1.一般経済の概況
豪州経済は、近年、個人消費や住宅建設の増加などの内需の拡大を背景に実質国内総生産(GDP)成長率は比較的高い水準で推移していたが、2000/01年度に導入したGST(物品サービス税)の影響による需要の落ち込みにより、シドニーオリンピック終了後の2000年末、一時的にマイナス成長を記録した。しかし、その後、再び個人消費や住宅建設などの内需が回復し、豪ドル安による輸出の増加も手伝って、経済は回復に向かい、その後は順調に推移した。2002/03年度の実質GDP成長率は2.9%と世界的な景気低迷の中で安定した成長を達成し、GDPも7,353億豪ドルと前年度を上回った。
また、2002/03年度の平均失業率は、安定した経済活動を反映し、前年度から0.5ポイント改善し6.5%となった。平均失業率は、94/95年度以降、1ケタ台を維持している。
一方、豪ドル安に支えられた好調な輸出を背景にここ2年間連続して黒字となっていた貿易収支は、おう盛な国内需要や干ばつの影響による輸出の減少などが重なり2002/03年度は、176億豪ドルの記録的な赤字に転落した。
なお、日本は、輸出入を合わせた貿易総額で米国を上回り、豪州にとって引き続き最大の貿易相手国となっている。
2. 農・畜産業の概況
豪州の農業(林業、水産業を除く)は、GDPで全体の約2.3%、就業人口で全体の約3.4%を占めるにすぎず、産業全体に占める割合は必ずしも高くない。しかし、2002/03年度の全商業輸出額に占める農産物の割合は23.3%と、鉱物資源(47.3%)に次ぐ位置を占めており、農業は、極めて重要な輸出産業となっている。
2002年6月末現在の農家戸数(農業施設評価額22,500豪ドル以上)は、前年より4.6%減少して約7万9千戸になった。このうち、肉牛専業農家は約1万8千戸、羊専業農家は約1万1千戸、酪農家も約1万1千戸であり、穀物などとの兼業経営を併せると、農家の約8割が何らかの形で畜産経営に携わっていることになる。
豪州では、国土面積の約6割に相当する約4億5千万ヘクタールが農業可能地となっているが、そのうちの約9割は牛や羊の放牧のみに利用可能な自然草地である。
農業粗生産額は、近年、増加基調で推移してきたが、2002/03年度は、干ばつの影響で前年度比19.2%減の約318億豪ドルにとどまった。
2002/03年度の畜産物粗生産額は、前年度比5.3%減の約176億豪ドル、一方、穀物など畜産以外の農産物の粗生産額は前年度比31.9%減の約142億豪ドルとなり、畜産物粗生産額が農業全体の約55%を占める結果となった。
畜産物のうち、肉牛・牛肉は約64億豪ドル(10.5%減)、牛乳・乳製品は約30億豪ドル(18.1%減)と前年度に比べ大きく減少した。
2002/03年度の農産物総輸出額(FOB)は、干ばつによる生産量の減少の影響を受け、前年度比13.3%減の約270億豪ドルとなった。
このうち、畜産物輸出額は、前年度比8.7%減の約139億豪ドルとなった。その内訳は、肉牛・牛肉が約43億豪ドル(8.4%減)、羊・羊肉が約14億豪ドル(9.5%減)、羊毛が約35億豪ドル(3.8%減)、牛乳・乳製品が約24億豪ドル(25.6%減)と、いずれも減少した。
なお、2002/03年度の畜産物輸出額は、農産物総輸出額全体の51.3%を占め、穀物・油糧種子の17.6%を大きく上回り、引き続き最大の輸出部門となっている。
3 畜産の動向
(1)酪農・乳業
豪州の酪農は、放牧を主体とする経営が大部分であるため、ビクトリア州を中心として気象条件に恵まれ、牧草生育に有利な地域に集中している。
また、生産される生乳の約8割が加工向けであり、さらに、製造される乳製品も約8割が輸出向けという輸出依存型産業である。
従って、生乳生産量は気象条件や牧草の生育状況などによって大きく変動するとともに、酪農経営は乳製品の国際市況および為替の変動の影響を受けやすいという特徴を有している。
(1)主要な政策
加工原料乳に対する価格補てん政策(連邦制度)と飲用向け生乳に対する最低価格保証政策(各州の制度)が実施されていたが、2000年7月1日をもって両制度ともに撤廃され、生乳の販売流通が完全に自由化された。このほか、2003年7月には酪農団体の再編が行われ、豪州酪農庁(ADC)と他の研究機関が統合され、新たにデイリー・オーストラリア(DA)が発足し、販売促進や研究開発、マーケット情報提供などを一括して行うようになった。これらの事業財源の多くは、生産者課徴金(強制徴収)によるものである。
(2)生乳の生産動向
乳用経産牛の飼養頭数は、57年の345万1千頭をピークに減少してきたが、92年以降、好調な酪農市況を反映して増加してきた。しかし、2003年6月末には、干ばつの影響から前年同期比1.3%減の210万頭となった。また、同時点の酪農家戸数は約1万1戸、1戸当たりの経産牛飼養頭数は約197頭であった。
生乳生産量は、90年代に入ってから、ガット・ウルグアイラウンド合意に伴う乳製品の輸出拡大への期待を背景に、増加傾向で推移してきた。
2002/03年度の生乳生産量は、豪州のほぼ全域が干ばつに見舞われたため、前年度比8.4%減の103億3千万リットルとなった。
豪州では、放牧に適した乳牛へと品種改良が進められたこともあり、日本や米国などと比較して経産牛1頭当たり乳量はそれほど多くないものの、近年は、遺伝的改良や飼養管理技術の改善などにより、着実に増加していた。しかし、2002/03年度の経産牛1頭当たり乳量は、干ばつの影響で前年度比5.3%減の5,030リットルとなった。
また、生乳生産量に占める加工向けのシェアは、乳製品輸出の拡大に伴って徐々に上昇する傾向にあったが、2002/03年度は生乳生産量の減少に伴って減少し、前年度より1.7ポイント減の81.4%となった。
生乳生産量を州別に見ると、ビクトリア州が全体の64%を占めて他州を大きく引き離しており、豪州最大の酪農地域であることを示している。
一方、飲用乳の処理量は、シドニーなど大消費地を擁するニューサウスウェールズ州が最も多く、ビクトリア州、クィンズランド州と続いている。
このように、生乳生産に占める飲用向けの割合が州によって大きく異なっいるため、各州の平均生産者乳価に差が生じている。
(3)牛乳・乳製品の需給動向
主要乳製品の生産量は、乳製品の国際需要の拡大を反映して、増加傾向にあったが、2002/03年度は、干ばつの影響で生乳生産量が減少したことから、すべての品目で前年度の生産量を大きく下回った。品目別に見るとチーズは10.8%減の36万8千トン、脱脂粉乳は16.3%減の21万5千トン、全粉は28.9%減の17万トン、バター(バターオイル)は9.2%減の14万9千トンとなった。一方、近年、ホエイパウダーやカゼインの需要が増し、生産量が増加してきている。
2002/03年度の主要乳製品の輸出量は、生産量の減少から前年度に比べ7.5%減少し、すべての品目で前年度の輸出量を下回った。
2002/03年度の乳製品生産量に占める輸出量の割合は、脱脂粉乳は約91%、全粉乳は約118.9%と当該年度の生産量を上回り、バターおよびバターオイルは約68%となった。チーズも前年度の約53%から約56%に上昇するなど、すべての品目で輸出依存度がさらに高まった。
乳製品の輸出先は、日本、東南アジアを含めたアジア地域の合計が、輸出額ベースで全体の約64%と、圧倒的なシェアを占めた。
特に粉乳類は、還元乳などの需要が多い東南アジア地域向けの輸出割合が高く、脱脂粉乳、全粉乳ともに輸出量全体の約8割がアジア諸国に輸出されている。
豪州国内における飲用乳の1人当たり消費量は、1990年代中ごろから減少傾向にあり、2002/03年度は前年度比0.6%減の97.1リットルとなった。一方、増加基調で推移してきたチーズの1人当たり消費量は、3.4%増の12.0キログラムと引き続き増加した。バターの消費量は前年度と同様3.2キログラムにとどまった。
(4)乳価の動向
99/2000年度の生産者乳価までは、飲用乳価と加工原料乳価の差が2倍以上に拡大していたが、2000年6月末をもって、飲用向け生乳に対する最低価格維持制度が廃止されたため、それ以降、飲用向けの乳価が大幅に低下した。2002/03年度の乳価は、前半は国際市況価格低迷、後半は豪ドル高による影響で前年度比10.6%減の1リットル当たり29.5セントとなった。
(2)肉牛・牛肉産業
豪州の肉牛生産は、酪農生産と同様、牧草(放牧)に依存した生産構造となっており、また、牛肉生産量の6割以上を輸出に向ける輸出依存型産業となっている。
肉牛は、乳牛に比べると粗放的な飼養管理が可能であり、また、利用可能な草地の範囲が広いことに加え、熱帯・乾燥地域などの自然条件が厳しい地域でもこれに適応する品種を選択的に導入することによって飼養が可能であることから、内陸部の極端な乾燥地帯を除き、ほぼ豪州全土でさまざまな品種による肉牛生産が行われている。
(1)主要な政策
肉牛や牛肉の需給を管理する制度政策は特になく、生産者は国内外のマーケット動向を勘案しつつ経営を行っている。また、家畜検疫検査局(AQIS)などの政府機関が防疫政策を、食肉家畜生産者事業団(MLA)などの業界団体が販売促進、研究開発、マーケット情報の提供などを行っているが、これらの事業財源の多くは、生産者課徴金(強制徴収)によるものである。
(2)牛の飼養動向
豪州における牛飼養頭数(乳牛を含む)の推移を中・長期的に見ると、1960年代後半から1970年代半ばにかけて、世界的な牛肉需要の増大を背景に急速に増加し、1976年には過去最高の3,343万頭を記録した。その後、第二次オイルショック(1979年)などによる世界的な牛肉需要の減退や肉牛経営の悪化、大干ばつの発生(1982年)などによってと畜頭数が急増し、1984年には2,216万頭とピーク時である1976年の飼養頭数に比べ約3分の2まで減少したが、それ以降は緩やかな増加に転じた。
1996年以降は、干ばつなどの影響による増減はみられたものの、全体として2,600〜2,700万頭台でほぼ安定的に推移した。しかし、再び発生した干ばつの影響により2003年6月末には、前年比4.9%減の2,650万頭となった。
肉用牛の飼養頭数を州別に見ると、クィンズランド州(シェア45%)、ニューサウスウエールズ州(同23%)、ビクトリア州(同11%)の東部3州で全体の約8割を占めている。また、近年は東南アジア向け生体牛輸出の拡大を背景に、クィンズランド州北部や北部準州(同7%)の伸びが著しい。
(3)牛肉の需給動向
2002/03年度の牛と畜頭数(子牛を含む)は、干ばつの影響で早期出荷が進んだため、前年同期比7.2%増の923万頭となった。
一方、枝肉生産量は、早期出荷を余儀なくされたことから1頭当たりの枝肉重量が減少したため、と畜頭数がかなり増加したにもかかわらず、前年度比2.0%増(207万トン)にとどまった。
また、牛肉輸出は、日本や韓国、東南アジアなどへの輸出が伸びたものの、需要の低下や豪ドル高などの影響により最大の輸出先である米国への輸出量が前年度比13.2%減少したため、全体としては前年度と同様の90万2千トン(船積み重量ベース)となった。
2002/03年度の国別輸出量(船積み重量ベース)の割合は、米国向けが前年度比5.9ポイント減の38.8%となったのに対し、日本向けが前年度比3.8ポイント増の30.7%となった。米国向けが減少した要因は、米国内の加工原料用牛肉の需要が低下したことに加え、豪ドル高と米国内産の加工原料用牛肉の供給量が増加したことによる。一方、日本向けの増加要因は、BSEの影響で減少した消費が回復してきたことによる。
なお、90年代中頃からインドネシア、フィリピンなど東南アジア向けを中心に、生体牛(特に肥育素牛)の輸出が急増した。生体牛の輸出は、アジアの経済危機の影響により一時的に減少したものの、アジア経済の復興や中東諸国など新規市場の開拓もあって、再び増加基調に転じた。2002/03年度は、干ばつの影響もあって、前年度比22.8%増の100万7千頭と、はじめて100万頭を超えた。
2002/03年度の1人当たりの牛肉消費量は、前年度比5.4%増の37.1キログラムと昨年に比べ大幅に増加した。食肉の中では牛肉の消費量が最も多く、次いで鶏肉(35.1キログラム)、豚肉(21.0キログラム)、羊肉(16.5キログラム)の順となっている。近年、鶏肉の消費量の伸びが著しい。
(4)肉牛価格の動向
肉牛の販売価格は、1996〜97年にかけて、牛海綿状脳症(BSE)の発生やアジア経済危機などによる世界的な牛肉需要減退の影響を受けて低迷した。その後は需要が回復した反面、供給がタイトであったことから、肉牛販売価格は回復基調に転じ、2001年9月には過去最高を記録する高値となった。
2002/03年度は、干ばつの影響からと畜頭数が大幅に増加したため、肉牛販売価格は2003年2月まで前年同月を下回って推移した。その後は干ばつの緩和に伴い、生産者は急激に減少した牛群の再構築に向かったためと畜頭数が減少し、肉牛販売価格は再び上昇に転じた。
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干ばつの影響で2002/03年度の農家経営は悪化見込み
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豪州農業資源経済局(ABARE)は2003年11月末、「2003年農家調査」を発表した。この調査は、部門ごとの抽出農家を対象に経営状況を分析するもので、大きく分けて(1)穀物・畜産部門(穀物専業(小麦主体)、穀物・畜産複合、羊・肉牛複合、羊専業、肉牛専業の5部門)と(2)酪農部門の調査から構成される。
全般的な傾向を代表する穀物・畜産部門の調査によると、干ばつに見舞われた2002/03年度の1農場当たりの事業損益は、平均4万6,300豪ドル(約370万円:1豪ドル=80円)の損失となり、同様に干ばつの影響を受けた1982/83年度以来最も悪い見込みである。前年度の事業損益は平均4万2,720豪ドル(約342万円)と、この四半世紀で最も良い業績であったが、2002/03年度は一転した。今回の干ばつは農畜産物の生産の減少だけでなく、個々の農家経営にも深刻な影響を与えたことが分かる。中でも、特に穀物専業、肉牛専業、酪農で事業損益の赤字額が多い。
穀物・畜産部門の中で肉牛専業部門についてみると、飼養頭数は干ばつによる出荷増の結果、2002/03年度では前年度から約6%減少した。しかし、出荷増にもかかわらず、現金収入は家畜市場での取引価格の低下や仕上げ体重が十分でない状態での販売によって15%減少した。
また、現金支出には補助飼料費や預託費の増加が大きく反映し、その結果、2002/03年度の現金所得は、前年度から59%も減少した。
さらに、飼養頭数の縮減によって、事業損益は前年度から1農場当たり9万8,010豪ドル(約784万円)も減少した。
一方、酪農部門についてみると、干ばつの影響はビクトリア州北部のかんがい地域で特に大きく、2002/03年度の総生乳生産量は、1951/52年度以来単年度としては最大となる8.4%の減少を記録した。現金収入の大部分を占める生乳販売収入は、生産減少に加え低迷する乳価の影響から多くの州で減少した。
また、この20年間で酪農家の購入乾牧草への依存度は高まってきたが、2002/03年度は牧草生育状況の悪化とかんがい用水の不足によって、購入乾牧草に対する需要がさらに高まった。このため、現金支出では、飼料価格の上昇を伴う購入乾牧草とかんがい用水の確保経費の大幅な増加が反映した。
これらにより、2002/03年度の現金所得は前年度から81%減少し、事業損益は乳牛をとう汰し牛群を縮小したことが反映し、前年度から1農場当たり13万7,480豪ドル(約1,100万円)も減少した。
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