EU





1.一般経済の概況

 2001年における欧州連合(EU)の実質国内総生産(GDP)の成長率は、
前年比1.5%増となり、世界的な景気後退を受けて、94年から回復基調を維持
していたEU経済も一転して減速することとなった。EU経済は、98〜99年
にかけてのロシアの金融・経済危機の影響などにより一時的に減速したもの
の、99年第2四半期から、個人消費や設備投資など内需拡大に支えられて回
復基調を維持していた。ただし、2000年下半期以降、原油価格の高騰を背景
にした個人消費の伸び悩みなどによる減速感が徐々に顕著なものとなった。
EUの失業率は、94年(11.1%)をピークに低下傾向にあり、2001年は前年
に比べ0.4ポイント改善し7.4%となったものの、今後は、景気後退を受けて、
失業率が再び上昇するものとみられている。

  EUでは、99年1月から単一通貨ユーロが導入され、参加条件(インフレ率
是正、財政赤字解消、政府債務残高縮減、為替安定、長期金利安定)を満た
せなかったギリシャ、また、参加を見合わせたイギリス、デンマークおよび
スウェーデンを除く11ヵ国が参加した。2001年1月からギリシャもユーロに参
加し、2002年1月1日からは参加12ヵ国でユーロ紙幣・硬貨の流通が開始されて
いる。
 

表1 主要経済指標

EU15ヵ国(ユーロ参加国を区分)+加盟交渉中の13ヵ国


 

2.農・畜産業の概況

 EUは、加盟15ヵ国全体で1億3,044万ヘクタール(2000年)の農用地面積
を有し、農業経営体数は698万8千戸(2000年)、1戸当たりの農用地面積は、
18.1ヘクタール(2000年)である。

 GDPのうち農業生産の占める割合は低下傾向にあり、2000年には1.7%
となった。また、労働人口に占める割合も4.3%(2000年)と、他の先進国と
同様に、その比率は高くない。農業生産額は2,747億7千万ユーロ(2000年)
となり、前年を3.0%上回った。このうち、 半分弱に相当する1,161億8千万
ユーロ(農業生産額全体の約42%)を 畜産が占めており、EU農業の主要部
門となっている。畜産の内訳を 見ると、生乳が380億ユーロ(同約14%)、
牛肉・子牛肉が276億1千 万ユーロ(同約10%)、豚肉が240億ユーロ(同約
9%)、卵・家きん が50億3千万ユーロ(同約2%)である。

 

               図1 農業生産額に占める畜産のシェア(2000年)
 

 

             図2 畜産生産額に占める畜種別のシェア(2000年)
        


  2001年のEU農業を概観した中で、特徴的な事項として、@2000年秋以
降の牛海綿状脳症(BSE)問題の再燃とその後の牛肉消費の低下、 A20       
01年2月の口蹄疫(FMD)の発生、B年間を通じての悪天候による穀物生      
産の低下の3項目が挙げられる。        

  2001年の農業経済を部門別に見ると、畜産部門では、牛肉価格が急落し        
た一方、豚肉および鶏肉などの価格の上昇により、生産者価格は前年比2       
.3%高となった。また、生産量は前年を上回った結果、生産額は前年比2        
.7%増となった。耕種作物部門では、生産者価格および生産量ともに前年        
を下回り、生産額は前年比1.5%減となった。この結果、農業生産全体額        
では、前年比0.3%増と前年並みにとどまった。        

  農業者1人当たりの農業所得(実質)は、ルクセンブルクを除く14カ国        
で前年を上回り、EU15カ国では前年を約3.3%上回った。

        

表2 主要農業経済指標(2000年)

 

3.畜産の動向

(1)酪農・乳業

 2001年のEUの生乳生産量は約1億2,249万トンに上り、全世界(約4   
億9,540万トン:FAO資料)の25%を占めている。これは、単一国とし   
ては世界最大である米国の生産量の約1.5倍に相当する。EUは、牛乳・   
乳製品の自給率が117%の純輸出国であり、国際乳製品市場に大きな影響   
力を持っている。2001年において、EUが世界の乳製品貿易量に占める   
割合は、チーズ(36%)が世界最大、バター(22%)がニュージーラン   
ドに次いで第2位、脱脂粉乳(13%)がニュージーランド、豪州に次い   
で第3位となっている。
  @主な政策
  ア.生乳生産割当(クオータ)制度 
    国別に生産割当枠(クオータ)を定め、クオータ超過に対しては、   
    指標価格の115%の課徴金が課せられる。加盟国間でのクオータの譲    
    渡は認められていないが、農家間では、売却・リースや加盟国による   
    クオータの買い上げ・再配分などを通じて移動・調整することができ   
    る。なお、2000年度および2001年度にイタリア、アイルランド、スペ   
    イン、ギリシャ、北アイルランドでクオータの追加配分が行われた。   
    また、2003年に制度の存続も含めて、クオータ制度の見直しについて   
    協議される予定である。    

   イ.乳製品の介入買入れ
     バターや脱脂粉乳の介入買い入れを通じた乳製品の価格支持により、   
    間接的に生乳価格を支持している。バターについては、市場価格が介   
    入 価格(100キログラム当たり328.20ユーロ)の92%を下回った場合、加   
    盟国の介入機関により、入札方式による一定規格のバターの介入買い   
    入れが行われる。また、一定規格の脱脂粉乳については、3月1日〜   
    8月31日の間、加盟国の介入機関が介入価格(100キログラム当たり   
    205.52ユーロ/100kg)で買い入れる。なお、その年の介入買い入れ量が10   
    万9千トンを超えた場合、 介入買い入れは停止され、入札による買い   
    入れが実施できることとされている。   
     
   ウ.輸出補助金    
      EU産乳製品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、チーズ、    
    バター、脱脂粉乳などの輸出に対して輸出補助金が交付されている。    
    輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、販   
    売・輸送コストなどを勘案して設定される。   
    
    エ.域内消費の促進
      脱脂乳、脱脂粉乳の飼料用消費やバターのアイスクリームおよびベ   
    ーカリー用消費に対する補助のほか、牛乳の学校給食用消費に対する   
    補助などが行われている。    

  A生乳の生産動向
  ア.酪農経営体数
     EU15ヵ国の酪農経営体数は、小規模層を中心に減少傾向にあり、   
    97年には91万1千戸となった。95年に行われた前回の調査(100万9   
    千戸)と比較すると、2年間で9.7%の減少、また、EU12ヵ国で見   
    ると、89年の調査(139万7千戸)と比較して、8年間で44.7%減少   
    している。
    
   イ. 飼養頭数
    2001年5/6月現在の乳用経産牛飼養頭数は、前年同期を1.3%下   
    回る2,009万2千頭となり、引き続き減少した。クオータ制度の下で   
    生乳生産の増加が抑えられている一方、経産牛1頭当たりの乳量が着   
    実に増加していることが、飼養頭数減少の要因となっている。
       
      1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は、15ヵ国平均で24.0頭(97年)   
    である。しかし、最も飼養規模の大きいイギリスが69.3頭であるのに   
    対し、規模が小さいポルトガルでは5.2頭など、加盟国間で差が大きい。


表3 酪農経営体数、乳用経産牛飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

 

     図3 酪農経営体数(1997年)および乳用経産牛飼養頭数(2001年5/6月)

 

 ウ.生乳生産量    
       EUでは、共通農業政策(CAP)によるクオータ制度により、 
     近年、生乳生産量は安定的に推移している。2001年の生乳生産量は、 
     1億2,249万トンで前年とほぼ同水準(前年比0.4%増)であった。 
     国別では、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、オランダの5 
     ヵ国がいずれも1千万トンを超えている。     
       なお、2001年度の生乳出荷量は1億1,545万トンで、EU全体では 
     クオータを0.7%上回った。この結果、国別クオータを上回ったイタ 
     リア、ドイツ、オーストリアなどに対して超過課徴金(スーパーレ 
     ヴィー)が課せられた。  
       2001年の経産牛1頭当たり乳量は、遺伝的能力や飼養管理技術の向 
     上などにより、前年比2.6%増の6,000キログラムとなった。ただし、 
     加盟国間での差は大きく、スウェーデンの7,980キログラム(同1.9% 
     増)、オランダの7,415キログラム(同2.8%増)に対し、ギリシャで 
     は3,800キログラム(同1.3%増)と約2倍の開きがある。
 

          図4 生乳生産量および経産牛1頭当たり乳量(2001年)

 

  B牛乳・乳製品の需給動向 
  ア.飲用乳   
       2001年の飲用乳生産量(販売量)は、前年比1.5%増の2,983万トン 
     であった。国別の1人当たりの飲用乳(乳飲料、ヨーグルトなどを含む) 
     消費量は、フィンランド(186キログラム)、アイルランド(160キログ 
     ラム)からイタリア(63kg)、ギリシャ(68kg)まで約3倍の差がある。 
     近年の飲用乳消費は、全脂肪乳の割合が5割以下に減少する一方、低脂 
     肪乳の割合が増加する傾向となっている。また、発酵乳などの消費は引 
     き続き増加している。 

 

表4 1人当たり飲用乳消費量の推移

  
   イ.バター  
       EUは、バターの生産量で全世界(約763万トン:FAO資料)の24%  
     (2001年)を占め、インドに次ぐ第2位のシェアを占めている。


表5 バター需給の推移

 

     2001年の生産量は、前年比0.8%減の182万4千トンとなった。これは、  
     生乳生産が安定的に推移する中で、EU域内で堅調に消費が伸びるチー  
     ズ生産向けに生乳の多くが仕向けられたことが要因とみられている。
 


              図5 バターの国別生産量(2001年)

 

     2001年の域外輸出量は17万4千トンで、前年を5.4%下回った。主な輸
     出先は、ロシアやサウジアラビアなどの中東諸国である。一方、域外輸入
     量は11万4千トンで前年を9.6%上回ったが、これらのほとんどはニュー
     ジーランドからのものである。
      
     1人当たりのバター消費量は、消費者の健康に対する関心の高まりによ
     り90年代から減少傾向にあり、2001年は前年と同じ4.6キログラムとなった。
     国別では、フランス(8.2キログラム)、ドイツ(6.5キログラム)での消
     費が多いが、マーガリンやデイリースプレッドの消費が多いデンマーク
     (1.6キログラム)などの北欧や、オリーブ油など植物油脂の消費が多いス
     ペイン(0.7kg)などの南欧では少なくなっている。

表6 1人当たりバター消費量の推移

  ウ.脱脂粉乳
     EUは、脱脂粉乳の生産量で全世界(約338万トン:FAO資料)の30%
    (2001年)と世界最大のシェアを占める。


表7 脱脂粉乳需給の推移

       2001年の生産量(バターミルクパウダー等を含む)は101万トンで、前年
      を8.5%下回った。これは、バター生産の減少と同様に、EU域内で堅調に
      消費が伸びるチーズ生産向けに生乳の多くが仕向けられたことによるもので
      あるとみられる。 


           図6 脱脂粉乳の国別生産量(2001年)

 
     2001年の域外輸出量は、前年比60.8%減の14万トンと大幅に減少した。
      これは、生産減少による輸出余力の低下や国際価格の高騰による輸入国の
      買い控えなどによるものとみられる。主な輸出先は、アルジェリア(1万
      8千トン)、エジプト(1万1千トン)などの北アフリカや経済が回復基
      調にある東南アジアなどである。輸出は減少したものの、生産の減少に伴
      う需給の引き締まりにより、2000年10月以降、介入在庫はゼロにまで低下
      している。
       
 エ.チーズ
     EUは、チーズの生産量で全世界(1,675万2千トン:FAO資料)の43%
     (2001年)と世界最大のシェアを占めている。 


表8 チーズ需給の推移

     チーズ生産量は、堅調な域内消費に加え、世界的な需要増加を背景に92年
     から2001年までの10年間で約20%増加した。99年には、ロシアの経済悪化に
     よる同国向け輸出の停滞の影響で一時的に生産の伸びが鈍化したものの、そ
     の後回復している。2001年の生産量は前年を上回る716万8千トンとなり、
     最近10年間で最大の伸び(前年比3.4%増)を示した。
 

             図7 チーズの国別生産量(2001年)

     2001年の域外輸出量は46万6千トンで、前年を1.7%上回った。主な輸出先
     は、米国(10万1千トン)、ロシア(6万トン)、日本(5万1千トン)など
     である。
      
       一方、域外からの輸入量は、17万4千トンで前年を16.8%上回った。主な輸
     入先は、ニュージーランド(4万トン)、スイス(4万トン)、豪州(3万3
     千トン)であるが、ポーランドやリトアニアなど中東欧の加盟候補国からの輸
     入が急増している。
 

             図8 チーズの輸出相手国(2001年)

     2001年の消費量は707万3千トンで、前年を3.2%上回った。1人当たりのチー
     ズ消費量は18.8キログラムで、前年を0.6キログラム上回り、引き続き着実な増
     加を示している。域内のチーズ消費の堅調な拡大傾向に加え、BSE問題の再燃
     により牛肉の代替としてチーズの消費拡大が主な要因とみられる。特に、口蹄疫
     の発生で牛肉、豚肉の流通が一時的に停滞したイギリス(8.8%増)での消費の
     伸びが顕著であった。国別の1人当たりの消費量では、フランス(25.8キログラ
     ム)、ギリシャ(24.8キログラム)、ドイツ(21.6キログラム)、イタリア(21.
     4キログラム)で年間の1人当たりの消費量が20キログラムを超えている一方、ス
     ペイン(8.7キログラム)、ポルトガル(10.3キログラム:99年)で少ない。


表9 1人当たりチーズ消費量の推移

 

C生乳および牛乳・乳製品の価格動向  
   ア.生乳生産者価格 
     生乳生産者価格はバター、脱脂粉乳の介入買い上げ措置を通じて、間接的に支持
     される仕組みとなっており、価格支持の目標となる生乳指標価格が設定されている。
      
      2001年の国別生乳生産者価格(農家渡し、脂肪分3.7%)は、チーズ生産の拡大
     を受けて、前年を8.0%上回る100キログラム当たり31.50ユーロとなった。国別で
     は、ドイツ、イタリア、オランダなど9ヵ国で生乳指標価格(100キログラム当た
     り30.98ユーロ)を上回った。


表10 主要国の生乳生産者価格

 

 イ.牛乳小売価格 
       ドイツの2001年の全脂乳(回収ビン)の小売価格は、生乳生産者価格の上昇 
     を受けて、前年比3.7%高となった。 


表11 ドイツにおける牛乳小売価格の推移

 ウ.バター卸売価格 
       2001年のEU各国のバター卸売価格(工場渡しまたは倉庫渡し)は、生産が  
      若干減少したものの、輸出も減少したことで、需給バランスの目立った改善は  
      見られず、EUでバター生産の最も多いフランスで低下(前年比4.6%安)した  
      ほか、ドイツ(同0.6%安)などほとんどの国で前年並みの水準で推移した。


表12 主要国のバター卸売価格

 エ.脱脂粉乳卸売価格 
    2001年のEU各国の脱脂粉乳卸売価格(工場渡し)は、生産が大幅に減少し  
     たものの、輸出減少や飼料向け需要の落ち込みに加え、前年の価格が国際的な 
     需給ひっ迫で高い水準にあったこともあり低下(ドイツ:前年比4.6%安、フラ 
     ンス:同5.9%安)した。


表13 主要国の脱脂粉乳卸売価格

 
 オ.チーズ卸売価格 
     2001年のEU各国のチーズ卸売価格(工場渡し)は、域内のチーズ消費の  
     拡大を受けて、全般的に上昇した。 


表14 主要国のチーズ卸売価格

 

(2)肉牛・牛肉産業

 2001年のEUの牛肉生産量は737万6千トンで、世界の牛肉生産量(約5,627万2千         
トン:FAO資料)の13%を占めている。EUは、自給率112%の純輸出国で、世界        
の主要牛肉生産国(地域)の1つである。幅広い気候・地理・歴史的条件の下、さま         
ざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構        
造や生産する牛肉のタイプ(子牛、経産牛、去勢牛、非去勢牛など)は、国によって        
かなり異なっている。         

  @主な政策     
    ア.介入買い入れ     
      域内の牛肉価格が下落した場合、加盟国の介入機関を通じ、一定基準を満たす        
    牛肉を買い入れ、市場から隔離することにより、価格を一定以上に維持する制度。        
    域内および加盟国・地域の牛肉市場平均価格がそれぞれ84%、80%を2週間連続        
    して下回った場合に発動される通常介入(買い入れ数量上限あり)と、価格が極        
    端に低下した場合に実施されるセーフティーネット介入(買い入れ数量上限なし)        
    の2つの方式がある。なお、アジェンダ2000による共通農業政策(CAP)改革によ        
    り、2000年度(2000年7月1日から2001年6月30日)から3年間で支持価格が20%        
    引き下げられるほか、2003年度には通常介入が廃止され、民間在庫補助に移行す        
    ることが決められている。なお、2001年度の介入価格は枝肉1トン当たり3,013ユ        
    ーロである。    
    
    イ.直接支払い     
      繁殖雌牛奨励金などの奨励金について、2000年度からの介入価格の引き下げに        
    より減少した農業所得を補償するため、単価が引き上げられたほか、新たにと畜        
    奨励金が新設された。         

    (ア)繁殖雌牛奨励金(Suckler cow premium)      
         繁殖雌牛を飼養する肉用牛生産者(生乳出荷量がゼロまたは生乳生産枠(ク        
       オータ)が120トン以下の生産者)に対し、1頭当たり182ユーロ(2001年)の        
       奨励金が交付される。         

    (イ)特別奨励金(Beef special premium)     
         雄牛や去勢牛を飼養する生産者に対し、肉牛の生存中に2回(10ヵ月齢およ        
       び22ヵ月齢(雄牛は1回のみ))まで、各農家90頭を限度として、去勢牛1頭当        
       たり136ユーロ、雄牛1頭当たり185ユーロ(いずれも2001年)の奨励金が交付さ        
       れる。         

    (ウ)と畜奨励金         
         牛を一定期間飼養後、と畜または域外に輸出した生産者に対し、8ヵ月齢以上        
       の牛1頭当たり53ユーロ、1ヵ月齢超7ヵ月齢未満の子牛1頭当たり33ユーロ(い        
       ずれも2001年)の奨励金が交付される。         

    ウ.輸出補助金         
       EU産牛肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付さ        
     れている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品        
     目ごと、輸出先ごとに設定される。        
       
    エ.BSE関連対策        
       動物性たんぱく質の飼料利用全面禁止などのBSE撲滅対策、牛肉の安全性を        
     確保するための30ヵ月齢超の食用向けの健康な牛に対するBSE全頭検査のほか、        
     牛肉消費の落ち込みによる需給ギャップ解消のための牛肉生産抑制対策などが実        
     施された。(詳細はコラム「牛海綿状脳症(BSE)問題の再燃で大きくゆれる    
     EU」を参照)

コラム 【牛海綿状脳症(BSE)問題に再び大きくゆれるEU】

       EUでは、96年に牛海綿状脳症(BSE)が牛肉摂取を通じ人にも感染する可能
      性があるとの報告が出されたため、イギリスを中心に牛肉消費が激減するなど大問
      題となった。その後、牛肉消費は回復してきていたが、2000年10月にフランスでB
      SE感染の疑いのある牛肉が販売されたことが明らかになり、さらに同年11月には、
      ドイツ、スペインで初めてBSE感染牛が確認されたことなどから、牛肉の安全性
      に対する不信感がEUの消費者の間に広がり、再び牛肉消費が激減した。フランス
      では、スーパーや小売店での牛肉の売り上げが減少しただけでなく、レストランや
      学校給食のメニューから牛肉が消えるなど、消費者の牛肉離れが加速した。

       一方、ドイツでは、自国産牛肉はBSEと無縁であるとした認識が180度覆された
      ことから、牛肉消費が一時通常時に比べて4割程度減少したと見られている。こうし
      た混乱の中、2001年1月には、ドイツ連邦政府の食料・農業大臣と保健大臣が辞任す
      る事態に追い込まれた。また、食品に関する消費者保護行政を農業政策との密接な
      連携の下に進めるとの政策転換が行われ、消費者保護行政を連邦保健省から分離し、
      連邦食料農林省が連邦消費者保護・食料・農業省に改組され、消費者保護行政を所
      管することとなった。

       EUの成牛価格の動きを見ると、2000年10月から急激に低下し始め、2001年3月に
      は前年同期に比べて17.2%安の100キログラム当たり170.81ユーロとなった。その後、
      価格は徐々に回復してきたが、2001年12月の時点でも、BSEが再燃した2000年10月
      前より1割以上低い水準にとどまっている。


成牛価格の推移

       こうした状況に対応し、EUではBSEの撲滅および牛肉の安全性に対する消費
      者の信頼回復のため、BSE関連対策が一層強化されることとなった。

      

      1.肉骨紛の飼料としての使用の全面禁止

       EUは94年7月から牛など反すう家畜に対して、ほ乳動物由来のたんぱくの飼料とし      
      ての使用を禁止した。しかし、その後に生まれた牛にもBSE感染が確認されており、      
      これは豚・鶏用の肉骨粉飼料の不正使用や配合飼料の製造・配送段階などでの交差汚染      
      が原因と考えられた。このため、2001年1月から、すべての家畜に対し、肉骨粉の飼料      
      使用を暫定的に禁止した。

      

      2.BSE検査

       98年から臨床的にBSE感染の疑いのある牛についての検査が導入された。2001年1
      月からは30ヵ月齢超の食用に向けられる牛の全頭検査(30ヵ月齢超の牛を全量廃棄して
      いるイギリス、BSEの危険性の低いオーストリア、フィンランド、スウェーデンを除
      く)および農場で死亡した牛などの抽出検査が開始された。同年7月からは、検査対象が
      拡大され、24ヵ月齢超の農場で死亡した牛および緊急と畜した牛の全頭検査が義務付け
      られた。2001年の年間検査頭数は851万6千頭に上り、EU全体で2,153頭のBSE感染が
      確認された。

      

      3.牛肉の市場隔離対策

       急激な牛肉消費の減少による大きな需給ギャップを解消するため、従来、通常介入やセ
      ーフティーネット介入などの対象としてこなかった経産牛なども対象に含めた緊急買上事
      業が実施された。

      

       @牛肉特別買上・廃棄

         2001年1〜6月までの間、BSE検査を受けていない30ヵ月齢超の牛から生産された
        牛肉を加盟国の介入機関が買い上げ・廃棄する。この買い上げは、需給対策であると
        同時に牛肉安全性確保対策の側面も持っていた。2001年1月からの食用に向けられる30
        ヵ月齢超の牛のBSE全頭検査の実施は、前年12月の農相理事会で決定されたもので
        あり、すぐには検査体制が整わない加盟国もあった。BSE検査を受けていない牛か
        ら生産された牛肉を買い上げ・廃棄することで、食用として流通する牛肉の全量がB
        SE検査済みであることを可能にした。買い上げ頭数は73万頭に上り、全量が廃棄さ
        れた。

      

       A牛肉特別買上

         2001年7月以降、BSE検査を行った30ヵ月齢超の牛から生産された牛肉を加盟国の
        介入機関が買い上げる。その後の取り扱いは、加盟国の裁量により、廃棄または保管
        される。また、2001年4〜6月までの間、30ヵ月齢超の牛のBSE全頭検査を実施した
        加盟国については、同様の措置が認められた。買い上げ頭数は68万頭に上った。なお、
        ドイツにおける買い上げ牛肉の一部(約1万5千トン)が北朝鮮に食糧援助として輸出
        された。

      

      4.その他のBSE関連対策

       @牛肉生産抑制対策

        牛肉消費の急激な減少を受けて、牛肉生産を抑制するため以下の対策が実施された。

        ・ 粗放的生産の奨励

        ・ 特別奨励金の1農家当たりの交付上限の設定

        ・ 特別奨励金の加盟国別交付上限頭数の削減

        ・ 繁殖雌牛奨励金の交付条件として未経産牛の飼養を義務付け

       A加盟国の農家支援対策

        EU加盟国が独自に実施する農業補助については、EU委員会によって補助内容など
       に関するガイドラインが定められており、その実施に当たっては、事前にEU委員会の
       承認を得ることとなっている。加盟国による農家への所得補償は、公正な競争を阻害し、
       共通市場制度の機能を損なうとして通常は認められていないが、牛肉市場で危機的な価
       格低迷が続いていることから、例外的にフランス、ドイツ、イタリアなどの加盟国独自
       による牛飼養農家への所得補償が認められた。
 
  A肉牛の生産動向
    ア.牛飼養経営体数
     97年のEU15ヵ国の牛飼養経営体数(乳牛飼養を含む)は、95年の前回調査に比    
    べ9%減の176万8千戸で、減少が続いている。また、12ヵ国での比較では、89年に    
    比べ経営体数は3分の2程度に減少した。
    
     牛飼養経営体数は、EU全農業経営体数(699万戸)の25%を占めていることから、     
    EU全農家の4分の1は何らかの形で牛を飼養していることになる。牛飼養経営体数の    
    多い国は、フランス(30万戸)、ドイツ(29万戸)、イタリア(23万戸)、スペイン    
    (20万戸)の順となっている。


表15 牛(乳牛を含む)飼養経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

   イ.飼養頭数
     2001年11/12月現在の牛飼養頭数は8,030万6千頭(乳用経産牛を含む)で、前    
     年同期比1.1%減となった。    
    
      1戸当たりの飼養頭数は47.5頭(97年)で、95年と比較して3.6頭増加しており、     
    引き続き飼養規模が拡大している。国別では、ルクセンブルク(108.0頭)やイギ    
    リス(87.0頭)、オランダ(84.7頭)からポルトガル(8.6頭)やギリシャ(16.5    
    頭)まで飼養規模の差が大きい。スペイン(29.8頭)やイタリア(31.5頭)を含め    
    た南欧諸国では、飼養規模が相対的に小さい。 
 

             図9-1 国別牛飼養頭数(2001年11/12月)

 

            図9-2 国別タイプ別牛飼養割合(2001年11/12月)

 

 B牛肉の需給動向
  ア.牛と畜頭数および牛肉生産量 
   2001年の牛と畜頭数は2,628万8千頭となり、前年を4.1%下回った。また、国別 
  のと畜頭数は、フランス(684万頭)、ドイツ(472万頭)、イタリア(290万頭)、
  スペイン(236万頭)、イギリス(212万頭)の順で、これら5ヵ国で生産量全体の
  約7割を占めている。 

    1頭当たりの平均枝肉重量(2000年)は、成牛で前年比0.6%増の314.6キログ
   ラム、子牛は1.8%減の132.8キログラムであった。
 

表16 主要国の成牛1頭当たり平均枝肉重量

 

    牛肉生産量は、過去最高の866万トン(12ヵ国)を記録した91年以降減少傾向にあ
   る。2001年(15ヵ国)においても、737万6千トンと前年に比べて1.0%下回った。
 
  イ.輸入および輸出
   輸入については、ガット・ウルグアイラウンド合意に基づき、さまざまな関税割当
  や東欧諸国との特恵制度が設けられている。2001年は域内の牛肉消費の大幅な減少の
  影響で、輸入量も前年比8.7%減の37万6千トンとなった。なお、主な輸入先は、ブラ
  ジル(10万1千トン)、ボツワナ(1万5千トン)、アルゼンチン(1万4千トン)などで
  ある。
 
   輸出については、従来から北アフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。
  しかし、2001年秋以降のBSE問題の再燃や2002年2月の口蹄疫(FMD)の発生に
  より、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が取られたことから、2001年の
  域外輸出量は、前年比18.5%減の52万9千トンにとどまった。

  ウ.消費
    2000年10月のフランスでのBSE感染牛の販売疑惑や同年11月にドイツ、スペイン
   でBSEの初発例が発見されたことなどにより、牛肉の安全性に対する疑念がEUの
   消費者に広がったことから、2001年の消費量は前年比8.3%減の659万8千トンと大き
   く落ち込んだ。96年のBSE問題による牛肉消費の落ち込みが徐々に回復し、BSE
   問題前(95年)の水準近くまで戻っていた矢先だけに、再度の牛肉消費の急落がEU
   の牛飼養者や牛肉業界に与えた影響は非常に大きなものであった。

    1人当たりの牛肉消費量も同様に、2001年には17.5キログラムと前年を1.6キログラ
   ム下回った。2001年の自給率は、消費の急減により前年から8ポイント上昇し、112%
   となった。
 
  エ.介入在庫 
    96、97年にBSE問題の影響による価格下落に伴い、介入買い入れが実施されたこ
   とにより急激に増加した介入在庫も、98年末の51万4千トンをピークに減少し、2000
   年末にはわずか2千トンにまで減少した。しかし、2000年末のBSE問題の再燃により、
   牛肉価格が落ち込んだため、通常介入だけでなくセーフティーネット介入も実施された。
   また、従来介入買上の対象となっていなかった経産牛を買上対象とした特別買上も実施
   された結果、2001年末の介入在庫量は、前年同期の154倍に当たる30万9千トンに達した。
 

表17 牛肉需給の推移(枝肉換算)

 C肉牛、牛肉の価格動向
  ア.成牛の参考価格
   成牛の市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における
  成牛(生体)の加重平均価格をベースとして算出され、EUにおける肥育牛の市場価
  格の動向を把握するものとして、EU委員会が1週間ごとに公表する公式価格である。
 
   2001年の参考価格は、2000年末のBSE問題再燃の影響で、前年比14.8%安の100キ 
  ログラム当たり110.794ユーロと記録的な落ち込みを見せた。 
 

表18 主要国に成牛参考価格の推移

 

  イ.枝肉卸売価格
   2001年の枝肉卸売価格は、消費者の牛肉離れを受けて、フランスやドイツで下落した。 
  これとは対照的に、牛肉消費が回復しているイギリスでは、口蹄疫(FMD)の発生に
  より牛肉生産が一時停滞したこともあり、前年を上回って推移した。
 

表19 牛枝肉卸売価格の推移

 

  ウ.小売価格
   卸売価格は下落したものの、小売価格は全般的に前年とおおむね同水準で推移した。
 

表20 牛肉小売価格の推移

 

(3)養豚・豚肉産業

 2001年のEUの豚肉生産量は、世界の豚肉生産量(約9,149万トン:FAO資料)の19%を         
占めている。EUは自給率106%の純輸出国であり、世界の豚肉輸出量(約337万トン)に占め         
る割合は38%(2001年)と最大である。特に、デンマークの輸出量はEU全体の輸出量の約4         
割を占め、米国の輸出量の約2倍に相当する。EUでは、加盟国で差が大きいものの、豚肉の         
食肉消費量に占める割合は豚肉が最も大きい。 
 @主な政策 
  ア.民間在庫補助   
     域内の豚肉価格が下落した場合、特定の豚肉を一定期間在庫する者に対し補助金が交付 
  される。  
   イ.輸出補助金  
    EU産豚肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。 
  輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、部位ごと、輸出先ごと 
  に設定される。 
 A肉豚の生産動向
  ア.養豚経営体数   
     97年のEU15ヵ国の養豚経営体数は115万3千戸で、減少が続いている。全農家戸数(698 
  万9千戸)に占める割合は16%となり、95年と比較して10%下回った。また、EU12ヵ国で 
  見ると、89年と比較して6割程度まで減少した。スペイン(28万戸)、イタリア(25万戸)、 
  ドイツ(21万戸)、ポルトガル(13万戸)が上位4ヵ国である。 
  イ.飼養頭数 
   2001年11/12月現在の豚飼養頭数は1億2,315万3千頭と、前年を1.0%上回った。EUでは、 
  主要生産国で生産拡大が加速した結果、98年末から99年前半にかけて豚肉価格は記録的な暴 
  落を見せ、養豚農家の経営が悪化して廃業や規模縮小が進み、飼養頭数が減少した。しかし、 
  肉豚価格の急速な回復に伴い、飼養頭数の減少に歯止めがかかり、2001年では前年同期を上 
  回ったものとみられる。  
    1戸当たりの飼養頭数は105.8頭(97年)と、95年と比較して13.5頭増加している。国別で 
  は、規模が大きいアイルランドの817.5頭、オランダの723.3頭からポルトガルの18.2頭やイ 
  タリアの33.1頭まで加盟国間で大きな差が見られる。
   

             図10 国別豚飼養頭数(2001年12月)

 

表21 養豚経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

 

 B豚肉の需給動向
  ア.と畜頭数と豚肉生産量
   2001年の豚と畜頭数は2億26万4千頭となり、前年を1.7% 下回った。また、豚肉生産量も
  1,737万7千トンと前年を1.2%下回った。これは、98年および99年前半に豚肉価格が記録的
  な水準にまで暴落したことを背景として、主要生産国が急速に減産を進めたためである。

    2001年の1頭当たりの平均枝肉重量は、86.5キログラムと前年を0.5キログラム上回った。
 

表22 主要国の豚1頭当たり平均枝肉重量

 

  イ.輸入および輸出
   2001年の輸入量は、前年比5.2%減の5万2千トンで、主な相手国はハンガリーなどの東
  欧諸国が中心であった。
 
   2001年の輸出量は、前年比13.9%減の132万7千トンと大きく落ち込んだ。口蹄疫(FMD)
  の発生に伴う各国のEU産豚肉の輸入制限措置や域内価格の高騰でロシア、日本、米国向け
  の輸出が減少したためである。
 

               図11 豚肉の輸出相手国

 

  ウ.消費
   2001年の消費量は、2000年末のBSE問題再燃の影響による代替需要の増加で、1,631万8千
  トンと前年を1.2%上回った。同様に、2001年の1人当たりの豚肉消費量は、42.0キログラム
  と前年を1.0%上回った。 
 


表23 豚肉需給の推移(枝肉換算)

 

 C肥育豚、豚肉の価格動向
  ア.豚肉の市場参考価格 
   豚枝肉市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における豚枝肉
  の加重平均価格をベースとして算出される。
 
   90年代の参考価格の動きを見ると、生産の増減に伴い大きく乱高下している。参考価格は、
  96年のBSE問題の影響による豚肉への食肉消費のシフトや、97年のオランダにおける豚コ
  レラ大流行による生産の減少などが需給をひっ迫させ、豚肉価格は急騰した。その後、価格
  高騰に刺激を受けた主要国における豚の増産により、一転して需給が急速に緩和した結果、
  価格が急落し、98年末から99年にかけて記録的な低水準となった。2001年には、生産が縮小
  傾向に転じた中で、消費が増加したため、前年比17.8%高の100キログラム当たり166.754ユ
  ーロと前年を大幅に上回った。  
 


表24 主要国の豚枝肉参考価格の推移

 

  イ.小売価格
   2001年の豚肉の小売価格は、卸売価格の上昇を反映し、ドイツのヒレ(前年比17.0%高)、
  オランダのロイン(同14.5%高)など前年を大幅に上回った。
 


表25 豚肉小売価格の推移

 

コラム 【イギリスで20年ぶりに口蹄疫(FMD)が発生】

 イギリス政府は2001年2月21日、同国東部のエセックス州において、食肉処理場の豚
および近郊農場の牛に口蹄疫(FMD)の発生が確認されたことを公表した。イギリス
でのFMDの発生は81年の最終発生以来20年ぶりのことであった。EU委員会への通報
は前日の20日の夜に行われ、直ちにEU委員会からEU各国へ伝達された。EU委員会
は21日、イギリスからのFMDの感受性のある動物(偶蹄類)および食肉、乳製品(加
熱や食肉の熟成による酸性化などウイルスを死滅させるための適切な処理を行ったもの
および2月1日より前に生産されたものを除く)のイギリスからの輸出禁止を決定した。 
 当初は、FMDの発生は早期に終息するとの見方もあったが、こうした楽観的な予測
とは裏腹にFMDの感染は急速に広がり、発生地域はイングランドの全域に拡大した。
3月下旬をピークに発生件数は徐々に減少したものの、9月末の終息まで約7ヵ月間、
FMDの猛威に見舞われた。 

参照(イギリスにおけるFMD発生件数の推移)

http://www.defra.gov.uk/footandmouth/cases/histogram.htm

 イギリスでのFMDの発生件数は最終的に2,030件に上った。防疫措置として421万5千
頭の家畜などがと畜され、焼却または埋却されたほか、過密飼養を避けるため、動物福
祉の観点から313万9千頭の家畜などがと畜・廃棄されるなど、同国畜産史上最悪の事態
となった。多数の家畜のと畜・廃棄や畜産物の輸出停止など畜産農家・食肉産業への直
接的な影響のほか、発生地域における移動制限や大規模な家畜の焼却作業などのために
景観が乱されたことなどにより、農村地域への旅行客が大幅に減少するなど他の部門に
も影響が広がった。FMDの発生による経済的な損失は、間接的な影響も含めると59億
9,500万ポンド(約1兆6,900億円:1ポンド=195円)に上ると試算されている。また、
イギリス政府は、畜産農家への補償や防疫対策などで約28億ポンド(約5,460億円:E
U支出分も含む)の財政支出を余儀なくされた。 
                            (単位:頭)
  その他 合 計
と畜(防疫措置) 582,000 3,482,000 146,000 5,000 4,215,000
と畜(過密飼養防止) 209,842 2,163,832 627,894 56,417 3,139,145
合 計 719,842 5,645,832 773,894 61,417 7,353,145
総飼養頭数に占める割合 6.6% 20.5% 13.0%
				 
資料:DEFRA、MLC


 また、イギリスから他の加盟国への感染拡大を防ぐため、@イギリスから他の加盟国
に移動する車両のタイヤ消毒の義務付け、Aイギリスから輸入されたFMDに感受性の
ある家畜のと畜、BEU全域での家畜市場の開催禁止などの措置が取られた。フランス
で2件、アイルランドで1件のFMDの発生が確認されたが、感染は拡大することなく終
息した。しかし、狭い国土で多くの乳用牛や豚を飼養しているオランダでは、FMDの
感染がほぼ全域に広がったため、緊急避難措置として、これ以上の感染拡大を防ぐため、
抑制的ワクチン接種が実施された。
 
 イギリスでのFMDの発生および欧州大陸への拡大により、米国、日本、ロシアなど
EU産食肉等の輸入を制限する動きが世界的に広がった。このため、FMDの発生のな
い加盟国も含め、EU全体の畜産業に大きな影響を与えた。 

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