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1.一般経済の概況

 豪州経済は、近年、個人消費や住宅建設の増加などの内需の拡大を背景に実質国内
総生産(GDP)成長率は比較的高い水準で推移していたが、2000/01年度に導入し
たGST(物品サービス税)の影響による需要の落ち込みにより、シドニーオリンピ
ック終了後の2000年末、一時的にマイナス成長を記録した。しかし、その後、再び個
人消費や住宅建設などの内需が回復し、豪ドル安による輸出の増加も手伝って、経済
は回復基調で推移したことから、2001/02年度の実質GDP成長率は4.0%と世界的な
景気低迷の中で安定した成長を達成し、GDPも6,959億豪ドルと前年度を上回った。

 また、2001/02年度の平均失業率は、おおむね安定した経済活動を反映し、前年度
とほぼ同じ6.6%となった。平均失業率は、94/95年度以降、継続的に1ケタ台を維持
している。

 一方、近年の内需拡大に伴う貿易収支の悪化は、経済成長を続ける上で不安材料の
1つになっていたが、2001/02年度の貿易収支は、昨年同様、豪ドル安に支えられた
好調な輸出を背景に約15億ドルと、2年連続して黒字となっている。

 なお、日本は、輸出入を合わせた貿易総額で米国を上回り、豪州にとって引き続き
最大の貿易相手国となっている。

                      表1 主要経済指標 


2.農・畜産業の概況

 豪州の農業(林業、水産業を除く)は、GDPで全体の約3.0%、就業人口で全体
の約4.1%を占めるに過ぎず、産業全体に占める割合は必ずしも高くない。しかし、
2001/02年度の全商業輸出額に占める農産物の割合は25.9%と、鉱物資源(45.8%)
に次ぐ位置を占めており、農業は、極めて重要な輸出産業となっている。

 2002年6月末現在の農家戸数(農業施設評価額22,500豪ドル以上)は、前年より
1.9%増加して約8万6千戸になった。このうち、肉牛専業農家は約2万戸、羊専業
農家は約1万1千戸、酪農家は約1万3千戸であり、穀物などとの兼業経営を合わ
せると、農家の約8割が何らかの形で畜産経営に携わっていることになる。

 豪州では、国土面積の約6割に相当する約4億5千万ヘクタールが農業可能地と
なっているが、そのうちの約9割は牛や羊の放牧のみに利用可能な自然草地である。

                    表2 経営タイプ別農家戸数の推移
 
 
 農業粗生産額は、近年、増加基調で安定的に推移しており、2001/02年度には、前
年度比14.8%増の約394億豪ドルとなった。 
 
  畜産は、農業の中で極めて重要な地位を占めており、2001/02年度には、その粗生
産額が農業全体の約47%を占めた。 
 
  2001/02年度の畜産物粗生産額は、前年度比14.1%増の185億ドルに達した。中で  
も肉牛・牛肉が約72億豪ドル(13.5%増)、牛乳・乳製品が約34億豪ドル(14.1%  
増)、羊・羊肉(生体輸出含む)が約21億豪ドル(53.3%増)と大幅な伸びを示した。
                       図1 農業粗生産額(01/02) 
 2001/02年度の農産物総輸出額(FOB)は、前年度比6.5%増の約313億豪ドルと     
なった。このうち、畜産物の輸出額は全体の49%を占め、穀物・油糧種子の24%を大     
きく上回る最大の輸出部門となっている。  

  2001/02年度の畜産物輸出額は、前年度比3.6%増の153億ドルに達した。その内訳
は、肉牛・牛肉が約48億豪ドル(8.2%増)、羊・羊肉が約15億豪ドル(28.0%増)
、牛乳・乳製品が約31億豪ドル(4.9%増)と増加したが、羊毛は約37億豪ドル(7.5
%減)と減少に転じた。
                  図2 農産物総輸出額(2001/02年度)
 

 

3.畜産の動向

(1)酪農・乳業

 豪州の酪農は、放牧を主体とする経営が大部分であるため、ビクトリア州を中心と
して気象条件に恵まれ、牧草生育に有利な地域に集中している。

 また、生産される生乳の約8割が加工向けであり、さらに、製造される乳製品の約
7割が輸出向けという輸出依存型産業である。

 従って、生乳生産量は気象条件や牧草の生育状況などによって大きく変動するとと
もに、酪農経営は乳製品の国際市況の影響を受けやすいという特徴を有している。
@主な政策

  加工原料乳に対する価格補てん政策(連邦制度)と飲用向け生乳に対する最低価格
保証政策(各州の制度)が実施されていたが、2000年7月1日をもって両制度ともに
撤廃され、生乳の販売流通が完全に自由化された。このほか、豪州酪農庁(ADC)
などの業界団体が販売促進、研究開発、マーケット情報提供などを行っているが、こ
れらの事業財源の多くは、生産者課徴金(強制徴収)によるものである。


A生乳の生産動向

 乳用経産牛の飼養頭数は、1957年の345万1千頭をピークに減少してきたが、92年
以降、好調な市況を反映して増加した。しかし、2002年6月末においては干ばつの影
響から前年比2.4%減の212万頭となった。また、同時点における酪農家戸数は約1万
2千戸、1戸当たりの経産牛飼養頭数は170頭であった。
               表3 乳牛飼養頭数等の推移
   


                     図3 酪農家戸数と飼養規模の推移
   
 生乳生産量は、90年代に入ってから、ガット・ウルグアイラウンド合意に伴う乳製
品の輸出拡大への期待を背景に、増加傾向で推移してきた。

 2001/02年度の生乳生産量は、主要な酪農地域で全般的に天候に恵まれたため、牧
草の生育状況が良好であったことから、前年度比6.9%増の112億7千万リットルと初
めて1,100万キロリットルの大台を超え過去最高を記録した。

 豪州では、放牧に適した乳牛へと品種改良が進められたこともあり、日本や米国な
どと比較して経産牛1頭当たり乳量はそれほど多くないものの、近年は遺伝的改良や
飼養管理技術の改善などにより着実に増加している。2001/02年度の経産牛1頭当た
り乳量は、前年度比9.6%増の5,309リットルと初めて5,000リットルを超えた。

 また、生乳生産量に占める加工向けの割合も、乳製品輸出の増加に伴って徐々に上
昇する傾向にあり、2001/02年度には前年度より1.2ポイント増の83.0%となった。

                  図4 生乳生産量と1頭当たり乳量の推移
   

 生乳生産量を州別に見ると、ビクトリア州が全体の66%を占めて他州を大きく引き 
離しており、豪州最大の酪農地域であることを示している。 
 
 一方、飲用乳の処理量は、シドニーなど大消費地を擁するニューサウスウェールズ 
州が最も多く、ビクトリア州、クィンズランド州と続いている。 
 
 このため、生乳生産に占める飲用向けの割合は、州によって大きく異なっており、 
各州の平均生産者乳価の格差を生じる原因となっている。

                 図5 州別生乳生産量(2001/02年度)
 

B牛乳・乳製品の需給動向 

 主要乳製品の生産量は、乳製品の国際需要の増大を反映して、増加傾向にあったが
、2001/02年度には、生乳生産の増加を反映し、脱脂粉乳を除く主要乳製品すべての
品目で増加した。品目別に見ると全粉乳が前年度比16.2%増の23万9千トン、チーズ
は9.9%増の41万3千トン、バターおよびバターオイルは2.6%増の16万3千トンとな
ったのに対し、脱脂粉乳は国際的に需給が緩和したことから1.5%減の26万1千トン
となった。

             表4 牛乳・乳製品生産量の推移 
 2001/02年度の乳製品輸出は、年度後半の国際市況は低迷したものの、東南アジア
などからの強い需要を受けて全粉乳が12年連続の増加となり、また脱脂粉乳も増加し
た。一方、増加傾向で推移してきたチーズは、輸出量全体の5割を占める日本向けが
大幅に増加したものの、EC向けが半減したためにわずかに減少した。
           表5 主要乳製品の輸出量の推移 
 2001/02年度の乳製品生産量に占める輸出量の割合は、脱脂粉乳は約89%、全粉乳
も約89%、バターおよびバターオイルは約67%となった。チーズは前年度の約56%か
ら53%に減少したものの、輸出依存度は引き続き高い水準となっている。
                表6 主要乳製品の需給状況(2001/02年度)
 
 乳製品の輸出先は、日本、東南アジアを含めたアジア地域の合計が、輸出額ベース
で全体の約66%と、圧倒的な割合となっている。

 特に粉乳類は、還元乳などの需要が多い東南アジア地域向けの輸出割合が高く、脱
脂粉乳、全粉乳ともに輸出量全体の70%以上がアジア諸国に輸出されている。
                 図6 地域別乳製品輸出額(2001/02年度)
     

  豪州国内における飲用乳の1人当たり消費量は、90年代中ごろから減少傾向にあり、   
2001/02年度は前年度比2.3%減の97.3リットルとなった。一方、増加基調で推移して   
きたチーズの1人当たりの消費量については、2.7%増の11.6キログラムとその伸びを   
継続した。2年連続で減少していたバターの1人当たりの消費量は、8.3%増の2.6キ   
ログラムと昨年より増加した。


C乳価の動向 
  
 99/2000年度の生産者乳価は、飲用乳価と加工原料乳価の差は2倍以上に拡大して
いたが、2000年6月末をもって、飲用向け生乳に対する最低価格制度が撤廃されたた
め、それ以降、飲用向けの乳価が大幅に低下した。2001/02年度の乳価は、好調な生
乳生産と乳製品の輸出総額が過去最高を記録したことを反映し、前年比 13.8%高の
33.0豪セントとなった。
              表7 生産者乳価の推移 
 

(2)肉牛・牛肉産業

 豪州の肉牛生産は、酪農生産と同様、牧草(放牧)に依存した生産構造となっており、
また、牛肉生産量の6割以上を輸出に向ける輸出依存型産業となっている。

 肉牛は、乳牛に比べると粗放的な飼養管理が可能であり、また、利用可能な草地の範
囲が広いことに加え、熱帯・乾燥地域などの自然条件が厳しい地域でも、これに適応す
る品種を選択的に導入することによって飼養が可能であることから、内陸部の極端な乾
燥地帯を除き、ほぼ豪州全土でさまざまな品種による肉牛生産が行われている。
        

@主要な政策
     
  肉牛や牛肉の需給を管理する制度政策は特になく、生産者は国内外のマーケット動向
を勘案しつつ経営を行っている。また、家畜検疫検査局(AQIS)などの政府機関が
防疫政策を、食肉家畜生産者事業団(MLA)などの業界団体が販売促進、研究開発、
マーケット情報の提供などを行っているが、これらの事業財源の多くは、生産者課徴金
(強制徴収)によるものである。

 
A牛の飼養動向

 豪州における牛飼養頭数(乳牛を含む)の推移を中・長期的に見ると、60年代後半か
ら70年代半ばにかけて、世界的な牛肉需要の増大を背景に急速に増加し、76年には過去
最高の3,343万頭を記録した。その後、第二次オイルショック(79年)などによる世界的
な牛肉需要の減退や肉牛経営の悪化、大干ばつの発生(82年)などによってと畜頭数が
急増し、84年には2,216万頭とピークであった76年の飼養頭数に比べ約3分の2まで減
少したが、それ以降は緩やかな増加に転じた。

 96年以降は、干ばつなどの影響による増減は見られたものの、全体として2,600〜2,700
万頭台でほぼ安定的に推移した。しかし、再び発生した干ばつの影響により2002年6月
末には前年比2.6%減の2,727万頭となった。
                          図7 牛飼養頭数の長期的推移 
 


                   表8 牛飼養頭数の推移
 
 肉用牛の飼養頭数を州別に見ると、クィンズランド州(シェア45%)、ニューサウス
ウエールズ州(同23%)、ビクトリア州(同10%)の東部3州で全体の約80%を占めて
いる。また、近年は東南アジア向け生体牛輸出の拡大を背景に、クィンズランド州北部
や北部準州(同7%)の伸びが著しい。
                     図8 州別肉牛飼養頭数(2002年6月)
 
 
B牛肉の需給動向

 2001/02年度の牛と畜頭数(子牛を含む)は、2001年8月から2003年3月の間は、日
本で発生した牛海綿状脳症(BSE)による輸出の減少や、一方で肉牛の不足などから前年
同月を下回って推移し、2002年4月から6月の間は干ばつの影響で出荷頭数が増加し前
年同月並みか前年同月を上回って推移した。その結果、年度合計では前年比2.2%減の862
万頭となった。枝肉生産量についても、と畜頭数の減少により前年比2.2%減の203万トン
となった。

 また、牛肉輸出は、豪ドル安などを背景に最大の輸出国である米国への輸出量が増加
するとともに、韓国やその他の国への輸出量も増加したものの、BSEの影響による日本市
場の落ち込みが大きく、全体としては前年比5.9%減の90万2千トン(船積み重量ベース)
となった。
                表9 牛肉需給の推移 
 2001/02年度の国別輸出量(船積み重量ベース)の割合は、米国向けが前年度と比べ4
ポイント増の45%となったのに対し、日本向けが8ポイント減の27%と大きく後退した。
米国向けの増加要因は豪ドル安に加え、米国内の供給がタイトであったこと、また、韓
国向けが増加した要因は豪州食肉団体の消費促進活動の効果も一因である。
                    表10 牛肉の国別輸出量の推移(船積重量)
 
 なお、1990年代中頃からインドネシア、フィリピンなど東南アジア向けを中心に、生
体牛(特に肥育素牛)の輸出が急増した。生体牛の輸出は、アジアの経済危機の影響に
より一時的に減少したものの、アジア経済の復興や中東諸国など新規市場の開拓もあっ
て、再び増加基調となっていたが、2001/02年度は、主要な輸出先であるエジプトやフ
ィリピンが自国の経済状況の低迷により通貨安となったため減少に転じ、前年度比4.5%
減の82万頭となった。
            表11 生体牛の国別輸出頭数の推移 
  
  2001/02年度の1人当たりの牛肉消費量は、前年度比7.2%減の33.7キログラムと減
少し続けている。現在、食肉の中では牛肉の消費量が最も多く、次いで鶏肉(32.6キロ
グラム)、豚肉(18.1キログラム)、羊肉(17.3sキログラム)の順となっているが、
鶏肉の消費量が牛肉のトップの座をおびやかす勢いで伸びてきている。
 
C肉牛価格の動向

 肉牛の販売価格は、96〜97年にかけて、ヨーロッパでの牛海綿状脳症(BSE)の発
生やアジア経済危機などによる世界的な牛肉需要減退の影響を受けて低迷したが、その
後は回復基調に転じた。

 2001/02年度は、内外の需要が強い半面、供給がタイトであったことなどから、肉牛
販売価格は上昇し、2001年9月には、若齢牛価格が1キログラム当たり379.7豪セント
(枝肉換算)、肥育牛価格が376.7豪セント、加工原料用の経産牛価格も344.1豪セン
トと過去最高を記録する高値となった。しかし、その後日本でのBSEの発生により肉
牛価格は急落し、さらに、干ばつや豪ドル高の影響により2002年4月以降は前年同月を
下回る水準に下落した。
                 表12 肉牛価格の推移(枝肉換算)
   
 

 

コラム 【日本向け豪州産牛肉の販売促進活動を強化】

 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によれば、2002年6月の日本への豪州産牛肉
輸出量は、前年同月比28%減、前月比7%減の19,652トン(船積み重量ベース)であ
った。輸出量は6月までの暦年累計で前年同期比44%減、2001/02年度(7〜6月)
では前年度比28%減の243,438トンと、ここ10年で最も少ない記録となった。

 こうした中、連邦政府のトラス農相は同年7月11日、低調な豪州産牛肉の日本向け
輸出を打開するため、連邦政府のプロモーションパッケージとして500万豪ドル(約3
億3千万円:1豪ドル=65円)の支援を発表した。その使途をMLAのマーケット回
復キャンペーンとし、生産者と食肉処理加工業者もそれぞれ125万豪ドル(約8千万円)
を拠出することとしたものであった。なお、同農相の要請に応じ、牛肉産業が主たる
産業として立地する州・準州政府も資金を拠出した。

 2001年の米国向け牛肉割当枠配分の最終的な決定に際して、連邦政府上院委員会は
いくつかの勧告を行ったが、この政府支援策は、その中の「米国と並ぶ重要な市場で
ある日本の販売促進を政府主導で推進すること」との勧告に従ったものとみられる。
トラス農相は、「牛肉産業は豪州の主要な輸出の担い手であるとともに、地方部にお
いては重要な雇用創出の場」であり、「通常は政府が販売促進のキャンペーンを支援
することはないが、需要が回復中の日本市場において豪州の割合が米国などの競合国
に奪われないようにするためには、このキャンペーンは重要である」とした。

 一方、MLAはこのパッケージとは別に、日本市場における全体的なマーケティン
グ戦略の1つとして、対日輸出業者と合同の販売促進プログラムを実施した。このプ
ログラムには37業者が参加し、400万豪ドル(約2億6千万円)以上の拠出があった。
生産者団体から提供された約200万豪ドル(約1億3千万円)と合わせて実施され、
このプログラムは、その規模と輸出業者からの支援のレベルにおいて今まで「前例が
ない」ほど関心が高いものであった。

  豪州の牛肉産業は、500万豪ドルの連邦政府のプロモーションパッケージやMLA
と輸出業者の合同の販売促進プログラムを含め、2002年から2003年にかけて日本市
場で1,600万豪ドル(約10億円)以上を使用したと見られる。

 MLAが実施している豪州産牛肉の販売促進キャンペーンについては、日本での牛
海綿状脳症(BSE)発生を受け、2001年から2002年にかけて3段階に分けた大規模
なキャンペーン活動を計画し、2段階までは実施されたものの、多額の経費に見合う
効果が疑問視されたことや資金不足から、3段階目が取り止めになったが、MLAの
クロンビー会長は、「連邦政府の500万豪ドルのパッケージは豪州の肉牛産業が販売
促進のキャンペーンで日本における勢いを取り戻すことを可能にするであろう」と期
待を述べた。

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