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1.一般経済の概況

 ブラジルの経済は、変動相場制への移行による実質的な通貨切り下げにより
一時的に混乱したものの、インフレ懸念が遠ざかった99年後半より回復基調に
転じ、2000年の(GDP)成長率は4.4%となった。2001年もこれを継続するもの
と期待されたが、1.5%の成長にとどまった。この要因としては、発電用貯水池
の水位低下による電力危機で、下半期に実施された電力節減により工業生産が
低下したこと、メルコスル内最大の貿易相手国であるアルゼンチンの経済低迷、
9月に発生した米国での同時多発テロの影響などが挙げられる。こうした中、イ
ンフレ率は、過去5年間で最高の9.4%に達した。また、2001年の失業率は前年
から0.9ポイント低下し6.2%となった。

 2000年の貿易収支は、99年1月の通貨切り下げなどにより、50億ドルの貿易収
支の黒字目標が設定されていたが、国際原油価格の高騰などにより輸入額が予想
以上に増加したことなどから、7億5千万ドルの貿易赤字となった。しかし、2001
年は、一次産品の輸出増加などにより約26億ドルの黒字に転じた。

表1 主要経済指標

資料:FGV(ヴァルガス財団)
注:2001年の数字は暫定値
 

2.農・畜産業の概況

 ブラジルは、日本の約23倍に当たる8億5,100万ヘクタールの国土を有してお
り、そのうち農場面積は3億5,360万ヘクタール(95年)で、国土面積の41.5%を
占める。農場数は486万戸、1農場当たりの平均面積は72.8ヘクタールであった。

 99年の農業就業人口は、1,663万4千人と全就業人口(7,187万6千人)の約4
分の1を占めるほか、全輸出額のうち農産品の輸出額が約4割を占めるなど、農業
は国内の重要産業として位置付けられている。2001年の農業の実質成長率は、5.1
%と高い成長率となり、同年の低調な成長率を下支えした。

 2001年における主要農産物25品目(畜産物5品目を含む。)の農業粗生産額は、
生産量の増加と主要穀物の価格上昇により前年を5.5%上回る927億レアルとなっ
た。また、2001年の農産品およびその加工品の輸出額は、239億ドルで、全輸出
額の約41%を占めている。
表2 農場面積と農場数の推移

資料:IBGE(ブラジル地理統計院)
 

3.畜産の動向

(1)肉牛・牛肉産業

 ブラジルの肉牛生産は約1億8千万ヘクタールの広大な草地を利用した放牧肥
育が中心で、インド原産のゼブーに属するネローレ種を主体に飼養されている。
約1億7千万人もの大消費市場を抱えるブラジルでは、牛肉生産の約9割が国内
消費向けとなる。

@ 牛の飼養動向
  2001年の牛飼養頭数(乳牛を含む)は、1億8千万頭でうち肉用牛が約7割を
占める。肉用牛のうち約1億頭がゼブーおよび少数のヨーロッパ品種とされてい
る。
 
  牛の飼養頭数を地域別に見ると、中西部、南東部、南部に全体の7割以上が集
中している。飼養頭数が最も多い州は、中西部のマットグロッソドスル州(シェ
ア13%)で、牧草を主体とした肉牛生産が盛んである。次いで多いのはミナスジ
ェライス州(12%)である。

          図1 牛飼養頭数(2001年)
     

資料:IIBGE(ブラジル地理統計院)

          図2 州別牛飼養頭数(2001年)



A 牛肉の需給動向
  ブラジルのと畜頭数は、近年増加傾向にあるが、過去10年間大きな変動はなく
約3千万頭を超える程度で推移している。2001年の牛肉生産量は、輸出量の増大
などにより3.7%増の682万4千トンとなった。

  2001年の牛肉輸出量は、欧州の牛海綿状脳症(BSE)問題などによる牧草肥
育主体の牛肉への需要増加、自国通貨の安値による価格競争力の向上などから、
前年比54.9%増の52万5千トンとなった。生鮮肉(冷蔵、冷凍)輸出の相手国を
見ると、チリは、同78.8%増の5万7千トンとなった。これは、チリが、2001年
4月にアルゼンチンで口蹄疫が発生したことから2001年3月以降、同国産牛肉輸
入を停止したため、代替として、ブラジルなどからの供給が増加したためである。

  ブラジルでは、OIE総会で98年に南部2州が、2000年に南部・中西部の1連
邦区と5州がワクチン接種清浄地域として認定され、2001年には東部・中西部の
6州もワクチン接種清浄地域として認定されるなど、家畜衛生に対する対外的信
用と国内食肉産業の輸出へのインセンティブが高まっている。

表3 牛肉需給の推移
資料:CONAB(国家食料供給公社)
注:枝肉換算ベース


    牛肉(生鮮冷蔵、冷凍)の輸出相手国(2001年)




B 牛肉の価格動向
  ブラジルでは、生体取引が主体であるが、生産者販売価格は、15キログラム単
位で枝肉の建値を決める。2001年の生産者販売価格(サンパウロ州)は、前年比
6.5%高の15キログラム当たり42.79レアル(約1,800円)となった。


          肉牛価格の推移(サンパウロ州)   (レアル/15s)


 

(2)養鶏・鶏肉産業

  ブラジルの鶏肉生産量は、92年の272万7千トンから2001年の686万7千トンと
約2.5倍に増加し、米国に次ぐ生産量を誇っている。また、輸出量も米国に次い
で多く、2001年は生産量の2割弱の126万6千トンを輸出した。
@ ブロイラーの生産動向
  2001年のブロイラー生産量は、レアル安による価格競争力の向上などにより
輸出が大幅に増加したことなどから、前年比14.8%増の686万7千トンと過去最
高を記録した。

A鶏肉の需給動向
  鶏肉輸出は、97年のアジア経済危機などの影響で、98年に輸出量は前年を下
回ったが、レアル安による価格競争力の向上、トウモロコシ価格の下落などか
ら、開発商工省貿易局の統計によると2001年の鶏肉輸出量は、前年比38.4%増の
124万9千トンとなった。形態別に見ると、丸鶏が58万トン、パーツが66万9千ト
ンとなった。国別では、丸鶏の主要市場であるサウジアラビアが25万6千トンと
最も多く、次いでパーツの主要市場である日本が13万1千トンと続く。1人1年当
たりの鶏肉消費量は、牛肉と比較し安価であることや、消費者の健康志向の高ま
りなどから、2001年は36キログラムとなり、92年に比べ2.3倍となった。
表4 鶏肉需給の推移
資料:CONAB(国家食料供給公社)
   APINCO(ブラジルブロイラー用ひな生産者協会)


          図4 鶏肉の輸出相手国(2001年)

資料:開発商工省貿易局(SECEX)

Bブロイラーの価格動向
  2000年のブロイラーの生産者販売価格は、輸出量の増加などにより、前年比
11.7%高のキログラム当たり0.86レアルとなったが、2001年もこの傾向が続い
たことなどから前年と同水準のキログラム当たり0.84レアルとなった。また、
ブロイラーの丸鶏卸売価格は前年を4.8%上回るキログラム当たり1.30レアルと
なった。

        図5 ブロイラー価格の推移(サンパウロ州)

資料:CONAB(国家食料供給公社)

 

(3) 飼料穀物

  世界のトウモロコシ生産の約5〜7%を占めるブラジルでは、養鶏、養豚な
どの畜産業を中心とした大消費市場が形成されている。また、飼料基盤の脆弱
な北東部の養鶏生産者が、国産よりも割安の外国産トウモロコシに依存してい
ることなどから、2001年(1〜12月)は、62万4千トンがアルゼンチン、パラ
グアイなどから輸入されたが、その一方で、トウモロコシの記録的な増産など
により、過去最大となる563万トンを輸出した。

@主要な政策

 ブラジルにおける農業政策は、1991年1月に成立した農業法に基づいて実施
されている。同法は、農業生産の拡大と生産性の向上、食糧供給の安定化、地
域格差の是正などを目的としている。主要な制度として、農業融資制度や取引
支援策がある。また、これらの中心的メカニズムとしては、収穫時の価格暴落
による農家のリスクを軽減し、生産者に対し生産者コストを保証する最低保証
価格制度がある。最低価格は、毎年、作付け前に発表されるが、各作物別の新
しい最低価格は、生産者の作付意向に影響する重要な要素となるため、作付け
の方向を誘導する政策手段でもある。最低価格設定の対象となるのは、トウモ
ロコシ、大豆、コメ、綿花、フェイジョン豆などの主要作物である。


A穀物の需給動向

  2000/2001年度のトウモロコシ生産量は、気象条件に恵まれ、前年度比33.7
%増の4,229万トンとなった。こうした記録的な増産、自国通貨の下落による
価格競争力の向上、非遺伝子組み換え作物に対する海外からの需要増などによ
り、2001年(1〜12月)は、過去最大となる563万トンを輸出した。これを国
別に見ると、イラン向けが65万7千トン、スイス向けが29万トンなどとなった。
表5 トウモロコシ需給の推移
資料:CONAB(国家食糧供給公社)
(注)2000/2001年度の対象期間は、2000年2月〜2001年1月
B穀物の価格動向

 2000年(1〜12月)の生産者価格(サンパウロ州)は、トウモロコシの記録
的な増産で供給過剰となり前年比27.2%安の60キログラム当たり9.33レアルと
なった。
表6 トウモロコシ価格の推移(サンパウロ州)


資料:CONAB(国家食糧供給公社)

コラム【ブラジル、全国規模の口蹄疫撲滅計画を展開】

   ブラジル農務省は、2005年までの口蹄疫撲滅を目指し、全国を南部、中西
  部、東部、北部、および北東部の5畜産圏に分割した口蹄疫撲滅計画を展開
  している。ブラジル農務省によると、同国では1965年、口蹄疫のコントロー
  ルを主な目的とした口蹄疫対策を南部のリオグランデドスル州から実施し、
  その後、南部や中西部など各州に拡大した。また、68年〜82年には、米州開
  発銀行(IDB)の融資を受けた全国規模の口蹄疫対策、87年以降は、国際
  復興開発銀行(IBRD)の融資を受けた家畜疾病管理計画がそれぞれ実施
  された。92年には、ブラジル農務省、各州農務局、および肉牛生産部門の代
  表などがパンアメリカン口蹄疫センターの協力のもと、家畜疾病管理計画の
  見直しを行った。これにより、2005年までの口蹄疫撲滅を目標とし、全国を
  前述の5畜産圏に分割した上で、各圏ごとに衛生ステータスの向上を図る口
  蹄疫撲滅計画が具体化された。

    同計画の実施に当たりその柱となる口蹄疫ワクチン接種については、ブラ
  ジル農務省布告第121号(1993年3月29日付け)により、2歳以上の牛およ
  び水牛に対しては年1回、2歳未満の牛および水牛に対しては、生後4カ月
  に達するまでに第1回、3ヵ月後に第2回、その後、2歳に達するまでは6
  ヵ月ごとに接種を行うことが義務付けられている。

    ブラジル農務省は、同計画の実施に当たり、その第1段階として、畜産農
  家の技術水準が高く比較的経営基盤が安定しているとされる南部からワクチ
  ン接種キャンペーンを実施し、次いで中西部、東部へと拡大した。この結果
  、国際獣疫事務局(OIE)総会で98年に南部2州(サンタカタリナ、リオ
  グランデドスル)が、2000年に南部・中西部の1連邦区と5州(ブラジリア
  連邦区、ゴイアス、サンパウロ、マットグロッソ、ミナスジェライス、パラ
  ナ)が、2001年に東部・中西部の6州(リオデジャネイロ、エスピリトサン
  ト、バイア、セルジッペ、トカンチンス、マットグロッソドスル)が、それ
  ぞれワクチン接種清浄地域に認定された。なお、ブラジル農務省は2000年5
  月、南部2州でワクチン接種の中止に踏み切ったものの、同年8月にリオグ
  ランデドスル州で口蹄疫が発生したため、南部2州のワクチン接種清浄地域
  のステータスを失った。しかし、2002年11月27日、OIEは南部2州のワ
  クチン接種清浄地域の復帰を決定した。さらに、2003年5月のOIE総会で
  は、北部ロンドニア州がワクチン接種清浄地域に認定された。

 
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