1. 一般経済の概況
2 0 0 3年1月に発足したルラ政権は、飢餓撲滅を目標とする社会政策を打ち出す一方、経済政策面では、前年と大統領選挙前の不安定な情勢が招いたドル高レアル安や物価の上昇への対策として中央銀行の公定歩合を引き上げ、生産部門の反対を押し切って金融引き締め政策を取った。
この金融政策の効果で前年末に3 . 8 0レアルまで下落していた対ドルレートも2 . 9 0レアルに戻り、前年2桁台(1 4 . 7%)となっていたインフレ率を9 . 5%に抑えられた結果インフレ懸念が薄らぎ、下半期には2 6 . 5%に達していた政策金利を年末には16.5%に引き下げた。
物価の安定を図る経済政策目標は達成されたものの、高金利政策の下で遅滞した経済活動は多くの失業者を出し、消費者の購買力低下は経済各分野に影響を与えた。ブラジル地理統計院(I B G E)が全国6大都市を対象として調査した失業率は過去5年間で最大の1 0 . 9%となり、2 0 0 3年の実質国内総生産(G D P)成長率はマイナス0.2%となった。
低調な経済活動を余儀なくされたルラ政権1 年目の実績の中で、貿易収支だけは良好な成果を残した。すなわち、大豆を中心とする史上最高の穀類生産による輸出余力の増加に加え、中国の大豆需要や米国の干ばつによる大豆国際価格の上昇などにより、輸出額は前年比2 1%増の7 3 1億ドルとなり、貿易収支は2 4 8億ドルの黒字となった。
2. 農・畜産業の概況
ブラジルは、日本の約2 3倍に当たる8億5 , 1 0 0 万ヘクタールの国土を有しており、そのうち農場面積は3億5 , 3 6 0万ヘクタール(9 6年)で、国土面積の4 1 . 5%を占める。農場数は4 8 6万戸、1 農場当たりの平均面積は7 2 . 8ヘクタールであった。
9 9年の農業就業人口は、1 , 6 6 3万4千人と全就業人口(7,187万6千人)の約4分の1を占める。2 0 0 3年における主要農産物2 5品目(畜産物5 品目を含む。)の農業粗生産額は、主要穀物の価品格上昇により前年を2 9 . 3%上回る1 , 6 9 7億レアル(約5 5 6億ドル)となった。また、2 0 0 3年の農産およびその加工品の輸出額は3 0 7億ドルで、全輸出額の約4 2%を占めており、農業は国内の重要産業として位置付けられている。
3. 畜産の動向
ブラジルの肉牛生産は約1億8千万ヘクタールの広大な草地を利用した放牧肥育が中心で、インド原産のゼブーに属するネローレ種を主体に飼養されている。約1億7 , 8 0 0万人もの大消費市場を抱えるブラジルでは、牛肉生産の約8割が国内消費向けとなる。
2 0 0 3年の牛飼養頭数(乳牛を含む)は、1億9 , 5 5 5万頭となっている。牛の飼養頭数を州別に見ると、中西部のマットグロッソドスル州(シェア1 2 . 8%)、マットグロッソ州(同1 2 . 6%)、南東部のミナスジェライス州(同1 0 . 7%)、中西部のゴイアス州(同1 0 . 3%)の順となり、これら4州で全国の飼養頭数の4 6 . 3%を占める。また、国際獣疫事務局(O I E)が認めた口蹄疫ワクチン接種清浄地域(1 4州および連邦区)の飼養頭数は1億6 , 4 7 2万頭で全体の8 4 . 2%となる。なお、国内的なステータスとして南部地方のサンタカタリナ州がワクチン不接種清浄地域とされている。近年、主要生産国に家畜衛生問題が発生して以来、牧草主体の飼養で衛生管理状況が比較的良好なブラジルの牛肉需要が高まっていることが飼養頭数増加の要因とされている。
ア 生産動向
2 0 0 3年のと畜頭数は、前年比8 . 6%増の2 , 1 6 4万頭となった。種類別では、全と畜頭数の約5割を占める去勢牛は前年同となった一方で、同3 割を占める雌牛は、牧草地から大豆への転換が進んだ影響により、前年比4 1 . 0%の大幅増となった。平均枝肉重量は前年比2 . 5%減の2 3 0 . 0キログラムとなったが、と畜頭数の増加により、2 0 0 3年の牛肉生産量は前年比6 . 0%増の7 5 6万9 千トン(枝肉ベース)となった。
イ 輸出入動向
2 0 0 3年の輸出量(枝肉重量ベース)は、新規市場の開拓、既存市場のシェア拡大、小割りカットなどによる付加価値製品輸出の増加などから、前年比3 0 . 5%増の1 2 5万9千トンとなった。2 0 0 3年の輸出相手先は1 0 4カ国におよび、9 9年の40カ国から大幅に増加した。
ブラジルでは、O I E総会で9 8年に南部2州(2 0 0 0年に南部リオグランデドスル州で発生した口蹄疫によりステータスは留保され、2 0 0 2年に再認定)、2 0 0 0年に南部・中西部の1連邦区と5 州、2 0 0 1年に東部・中西部の6州、さらに2 0 0 3 年に北部1州がワクチン接種清浄地域として承認されるなど、家畜衛生に対する対外的信用と国内食肉産業の輸出志向が高まっている。
一方、2 0 0 3年の輸入量(枝肉重量ベース)は前年比10.8%減の6万6千トンなった。
ウ 消費動向
1人1年当たりの牛肉消費量は前年同の3 6キログラムとなった。
ブラジルでは、生体取引が主体であるが、生産者販売価格は、1 5キログラム単位で枝肉の建値を決める。2 0 0 3年の生産者販売価格(サンパウロ州)は、前年比1 9 . 0%高の1 5キログラム当たり57.67レアルとなった。
ブラジルの鶏肉生産量は、2 0 0 3年には7 6 4万5 千トンと過去最高を記録し、米国、中国に次ぐ生産量を誇っている。また、輸出量も米国に次いで多く、2 0 0 3年は生産量の2 5 . 1%の1 9 2万2千トンを輸出した。
好調な輸出需要に支えられ、2 0 0 3年のひなふ化羽数は前年比2 . 3%増の3 9億7 1 0万羽と過去最高となった。
ア 生産動向
2 0 0 3年のブロイラー生産量は、輸出が大幅に増加したことなどから、前年比2 . 6%増の7 6 4万5千トンと過去最高を記録した。しかし、ブロイラー生産量の約7割を占める国内消費向けが、景気停滞による所得の低下や輸出増に伴う国内価格の上昇などにより低迷したため、生産量の伸びは2 0 0 1年の9 . 8%増、2 0 0 2年の1 3 . 4%増に比べ小幅にとどまっている。
イ ブロイラーの輸出動向
2 0 0 3年の輸出量(骨付きベース)は、前年比2 0 . 1%増の1 9 2万2千トンと過去最高を記録した。形態別に見ると、丸どりが前年比4 1 . 5%増の7 9万8千トン、パーツが同5 8 . 5%増の1 1 2万4 千トンとなった。2 0 0 3年の増加要因としては、政府の後援による広告キャンペーンの実施などが奏功し、新規市場が開拓され、輸出先が1 2 2カ国に拡大したこと、中国やE Uでの鳥インフルエンザの発生による影響でブラジル産鶏肉に対する需要が高まったこと、輸出相手国のニーズに合わせ、製品の付加価値化を図ったことなどが挙げられる。
国別では、5月から関税割当制度を導入したロシアが前年比3 1 . 8%減の2 0万1 , 5 0 0トンとなったものの、丸どりの主要市場であるサウジアラビアが同1 4 . 8%増の2 8万8 , 1 0 0トン、次いでパーツの主要市場である香港が同3 9 . 2%増の1 9万9 , 3 0 0トン、日本が同1 2 . 6%増の1 8万4 , 9 5 0トンとそれぞれ前年を大きく上回った。
ウ 消費動向
1人1年当たりの消費量は、前年比3 . 0%減の3 2キログラムとなり、9 6年以来7年ぶりに前年を下回った。これは、国内経済の停滞と失業率の増加に加え、特に安価な鶏肉の消費層である低所得階層の購買力の低下を反映したものとみられる。
ア ブロイラー生産者販売価格
2 0 0 3年のブロイラーの生産者販売価格は、輸出量の増加などにより、前年比3 4 . 3%高のキログラム当たり1.45レアルとなった。
イ 卸売価格
ブロイラーの丸どり卸売価格は前年を2 5 . 3% 上回るキログラム当たり1.83レアルとなった。
ウ 小売価格
ブロイラーの丸どり小売価格(冷蔵・冷凍平均)は前年を2 9 . 9%上回るキログラム当たり2 . 7 1 レアルとなった。
4. 飼料穀物
世界のトウモロコシ生産の約5〜7%を占めるブラジルでは、養鶏、養豚などの畜産業を中心とした大消費国内市場が形成されている。また、飼料基盤の脆弱な北東部の養鶏生産者が、国産よりも割安の外国産トウモロコシに依存していることなどから、パラグアイ、アルゼンチンなどから一部輸入している。
ブラジルにおける農業政策は、1 9 9 1年1月に成立した農業法に基づいて実施されている。同法は、農業生産の拡大と生産性の向上、食糧供給の安定、地域格差の是正などを目的とし、主要な制度として、農業融資や取引支援策がある。また、これらの中心的メカニズムとしては、収穫時の価格暴落による農家のリスクを軽減し、生産者に対し生産者コストを保証する最低保証価格制度がある。最低価格は、毎年、作付け前に発表されるが、各作物別の新しい最低価格は、生産者の作付意向に影響する重要な要素となるため、作付けの方向を誘導する政策手段でもある。最低価格設定の対象となるのは、トウモロコシ、大豆、コメ、綿花、フェイジョン豆などの主要作物である。
2 0 0 3年度については、前年比2 5 . 8%増の3 2 5億レアルが農業融資資金として投入され、また、最低保証価格制度では、ルラ政権が最優先項目とする飢餓撲滅対策推進のため、基礎食料(米、フェイジョン豆など)や国内供給不足を回避するため生産の増加を必要とする作物(トウモロコシ、ソルガムなど)の最低価格を引き上げ、一方市場価格で収益が保証される作物(大豆、綿花など)の価格を低く設定した。
2 0 0 2/0 3年度のトウモロコシ生産量は、前年度比3 4 . 4%増の4 , 7 4 1万トンと過去最高となった。これは第1期作が天候に恵まれ、1ヘクタール当たりの収量が増加したことや第2期作の値上がりを予想した作付けの増加などが要因となっている。一方、大豆もここ数年生産記録の更新を続けており、2 0 0 2/0 3年度についても過去最高の5 , 2 0 0万トンとなった。これは作付面積の増加や機械類の更新をはじめとする生産資材への投資などが生産量の増加要因となった。また、その収益性の高さから、トウモロコシ、米、綿花から大豆への転換が進み、大豆の作付面積は年々増加を続けている。
2 0 0 2年後半から0 3年当初にかけて6 0キログラム当たり2 0〜2 5レアルで推移していたトウモロコシ生産者販売価格(サンパウロ州)は第1期収穫後は1 4レアル台に低下したが、第2期収穫後上昇に転じ、0 3年平均は前年比1 8 . 3%高の18.32レアルとなった。
第1回南米南部農牧審議会の開催
メルコスルなどの農業担当大臣が集まる
ブラジル農務省によれば、2 0 0 3年5月3 0日および3 1日にメルコスル(南米南部共同市場)に加盟または準加盟している6カ国の農業担当大臣がブラジルの首都ブラジリアに集まり、第1回南米南部農牧審議会(CAS)が開催された。各国の主な出席者は以下のとおり。
(加盟国)
アルゼンチン:カンポス農牧水産食糧庁長官
ウルグアイ:ゴンサレス農牧水産大臣
パラグアイ:バウンガルテン農牧大臣
ブラジル:ロドリゲス農務大臣
(準加盟国)
チリ:カンポス農業大臣
ボリビア:ニエメ農業・農村開発副大臣
2 0 0 2年7月にメルコスルなどの農業担当大臣が集まった際にウルグアイのゴンザレス大臣がこの審議会について初めて提唱し、その後2 0 0 3年2 月にブラジルのロドリゲス大臣とゴンザレス大臣の会談時に、「メルコスルとチリ・ボリビアの6 カ国の農相などで審議会を設置し、W T O、F T A A (米州自由貿易地域)、対E Uなどの国際交渉に向けて、さらに力を合わせる必要がある。3月から新たな機関を設置するため、他のメルコスル諸国およびチリ・ボリビアと協議していきたい」とのコメントが発表された。その後、3月1 0日、ブラジルとアルゼンチンの間で審議会設置に係る協定が締結されたのを皮切りに関係各国が協定を締結し、今回開催の運びとなった。
委員長には審議会の設立を提唱したウルグアイのゴンザレス大臣が就任し、事務局は委員長国の米州農業協力機関(I I C A)事務所が担当することになった。今後は、少なくとも年1回以上開催することになる。
審議会の目的は国際交渉力の強化
会議後発表された閣僚宣言によれば、C A Sの目的は、メルコスルなど6カ国の地域内貿易を簡易化し、農業および食料輸出における国際的な立場を強化することである。アルゼンチン農牧水産食糧庁によれば、この目的を達成するため、以下のことが今後の主なテーマになるとされている。
- 食料によってもたらされるものも含め、病害虫の管理・予防・撲滅のため、各国の動植物衛生状況を把握し、地域内の衛生基準の同一化を図るための調整を実施
- B S Eの清浄地域ステータスの維持および口蹄疫の撲滅期間短縮を目的とした家畜衛生に関する戦略的優先事項の設定
- 国際獣疫事務局(O I E)やC O D E Xなどの国際基準を協議する際に、メルコスルなど6カ国の認識をなるべく共通なものに調整
- メルコスルにすでに設置されていた@植物衛生(ボリビアは今回新たに加入)やA技術協力のための委員会に加え、新たにB常設獣医委員会(C V P)を設置し、三分野における各国の連携を強化
- 新たな国際間の課題や要望に対応するためには優れた人材を育成する必要があり、そのため各国の農牧省は農業大学を人的または資金的に支援
(注)米州農業協力機関( I I C A):米州機構(O A S:米国、カナダおよび全中南米諸国の計3 5 カ国が加盟)の中の専門機関の1つ。農業の発展と農村の生活改善を促すため、加盟各国間の協力を奨励し、支援することを目標としており、本部はコスタリカに設置されている。