の生産農家に聞き取りながら記入してもらう形式をとった。アンケートの対象となる生産者に関しては、各担当員・技術員の担当地区内から筆者らがランダムに20名を抽出し、合計540名を選択した。アンケート調査票の配布と依頼は平成24年1月に開始し、翌2月に138名分を回収した(回収率は25.6%)。
各町の回収状況をみると(表1)、天城町45名、徳之島町51名、伊仙町42名であり、回収状況に大きな偏りはない。なお、実際の分布状況と比較すると徳之島町の割合が高く、伊仙町の割合が低い傾向にあるが、おおむね実勢を反映したサンプルを収集できた。
特に本稿では、経営別調査として各生産者に対し調査した項目の結果を、島全体と町別に報告する。なお、以下に示す表では、地域差に注目するために、表の中のセルを色分けしている(詳細は表2の注2を参照)。
(2)調査対象の経営の概要に関して
まず、労働力に注目すれば(表2・3)、島全体では農業従事者数2人以下の累計が88.7%、雇用労働者数1人以下の累計が80.9%を占めている。以上のことから基本的に今回の調査対象は家族経営が中心的であると考えられる。また、地域差に注目すれば、天城町では大規模経営(農業従事者数3人以上、雇用労働者数3名以上)が多いこと、伊仙町では小規模経営(農業従事者1人、雇用労働者数なし)が多いことがわかる。
収入面に注目すると(表4)、島全体ではさとうきび販売額が家計費に占める割合は、2〜3割(32.5%)、1割未満(23.3%)、4〜5割(21.7%)という状況であった。3割以下の累計で55.8%、5割以下の累計で77.5%を占めていることから、島全体ではさとうきび以外の収入手段を持つ経営が多いことがわかる。地域別に注目すると、天城町ではさとうきび販売額の比重が高く、伊仙町では比重が低いことがわかる。
機械の1経営当たり保有台数に注目すると(表5)、島全体の平均値は2.2台であったが、天城町は多く、伊仙町は少ない傾向にある。さらに新規購入予定に注目すると、島全体では予定あり34.2%、予定なしが65.8%という状況であるが、現在の保有台数の多い天城町でのさらなる新規購入予定が多く、保有台数の少ない伊仙町では今後も予定がない割合が比較的に高い。
認定農業者の状況に注目すると(表6)、島全体では、なる予定はない(54.5%)、未定(31.4%)の割合が高く、両者を合わせると85.9%を占めており、現時点で認定農業者に積極的な経営がそれほど多くないことがわかる。地域別に見ると、天城町では、なる予定はないという回答は少ないが、未定という回答が多い。伊仙町では、未定、今後なるつもりという回答は少ないが、なる予定がないという回答が多い。
今後の経営の意向に関しては(表7)、島全体では現状維持73.1%、規模拡大22.7%という状況である。地域別に注目すると、天城町で規模拡大が多い傾向、伊仙町で現状維持が多い傾向が見受けられる。
(3) 生産要素の投入に関する意識・行動に関して
今回、生産要素に関しては、1)灌水、2)農薬、3)肥料の3種類を中心的に調査した。
1)灌水には干ばつ時における収量・品質の低下や、台風時の塩害を防止する効果など、災害と関連して発揮される効果がある。その一方、干ばつ等でなくても初期段階の生長を促進し収量・品質を向上させるなど、平常時に発揮される効果も指摘されている(詳細は徳之島用水農業水利事業のHP「
http://www.maff.go.jp/kyusyu/seibibu/kokuei/14/rink/index2.html」を参照)。
また、2)農薬には生産量の減少をもたらす病害虫などの災害発生要因を減らす予防効果や、発生直後の被害を緩和する効果が、3)肥料には収量・品質の向上など平常時に発揮される効果があると一般的には言われている。
以上のように、生産要素それぞれ使用目的と効果が異なっていることを念頭に置きながら、それぞれの調査結果を整理していく。
1)灌水に関する意識・行動
まず、灌水の実施割合に注目すれば(表8)、島全体では22.0%であるが、地域別にみると伊仙町が高く、他の2町では低い。
また、灌水の実施方法に関しては、島全体では固定スプリンクラーの割合が最も高かった。地域別にみると、天城町では固定スプリンクラーが少ない分、他の方式(ホース式、散水車、その他)が多い傾向にあった。伊仙町では固定スプリンクラーが高く、他の方法が低いという集中傾向が見られた(ただし、灌水の実施方法については有効回答数が特に少ないため、調査結果の判断は慎重に行う必要がある)。
灌水を実施しない理由に関しては(表9)、島全体では機械・施設が未整備であるという理由が74.1%を占めていた。ただし、この点については今後の徳之島ダム完成(平成27年度完成予定)により解消される可能性も指摘できる。地域別に注目すると、天城町では灌水の必要性を感じないという理由が高く、機械・施設が未整備という理由は低い。一方、伊仙町では天城町とは逆の傾向にある。
2)農薬等に関する意識・行動
農薬・除草剤・殺鼠剤の使用状況に注目すると(図4)、農薬、除草剤、殺鼠剤の全てを利用している生産者が52%と一番多く、次いで農薬と除草剤の組み合わせが39%であった。また、農薬、除草剤、殺鼠剤を単独で利用している生産者は5%と少なかった。平均4.5種類の農薬、除草剤、殺鼠剤を組み合わせて利用していた。
3)肥料に関する意識・行動
次に肥料の使用状況についてみると(表10)、島全体では化学肥料を使用する生産者の割合が高く、有機肥料を使用する場合でも化学肥料と併用することが多い。また、地域別に見れば、伊仙町は化学肥料のみの割合が高く、有機肥料の使用割合は低い。相対的に、天城町・徳之島町では主に化学肥料と併用する形で有機肥料を使用する割合が高い。
堆肥使用上の問題としては(表11)、散布労働がきつい(39.4%)、価格が高い(24.2%)、土壌診断を実施しておらず堆肥投入基準が不明(14.1%)、畜産農家から十分確保できない(12.1%)などが挙げられた。ただしこの点については、各町において、ほ場別の土壌診断が実施されているとともに、農作業委託を請け負う組織も増えてきていることから、今後の改善の余地があるといえる。
(4)生産の不安定性に関する意識・行動に関して
1)生産の不安定性に関する平常時の対応手段
生産の不安定性に関する平常時の対応手段について尋ねたところ(表12)、さとうきび以外の作物の組み合わせを変える(24.1%)、さとうきびの品種や作型を変える(24.1%)、生活費の見直し(19.6%)、共済に加入(16.1%)が高い結果となった。一方、農業外労働の増加や生産資材の投入量変化による対応は少なかった。地域別に注目すると、徳之島町でさとうきび以外の作物の組み合わせの変化が、伊仙町では共済加入が高い傾向にある。
2)災害に対する意識と、発生時における生産要素の投入行動の変化
まず、生産者が重要視する災害を尋ねたところ(図5)、重要視している順に、台風、干ばつ、病害虫という状況であり、この3項目への集中傾向が見られた。
さらに、それぞれの災害発生時における生産要素の投入量の変化についての調査結果を図6−1、6−2に示した。特に、台風、干ばつ、病害虫といった生産者にとっての3大項目の発生時に、生産要素の投入量を増加させる対策をとる人が多いことが分かる(図6−1)。ただし、項目によっては被害発生時においても特に目立った対策をとらない場合や、あるいは生産要素の投入量を減少させるという回答もあったことは注目すべきであろう(図6−2)。
災害発生時に生産要素の投入量を減少させる行動の理由・背景について、より深く分析するために必要なデータを現段階では十分には保有していないが、ヒアリング調査で得られた情報の中から関係のありそうなものを紹介すると、農薬については平常時には病害虫等の発生による収量減少を食い止める予防効果があるが、台風・潮害の発生時には農薬散布を行うと、さとうきび生育を阻害するという声を現地で耳にした。また、化学肥料については平常時には生育を促進し収量増加の方向に働くが、干ばつ時に化学肥料を散布すると「土が焼ける」ため、逆にさとうきびの生育を阻害するという声も耳にした。このように、平常時と異常時において、生産要素が本来と逆転する効果を併せ持つと感じている生産者が、少なからず存在するようである。まずはこうした評価の妥当性について検証することが求められるだろうが、もし被害の拡大を恐れて適切な水準の生産要素の投入を行わない農家が増えたとすれば、長期的に見て島全体の収量低下につながる可能性が高い。したがって、災害発生時の生産者の意識・行動に関しては、今後、より詳細な情報収集と要因分析が求められる。
3.まとめと今後の課題
本稿では、生産者の意識と行動の現状について、地域差にも注目しながら、調査結果を報告してきた。経営概況に注目すると、全体的に天城町は大規模、伊仙町は小規模、徳之島町はその中間という位置づけであった。生産要素の投入状況については、灌水は伊仙町で多めに行われているものの、現在、機械・施設などの面で問題が多いこと、それに対し、徳之島町・天城町では灌水は相対的に行われていないが、そもそも必要性を感じない生産者の割合が高いという状況であった。有機肥料の使用状況については伊仙町ではあまり進行していないが、徳之島町や天城町では化学肥料と併用する形での利用が進んでいる。しかし、利用が進んでいる2町(徳之島町・天城町)において、現在、問題点として指摘される項目は明らかに異なっていた。以上のように今回の調査項目(質問内容)と調査対象(サンプル数)は限定されたものではあったが、その中でも生産者の意識・行動における地域差が非常に大きいことが確認できた。今後の島全体のさとうきび生産のあり方を考える際には、こうした地域差を配慮して対策を取ることが重要になるであろう。
ただし、今回は生産者の意識と行動に差があることは明らかにできたが、その形成要因については地域差だけでは説明できない部分も残されている。例えば灌水に関連しそうな畑地かんがい面積に注目すると、徳之島町593ha(29.7%)、天城町156ha(9.8%)、伊仙町404ha(26.9%)という状況であった(「徳之島の農業農村整備」平成22年度)。これを表9と照合すると、徳之島町・伊仙町では灌水を行うための条件が整っているにもかかわらず、灌水を行わない理由のうち機械・施設が未整備という回答が多い。同様に、有機肥料の使用割合は伊仙町で低く徳之島町や天城町で高かったが、これに関連しそうな家畜の使用状況に注目すると、家畜飼養農家数は天城町19戸、徳之島町7戸、伊仙町18戸で、家畜飼養頭数は天城町66頭、徳之島町56頭、伊仙町77頭という状況であった(数値はアンケート調査結果より)。伊仙町は他町と比較して家畜数が少ないわけでも飼養農家戸数が少ないわけでもないが、有機肥料の使用率は低い。これらの行動の違いについてより詳細に検証し分析するためには、地域差という視点とは別に、生産者個人の意識・行動に踏み込むようなデータ収集と分析が必要とされている。
また、生産者の意識や行動の差が、どの程度、生産実績と関係するのかについては検証していない。この点はまさしく重要であり、今後も分析を深めていく必要性が高い。ただし、最後に付言すると、生産実績に関しては新規に調査の手間を増やすことなく、既に製糖工場が保有する「電脳手帳」の中に蓄積されたデータと接続を図ることで、より正確な検証が可能になるであろう。そうした意味でも他の島よりも先行して、ほ場・生産者ごとのデータの入力・集計・更新システムを構築した徳之島は、今後大きな可能性を秘めていると言える。
また、徳之島で注目すべきは、構築したシステムそのものの画期性や能力だけでなく、その背景には、生産者と製糖工場を中心とした強固な連携関係が構築されていることにある。表13に生産者がさとうきび生産関係の情報交換や相談を積極的に行う人数と、特に重要視している人物の内訳を示した。人物の内訳に関しては、筆者らは調査票の中で12人の具体的な人物を例示し(表13の注を参照)、その中から上位5名を順位付けしながら選択してもらう方式をとったが、第1位として最も多く選ばれているのが担当員であり、この傾向は天城町、伊仙町に共通している。担当員は工場からの業務委託契約調査員であるが、単なる調査員ではなく、情報収集作業を通じて各生産者の下に頻繁に足を運んでおり、生産者から相談される機会も多いようで、信頼される位置づけとなっている。このような生産者と製糖工場を中心とした強固な信頼関係は、今後、島全体のさとうきび産業(製糖のフードシステム)の安定性の向上を図る際に、土台として活用できると考えられる。
(付記)
アンケート調査の実施にあたっては、徳之島のさとうきび生産者の皆様方、ならびに南西糖業(株)の方々(特に担当員・技術員の方々)に多大なご支援・ご協力を頂戴いたしました。収穫の忙しい時期にお手数をおかけしたことをお詫びするとともに、皆様のご協力に改めて深く感謝申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713