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〜久米島町仲里地区の先行モデル事例より〜

沖縄県における農地中間管理事業の取り組み
〜久米島町仲里地区の先行モデル事例より〜

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最終更新日:2015年6月10日

沖縄県における農地中間管理事業の取り組み
〜久米島町仲里地区の先行モデル事例より〜

2015年6月

公益財団法人沖縄県農業振興公社、沖縄県農地中間管理機構
前専務理事 島尻 勝広
(現 沖縄県農林水産部 農業振興統括監)

【要約】

 沖縄県では、久米島町仲里地区を先行モデル地区に選定し、県、町、JA、製糖企業などの関係機関が連携し、農地中間管理事業を活用したさとうきび生産法人への農地の集積・集約化に取り組んでいる。平成26年度には、農地中間管理機構が約9.6ヘクタールの農地について農地中間管理権を取得し、27年度から担い手への貸し付けを開始している。

はじめに

 沖縄農業は復帰後、農業生産基盤の整備をはじめ、ウリミバエ根絶などの条件整備が着実に進み、亜熱帯の地域特性を生かして、さとうきび、野菜、花き、果樹、肉用牛などの生産が多様に展開され、国内供給産地として一定の評価を得ている一方で、かんがい施設の整備の遅れなどにより、生産が不安定な状況にある。また、新規就農者の確保が厳しい中、農業従事者の高齢化も相まって、農家数および農家人口は減少傾向で推移しており、効率的かつ安定的な経営を目指す認定農業者などの担い手を確保することが急務である。また、農業経営の基盤である農地の集積・集約化を加速する必要があり、特に、認定農業者などの担い手への農地の集積・集約化は、重要な課題となっている。

 国においては、平成25年12月5日に「農地中間管理事業の推進に関する法律」および「農業の構造改革を推進するための農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する等の法律」が成立した。この二つの法律は、わが国の農業の構造改革を推進するため、農地の集積・集約化を行う農地中間管理機構を都道府県段階に創設するとともに、同機構の設立に併せ、遊休農地解消措置の改善、青年などの就農促進策の強化、農業法人に対する投資の円滑化などを講ずることを目的としている。農地中間管理事業は、農業を足腰の強い産業としていくための重要施策として位置付けられており、沖縄県においても、「人・農地プラン」と農地中間管理事業を連動させ、同プランにおいて中心経営体として位置付けられた担い手への農地の集積・集約化に取り組んでいるところである。

 本稿では、土地利用型作物であるさとうきびを中心とした農業を展開している久米島町仲里地区におけるさとうきび生産法人などの中核的な担い手への農地の集積・集約化に向けた、農地中間管理事業の取り組みを紹介する。

1. 沖縄県における農地の集積・集約化の課題

 沖縄県においては、以下に掲げた農地および地理的な課題があり、農地中間管理事業の円滑な推進を図る上で、地域の実態を踏まえた取り組みが求められている。

1) 島しょ部が多く、かつ過疎地域ほど農業に対する依存度が高い。
2) 農地が点在しているため連担が困難である。
3) 未相続農地、不在村地主などの問題により関係権利者が複雑である。
4) 農業用水・道路などの条件の悪い農地が残されている。 
5) 遊休化した施設が存在する。

 また、次の理由などで、農地を貸すことに消極的な農地所有者が相当数いる。

1) 資産保有意識が強く、長期間は貸したくない。
2) 地縁血縁の結び付きが強く、兄弟・親戚、同じ集落以外の人には貸したくない。
3) 農地所有者の承諾だけでなく、親戚縁者の承諾も必要な場合がある。
4) 島外や県外に働きに出ている子供たちがいつでも地元に帰れるように、耕作放棄地となっても農地を残しておきたい。
5) 賃借料が安いことから、生きがいとして農業を続けていくために農地を残しておきたい。
6) 売りたいが貸したくないなどの出し手・受け手間のミスマッチが存在する。

 さらに、次の理由により権利関係が十分整理されていない農地が相当数あるため、今後、農地中間管理機構による農地の集積・集約化を推進していくためには、農地の権利関係の調査・整理が課題である。

1) 登記簿上の所有者が明治時代の者となったままである。
2) 戦後の南米移民政策などにより農地の権利移動をしないまま移民し、その後の状況が不明となっている。

2. 農地中間管理事業における重点地区の設定

 「公益財団法人沖縄県農業振興公社農地中間管理事業規程」において、同事業を重点的に実施する区域の基準について、「適切な人・農地プランが作成され、地域ぐるみで農地流動化を進めようという機運が生じている区域など、農地中間管理事業が効果的に実施され、農用地の利用の効率化及び高度化を促進する効果が高い区域を重点区域とするものとする」と規定されている。

 そのため、沖縄県では、次の市町村を重点地区として設定し、同事業に取り組んでいる。

(1)「沖縄県農地データバンク活用事業」による農地調整員が設置されている市町村
 平成24年度から実施している「沖縄県農地データバンク活用事業」により、市町村に農地調整員を配置し、農地の掘り起こし活動に精力的に取り組んでおり、農地の流動化の機運も徐々に高まりつつあることから、今後もその流れを継続させるために、同事業において農地調整員が設置されている市町村を重点市町村として設定する(国頭村、大宜味村、名護市、読谷村、うるま市、南城市、宮古島市、石垣市、竹富町)。

(2)法人への農地の集積・集約化のモデル市町村
 農業生産法人への農地の集積・集約化のモデル事例を構築するため、さとうきび生産法人への作業受委託による農地の集積・集約化を検討していく必要がある。そのため、さとうきび生産法人の設置が県内でも早く、また、「人・農地プラン」の熟度も高く、町、JA、製糖企業など関係機関との連携も期待できる久米島町を重点市町村として設定する。

(3)円滑化団体との連携体制構築としてのモデル市町村
 農地の集積・集約化は、市町村や農業委員会だけでなく、関係機関がどれだけ一体となって取り組めるかが非常に大きな鍵になる。JAが円滑化団体になっている市町村のうち、特に精力的に取り組んでいるうるま市、沖縄市、今後積極的に取り組むことが期待される東村を重点市町村として選定する。

3. 久米島町における先行モデル地区の選定

 前述の通り、生産法人への農地の集積・集約化のモデル事例を構築する観点から、今後、法人への農作業受委託による農地の集積の検討や、「人・農地プラン」の熟度が高く、町、JA、製糖企業、生産法人、土地改良区などの関係機関との連携が期待できることから、沖縄県では久米島町を重点市町村に選定し、農地中間管理事業をモデル実施することとした。

 久米島町内の先行モデル地区については、農家数の減少や高齢化による担い手不足、小規模で分散した農業経営、それらに伴う生産量の減少などの課題を抱えている中、中核的生産法人が地域と連携し、農地の確保や生産量の維持・増大に向けた取り組み(図1)が期待できる仲里地区(比嘉、真我里、銭田、島尻、謝名堂、泊の6集落)を選定した。なお、さとうきび生産振興を推進するためには、生産法人などへの農地の集積に加え、優良種苗の導入・普及、生産法人などの中核的担い手の確保、栽培技術の向上、機械化の推進、収穫面積の拡大など、総合的な取り組みが重要である(図2)。
 
 
 先行モデル地区の選定については、平成26年7月29日に久米島町仲里モデル地区調整会議(出席者:町・農業委員会、JA、製糖企業、生産部会、土地改良区、県など)において、取り組み事項や関係機関の役割分担(図3)、取り組みスケジュール案を提案したところ、さとうきび収穫面積の拡大につながるものであるとのことから了解を得ることができた。

 8月19、20日には、役割分担について、町・農業委員会、製糖企業などの関係機関と個別調整を図った。さらに9月18日にはモデル地区の取り組み方針などについて、生産農家や区長などの地域の関係者に説明し、了解を得た。その後、随時、農地中間管理事業の周知を図るため、啓発用パンフレットを活用した説明会や生産法人などとの意見交換会を開催した。また、農業委員会や高齢農家などの農地の出し手からの情報収集などの掘り起こし活動も強化している。
 

4. 久米島町仲里地区の概況

(1)さとうきび生産の状況
 久米島町は、那覇市から約100キロメートル西に位置する離島で、さとうきび生産の盛んな地域である(図4)。近年、久米島町のさとうきび生産は、収穫面積の減少や台風、干ばつなどの自然災害の影響により、3〜4万トン台で推移しており、増産に向けて収穫面積の確保や単収向上が喫緊の課題となっている。平成18年度に作成された「さとうきび増産プロジェクト計画」では、久米島町の27年度の目標値は、さとうきび収穫面積1070ヘクタール、生産量5万9990トンが設定されており、目標達成に向けて、農地中間管理事業などを活用した中核的な生産法人などへの農地集積の促進は効果的な取り組みであるといえる。
 
 平成19年産のさとうきび収穫面積は、久米島町が1031ヘクタールで、うち仲里地区は238ヘクタール、生産量は久米島町が5万4357トンで、うち仲里地区は1万1544トン、栽培農家数は久米島町が993戸で、うち仲里地区は193戸となっている(表1)。25年産のさとうきび収穫面積は、久米島町が850ヘクタール(19年産比17.6%減)で、うち仲里地区が198ヘクタール(同16.8%減)、生産量は久米島町が4万1667トン(同23.3%減)で、うち仲里地区が1万766トン(同6.7%減)、栽培農家数は久米島町が851戸(同14.3%減)で、うち仲里地区が190戸(同1.6%減)となっている。久米島町における生産量の減少は収穫面積の減少に加え、台風、干ばつなどの自然災害の影響による低単収が主な要因となっている。仲里地区も久米島町と同様の傾向であるが、栽培農家数は微減傾向である。
 
(2)さとうきび生産の担い手の現状
 平成25年産の仲里地区の栽培農家190戸のうち、久米島町の「人・農地プラン」に位置付けられている中心経営体は10戸で、収穫面積は71.2ヘクタールとなっている。中心経営体のうち生産法人は4法人で収穫面積(受託面積含む)は58.2ヘクタールと、中心経営体の収穫面積の81.8%を占めている。

 農家の年齢別構成は、26年度OCR調査によると、60歳以上が121戸で全体の57.6%を占めるが、50〜59歳の階層が52戸(24.8%)と、久米島町内の他地区と比べて中核農家の担い手が多い(表2)。しかし、将来、高齢化の進展などにより担い手不足が懸念され、早めの対策が必要である。そのため、中核的生産法人などの育成・確保や、農地中間管理事業などを活用した農地の集積・集約化、規模拡大、認定農業者への認定、ハーベスタなどの農業機械化の推進、生産性・労働生産性の向上、経営基盤の強化が重要である。
 
(3)さとうきび機械収穫率の推移
 沖縄県におけるさとうきび機械収穫率は、昭和63年産の9.5%から平成25年産の58.3%と確実に上昇傾向にある(図5)。一方、久米島町は10年産は10.1%、14年産は34.6%と上昇したが、その後30%台で横ばいで推移していた。25年産には43%と初めて40%台となった。今後、生産農家の高齢化の進展に伴い、重労働である収穫作業の機械化の推進は、ますます重要となってくる。
 
(4)さとうきび生産法人の現状
 久米島町におけるさとうきび生産法人数は8法人で、うち仲里地区は4法人である(表3)。久米島町は、県内においても生産法人の設立時期が早く、平成12年から13年に大半が設立されている。生産法人の主な保有農業機械は、ハーベスタ、トラクター、株出管理機などである。

 平均経営規模は、1法人当たり自営面積が9.6ヘクタール、受託面積が1法人当たり15.3ヘクタールとなっている。生産法人の自作農地は小さく、受委託中心の経営実態となっている。

 収益性は、さとうきびの低単収などにより悪く、経営基盤が脆弱である。今後、生産法人の経営安定化を図るために、適正な構成員およびオペレータの周年雇用や農地の集積・集約化による規模拡大、機械化農作業一貫体系の確立による生産性向上などの取り組み強化が求められる。
 

5. 仲里地区における農地中間管理事業の取り組みと課題

(1)関係機関による協議
 仲里地区の先行モデルの取り組みにおいて、生産農家をはじめ、関係機関が地域農業の現状把握と将来の方向性を話し合うことが重要である。そのため、仲里地区モデル地区推進チーム(構成員:さとうきび生産部会、区長、久米島町・農業委員会、JA、製糖企業、土地改良区、県、県農業振興公社など)を設置し、地域農業の在り方、さとうきび収穫面積の確保、高齢化、離農、耕作放棄地の情報提供・共有、担い手の育成・確保、機械化の推進、さとうきび生産・糖業振興などについて、定期的な話し合いの場を設け、農地中間管理事業の推進を図ってきたところである(図6)。
 
(2)農地の集積・集約化
 「さとうきび増産プロジェクト計画」の目標達成に向けて、仲里地区の収穫面積の目標値は250ヘクタールに設定されている。このため、農地中間管理事業などによる農地の集積・集約化で、新規就農者などの担い手育成、耕作放棄地の解消、生産法人などの経営基盤の強化に取り組み、さとうきび増産を推進していく活動目標の設定が重要である。

 円滑な農地の集積・集約化に向けては、地域の農地の保有意向調査の実施、出し手・借り手の権利実態の把握、農地の集積状況、担い手などの正確な実態把握が必要である。

 そのため、水土里(みどり)ネットのシステムを活用し、地図上に土地改良の有無、栽培作物、農家の高齢化、耕作放棄地などの情報をマッピングし、農地の集積・集約化の話し合いの材料として活用している。

 また、担い手育成・確保に向けて、県、町、JAなどの関係機関と連携を図りながら、認定農業者などへの認定や地域農業の在り方について、地域内で話し合いを重ねながら「人・農地プラン」を見直しつつ、中心経営体の位置付けの明確化に取り組んでいる。

 農地の権利関係においては、未相続や相対賃貸などの実態も多く見られ、不安定な借地条件は、借り手にとって植え付けから収穫まで最低1年から2年間を要するさとうきび栽培期間では不安定な経営要素のひとつとなっている。

(3)課題
 これまでの取り組みで次の課題を整理することができた。

1) 集落という概念が薄く、地域単位で話し合う素地がまだ構築されていない。
2) 地域をまとめるリーダー的存在が育成されていない。
3) 未相続農地が地区内に相当数あり、これらの農地の集積が進まない。
4) 島外、県外に転居した不在村地主が多く、権利設定に時間を要する。
5) 利用権などが設定されていない農地が存在する。

6. 今後の取り組み

 農地中間管理機構は、さとうきび収穫面積・生産の拡大に向けて、地域の実態に即して推進チームなどを活用しながら、農地中間管理事業などによる農地の集積・集約化に取り組んできた結果、平成26年度に仲里地区において、約9.6ヘクタールの農地中間管理権を取得し、27年度から担い手への貸借手続きを開始したところである。

 担い手への農地の貸借手続きの遅れの理由として、年度途中から本格的に取り組んできたことから、生産農家をはじめ関係機関への同制度の周知不足、出し手の掘り起こし不足や、手続きを行おうとした冬春期がさとうきび収穫などの農繁期と重なったことが挙げられる。

 これまで、農地の賃貸借については、親戚や隣人などの信頼関係を対象にしている実態があり、出し手への制度の周知については、農地中間管理事業を利用するメリットである機構協力金や、借り受けた農地について機構が責任を持って管理し、「人・農地プラン」などを参考にして最適な担い手へ貸し付けることなど、きめ細かな周知活動が必要である。

 今後、出し手の掘り起こしについては、不在村地主、未相続登記の相続人に対する通知、相談会などでの働き掛けやマスコミなどを通じた制度の周知を図っていきたい。また、高齢農家の農地保有の意向などを踏まえつつ、農地の権利などの実態について町・農業委員会などの関係機関と連携を綿密に図っていきたい。

 特に、不在村地主の賃貸借権、利用権の実態把握に向けて、リストアップ(一覧表)の作成や土地利用意向調査について、島外の郷友会(出身が同じ者などで構成する組織)などを通して町・農業委員会で実施する予定である。一方、借り手については、認定農業者などの育成強化を図りながら、将来の地域農業の在り方について地域内で話し合い、「人・農地プラン」に中心経営体として明確に位置付け、農地の集積・集約化に向けて、積極的に公募の促進を図っていく。

 農地の集積・集約化の観点からだけでなく、地域農業の在り方、さとうきび収穫面積の確保、生産法人などの規模拡大、ハーベスタなどの農業機械化の推進など、各関係機関の目指す方向も含めて総合的に意見交換・検討を重ね、各機関の役割分担についても提案しつつ、連携体制の構築を図ってきたが、さらに、農事懇談会(さとうきび生産者、町、製糖企業など)などを活用し、地域全体で一体的に取り組めるよう、きめ細かな周知活動を積極的に推進していく必要がある。

 これまで、農地中間管理事業の先行モデルとして久米島町仲里地区で、さとうきび収穫面積の拡大に向けて生産法人などの中心経営体の担い手へ農地の集積・集約化を推進する中で、地域特有の課題も抽出された。課題解決に向けて、関係機関との取り組みも緒に就いたばかりであり、継続的な取り組みが求められている。また、今後、先行モデルの取り組み事例を参考に地域の実態に即した取り組みへの広がりを期待したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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