EU


1. 一般経済の概況

 2002年における欧州連合(EU)の実質国内総生産(GDP)の成長率は、前年比1.0%増となり、94年から回復基調を維持していたEU経済も、世界的な景気後退を受けてこのところ低迷している。EU経済は、98〜99年にかけてのロシアの金融・経済危機の影響などにより一時的に減速したものの、99年第2四半期から、個人消費や設備投資など内需拡大に支えられて回復基調を維持していた。ただし、2000年下半期以降、原油価格の高騰を背景にした個人消費の伸び悩みなどによる減速感が徐々に顕著なものとなった。EUの失業率は、94年(11.1%)をピークに低下傾向にあったが、2002年は前年に比べ0.3ポイント増加の7.7%となり、欧州の景気低迷を表している。

 EUでは、99年1月から単一通貨ユーロが導入され、参加条件(インフレ率是正、財政赤字解消、政府債務残高縮減、為替安定、長期金利安定)を満たせなかったギリシャ、また、参加を見合わせたイギリス、デンマークおよびスウェーデンを除く11カ国が参加した。2001年1月からギリシャもユーロに参加し、2002年1月1日に参加12カ国でユーロ紙幣・硬貨の流通が開始した。

 2002年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されたEU首脳会議においてEUの拡大について合意に達した。このことにより、キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキアおよびスロベニアの10カ国が2004年5月1日にEUに加盟することとなった。

欧州連合の加盟国等(2002年12月時点)

2. 農・畜産業の概況

 EUは、加盟15カ国全体で1億3,080万ヘクタール(2002年)の農用地面積を有し、農業経営体数は677万1千戸(2000年)、1戸当たりの農用地面積は、18.7ヘクタール(2000年)である。

 GDPのうち農業生産の占める割合は近年低下傾向にあり、2002年には1.6%となった。また、労働人口に占める割合も4.0%(2002年)と、他の先進国と同様に、その割合は高くない。農業生産額は2,863億7千万ユーロ(2002年)となり、前年を4.1%下回った。このうち、半分弱に相当する1,174億7千万ユーロ(農業生産額全体の約42%)を畜産が占めており、EU農業の主要部門となっている。畜産の内訳を見ると、生乳が393億5千万ユーロ(同約14%)、牛肉・子牛肉が278億4千万ユーロ(同約10%)、豚肉が231億9千万ユーロ(同約8%)、卵・家きんが161億9千万ユーロ(同約6%)である。

資料:欧州委員会「Agriculture in the European Union Statistical and economic information 2003」

資料:欧州委員会「Agriculture in the European Union Statistical and economic information 2003」

 2002年のEU農業を概観した中で、特徴的な事項として、(1)2000年秋以降の牛海綿状脳症(BSE)問題の再燃によって2001年に低下した牛肉消費の著しい回復(2)年間を通じた好天による好調な穀物生産が挙げられる。

 2002年の農業経済を部門別にみると、畜産部門では、生産量は前年をわずかに上回り、牛肉価格が回復した一方、豚肉および鶏肉などの価格の下落により、生産者価格は前年比7.9%安となり、生産額は前年比6.6%減となった。耕種作物部門においては、生産量は前年をわずかに上回ったものの、生産額は前年比2.1%減となった。この結果、農業生産額全体では、前年比3.9%減となった。 

 農業者1人当たりの農業所得(実質)は、ギリシャ、フィンランド、ルクセンブルグのみが前年を上回り、EU15カ国では前年を3.8%下回った。

3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

 2002年のEUの生乳生産量は約1億2,183万トンに上り、全世界(約5億647万トン:FAO資料)の24%を占めている。これは、単一国としては世界最大である米国の生産量の約1.5倍に相当する。EUは、牛乳・乳製品の自給率が117%の純輸出市場であり、国際乳製品市場に大きな影響力を持っている。2002年において、EUが世界の乳製品貿易量に占める割合は、チーズ(37%)が世界最大、バター(27%)がニュージーランドに次いで第2位、脱脂粉乳(14%)がニュージーランド、豪州に次いで第3位となっている。

(1)主要な政策

ア.生乳生産割当(クオータ)制度

 国別に生産割当枠(クオータ)を定め、クオータ超過に対しては、指標価格の115%の課徴金が課せられる。加盟国間でのクオータの譲渡は認められていないが、農家間では、売却・リースや加盟国によるクオータの買い上げ・再配分などを通じて移動・調整することができる。なお、2000年度および2001年度にイタリア、アイルランド、スペイン、ギリシャ、北アイルランドでクオータの追加配分が行われた。

イ.乳製品の介入買入れ

 バターや脱脂粉乳の介入買い入れを通じた乳製品の価格支持により、間接的に生乳価格を支持している。バターについては、市場価格が介入価格(100キログラム当たり328.20ユーロ)の92%を下回った場合、加盟国の介入機関により、入札方式による一定規格のバターの介入買い入れが行われる。また、一定規格の脱脂粉乳については、3月1日〜8月31日の間、加盟国の介入機関が介入価格(100キログラム当たり205.52ユーロ)で買い入れる。なお、その年の介入買い入れ量が10万9千トンを超えた場合、介入買い入れは停止され、入札による買い入れが実施できることとなっている。

ウ.輸出補助金

 EU産乳製品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、チーズ、バター、脱脂粉乳などの輸出に対して輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、販売・輸送コストなどを勘案して設定される。 

エ.域内消費の促進

 脱脂乳、脱脂粉乳の飼料用消費やバターのアイスクリームおよびベーカリー用消費に対する補助のほか、牛乳の学校給食用消費に対する補助などが行われている。

(2)生乳の生産動向

ア.酪農経営体数

 EU15カ国の酪農経営体数は、小規模層を中心に減少傾向にあり、2001年には68万9千戸となった。99年に行われた前回の調査(74万9千戸)と比較すると、2年間で8.1%減少している。

イ. 飼養頭数

 2002年12月時点の乳用経産牛飼養頭数は、前年同期を2.1%下回る1,957万2千頭となり前年に引き続き減少した。クオータ制度の下で生乳生産の増加が抑えられている一方、経産牛1頭当たりの乳量が着実に増加していることが、飼養頭数減少の要因となっている。

 1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は、15カ国平均で29.4頭(2001年)である。しかし、最も飼養規模の大きいイギリスが73.9頭であるのに対し、規模が小さいオーストリアでは8.0頭など、加盟国間で差が大きい。

資料:欧州委員会「Agriculture in the European Union Statistical and economic information 2003」

ウ.生乳生産量

 EUでは、共通農業政策(CAP)によるクオータ制度により、近年、生乳生産量は安定的に推移している。2002年の生乳生産量は、1億2,183万トンで前年とほぼ同水準(前年比0.1%増)であった。国別では、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、オランダの5カ国がいずれも1千万トンを超えている。

 なお、2002年度(2002年4月〜2003年3月)の生乳出荷量は1億1,556万トンで、EU全体ではクオータを0.7%上回った。この結果、国別クオータを上回ったイタリア、オーストリア、フィンランドなどに対して課徴金が課せられた。

 2001年の経産牛1頭当たり乳量は、遺伝的能力や飼養管理技術の向上などにより、前年比2.6%増の6,000キログラムとなった。ただし、加盟国間での差は大きく、スウェーデンの7,989キログラム(同2.0%増)、オランダの7,096キログラム(同3.8%減)に対し、ギリシャでは3,800キログラム(同1.3%増)と約2倍の開きがある。

資料:ZMP「Dairy Review 2003」

(3)牛乳・乳製品の需給動向

ア.飲用乳

 2002年の飲用乳生産量(販売量)は、前年比0.8%減の2,923万トンであった。国別の1人当たりの飲用乳(乳飲料、ヨーグルトなどを含む)消費量は、フィンランド(177.9キログラム)、アイルランド(157.4キログラム)からオーストリア(79.3キログラム)まで約2倍の差がある。近年の飲用乳消費は、全脂肪乳の割合が5割以下に減少する一方、低脂肪乳の割合が増加する傾向となっている。また、発酵乳などの消費は引き続き増加している。

イ.バター

 EUは、バターの生産量で全世界(約793万トン:FAO資料)の23%(2002年)を占め、インドに次ぐ第2位のシェアを占めている。


資料:ZMP「Dairy Review 2003」
 注:農家生産分を除く。

 2002年の域外輸出量は21万4千トンで、前年を18.2%上回った。この要因は、2002年の乳製品の国際市況が大いに低迷した中で、EUが輸出補助金を引き上げたことにある。主な輸出先は、モロッコおよびサウジアラビアなどの中東諸国やロシアである。域外輸入量は11万5千トンで前年を0.9%上回った。

 1人当たりのバター消費量は、消費者の健康に対する関心の高まりにより90年代から減少傾向にあり、2002年は前年同の4.4キログラムとなった。国別では、フランス(8.1キログラム)、ドイツ(6.6キログラム)での消費が多いが、マーガリンやデイリースプレッドの消費が多いデンマーク(1.7キログラム)などの北欧や、オリーブ油など植物油脂の消費が多いギリシャ(0.7キログラム)、スペイン(0.9キログラム)などの南欧では少なくなっている。

ウ.脱脂粉乳

 EUは、脱脂粉乳の生産量で全世界(約359万トン:FAO資料)の30%(2002年)のシェアを占める世界最大の生産地域である。

 2002年の生産量(バターミルクパウダーなどを含む)は114万トンで、前年を14.0%上回った。

資料:ZMP「Dairy Review 2003」

 2002年の域外輸出量は、前年比8.5%増の15万4千トンとなった。バターと同様、EUが輸出補助金を引き上げたことによるものである。主な輸出先は、アルジェリア(2万2千トン)、モロッコ(1万4千トン)、エジプト(1万2千トン)などの北アフリカや東南アジアなどである。2001年において、生産の減少に伴い需給が引き締まったことから、2000年10月以降、介入在庫はゼロであった。しかし、2002年には脱脂粉乳の生産量が大きく伸びたこともあり、2002年3月以降介入在庫が存在している。

エ.チーズ

 EUは、チーズの生産量で全世界(1,719万8千トン:FAO資料)の41%(2002年)と世界最大のシェアを占めている。

 チーズ生産量は、堅調な域内消費に加え、世界的な需要増加を背景に93年から2002年までの10年間で約20%増加した。99年には、ロシアの経済悪化による同国向け輸出の停滞の影響で一時的に生産の伸びが鈍化したものの、その後回復している。2002年には、BSE問題の再燃による代替需要生産の拡大も収まり、生産量は前年比0.2%増の721万8千トンとなった。

資料:ZMP「Dairy Review 2003」
 注:牛乳以外を原料とするものおよび農家生産分を除く。

 2002年の域外輸出量は48万4千トンで、前年を3.2%上回った。主な輸出先は、米国(10万7千トン)、ロシア(6万9千トン)、日本(4万8千トン)である。

 一方、域外からの輸入量は、15万6千トンで前年を10.9%下回った。主な輸入先は、スイス(4万1千トン)、ニュージーランド(3万9千トン)、豪州(2万3千トン)であるが、ポーランドやリトアニアなど中東欧の加盟予定国からの輸入が急増している。

資料:ZMP「 Dairy Review 2003」

 2002年の消費量は711万トンで、前年を0.1%上回った。1人当たりのチーズ消費量は18.8キログラムで、前年と同じであった。国別の1人当たりの消費量では、ギリシャ(27.5キログラム)、フランス(25.8キログラム)、ドイツ(21.8キログラム)で年間の1人当たりの消費量が20キログラムを超えている一方、スペイン(9.1キログラム)、アイルランド(10.3キログラム)で少ない。

(4)生乳および牛乳・乳製品の価格動向

ア.生乳生産者価格

 生乳生産者価格はバター、脱脂粉乳の介入買い上げ措置を通じて、間接的に支持される仕組みとなっており、価格支持の目標となる生乳指標価格が設定されている。

 2002年の国別生乳生産者価格(農家渡し、脂肪分3.7%)は、国際的な需要の低迷により前年度を6.1%下回る100キログラム当たり29.50ユーロとなった。国別でもほとんどの国で前年度を下回った。なお、イタリア、オランダなど7カ国で生乳指標価格(100キログラム当たり30.98ユーロ)を上回った。

イ.牛乳小売価格

 ドイツの2002年の全脂乳(回収ビン)の小売価格は、1リットル当たり0.87ユーロであった。

ウ.バター卸売価格

 2002年のEU各国のバター卸売価格(工場渡しまたは倉庫渡し)は、国際的に需要が低迷したことから、ほとんどの国で前年を下回った(フランス:前年比5.1%安、ドイツ:同6.5%安)。

エ.脱脂粉乳卸売価格

 2002年のEU各国の脱脂粉乳卸売価格(工場渡し)は、国際的需給が低迷したことにより低下(ドイツ:前年比15.0%安、フランス:同15.9%安)した。

オ.チーズ卸売価格

 2002年のEU各国のチーズ卸売価格(工場渡し)は、2000年秋以降のBSE問題の再燃によって生じた2001年の代替需要によるチーズ消費の増加が収まったため、ほとんどの国で前年を下回った(ドイツ:前年比7.1%安、イギリス:同28.2%安)。


欧州委、CAP中間見直し案を公表

 欧州委員会は2002年 7 月10日、共通農業政策(CAP)の中間見直し案を公表した。CAPは、農業の生産性向上や農畜産物市場の安定化を目的に、EU加盟国に対し共通に適用される農業政策として60年代に導入されたものである。CAP導入後、改革がたびたび実施されているが、今回公表された改革案は、99年に合意されたアジェンダ2000に基づく現行CAPの中間見直しとして位置付けられるものである。当初は 6 月中に公表される予定であったが、米国の新農業法成立を受けて、その影響を盛り込むために公表が延期されていた。

 改革案の概要は、以下のとおりである。

 (1) 直接支払いのデカップリング

   既存の直接支払いを農業生産と切り離した農家単位の直接支払いに変更する。交付水準は、過去の各種直接支払い(耕種作物、肉牛、羊など)の受給実績を基に設定する。 

 (2) クロスコンプライアンス

   (1)の農家単位の直接支払いおよびその他の直接支払いの交付要件として、環境、食品安全、動物福祉、労働安全基準などに関する一定条件の遵守を義務付ける。

 (3) モジュレーション

   (1)の農家単位の直接支払いおよびその他の直接支払いを毎年 3 %ずつ減額(小規模農家は除外、最終的な減額は最大20%)する。また、 1 農家当たりの交付上限を30万ユーロとする。この措置による余剰財源は、農村開発に資するため、農地面積などを勘案し各加盟国に配分する。 

 (4) 新たな農家監査システムの導入

 (5) 高品質な農畜産物生産、食品安全、動物福祉を推進するための新たな地域開発対策の導入

 改革案の内容は、世界貿易機関(WTO)交渉や中東欧諸国のEU加盟を強く意識した内容となっている。直接支払いを農業生産から切り離すことで、WTO協定上、削減が免除された「青の政策」に属する穀物・肉牛に関する直接支払い(92年CAP改革で導入)を、削減対象とならない「緑の政策」に切り替えることになる。これは、輸出補助金の取り扱いで守勢に立たざるを得ないEUの立場を幾分でも強化することにつながるものとみられる。

 また、直接支払いの減額・農村開発の充実は、既加盟国と比較して、所得水準(特に農業所得)の低い中東欧諸国のEU加盟を念頭においたものである。

 現行CAPと比較した具体的な改革内容を畜産についてみると、牛肉分野では、 1 頭当たりに単価が設定されていた特別奨励金や繁殖雌牛奨励金などの各種直接支払いは、(1)に記述した農家単位の直接支払いに一本化される。

 酪農分野では、今後の議論のたたき台として、以下の 4 つのオプションが提示された。(1)アジェンダ2000に基づく施策を2015年まで延長する、(2)介入買い上げ価格の更なる引き下げ(バター▲15%、SMP▲ 5 %)と生乳生産クオータの増枠(3%)、(3) 2 段階生乳生産クオータの導入(4)生乳生産クオータの撤廃(2008年度)と介入買い上げ価格の引き下げ(▲25%)

 このように改革案はCAPの中間見直し案とはいえ、かなり大幅な改革提案が含まれているものであった。

 

(2)肉牛・牛肉産業

 2002年のEUの牛肉生産量は754万1千トンで、世界の牛肉生産量(約6,126万トン:FAO資料)の12%を占めている。EUにおける2002年の牛肉自給率は101%となっている。幅広い気候・地理・歴史的条件の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や生産する牛肉のタイプ(子牛、経産牛、去勢牛、非去勢牛など)は、国によってかなり異なっている。

(1)主な政策

ア.介入買い入れ

 域内の牛肉価格が下落した場合、加盟国の介入機関を通じ、一定基準を満たす牛肉を買い入れ、市場から隔離することにより、価格を一定以上に維持している。域内および加盟国・地域の牛肉市場平均価格がそれぞれ介入価格の84%、80%を2週間連続して下回った場合に発動される通常介入(買い入れ数量上限あり)と、価格が極端に低下した場合に実施されるセーフティーネット介入(買い入れ数量上限なし)の2つの方式がある。なお、アジェンダ2000によるCAP改革により、2000年度(2000年7月1日から2001年6月30日)から3年間で支持価格が20%引き下げられるほか、2002年6月30日には通常介入が廃止され、同年7月1日以降民間在庫補助に移行した。

イ.民間在庫補助

 EU市場でR3に格付けされた雄牛の枝肉基本価格を100キログラム当たり222.4ユーロと定め、EU平均市場価格が基本価格の103%を下回り、それが継続する可能性がある場合に実施される。

ウ.直接支払い

 2000年度からの介入価格の引き下げにより減少した農業所得を補償するため、繁殖雌牛奨励金などの奨励金について、単価が引き上げられたほか、2000年には新たにと畜奨励金が新設された。

(ア)繁殖雌牛奨励金(Suckler cow premium)

 繁殖雌牛を飼養する肉用牛生産者(生乳出荷量がゼロまたは生乳生産枠(クオータ)が120トン以下の生産者)に対し、1頭当たり200ユーロ(2002年)の奨励金が交付される。

(イ)特別奨励金(Beef special premium)

 雄牛や去勢牛を飼養する生産者に対し、肉牛の生存中に2回(10カ月齢および22カ月齢(雄牛は1回のみ))まで、各農家90頭を限度として、去勢牛1頭当たり150ユーロ、雄牛1頭当たり210ユーロ(いずれも2002年)の奨励金が交付される。

(ウ)と畜奨励金

 牛を一定期間飼養後、と畜または域外に輸出した生産者に対し、8カ月齢以上の牛1頭当たり80ユーロ、1カ月齢超7カ月齢未満の子牛1頭当たり50ユーロ(いずれも2002年)の奨励金が交付される。

エ.輸出補助金

 EU産牛肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。

オ.BSE関連対策

 動物性たんぱく質の飼料利用全面禁止などのBSE撲滅対策、牛肉の安全性を確保するための30カ月齢超の食用向けの健康な牛に対するBSE全頭検査などが実施されている。

(2)肉牛の生産動向

ア.牛飼養経営体数

 2001年のEU15カ国の牛飼養経営体数(乳牛飼養を含む)は、99年の前回調査に比べ7%減の148万4千戸で、減少が続いている。

 牛飼養経営体数は、EU全農業経営体数(677万戸)の22%を占めていることから、EU全農家の5分の1は何らかの形で牛を飼養していることになる。牛飼養経営体数の多い国は、フランス(26万5千戸)、ドイツ(21万8千戸)、イタリア(20万3千戸)、スペイン(18万6千戸)の順となっている。

イ.飼養頭数

 2002年12月時点の牛飼養頭数は7,828万7千頭(乳用経産牛を含む)で、前年同期比2.4%減となった。

 1戸当たりの飼養頭数は54.3頭(2001年)で、99年と比較して2.3頭増加しており、引き続き飼養規模が拡大している。国別では、ルクセンブルグ(116.6頭)、オランダ(93.1頭)、イギリス(90.0頭)からポルトガル(16.0頭)やギリシャ(16.5頭)まで飼養規模の差が大きい。スペイン(33.7頭)やイタリア(34.4頭)を含めた南欧諸国では、飼養規模が相対的に小さい。

資料:EUROSTAT「Statistics in Focus5−18/2003」

資料:EUROSTAT「Statistics in Focus5−18/2003」

(3)牛肉の需給動向

ア.牛と畜頭数および牛肉生産量

 2002年の牛と畜頭数は2,676万5千頭となり、前年を3.6%上回った。また、国別のと畜頭数は、フランス(578万頭)、イタリア(434万頭)、ドイツ(427万頭)、スペイン(258万頭)、イギリス(228万頭)の順で、これら5カ国で生産量全体の約7割を占めている。

 1頭当たりの平均枝肉重量(2002年)は、成牛で前年比1.0%減の316.4キログラム、子牛は1.4%減の136.0キログラムであった。

 牛肉生産量は、過去最高の866万トン(12カ国)を記録した91年以降減少傾向にある。2002年(15カ国)においても、757万3千トンと前年に比べて1.8%下回った。

イ.輸入および輸出

 輸入については、ガット・ウルグアイラウンド合意に基づき、さまざまな関税割当や東欧諸国との特恵制度が設けられている。輸入量は前年比26.5%増の44万9千トンとなった。主な輸入先は、ブラジル、ボツワナ、アルゼンチンなどとなっている。

 輸出については、従来から北アフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。しかし、2000年秋以降のBSE問題の再燃や2001年2月の口蹄疫(FMD)の発生により、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が取られたことから、2002年の域外輸出量は、前年比8.4%減の45万8千トンにとどまった。

ウ.消費

 2000年10月のフランスでのBSE感染牛の販売疑惑や同年11月にドイツ、スペインでBSEの初発例が発見されたことなどにより、牛肉の安全性に対する疑念がEUの消費者に広がったことから、2001年の消費量は前年比5.7%減の678万3千トンと大きく落ち込んだ。しかし、2002年には、牛肉の消費は前年比9.8%増の744万5千トンとほぼ99年の水準まで回復している。

 1人当たりの牛肉消費量も同様に、2001年には18.3キログラムと前年を1.0キログラム下回ったが、2002年には1.6キログラム増加し、19.9キログラムとなった。

エ.介入在庫

 96、97年にBSE問題の影響による価格下落に伴い、介入買い入れが実施されたことにより急激に増加した介入在庫も、98年末の50万4千トンをピークに減少し、2000年末にはわずか2千トンにまで減少した。しかし、2000年秋以降のBSE問題の再燃により、牛肉価格が落ち込んだため、通常介入だけでなくセーフティーネット介入も実施された。また、従来介入買い上げの対象となっていなかった経産牛を買上対象とした特別買い上げも実施された結果、2001年末の介入在庫量は、前年同期の111倍に当たる22万2千トンに達していた。その後消費の回復により、在庫は減少し2002年末には前年比23.7%減の17万トンとなった。

(4)肉牛・牛肉の価格動向

ア.成牛の参考価格

 成牛の市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における成牛(生体)の加重平均価格をベースとして算出され、EUにおける肥育牛の市場価格の動向を表すものとして、欧州委員会が1週間ごとに公表する公式価格である。

 2001年の参考価格は、2000年秋以降のBSE問題再燃の影響で、前年比14.8%安の100キログラム当たり110.794ユーロと記録的な落ち込みを見せたが、2002年には、前年比5.5%高の100キログラム当たり116.912ユーロと回復している。

イ.枝肉卸売価格

 2002年の枝肉卸売価格は、2000年秋以降のBSE問題の再燃に対応するための介入在庫量が高水準にあったことから、フランスやドイツで下落した。一方、イギリスにおいては、口蹄疫(FMD)の発生により牛肉生産が一時停滞したため2001年には上昇したが、2002年は通常のレベルに戻った。

ウ.小売価格

 卸売価格は下落したものの、小売価格は全般的に前年とおおむね同水準で推移した。



畜産副産物に関するEU規則が成立

 2002年10月、EUは、畜産副産物に関する規則((EC)No1774/2002)を制定した。この規則は家畜の血液や皮などを含む畜産副産物(人間の食用とはならないもの)の収集、加工、利用、処分などの方法・基準などを定めたもので、飼料の原料として利用できる畜産副産物を、人間の食用に適した家畜より得られたもののみと限定している。

 本規則は、BSEやダイオキシン汚染、口蹄疫など飼料を原因とする食品問題の発生を防止することを目的に、2000年10月に 欧州委員会より欧州議会、農相理事会に提案され、その後2001年12月に修正提案が行われ、約 2 年間の議論を経て制定された。(2003年 5 月から適用されている。)

 この規則は、EU全体の公衆衛生を高い水準で確実に守るという基本的な目的にこたえるため、健康に悪影響のある畜産副産物がフードチェーンに入ることを防ぐこととし、畜産副産物のカテゴリー区分とカテゴリーごとの収集・処分方法、加工済みの製品と加工前の材料の完全な分離などを規定するとともに、トレーサビリティ・システムの確立のための畜産副産物に係る出し手・受け手双方の記録付け、商業上の書類や衛生証明書などの添付などを義務付けている。

畜産副産物の分類

・第 1 種物質(危険度大)

 この分類には、伝達性海綿状脳症(TSE)の患畜、TSE撲滅のために殺処分された家畜、特定危険部位(SRM) が除去されていない家畜の死骸などや、ホルモン剤を投与された動物に由来する製品などが該当する。

・第 2 種物質(危険度小)

 この分類には、農場でへい死した家畜や家畜疾病(TSEを除く。) の抑制などのために農場でと畜された家畜、動物医薬品の残留の危険性を有するものなどほかの家畜疾病により汚染されている危険性を有するもの、家畜ふん尿、消化管内容物などが該当する。

・第 3 種物質

 この分類のものは、人間の消費のためにと畜された健康な家畜などから生じた畜産副産物や、反すう動物以外の家畜の血液、皮、角、羽根のほか、食品廃棄物や利用済みの食用油が含まれる。

分類ごとの完全な分離、トレーサビリティの確立

 利用することが認められていない畜産副産物が製品の原料となる危険性を排除するため、収集、運搬、保管、取り扱いおよび加工のすべてにおいて各分類のものは完全に他のものと分離されなければならない。これを確実にするため、本規則においてすべての施設・工場について基準を定め、加盟国の所管官庁がこの基準を満たしている施設・工場を認可することとしている。

 また、それぞれの積荷について各段階において出し手と受け手の双方が記録を残すこと、商業上の書類や衛生証明書などを添付することとしてトレーサビリティ・システムを構築することが規定されている。

(3)養豚・豚肉産業

 2002年のEUの豚肉生産量は、世界の豚肉生産量(約9,418万トン:FAO資料)の19%を占めている。EUは自給率107%の純輸出市場であり、世界の豚肉輸出量(約337万トン)に占める割合は38%(2001年)と最大である。特に、デンマークの輸出量はEU全体の輸出量の約4割を占め、米国の輸出量の約2倍に相当する。EUでは、加盟国で差が大きいものの、食肉消費量に占める割合は豚肉が最も大きい。

(1)主な政策

ア.民間在庫補助

 域内の豚肉価格が下落した場合、特定の豚肉を一定期間在庫する者に対し補助金が交付される。

イ.輸出補助金

 EU産豚肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、部位ごと、輸出先ごとに設定される。

(2)肉豚の生産動向

ア.養豚経営体数

 2001年のEU15カ国の養豚経営体数は74万4千戸で、減少が続いている。全農家戸数(677万戸)に占める割合は11%となり、97年と比較して6ポイント下回った。国別では、イタリア(23万戸)、ドイツ(11万6千戸)、ポルトガル(12万1千戸)が上位である。

イ.飼養頭数

 2002年12月時点の豚飼養頭数は1億2,171万2千頭と、前年を0.4%下回った。なお、EUでは、主要生産国で生産拡大が加速した結果、98年末から99年前半にかけて豚肉価格は記録的な暴落を見せ、養豚農家の経営が悪化して廃業や規模縮小が進み、飼養頭数が減少した。

 1戸当たりの飼養頭数は166.0頭(2001年)と、99年と比較して42.7頭増加している。国別では、規模が大きいアイルランドの1,302.0頭、オランダの1,078.3頭からポルトガルの19.8頭やイタリアの38.1頭まで加盟国間で大きな差が見られる。


資料:欧州委員会「Agriculture in the European Union Statistical and economic information 2003」
   EUROSTAT「Statistics in Focus 5−12/2003」
 注:飼養頭数は、12月時点のもの

(3)豚肉の需給動向

ア.と畜頭数と豚肉生産量

 2002年の豚と畜頭数は2億270万8千頭となり、前年を1.2%上回った。また、豚肉生産量も1,779万トンと前年を1.4%上回った。

 2002年の1頭当たりの平均枝肉重量は、87.8キログラムと前年を0.3キログラム上回った。

イ.輸入および輸出

 2002年の輸入量は、前年比1.4%減の5万5千トンで、主な相手国はハンガリーなどの東欧諸国が中心であった。

 2002年の輸出量は、前年比14.7%増の150万8千トンで主にポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニアなど東欧諸国で増加が目立った。

資料:EUROSTAT「Intra and Extra EU Trade」

ウ.消費

 2002年の消費量は、前年同の1,637万5千トンであった。2002年の1人当たりの豚肉消費量は、43.8キログラムと前年を1.6%上回った。

(4)肥育豚、豚肉の価格動向

ア.豚肉の市場参考価格

 豚枝肉市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における豚枝肉の加重平均価格をベースとして算出される。

 90年代の参考価格の動きを見ると、生産の増減に伴い大きく乱高下している。96年のBSE問題の影響による豚肉への食肉消費のシフトや、97年のオランダにおける豚コレラの大流行による生産の減少などが需給をひっ迫したことから、豚肉価格は急騰した。その後、価格高騰に刺激を受けた主要国における豚の増産により、一転して需給が急速に緩和した結果、価格が急落し、98年末から99年にかけて記録的な低水準となった。2002年には、参考価格は前年比18.7%安の100キログラム当たり135.551ユーロと前年を大幅に下回った。これは2001年が、BSE再燃による代替需要により価格が高騰していたが、2002年には牛肉の需要が回復したためである。

イ.小売価格

 2002年の豚肉の小売価格は、牛肉の代替需要によって生じた2001年の消費の増加が収まったためほとんどの国で前年度を下回った。



EU、欧州食品安全機関を創設

 EUは、欧州食品安全機関(EFSA)創設を含む食品の一般原則などに関するEU規則(EC/178/2002)が、欧州議会での可決およびEU農相理事会での承認を受けて、 2 月 1 日付けのEU官報に公示した。EFSAの主たる目的は、食品および飼料の安全に関して直接または間接的に影響を与えるすべての分野において、EUの規則と政策に対する科学的な助言および支援を行うことである。

 EFSAの役割および組織体制の概要は以下のとおりである。

(役割)

 EFSAの役割は、政策および規則に対して、EUにおける食品の生産・加工・流通および消費全般(フード・チェーン)の総合的な考察と、明確な科学的根拠を提供するというかなり範囲の広いものである。主な活動は、

・食品安全、その他の関連事項(家畜衛生・動物福祉、植物衛生、遺伝子組み換え(GM)作物、栄養など)について、欧州委員会、欧州議会、加盟国の要請に応じ、危機管理の決定の基礎となる、科学的なリスク評価の実施

・EUにおける食品安全性を監視するためのリスクなどに関するデータの収集・分析

・新たなリスクの特定

・薬品や加工物のEU域内における認可のために各企業が欧州委員会に提出した書類の評価

・食品安全性に関する危機が生じた際の、食品および飼料についての「緊急警戒システム」を通じた欧州委員会への科学的な支援

・EFSAの責任範囲での、一般消費者やその他の関心を持つグループに対する情報の直接的な提供

(組織体制)

 EFSAは、運営理事会、長官、諮問フォーラム、科学委員会で組織される。

 運営理事会は、消費者および業界関係者を含む欧州議会から指名された14名の代表と欧州委員会代表者 1 名の計15名で、任期は 4 年である。運営理事会の主な任務は、EFSAが効果的かつ効率的に機能することを確実にすることである。

 諮問フォーラムは、EU加盟国においてEFSAと同様の任務を担っている組織の代表者各 1 名、計15人で構成される。このフォーラムは、長官に対して、活動計画などに対する助言、科学的意見を求める要望についての順位付けについての長官からの質問への回答などを行う。

 科学委員会は異なる科学パネルにおける科学的意見の整合性を図ることが必要な場合の総合的な調整に対して責任を負う。科学パネルは、独立した科学者で構成される。科学パネルは、(1)食品添加物、香料などに関するもの、(2)飼料添加物、飼料成分に関するもの、(3)植物衛生、農薬およびその残留に関するもの、(4)GM作物に関するもの、(5)特定栄養食品、食品栄養およびアレルギーに関するもの、(6)生物学的危険(TSE/BSEを含む)に関するもの、(7)フードチェーンにおける汚染に関するもの、(8)家畜衛生および動物福祉に関するもの─の 8 つの分野が設置される。


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