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最終更新日:2010年3月6日
再生可能資源エネルギー利用促進指令の成立とEU のバイオエタノール産業について 〜原料農産物需要の増加と、バイオエタノール輸入増加の可能性〜 |
[2009年3月]
【調査・報告】2008年11月にEUにおけるバイオエタノール事情などの現地調査を行ったことから、その調査結果について報告を行う。それと同時に、EU(理事会、議会、委員会)が2008年12月に合意した再生可能資源エネルギー利用促進指令については、運輸部門におけるバイオ燃料の使用を2020年までに需要量の10%になるよう義務付ける野心的なものであり、穀物や砂糖などの需給に大きな影響を与える可能性があるため、その影響についても考察を行う。
また、近年の穀物価格の上昇の影響下にあるバイオエタノール生産についての経済的な分析や、それを支えるインフラの事例、バイオマス燃料の生産事例についても紹介を行う。
(1) 輸送用燃料のシェアと、バイオ燃料の占める割合
EUでは全分野のエネルギー消費量1177百万toe(石油換算トン、2006年実績)のうち、運輸(道路輸送)用途が303百万toeと全体の25.7%を占めている(図1)。
資料:“EU energy and transport in figures”および“Biofuels Barometer2008” 注:toe とは各燃料の発熱量を石油に換算して示したエネルギーの単位である |
図1 EU27エネルギー消費量の内訳(2006年実績全消費量11.77億toe) |
道路輸送用途の燃料消費のうち、ディーゼル類が61.5%、ガソリン類は36.9%とディーゼル類の消費量が多くなっている。EU全体の需給では、ガソリンが生産過剰傾向であり輸出が行われている一方、ディーゼルは不足し、輸入が行われている。
こういった燃料の需給事情を反映して、ディーゼルに混合されるバイオディーゼルが再生可能燃料の中の主力を占めている。
EurObserv'ERによる「2008年バイオ燃料バロメーター」の記事によると、再生可能燃料に占めるバイオディーゼルの割合は75%、バイオエタノールの割合は15%となっている(図2)。
資料:“Biofuels Barometer2008” 注:後のUSDA の数字と若干の食い違いが見られる |
図2 EU27バイオ燃料消費量の内訳(2007年実績、770万toe) |
(2) バイオエタノールの需給
USDAの農務官レポートによるバイオエタノールの需給状況およびその見通しでは、EUの2006年のバイオエタノール消費の内、17%が輸入されたエタノールにより賄われている。おおまかな推測であるが、2007年以降は域内生産量および輸入量の双方とも増加し、2010年には輸入量が消費量の35%をまかなうものと想定されている(表1)。
表1 バイオエタノールの需給 |
(単位:千トン) |
資料:USDA GAIN report 注:2007年と2008年は推定値、2009年と2010年は予測値 |
バイオエタノールがガソリンに占めるシェアは、2006年では0.8%に過ぎず、2010年までに利用量の増加は見込まれているが、シェアは2.2%までの増加にとどまる予想である。
ただし、USDAのレポートが公表された時期(2008年5月)は穀物価格が高騰していた時期であり、その影響は割り引いて考える必要はあるものと思われる(表2)。
表2 バイオ燃料が輸送用燃料消費量に占める割合と見通し |
(単位:千toe) |
資料:USDA GAIN report 注:2007年と2008年は推定値、2009年と2010年は予測値 |
EUは再生可能資源エネルギー利用促進指令(以下、「利用促進指令」)を2008年12月17日付で合意したことを発表した。この利用促進指令の意義について、駐日欧州委員会代表部のホームページなどによれば以下のとおりである。
再生可能エネルギーは、EUにとってエネルギー源の多様化と二酸化炭素排出量の削減につながる。再生可能エネルギーやエネルギー効率、新しい技術への投資拡大は、持続可能な発展、供給の安定、新規雇用の創出、経済成長、競争力の強化、農村開発に資する。
再生可能エネルギーの分野では電力部門と運輸部門(バイオ燃料)を対象とした指令が実施されていたが、この指令により冷暖房部門までを含めた包括的な対策が期待される。
なお、加盟国は目標を達成するためにこの3部門(電力、運輸、冷暖房)間でいかに導入率を配分するかは、各国の状況に応じて決定することとなっている。
利用促進指令には次のような目標が掲げられている。
(1) | エネルギー効率の20%向上 |
(2) | 温室効果ガス排出量の20%削減 |
(3) | 2020年までに、EU全体のエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%まで引き上げること |
(4) | 2020年までに、自動車燃料に占めるバイオ燃料の割合を10%まで引き上げること |
これらの目標は野心的なものであるが、EU全体のエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%まで引き上げるという目標については、加盟国別の個別目標が、各国の2005年の再生可能エネルギーの実績および各国の経済状況などを加味して設定されている。目標に関しては進行状況は監視されるが、罰則規定は設けられていない。
この決定により、温室効果ガス排出量の削減をはじめとして、雇用の創出、エネルギー源の多様化による供給の安定化などの成果が期待されている。
表3 各国のエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合 |
資料:再生可能資源エネルギー利用促進指令より |
バイオ燃料は現在のところ生産コストが高いために、最低目標の設定なくしては開発が進まないと認識されていることから、運輸部門においてバイオ燃料を主体とする再生可能エネルギーの割合を10%とする目標が、加盟国に一律に適用されている。一律である理由は、バイオ燃料の規格の統一とバイオ燃料入手にあたっての混乱を避けるためとされている。
バイオ燃料の導入は、燃費の改善とともに運輸部門の温室効果ガス排出削減について、現実的な可能性を有する数少ない対策のひとつである。さらに、同部門における石油依存は、エネルギー供給の安定上深刻な問題であり、将来の運輸車両の製造にも重要な影響を与えることから、大変重要な目標とされている。
一方で、バイオ燃料の持続可能性に関する懸念が指摘されており、持続可能な生産が確保されない限りにおいては、その利用を推進すべきではないとの考え方から、持続可能性基準が規定されている。
※利用促進指令が規定するバイオ燃料とは再生可能資源から生産された運輸用の液体または気体様燃料である。ただしバイオ燃料の10%義務化の計算には再生可能資源から生産された電力による輸送用動力なども含むことができる。
持続可能性基準は、温室効果ガスの削減効果、生物多様性を持つ土地や炭素を多く蓄積している土地でのバイオ燃料生産の制限という形で定められている。
(1) 温室効果ガスの削減効果について
バイオ燃料として認められる燃料は、温室効果ガスの削減効果が35%以上なければならない。ただし2008年1月までにすでに稼働中の工場により生産される燃料については、この目標の達成に2013年3月までの猶予期間が与えられている。
さらに2017年からはこの削減効果基準は50%に引き上げられている。加えて2017年から生産が開始されるバイオ燃料は60%の削減効果が求められている。
温室効果ガスの削減は利用促進指令内の規則に書かれた削減率もしくは規則で指定された式に従って計算された計算値を利用することとなる。
規則で定められた係数は表4のとおりであるが、製造条件を限定しない小麦からのエタノール生産やパーム油からのバイオディーゼルは温室効果ガスの削減率が小さく、今後バイオ燃料として認められない可能性が高い一方、ビートやさとうきびから生産されるエタノールは、2017年の基準もクリアしていることから、これらの原料から生産されるエタノールは有利な立場に立っている。
また、とうもろこしから生産されるエタノールを除いては、域内産と輸入の区別はされていないことも重要なポイントとなっている。
一方、実際の計算値を利用する場合は、バイオ燃料の生産、利用によって発生する温室効果ガスの排出量から、農法の改善、二酸化炭素の地中貯留、コジェネレーションによる発電などの手法により温室効果ガスの排出を削減できた場合、それを削減対象数量に含めることができる。
表4 規則に定められた温室効果ガスの削減率 |
資料:再生可能エネルギー利用促進指令 注:土地利用の変化による影響は考慮されていない |
表5 温室効果ガスの削減率にあたって考慮される要素 |
資料:再生可能エネルギー利用促進指令 |
(2) 生物多様性を持つ土地や炭素を多く蓄積している土地でのバイオ燃料生産の禁止
原生林や森林地帯、法律や国際的な条約により指定された保全地域、自然草地などさまざまな生物多様性を持つ土地や炭素が貯蔵された土地を転換して生産されたバイオ燃料は、削減にあたっての計算に加えることはできない。
委員会は2010年3月までに、原料作物の生産による温室効果ガスの排出量が、一定の基準以下である第三国の土地について線引を行うことが可能か議会および理事会に報告書を提出しなくてはならない(あわせて関連する提案も行うことが可能)。
(3) EU委員会による基準の監視体制
以上のような持続可能性基準に加えて、加盟国や第三国において社会的な持続可能性および食料が特に発展途上国において適正な価格で購入できる状態であるか(バイオ燃料により高騰していないか)、EU委員会は2年ごとに欧州議会および欧州理事会に報告することが求められている。最初の報告は2012年に提出することとなっている。
(4) 間接的な土地利用変化の影響(注)について
委員会は2010年の末までに間接的な土地利用の変化による温室効果ガスの排出の影響およびその影響について軽減する方法についての報告書を提出する。
この条項については、バイオ燃料原料作物の生産を拡大したいと考えている途上国にとっては関心の高い分野となっている。
注1:バイオ燃料用作物の生産により、当該土地で従来生産されていた作物等が別の土地で生産されることに伴う土地転換
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図3 EU27カ国におけるバイオ燃料10%義務化が農産物市場に与える影響 |
利用促進指令の合意と同日に、燃料品質指令の改定についても発表されている。
この基準の改定により、燃料の生産から利用までのサイクルの中での温室効果ガスの削減が2020年末までに最低6%の削減が求められている。(これに加え、追加の2%が炭素貯蔵や電気自動車の導入による削減、さらなる追加の2%削減が炭素排出権の購入により行われることが条件付ながら、目標としてあげられている。)
エタノールの直接混合については、プレスリリースではE10の段階的な導入が行われる一方、上限E5の規制を少なくとも2013年まで継続すべきことが述べられている。
しかし、直接混合で問題となる燃料蒸気圧(注2)の規制の緩和については、燃料品質指令の条文において
(1)国内の大部分の地域において、6月〜8月の期間のうち少なくとも2か月間、平均気温が12度を下回る加盟国(注3)について、蒸気圧の緩和を行う(70kPa)。
(2)委員会がこれからおこなう調査の結果を踏まえ、特に大気汚染の基準を満たした場合などの条件付きで、緩和する。
と述べられている。そのため、気候が冷涼な加盟国以外でE10までの直接混合の導入が実現されるには、大気汚染基準などの一定のハードルをクリアする必要があるが、問題がなければ10%混合(容積比)で最大7.82kPaの蒸気圧の追加的な上昇(合計67.82kPa)が認められることになる。また、条文の中では、直接混合の利用促進のため、石油精製企業が蒸気圧の上がりにくいガソリンを供給すべきとの記述も見られる。
注2:燃料蒸気圧とは光化学スモッグの原因となるガスの圧力であり、大気汚染の原因とならないよう規制されている。
注3:デンマーク、エストニア、フィンランド、アイルランド、ラトビア、リトアニア、スウェーデン、英国と見られる
EU委員会は、2020年に輸送用燃料へのバイオ燃料の10%の混合が達成された時の農産物の需給への影響について試算した結果を2007年4月に発表している。
この結果によると2020年のバイオエタノール用の穀物(小麦やトウモロコシなど)需要については5,900万トンとなり、全穀物需要の19%を占める計算となっている。内訳は輸出向け穀物から1,600万トン転用、国内飼料向け穀物から1,100万トン転用、その他の直接的な使用が3,200万トンとなっている。
輸出量については2006年の全世界の穀物の貿易量が2億6,000万トン、そのうちEUの穀物輸出量は2,080万トンと1割近くを占めている。このうち(生産増加により一部輸出量が増加するとしても)1,600万トンが転用されることとなり、世界の穀物市場に一定の影響を与えることが予想される。
また飼料向けの1,100万トンの転用については、バイオ燃料の副産物であるDDGなどで代替されるとしているが、畜産農家にとっては飼料の内容により、肉質や乳量が大きく影響されることから、完全な代替が行われるかは不確実である。
直接的にエタノール生産に利用される3,200万トンは、2020年の予想生産量の1割であり、一定のシェアを占めることになる(参考:2006年のでん粉用途は生産量の6%程度と推定される)。
さらに農産物需給に対する影響が大きいと思われるものが第2世代によるエタノール生産の進展状況であり、2020年にはエタノール生産量の21%を賄うことが期待されている。しかし、第2世代によるエタノールの商業生産が期待されるレベルまで実現できなかった場合には、その代替として、大幅な輸入増加が起きることになる。
この場合輸入されるエタノールについての大部分がさとうきび由来のエタノールになると思われることから、世界の砂糖需給に影響を与える可能性がある(表6)。ただし、砂糖とエタノールとが同時に生産が行われることの多いブラジルでの増産が主とみられることから、必ずしも砂糖相場を引き上げる要因になるとは限らない。
その他にも原油価格や為替レートの変動による影響も考慮する必要がある。
表6 エタノール輸入のインパクト |
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(1) ブラジルの期待と加盟国間の温度差
EUは必要とするバイオ燃料を、域内生産のみで賄うことも可能ではあるが、実際には域外からの輸入と域内生産の両方でそのニーズを満たすことの方が現実的であるとしている。
影響調査のレポートにおいても一定の輸入が行われることが想定されているが、特にバイオエタノールの輸出国であるブラジルからの期待は高い。
ブラジルの製糖企業団体であるUNICAはEUの利用促進指令の発表と同日にプレスリリースを出し、同指令を歓迎し、持続可能性の基準についてもブラジルは容易にクリアすることは可能であるという認識を示している。そのほかにも2008年4月にはブラジルとオランダがバイオ燃料利用促進に関して政府間で合意していること、ブラジルの大手製糖企業であるCopersucar社がロッテルダム港にバイオエタノール貿易のための事務所を2008年7月に開設するなど、ブラジルによるEUに対するバイオエタノール輸出増加の期待は高まっている。
EU加盟国内においては、フランス、ドイツのような自国の生産を優先している国と、英国、オランダ、スカンジナビア諸国のように輸入を積極的に利用しようとしている国で、バイオ燃料の輸入に対する姿勢が異っているが、輸入を支持する国が一定の影響力を持つ限り、EUがバイオエタノールの輸入に対して極端に抑制的な態度をとるとは考えにくい。
(2) 輸入状況
現在非変性エタノールの関税が、1キロリットル(以下,kl)当たり192ユーロ、変性エタノール(注4)の関税が同102ユーロとなっているが、一部のエタノールは他の化学品と混合されるなどして、その他化学物質(HSコード3824)のカテゴリーで、6.5%の関税水準で輸入されている。
輸入されたエタノールのうち、一部はロッテルダムなどでガソリンと混合されるが、多くは加盟国の要求を満たすため、加盟国内で混合されている。
多くの加盟国はガソリンとの混合を非変性エタノールに限定しているが、英国およびオランダ政府は変性エタノールの混合を認めており、それらの国においては、加盟国のエタノール生産者は競争力のある変性エタノールと市場を争わなければならない状態にある。
この理由については推測になるが、エタノール生産が必ずしも盛んでない両国にとっては、むしろ自国にとって重要な石油産業にとって、コスト削減につながる変性エタノールの使用を認めているのではないかと思われる。
また、加盟国は輸入ライセンスの発行を通じて、バイオエタノールの輸入をコントロールしているといわれている。
注4:変性エタノールとは、加工・混合などの手段により飲用に適さないようにされたエタノール
図4はフランス最大の製糖企業であるテレオス社によるバイオエタノールの出荷価格と、192ユーロ/klの関税を含めたブラジル産エタノールのCIF価格を比較したものである。
資料:テレオス社年次報告書およびGlobal Trade Atlas データ 注:年度は10月/9月の砂糖年度 |
図4 EU 域内産およびブラジル産エタノール価格(EU27カ国平均CIF)の比較 |
資料:クロップ・エナジー社年次報告書 |
図5 クロップ・エナジー社の収支の内訳 |
表7 クロップ・エナジー社ツァイツ(Zeitz)工場 |
資料:クロップ・エナジー社年次報告書および投資家向けプレゼン資料 注:その他、同社は2008年にフランスとベルギーでそれぞれ1工場を操業開始している |
ブラジルからのケミカルタンカーが接岸できるような沿岸国では、ブラジル産エタノールはかなりの価格優位性を発揮している一方、2006年度や2007年度ではフレート高やレアル高の影響もあり相対的に価格が上昇した。今後はEU域内の原料価格動向や、海上運賃、レアルの為替レートにより相対的な優位性は変動するものと見られるが、ブラジル産エタノールが今後とも一定の価格競争力を発揮するものと見られる。
またドイツのエタノール製造企業であるクロップ・エナジー(Crop Energies)社の年次報告書内のデータによると、2006年の収入の内訳のうち、82%がバイオエタノールの販売による収入で、16%が高タンパク飼料(DDG)の販売によるものであった。また支出の内訳では、73%が原材料費となっている。
このようにバイオエタノールの販売価格と、原料作物の価格に大きく収益が左右される産業となっている。
また、各種資料によりドイツにおけるエタノール生産の経済性を分析してみると、下記のとおりである。
2006年までは小麦価格が100ユーロ/トン程度で推移していたため、経済的に収支の合う生産が行われていたが、2007年には穀物価格の高騰により収益はかなり減少したものと見られる。さらに2008年には小麦価格がさらに高騰(クロップ・エナジー社の資料によれば200ユーロ/トン近くまで上昇)しており、同年の小麦からのエタノール製造企業の経営は圧迫されたと見られる。
これはUSDAのレポートでもエタノール製造企業が直面している困難さを推察される記事を載せており、2007年には穀物価格の高騰およびブラジル産エタノールとの競合により、EU域内のバイオエタノール全製造能力のうち、わずか45%でしか操業されず、特にスペインと中央ヨーロッパ諸国で操業率が低かったと報告されている。
一方ビートからのエタノール生産は砂糖制度改革によりビートの最低生産者価格が引き下げられているうえ、エタノール用途であれば、さらに低い価格で調達することが可能であることから、競争力が増している。ただし、ビートからのエタノール生産は産地近郊に大規模な工場が必要であり、ビートの収穫が秋から冬に集中し、エタノール生産を年間で平準化することが容易でないため、かならずしも穀物原料に対してバイオエタノール製造上の比較優位があるとは限らない。
図6 ドイツにおけるエタノール生産の経済性 |
表8 ドイツにおけるエタノール生産の経済性 |
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(単位:ユーロ/トン、トン、ユーロ) |
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ロッテルダム港はEU最大の石油化学工業地帯であり、バイオ燃料の製造能力や貯蔵能力も極めて大規模な能力を誇っている。
また、パイプラインによる港内企業間の輸送が可能となっているうえ、一部はオランダ、ベルギー、ドイツなどにも延長されている。また鉄道ケミカルセンターが併設されており、備蓄タンクの液体を、そのまま鉄道のタンク車に積み込むことが可能であり、そこからEU全土に運搬できるようになっている。
また、北欧諸国や英国、地中海およびバルト海沿岸諸国への船舶輸送が可能である上、ライン川や運河網を利用した内陸部へのバージによる輸送が行えることも強みとなっている。
ロッテルダム港には石油精製施設が集中していることから、バイオエタノールをETBEに加工する場合など、効率的に行うことが可能である。ただし今のところ、加盟国や石油企業の燃料基準に合わせる必要があるため、バイオエタノールのガソリンへの直接混合は、一般的により消費地に近い場所で行われている模様である。
また、穀物を多様な供給先から大量かつ効率的に入手することが可能であるため、たとえばスペインのアベンゴア社は港内に48万kl(原料穀物使用量125万トン)のエタノール製造工場を建設中であり、ガソリンとの混合も当地で行う予定としている。
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図7 ロッテルダム港の概要 |
表8 ロッテルダム港におけるバイオ燃料の取扱量 |
(単位:千トン) |
資料:ロッテルダム港ホームページによる |
図8 港内企業をつなぐパイプライン |
図9 石油化学コンビナート |
図10 港内の鉄道とタンク車 |
図11 原油などの貯蔵タンク |
図12 穀物エレベーター |
図13 穀物エレベーターに隣接している植物油工場 |
輸送用燃料以外では、農産物をバイオ燃料に転換させるのではなく、たとえばそのまま燃料として利用するバイオマス燃料の利用も進められている。今回の出張では英国では燃料用作物「ミスカンサス」によるバイオマス燃料製造を行っているBical社より話を聞く機会を得た。
(1) ミスカンサスの栽培と販売について
ミスカンサス(ジャイアントミスカンサス、原産国はマレーシア)は品種改良により3メートル以上成長するススキの仲間である。耐寒性のある多年草の牧草である。地下茎により増殖するため、種の飛散によるミスカンサスの分散はないとしている。
生長のサイクルは、毎年3〜4月に地下茎から発芽し、夏の間に3メートルまで成長する。秋から冬にかけて枯死し、葉を落とす。その後2〜4月にかけて収穫を行うことになる。
植えつけの1年目および2年目は経済的に見合うだけの収穫は見込めないが、3年目から1ヘクタール当たり12〜14トン(乾燥重量)の収穫が期待できる。15年以上は植え替える必要はない。
メリットとしては、肥料などはほとんど必要ないこと、収穫機などは麦の機械が流用できることである。一方のデメリットとしては、最初の2年間は収穫が見込めないこと、植え付けのためのコストがかかることである。
Bical社はミスカンサス生産農家と契約を結んでおり、生産されたミスカンサスを50ポンド/トン(乾燥重量、物価スライド制)で買い取ることとしている。これは12トンの単収で考えると600ポンド/ヘクタールとなる。小麦の価格についておよそ80ポンド/トン、単収8トン/ヘクタール(2000年から2006年の英国平均)で考えると640ポンド/ヘクタールとなり、小麦とほぼ遜色のない収入が得られるうえ、管理の手間もかからず、軌道に乗れば生産コストが低廉で済むため、農家にとって収入的にかなり魅力的な作物となる。また価格変動もない利点がある。
その他、英国政府の独自補助であるエネルギー作物スキームの対象作物となっていることから、1年目のコストの40%を補てんする仕組みがある。
図14 ミスカンサスほ場風景 |
(2) ミスカンサスの加工と利用
ミスカンサスは加工され、英国内での石炭火力発電所において、石炭と混合し燃料として利用されている。エネルギー量でいえば20トンのミスカンサスは8トンの石炭に匹敵し、石炭と二酸化炭素排出量を比べた場合に1トンのミスカンサスで2トンの二酸化炭素の排出削減につながるとしている。
収穫されたミスカンサスはキューブ状(3×3×10cm)に圧縮され、発電所に送付される。キューブへの加工はペレットに加工するより加工するためのエネルギーも少なく、コストもかからない。工場からの輸送費は電力会社が支払うことになっている。
最大で石炭の1割をミスカンサスで代替することができるが、標準的にいえば1つの発電所でおよそ年間30万トンのミスカンサスが必要となる。これはおよそ10圧縮工場分である。
電力会社は、二酸化炭素の排出削減や、再生可能エネルギーによる電力発電に対する優遇措置などの利点を受けることができる。
図15 キューブ上に加工されたミスカンサス |
(参考資料)エネルギー関係単位換算表 (1トンあたり) |
資料:USDA GAIN Report 注:一部、EU 委員会が使用する係数とは若干の差が生じている。 |
(主な参考資料)