ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > 米国の砂糖をめぐる情勢〜第31回国際甘味料シンポジウムに参加して〜
最終更新日:2014年11月10日
特産業務部 加藤 なづき
調査情報部 宗政 修平
1)価格支持融資(Price Support Levels and Loans)
USDAが農業法に基づき、作物農業公社(CCC)を通じて、製糖メーカーに対して、生産した砂糖または精製過程のシロップを担保に融資する制度で、利用は任意である。
融資単価(ローンレート)は、国際価格(ロンドン白糖相場)を参考に、毎砂糖年度ごとにてん菜糖および甘しゃ糖別に定められている。なお精製過程のシロップの単価は砂糖に比べ2割安となる。
この制度を利用するには、製糖メーカーは、USDAが定める生産者保証価格に基づいて、生産者からてん菜またはサトウキビを買い上げることが条件となっている。
この融資制度は短期的なもので、融資期間は最大9カ月間となっている。製糖メーカーは、通常、砂糖年度末(9月末)までに、利息を付した額で返済することとなっている。
ただし、当該制度は、融資額の返済は必ずしも現金ではなく、砂糖などの現物でも代替することで、返済額の免除が認められている。このため、返済時に砂糖などの担保価値(市場価格)が融資額を下回った場合は、製糖メーカーにとって有利に働く制度となっている。
2)在庫削減(Payment-in-Kind Authority)
国内産砂糖の生産過剰が見込まれる際に、USDAは減反計画に参加する生産者に対して、緊急的に減反を実施させることができる。減反面積に応じてCCC所有の在庫砂糖を減反報奨金の代わりに支給し、生産者はそれを市場で販売できる制度である。
作付済みのてん菜・サトウキビを減反の対象とする場合には、バイオ原料向けに販売されなければならない。なお、2001/02SY以降、この制度が適用されたことはない。
3)貯蔵支払(Storage Payment)
価格支持融資により、現物で返済した場合、USDAが製糖メーカーに対し保管料相当を支払うもの。
4)貯蔵施設融資制度(Storage Facility Loans)
てん菜およびサトウキビの経営安定に資するため、倉庫の新増設を行う製糖メーカーに対して融資を行う制度。
5)販売および輸入割当数量(Marketing Allotments and Allocations)
A. 国内産砂糖の販売割当(Overall Allotments Quantity)
製糖メーカーの販売量を規制して、国内需給のバランスを図る制度である。販売量は、推定砂糖消費量と適正期末在庫(おおむね15%)から、世界貿易機関(WTO)および北米自由貿易協定(NAFTA)のミニマムアクセス数量139万トンと期初在庫を差し引いて、国内産砂糖割当数量(Overall Allotment Quantity(OAQ))として算出される。
また、推定砂糖消費量の85%を国内産砂糖で賄うこととされており、てん菜糖54.35%、甘しゃ糖45.65%の比率で割り当てられる。国内消費量が割当数量を上回る場合は、粗糖の輸入で手当てする。
B. 輸入粗糖などの関税割当(Tariff-Rate Quota Allocation)
WTOおよびNAFTAのミニマムアクセスに基づき、砂糖(粗糖、精製糖)および砂糖調製品に対して、輸入割当を行う。不足が生じた場合は追加割当を行う。
6)バイオ原料柔軟性プログラム(Feedstock Flexibility Program)
NAFTAにより2008年1月からメキシコ産砂糖の輸入が無税かつ無制限になったことから、砂糖の国内価格下落を防ぐために2008年農業法でエタノールプログラムとして導入された。この制度は、メキシコからの輸入量の増加により、米国内の供給量が需要量を上回った場合、CCCが入札を行い、余剰分をエタノール製造業者へ売り渡す仕組みである。粗糖、精製糖、精製過程の製品すべてが対象となり、米国内の製糖メーカーなどが販売割当の範囲内で販売できる。
本制度は、バイオ原料柔軟性プログラムと名称変更された上で、2014年農業法でも実施されることとなった。入札では最も低い売り渡し価格を提示した製糖メーカーと最も高い買い入れ価格を提示したエタノール製造事業者との間で取引され、その差額はUSDAが補填する。
7)再輸出プログラム(Re-export program)
本制度は、輸入量を関税割当により制限されている製糖メーカーの工場の稼働率の低下を防ぐために措置されているものである。
製糖メーカーは、粗糖を輸入して輸出用の精製糖を製造、または輸出用の砂糖調製品(チョコレート菓子など)や多価アルコールを製造している食品製造事業者などに製造した精製糖を転売するために、USDAの輸入割当外で、粗糖を無税または低関税で輸入することができる。
また、輸出用の砂糖調製品などを製造する食品製造事業者にとっても、この転売された精製糖は国内産より安価な国際価格(ロンドン白糖相場)で購入できるメリットがある。
ただし、本制度を利用するには、USDAが発行するライセンス(許可証)が必要となり、精製糖は270日以内、砂糖調製品と多価アルコールは18カ月以内に輸出しなければならない。また、USDAは各企業に対して、許可数量を定めており、製糖メーカーは、粗糖換算で5万トン(ただし、30日以内にメキシコに輸出する場合は数量に計上されない)が上限、食品製造事業者などは精製糖換算で9072トン(系列会社を含めて2万2680トン)が上限となっている。
2013年6月に食料安全保障法に基づき、CCCが買い入れた国内産砂糖の余剰分も本制度の対象に加えられ、精製糖の輸出期限が90日以内から270日以内に延長された。
8)中央アメリカ諸国およびドミニカ共和国とのFTAに基づく関税割当
中央アメリカ諸国およびドミニカ共和国とのFTA(CAFTA-DR)に基づき、砂糖の輸入割当を行う。
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米国におけるFTA締結国の関税割当〜存在感のあるメキシコ産砂糖〜 |
1994年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)において、米国はメキシコからの砂糖輸入について、関税割当を設定し、14年かけて関税割当数量を段階的に拡大させ、2008年には撤廃した。現在、メキシコの米国向け砂糖輸出は無税かつ無制限となっている。 米国は、ヨルダン(2001年締結)、シンガポール(2004年締結)、チリ(2004年)、モロッコ(2006年)、バーレーン(2006年)、オマーン(2009年)、韓国(2012年)との間のFTAにおいても、メキシコのように一定経過期間後に砂糖の関税割当を撤廃、もしくは撤廃する予定になっているものの、これらの国からの砂糖の輸入実績はほとんどない。なお、ヨルダン(2010年)およびシンガポール(2013年)は撤廃済みである。 一方で、砂糖の主要輸出国であるDR-CA(注)、ペルー(2009年)、コロンビア(2012年)およびパナマ(2012年)とのFTAでは、関税割当数量は年々増加するものの、撤廃されることにはなっていない。豪州とのFTAでは、関税割当そのものが設定されていない。 (注)Dominican Republic-Central Americaの略で、コスタリカ(2009年)、ドミニカ共和国(2007年)、エルサルバドル(2006年)、グアテマラ(2006年)、ホンジュラス(2006年)およびニカラグア(2006年)。 また、米国の各FTA締結国に対する関税割当数量は、それぞれのFTA協定に定められた各年の数量が無条件で割り当てられるわけではなく、その数量よりも当該国の全世界を対象とした砂糖などの貿易収支が小さい場合は、貿易黒字相当数量が関税割当数量とされる。 以上のような仕組みの下で、砂糖の主要輸出国の中でのメキシコの優位性は高く、米国のプログラム別砂糖輸入割合からも分かるとおり、メキシコからの実際の輸入割合も特に高くなっていることから、米国の砂糖産業の動向を考える上で、メキシコ産砂糖の輸入動向は重要な要因となっている。
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