バイオエタノールだけではないブラジルのサトウキビ先進技術
最終更新日:2014年1月10日
バイオエタノールだけではないブラジルのサトウキビ先進技術
国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT)第28回サンパウロ大会報告
2014年1月
【要約】
ブラジルのサトウキビ産業は、世界的に有名なバイオエタノールだけでなく、育種、生産、製糖工程さらには副産物利用にわたる幅広い分野において世界トップクラスの技術を確立・実用化しつつある。これらのイノベーションおよびそのスピードは、わが国の研究・技術開発およびサトウキビ産業の改善方向に大きな示唆を与えると思われるので、垣間見たブラジルの先進技術のいくつかを紹介する。
はじめに
2013年6月にブラジルのサンパウロ市で開催された国際甘蔗糖技術者会議(International Society of Sugar Cane Technologists(以下「ISSCT」という。))の第28回大会に出席する機会を得た。周知のように、ブラジルは世界最大のサトウキビ生産国で、砂糖とバイオエタノールの両方を生産している。バイオエタノールは、米国に次ぐ世界第2位の生産量を誇り、輸出量は世界第1位である。ブラジルのバイオエタノールの生産動向や課題などについては、本誌などでも何回か紹介されている(例えば、日高:2012、小林:2012)。今回は、サトウキビ産業の本場で開催される大会であるので、有益な情報収集への期待がいやが上にも高まった。プレコングレスツアーおよび大会で見聞した世界の動きは、予想をはるかに超えたものであった。目が飛び出るほど高い参加費に勝る成果はあったと考えている。
1. ISSCT大会およびプレコングレスツアーについて
ISSCTは、3年ごとに世界のサトウキビ生産地が持ち回りで大会を開催している。開催地は北半球と南半球を交互に選んでおり、前回は北半球のメキシコ(ベラクルス)で、今回、南半球のブラジル(サンパウロ)となった。ISSCTには、サトウキビ関連の全ての分野を網羅する農学、農業工学、育種など10分科会が設置されており、大会の合間の3年間に、それぞれの分科会が世界各地でワークショップを開催し、会員間の情報交換を活発に行っている。ISSCTは固定した事務所は持たず、大会の開催地に引き継いでいく方式を採っている。このためか、通常の学会のような定期発行機関誌は持たず、大会のプロシーディングだけが発行されている。ISSCTと連携するのはそれぞれの国の甘蔗糖技術者会議で、これらは団体会員として活動している。わが国には「日本甘蔗糖技術者会議(JSSCT)」があるが、20年ほど前に団体会員から外れ、直接的なつながりは持っていない。
本稿ではプレコングレスツアーについて紹介する。ISSCTでは大会の前にプレコングレスツアーが企画される。同ツアーはサトウキビ産業技術のアピールの場であり、開催国の威信を懸けて、趣向を凝らした企画・運営によって栽培、育種、工場などが一望できる。このため、本大会よりこちらを目当てに参加する技術者も少なくない。今回は6月20日(木)、21日(金)の2日間の日程が組まれ、前日19日に拠点となったリベイランプレト市に集合し、翌日から見学となった。リベイランプレト市は、サンパウロ市の北北西へ約300キロメートル、ジェット機で1時間ほど飛んだところに位置し、地下資源や農産物の集積地として栄えてきた商業都市で、人口は50万人ほどである。終了後は、22日(土)にバスでリベイランプレト市からサンパウロ市に9時間ほどかけて移動した。参加者は4グループに分かれて、製糖工場、ほ場、研究所などを見学した。
2.Alta MOGIANA製糖工場
初日は、リベイランプレト市からバスで2時間ほど北上し、サンジョキンダバラにある製糖工場Alta MOGIANAを訪問した(写真1)。
(1)工場の概要
この工場は、1983年にエタノール製造を目的として操業を開始した。その背景には、1975年にブラジル政府がスタートした、輸入石油依存から脱却するプロジェクト(プロアルコール政策)がある。初収穫となる1985年には23万トンのサトウキビを圧搾し、1800万リットルのバイオエタノールを製造した。工場は順調に拡大を続け、現在、年間600万トンのサトウキビを圧搾し、砂糖50万トン、エタノール1億8000万リットルを製造しているほか、コージェネ(注)で14万メガワット時を発電し、10万世帯以上に配電している。現在、約4,000人の従業員を雇用しており、ブラジルで上位10社に入る規模で、所属しているLincorn Junqueira Groupはパラナ州およびサンパウロ州に4工場を経営し、グループ全体の圧搾量は年間1600万トンに達している。
(注)コージェネ
コージェネレーションシステムのことで、熱源より電力と熱を生産し供給するシステムである。
(2)ほ場見学
ここでは 1)サトウキビほ場の75パーセントが製糖工場所有(農家へのリース65%、直轄10%)、残り25パーセントが農家所有であること 2)植え付けは1年中可能で、かん水は植え付け直後の1週間に限って行うこと 3)新植では、収穫までに12カ月を要する秋植えと18カ月の冬植えが、それぞれ20パーセントと80パーセントであること 4)エタノール蒸留廃液ビナス(Vinasse)は製糖工場から25キロメートル以内のほ場にはトラック輸送で、それ以遠のほ場にはパイプ輸送していること 5)農薬は飛行機を使って散布すること−などの説明があった。品種試験ほ場では、モンサントのようなバイテク企業などと提携して栽培試験を行っており、優良系統は品種登録・商品化される。試験ほ場はかなり広く、多くの品種の試験が行われていた(写真2)。高バイオマス量品種も育成され、繊維35パーセント、糖度2パーセント、最大収量1ヘクタール当たり300トンにもなる品種などが期待されている。新植・育種用の苗には組織培養苗が利用され、品質の均一化が進んでいる。
(3)工場見学
原料は、ハ−ベスタに伴走した60トン積みのカーゴに積まれて工場に搬入される。搬入後はラインに投入され、サンプリング、洗浄、圧搾、製糖工程へと流れる。ここでは、圧搾工程に6連ミルを使用していた。ブラジルでは、操業期間が長いため、圧搾機などの部品は大量にストックされており、異常発生や摩耗した時にすぐ交換できるように備えてあった。機械整備の工務員が常時、部品を整備し、製糖を止めずに作業の継続を図っていた。
バガスは燃焼させて蒸気を発生させ、スルーターボ発電機による発電を行っているが、燃焼効率を上げ、蒸気の発生を高める研究開発が行われている。電力は周辺地域に売電され、有力なクリーンエネルギーとなっている。余剰バガスは、フィルターケーキや灰などと混合して堆肥を製造している。日本を含む主要国では、煎糖工程は一般に3回であるが、ここを含めてブラジルではほとんどの工場が2回のみとなっている。
ここで製造されるクリスタル糖は、糖度が99.3〜99.7度と高く、砂糖を回収した後の糖蜜には、多くのショ糖分が残留している。これを発酵させ、エタノールを回収する方法を採っている。エタノールの生産(写真3)は、国際的な砂糖の需給動向に応じて変化する。最近では、国際糖価の上昇、2012年の天候不良によるサトウキビの減産などを機に、砂糖生産の割合が増加している。しかし、エタノールは国内、米国、欧州などで需要があるので、ブラジル政府は今後も増産していく方針である。
3.Delta SUCROENERGIA製糖工場
2日目は、さらに北上して隣のミナスジェライス州境にある、Delta SUCROENERGIAを訪問した(写真4)。製糖工場の周囲には集落ができており、工場を中心としてDelta町が形成されている。
(1)工場の概要
ここは、2012年10月に設立されたばかりの新しい会社である。その前身のGrupo Caféは、ブラジル北東部において、50年以上にわたり操業を続けてきた。そのため、設立間もない会社ながらブラジルのサトウキビ産業の象徴的な存在となっている。今期の予想圧搾量は、前期と比較して100万トン増の1030万トンにものぼり、約7パーセントの増収を見込んでいる。現在9万ヘクタール近くの耕地を所有し、うち80パーセントで機械収穫が行われている。この他にVolta GrandeおよびConquista de Minas工場を所有している。
(2)ほ場見学
ほ場見学では、さまざまな作業機などの実演が準備されており、今回のプレコングレスツアーのハイライトとなった。バスで見学場所を巡ったが、その走行距離は30キロメートルに及んだ。
最初に、ほ場などでの作業機の運行状況をモニターおよび管理するコントロールルームを見学した。4名ほどのオペレータが働いており、それぞれモニター画面を見ながら作業機の動作をチェックしていた。何か異常があれば直ちに作業機などにメッセージが送信されるので、すばやく問題に対処できる。
次のビナス利用システムの見学では、ほ場端に設置されたため池にビナスなどが貯留され、運搬・散布専用車への給水ステーションが併設されている。運搬・散布専用車は、ほ場端に停車し、少し小さめのタンクを備えた移動式散布車と接続してレインガンで散布していた(写真5)。ビナスには、1立方メートル当たり0.8キログラムの窒素および6.0キログラムのカリウムが含まれており、 60キログラムの窒素を添加して施肥している。ビナスの施用は1ヘクタール当たり60立方メートルで、この地域の60パーセントにあたる7万ヘクタールのほ場で行われているが、少し臭いがあるため、市街地周辺には散布できない。
農薬散布と施肥ではハイクリアランス式大型ブームスプレーヤなどを用い、1回走行でかなりの面積をカバーできる。フィルターケーキは、2カ月間ほど専用置き場に堆積した後、塩化カリウムなどを加えて成分調整を行って有機肥料を製造していた(写真6)。専用散布機で1ヘクタール当たり14トンの有機肥料を施用していた。この他、大型ハーベスタによる収穫作業やプランタによる植え付け作業(後述)を見学した。
植え付けほ場の横では小さなブースが設けられ、ここで栽培されている主な品種や生物防除法などを展示していた。「RB867515」という品種は、1997年に正式に品種登録されて、収量、糖度ともに高いことから、この地域での優良品種となっている。
(3)工場見学
原料の搬入方法は、Alta MOGIANAと同様に、カーゴから直接コンベアに原料を投入する方式である。ここでは5連ミルを使用していた。煎糖は、わが国などと同じ3煎糖方式を行っており、エタノール生産よりも砂糖の生産に力を入れている。新たな取り組みとして、フィルターケーキに残留しているショ糖分をさらに抽出するために、熱湯を注いでフィルターでろ過するローリングによって歩留まりを高める設備を2012年から導入していた(写真7)。熱湯は廃熱を利用しているため、余分なエネルギーは使用していない。2012年は天候不良で生産量が落ち込み、さらに、国際的にも砂糖の需要が増加しているため、ブラジルでも歩留まりの向上は重要な課題となっている。日本よりもはるかに大規模な工場であるが、サンプリング回数が少ないのか、分析室には3〜4名しかいなかった。
4. CTCサトウキビ技術センター
CTCサトウキビ技術センター(Canavieira Technology Centre)は、サンパウロ市から約160キロメートル東部のピラシカバに位置する。同センターでは、育種を中心に生産性向上の取り組み、遺伝子組換体の利用、防除、エタノール生産に関する研究の紹介があった。同センターでは、国が支援する第2世代エタノール生産プロジェクトに取り組んでいる。これは、搾汁液や糖蜜を用いる第1世代エタノールとは異なり、バガスやトラッシュを工場の高圧蒸気を利用して爆砕・糖化し、エタノールを生産するプロジェクトである。この新しい取り組みでは、糖化プロセスの他に発酵に利用する酵母など、工程に関わる諸技術を検討している。この過程で発生する残渣の利用についても研究を進めており、大規模な実証プラントの建設が予定されている。
品種選抜効率を上げるために、品質評価に近赤外分光法(NIR)が利用されていた。NIRはわが国では品質取引に利用しているが、測定が迅速かつ簡便で分析技術を必要としないメリットがある。装置類は基本的に日本のものと同様であるが、発電機、細裂装置、近赤外分析装置(近赤計)をトラックに乗せて移動するシステムで、Mobile laboratory(移動式実験室)として紹介された(写真8)。栽培試験ほ場が非常に広いので、この方式が効率的とのことである。品種別に全茎5〜7本をサンプリングし、チッパーを改造した装置で蔗茎を細裂し、ブルーシートの囲いで回収する。この細裂試料を撹拌して、トラック内のNIRでブリックス、糖度、繊維率を測定していた。NIR用検量線の開発やその維持管理に必要な工夫に関する情報は得られなかった。
5. 瞠目すべきブラジルの技術
(1)精密農業の展開
ブラジルは広大な国で、サトウキビほ場も大区画である。ただ、今回見たほ場は、機内から眺めたほ場も含めて、想像していた「平坦で広大」なものではなかった。緩やかな起伏が果てしなく続く地形を利用して、サトウキビは栽培されていた。ほ場区画は、整然とした長方形ではなく、地形に合わせて多種多様な形状になっている。サトウキビは等高線に沿って栽培され、これに平行して土壌流出防止用の土手が幾重にも築かれている(写真9)。道路脇には簡易な沈砂池が設けられ、土壌流亡対策が施されている。一帯は赤土で、沖縄の国頭マージ(注)のような性質であろうか?生育状況を見ると、驚くほど見事な生えぶりである。広大なほ場での粗放栽培を想定していたが、誤った先入観であった。機械化作業がかなりの比率を占める中、きちんとした管理ができている。それを可能にしている技術が「精密農業」である。これはさまざまな技術を適切に組み合わせ、肥培管理などを高精度に行って資源と所要エネルギーの最適化を図る技術である。後述のように、機械化体系で最も重要な植え付け作業には、高精度移植プランタが開発され利用されている。
精密農業の基盤技術は、トラクタやハ−ベスタなどに装備されている「オートパイロットシステム」である。これは搭載したGPSとコンピュータおよび油圧操向システムによって、所定のコースを自動走行させるシステムである。走行データはGIS(地理情報システム)に取り込まれ、次の作業に必要なデータとして保存される。これによって作業機は常に同じ軌跡を走行するので、機械作業で大きな問題となる土壌踏圧を最小限に抑えるとともに、良好な走行性を確保できる。これはコントロールド・トラフィックと呼ばれる。作業機の自律走行(機械が方向や速度を判断して自動走行するロボット技術の一種)は、わが国でも実験実証レベルでは行われているが、それがすでに実用化されていた。機械の運航状態をすべてモニターすることによって、作業機のメンテナンスが精度良く行える上に、作業の日時、使用機械、作業内容をGISでマッピングして、作業計画の立案、適正実施などが可能になる。ブラジルでは製糖工場自体もサトウキビを生産し、多くの機械とオペレータを所有しているので、このようなシステムを導入する条件が揃っている。Delta SUCROENERGIAでは、工場内の一角のコントロールルームでハ−ベスタやトラクタなどが一元的に管理され、大きな効果を上げている(写真10)。収量については、ハーベスタの伴走トラックにGPSとロードセル式の重量センサを装備して計測している。
生育中のサトウキビをモニターするシステムとして、Alta MOGIANAでは超軽量カメラを搭載した模型飛行機の利用を試みていた(写真11)。スイス製で重量は500グラム、ラジコン操縦で撮影した画像を地上のパソコンに送信し、サトウキビの栄養診断や生育調査に利用できる。このラジコン機はステルス機のような形状をしており、目視では確認できないほど高く飛んで画像を撮影していた。
(注)国頭マージ
沖縄本島中北部や八重山諸島などの台地および丘陵地に広く分布する赤色土、黄色土で、土壌流出が発生しやすいため、流出防止対策を図る必要がある。
(2)移植プランタと育苗システム
今回のISSCTで最も驚いたのは、移植プランタである。組織培養したセル整形苗を田植機のように移植する作業機(写真12)で、従来の全茎式プランタや細断茎を植え付けるビレットプランタとは全く異なるコンセプトの機械である。田植機と同様に作業機にセル整形苗を数箱搭載し、2名の作業員がセルトレイから苗を手で外して植え付け部に投入する方式であった。従来の全茎式プランタやビレットプランタは、種苗茎を植溝中に埋没させるために、植え付け精度がどの程度確保されているのか、また、芽子からきちんと発芽するのか保証がないのが難点である。さらに、種苗茎からの初期生育は一般に緩慢で、成長に長い時間を要する。欠株が確認できる段階では、補植も容易ではなく、補植苗がきちんと育つかどうかも不明である。
一方、セル整形苗などのしっかり育った苗を移植する方式では、植え付け精度を作業時に目視で確認でき、補植も容易である。さらに、根が活着すれば後の生育は早い。この方式では株密度と1本重を確保できるため、高収量を実現できる利点がある。一方、根部がセルのサイズに制限されるために土壌が乾燥すると枯死しやすい。さらに、育苗用の施設が必要になるとともに、植え付け時間も長くなり、コスト高になるきらいがある。それにもかかわらず、大規模なブラジルで移植プランタが使用されていたのには新鮮な驚きを覚えた。
しかし本当に驚いたのは、この機械が15年ほど前に石垣島で開発されていたものに酷似していることである(写真13)。当時、石垣島では側枝苗の開発を進め、それに併せてプランタを開発していた(入嵩西:1999)。所定の大きさの側枝苗を特殊な紙筒(ペーパーポット)を蜂の巣状に接着したペーパートレイに植え付け、しばらくその状態で育てた後、専用プランタで植え付ける方式である。これはビートの移植機を改造したもので、植え付け時期になるとペーパーポットは少しの力で互いに剥がれ、人手による分離・投入は不要で植え付けは完全自動で行える。ペーパーポットへの土詰めから側枝苗の挿苗を行うロボットまで開発され、生産性向上とコスト低減を図っていた。側枝苗は、梢頭部を切除した採苗茎の芽子から伸びる側枝を利用して作られる。一方、徳之島では早くから組織培養苗が開発され、セル整形苗を苗ほに移植して苗の増殖に使っている。ブラジルでは組織培養した苗をセル整形苗に仕立て、ほ場に直接移植する。組織培養、セル整形苗の育成、植え付けほ場への苗の配送までを一貫して行う会社まで設立されていた。セル整形苗はAlta MOGIANAの育種試験ほ場でも展示されていたので、広範に普及しつつある技術と見なせる。
また、プランタでの植え付けミスが生じた場合には、円筒状の補植器を使って補植を行っていた。これは、筒を地面に突き刺して、上からセル整形苗を投入しペダルを踏むと、先端のくちばしが開いて苗を植え付けるものである。これは石垣島で使われていたものとまったく同じであった。これらを見たときに、日本の技術が何らかの形で伝わったのではないかという印象を持ったので、帰国後に側枝苗システムの開発に携わっていた入嵩西正治氏に尋ねてみたが、分からないとのことであった。入嵩西氏も写真を見て大変驚かれていた。全茎式プランタやビレットプランタとは違って、移植方式の植え付けを必要とするほどブラジルの栽培技術が向上しているものと考えられる。これは前述の精密農業の展開とも密接に関係している。
(3)Fertirrigation(液肥かんがい)、有機肥料施用
搾汁液や糖蜜からのバイオエタノールの製造過程で大量に発生する蒸留廃液(ビナス)の処理は、バイオ燃料の成否を左右する。宮古島で行われたバイオエタノール実証事業などでは、エタノール製造よりもむしろこの処理が課題となった。ビナスに含まれる有機系黒色物質が、地下ダムの水質汚染など深刻な環境問題を引き起こすのではとの懸念があった。一部の識者からは、ブラジルでも河川などの汚染が深刻化しているとの指摘があった。今回のISSCTでは、これに関する情報収集がポイントであった。驚いたことに、「Fertilizer(肥料)」と「Irrigation(かんがい)」を合わせた「Fertirrigation」すなわち「液肥かんがい」とでも訳せる造語が一般化していた。ビナスに限らず、洗缶水ほか工場より排出される廃水は、貴重な水資源および肥料として利用されている。前述のほ場見学ではレインガンを使用した散水デモを行っていた。環境問題を引き起こすのではないかとのわれわれの心配は何だったのかと思うほど、景気よく散布していた。また、移植プランタで植え付けた後、散水車でこのような水を大量に散水していた(写真14)。どこのほ場を見ても定置式のスプリンクラ施設はなく、散水車とレインガンの組み合わせが中心であった。前述のように、フィルターケーキは、広大な置き場で水分調整と成分調整を行った後、専用散布車で株上に施用していた。すなわち、製糖やエタノール製造過程で出る残渣(バイオマス)は余すところなく利用する高度な循環システムが構築されており、ブラジルの技術水準の高さがうかがえた。
おわりに
プレコングレスツアーで見たのはブラジル糖業の一端であり、また、先進事例であることを考慮しても、刮目すべき技術が実際に展開されていた。精密農業にしてもプランタにしても研究開発にとどまらず、実用されていることに大きな驚きを覚えた。新しい技術を貪欲に吸収し、少しでも業績向上につないでいく製糖企業の姿勢がうかがえる。これは企業の体力差と言ってしまえばそれまでだが、われわれも試験研究から実用化までの時間短縮と流れの確立を図る必要性を強く感じた。また、本大会期間中は毎日雨に見舞われ、貴重なプレコングレスツアーとなった。
参考文献
日高千絵子、
ブラジルの砂糖・エタノール産業を巡る状況〜2011/12年度の減産と最近の問題について〜砂糖類・でん粉情報2012.12、(独)農畜産業振興機構
小林達治、バイオエネルギー大国ブラジルの挑戦、2012、日本経済新聞出版社
入嵩西正治、
さとうきび側枝ポット苗の生産と栽培のメリット砂糖類情報1999.7、(独)農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713