海外編

 VI 中国 

1. 一般経済の概況

中国の経済は、9 6年から2 0 0 0年までのデフレ時代を経て、実質国内総生産(G D P)成長率は7〜8%という水準を維持している。これは、工業生産の拡大、海外からの投資拡大や国民生活水準の向上による消費の伸びなどがその要因として挙げられる。2 0 0 3年の実質G D P成長率は、S A R Sまん延などの悪影響があったものの、前年を1 . 3ポイント上回る9 . 3%と9 7年以来最も高い伸びを示した。2 0 0 3年の都市部登録失業率は、国有企業改革の影響などから前年を0 . 3ポイント上回る4.3%となった。

なお、中国は世界最多の1 2億9 , 2 2 7万人の人口を有しているが、その6割は農村部に住んでおり、都市部との貧富の格差が著しいのが実態である。今後、都市部への大規模な人口流入による混乱も危ぐされている

2 0 0 3年の消費者物価上昇率は、住宅、自動車、通信関連などの需要がおう盛であったため1 . 2% の上昇となった。

貿易収支は、2 0 0 1年の世界貿易機関(W T O) 加盟に伴い、関税品目の約7割の輸入関税が引き下げられたことなどから、2 0 0 2年以降輸出、輸入とも大きく増加しており、2 0 0 3は輸出、輸入とも前年をそれぞれ3 4 . 6%、3 9 . 9%上回る大幅な伸びを示し、255億ドルの黒字となった。

2. 農・畜産業の概況

中国は、日本の約2 6倍に当たる9 6 0万平方キロメートルの国土を有しており、そのうち耕地面積は9 , 6 5 6万ヘクタール(期首耕地面積に期間増減面積を加えて推計)(2001年)であった。

一方、農業労働力(林業、牧畜、漁業を含む) は、農村人口が8 0年の8 1 , 0 9 6万人から2 0 0 3年の9 3 , 7 5 1万人、農村労働力人口が8 0年の3 1 , 8 3 6万人から2 0 0 3年の4 8 , 9 7 1万人と増加傾向が継続しているものの、9 0年代後半からの郷鎮企業の発展・拡大などによりその伸び率は鈍化している。

また、農家経営規模を農業労働力一人当たり耕地面積と耕地利用率でみてみると、農業労働力一人当たり耕地面積では、農業労働力人口が8 0年の2 9 , 8 0 8万人から2 0 0 1年の3 2 , 4 5 1万人(2 0 0 2 年では3 1 , 9 9 1万人)と大幅に増加していることから8 0年の3 3 . 3アールから2 0 0 1年の2 9 . 8アールへと減少している。

農林牧漁業の総産出額および部門別の生産額の推移を見ると、総産出額は8 5年から9 5年の1 0 年間で大幅な増加を見たが、9 5年以降は緩やかな増加で推移している。

生産額の分野別構成比では、農産物は8 0年に全生産額の7 5%であったが、2 0 0 3年では5 0%と低下し、畜産物が1 8%から3 2%、水産物が2% から1 1%へと増加しており、国民所得向上による消費構造の変化がうかがえる。

3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

中国の酪農は、古くは遊牧民が黄牛やヤクの乳を利用して乳製品に加工する自給自足型の農業であったが、改革開放政策が実施された以降、急速に発展している。また、経済発展に伴う生活水準の向上により、都市部を中心とした食生活の西洋化から牛乳の消費も拡大している。しかしながら、F A Oによると2 0 0 3年の中国の生乳生産量は1 , 7 8 2万トン、世界第7位(全世界のシェア3 . 5%)となっており、1 2億9 , 2 2 7万人を抱える世界一の国の生産量としては、依然として非常に低い水準となっている。また、生産拡大に向けて乳牛の改良や飼養管理、衛生問題、粗飼料確保に加え、コールドチェーンなどの流通体制の整備など今後に向けての課題も多い。

@政策

国家評議会は8 9年、酪農・乳業を初めて国家経済の発展を推進するための重要な産業と位置づけ、融資、技術、インフラ支援などの政策を確立した。国務院は9 7年、「全国栄養改善計画」により、酪農・乳業を重点的発展産業とするとともに、2 0 0 0年には学童に対する飲用牛乳の摂取を促進し、牛乳・乳製品の消費拡大に資する「学童牛乳飲用計画」を実施した。その後も酪農・乳業企業が、重要な発展企業として援助されることが決定されるとともに、生乳生産基地の発展計画などが相次いで実施に移されている。

A生乳の生産動向

ア.飼養頭数

乳用牛の飼養頭数は、近年一貫して増加傾向で推移しているが、特に2 0 0 2年は前年比2 1 . 4% 増の6 8 7万頭、2 0 0 3年は同5 7 . 8%増の8 9 3万頭とその伸びが著しくなっている。

中国の乳用牛は、その3分の1程度がホルスタイン種などの純粋種、残りがホルスタインとの交雑種であると言われている。主要な乳牛は、中国黒白花種(輸入ホルスタイン雄牛と中国の黄色乳牛雌牛との交雑種)であるが、乳肉兼用種も飼養されていることから、乳牛の生産性は低く、中国の1頭当たり年平均生乳生産量は約3,500〜4,000キログラムとされている。

イ.生乳生産量

生乳生産は、牛乳の栄養知識の普及などによる消費拡大に刺激されて増加している。生乳生産量は、9 8年以降一貫して増加傾向で推移しており、特に2 0 0 1年が前年比2 3 . 9%増、2 0 0 2年が同2 6 . 7%増、2 0 0 3年が同3 4 . 4 %増となっており、2 0 0 0年の生乳生産量8 2 7万トンに対し、2 0 0 3年は1,746万トンとわずか3年間で倍増した。

ウ.地域別生産動向

生乳生産は、そのほとんどが中国北東部で行われており、農業地域および放牧地域で全体の半分を占めている。2 0 0 3年の主産地の生乳生産量は内蒙古自治区3 , 0 8 0千トン(全国シェア1 7 . 6%)、黒龍江省3 , 0 0 5千トン(同1 7 . 2%)、河北省1 , 9 7 9千トン(同1 1 . 3%)山東省1 , 2 4 4千トン(同7 . 1%)、新彊ウイグル自治区1 , 1 3 0千トン(同6 . 5%)、などとなっている。なお、飼養頭数の最も多い地域である放牧地帯の内蒙古自治区および新彊ウイグル自治区は飼養頭数シェア3 5 . 5%、生乳生産シェア2 3 . 4%となっているが、特に内蒙古自治区の生乳生産量は、前年を8 6 . 4%と上回り、2 0 0 3年に黒龍江省を抜いて全国第1位となった。

また、北京、天津、上海などの大中都市郊外でも生産が行われており、生産量はそれぞれ6 3 3 千トン、4 3 2千トン、2 7 1千トンとなっており、近年急速に増加している。この要因としては、生産規模や飼養管理水準が高いことに加え、輸入乳用牛の能力も高いことが挙げられる。

B牛乳・乳製品の需給動向

ア.飲用乳

2 0 0 3年の飲用乳消費量は、前年比3 4 . 4%増の1 , 7 4 4万トンとなった。中国における牛乳・乳製品の消費量は近年、生活水準の向上に伴う食生活の多様化や牛乳・乳製品の栄養価値の普及、啓もうなどの消費拡大対策の奏功から、大都市における牛乳・乳製品の消費は近年大幅に増加している。しかしながら、農村部における消費量は、食文化の伝統などから依然として非常に少ないものとなっている。2 0 0 3年の1人当たり牛乳乳製品の消費量は1 . 7 1キログラムとなっている。しかし、都市部の牛乳消費量は1人当たり1 8 . 6 2キログラムとなっており、5年前の9 8年と比較すると3倍にまで増加している。

イ.乳製品

乳製品の生産は、粉乳が主体となっており、チーズ、バターはほとんど生産されていない。2 0 0 3年の全粉乳および脱脂粉乳の生産量は、飲用仕向けの増加によりそれぞれ7 5万トン(前年比3 0 . 0%増)、8万3千トン(同1 5 . 3%増)となった。

2 0 0 3年の全粉乳および脱脂粉乳の輸入量は、W T O加盟に伴い粉乳の関税率が引き下げられたことから、それぞれ9万1千トン(同18.2%増)、5万1千トン(4 5 . 7%増)となった。輸入国はニュージーランド(N Z)、豪州、米国などからであるが、N Z、豪州の2国で全体の約9割を占めている。輸入乳製品は、品質面で国産より優位であること、また、国内で生産されないチーズなどの品目もあるため、北京、上海、広州などの大都市部での需要が高くなっている。

(2)肉牛・牛肉産業

中国の肉牛生産の歴史は新しく、9 0年代に入りそれまでの役畜の飼養から本格的な牛肉生産への取り組みが始められた。F A Oによると2 0 0 3 年の中国の牛肉生産量は6 0 2万トン、米国、ブラジルに次ぐ世界第3位(全世界のシェア1 0 . 3%)となっている。しかし、北京、四川、上海、広東の4大系統の中国料理においてその食材として牛肉が利用されることはあまりなく、肉類の消費の中で牛肉は最も低いものであった。また、従前は、牛肉のほとんどが役畜の老廃牛由来のものであったが、近年の肉牛改良に伴う肉質向上や所得向上により、生産、消費とも増加している。しかし、牛肉の消費量は世界的にみれば依然として非常に低い水準となっている。

@牛の飼養動向

2 0 0 3年の牛飼養頭数(乳牛を除く)は、1億2 , 5 7 4万頭と前年を2 . 6%上回った。牛のうち約1 億頭が黄牛(水牛およびヤクを除く在来種)と呼ばれる役肉兼用型で、全国の約4分の3を占めている。このため、純粋種が少なく交雑種がほとんどのため、改良面での制約が大きく、枝肉重量も小さいのが現状である。2 0 0 3年の平均枝肉重量は、1 3 4 . 1キログラムであった。黄牛のうち秦川牛、南陽牛、魯西牛、晋南牛が肉用優良品種とされており、これらは、主に中央平原地帯で飼養されている。

牛の飼養頭数を地域別に見ると、伝統的な放牧地帯である西部地帯(内蒙古自治区、甘粛省、新彊ウイグル自治区、青海省、チベット自治区) に加え、中央平原地帯(河南省、河北省、山東省、安徽省など)、北東地帯(黒龍江省、吉林省、遼寧省)が主な飼養地帯となっている。

なお、中国の人口増加により、耕作適地は換金性の高い耕種作物が作付けされるため、粗飼料生産費の上昇を招いている。これに加えて野草地などの放牧地が不足しているため、過放牧となり土壌流出などの環境問題も発生しており、牛飼養頭数の大幅な拡大を阻害する要因となっている。

A牛肉の需要動向

2 0 0 3年の牛肉生産量は、前年を7 . 8%上回る6 3 0万4千トンとなった。主要な生産地区の生産量をみると、河南省9 3 万トン(全国シェア1 4 . 8%)、山東省7 9万7千トン(同1 2 . 6%)、河北省7 8万6千トン(同1 2 . 5%)、吉林省4 0万3千トン(同6 . 4%)、安徽省3 4万9千トン(同5 . 5%) などとなっている。

1人当たり牛肉消費量は、経済成長による需要の伸びから9 8年と2 0 0 2年を比較すると、3 . 8キログラムから4 . 6キログラムと増加し、年平均伸び率は4.5%となった。

2 0 0 2年の牛肉輸入量は、W T O加盟に伴う関税率の引き下げから1万6千トンと前年の1 . 7倍となったものの、2 0 0 3年は1万2千トンと前年を2 5%下回った。主な輸入先は豪州、N Zとなっており、輸入牛肉は、国産と比較して高品質なため、大都市の高級ホテル用に供給されている。

2 0 0 3年の牛肉輸出量は、4万3千トンと前年を2 . 3%下回った。中国からの牛肉輸出は主に香港、ロシア、中近東向けに行われている。

(3)養豚・豚肉産業

豚肉は、食肉全体の消費量の3分の2を占めており、歴史的にも最も好まれている食肉である。F A Oによると2 0 0 3年の中国の豚肉生産量は4,623万トンと世界第1位であり、そのシェアは、全世界の約半分を占めている。しかしながらと畜頭数と飼養頭数との割合をみると、欧米諸国では1 . 5倍以上となっているのに対し、1 . 2 7倍と近年生産性は向上しているものの、依然として欧米水準には達していない。また、生活水準の向上に伴う、国民の赤肉志向により、脂肪の多い中国在来種と赤肉の多い外来種との交雑による品質改善が取り組まれている。

@豚の飼養動向

2 0 0 3年の豚飼養頭数は、4億6 , 6 0 2万頭と前年を0 . 8%上回った。従来から農家の副業として2 〜5頭程度の豚を飼養し、有機肥料としてのたい肥利用が行われている。近年は大規模な専業経営の養豚農場も都市近郊を中心に増加しているものの、このような副業経営が、出荷頭数に占めるシェアで4分の3と依然として豚肉生産において重要な地位を占めている。

A豚肉の需給動向

2 0 0 3年の豚肉生産量は、前年を4 . 4%上回る4 , 5 1 8万6千トンとなった。生産量は、9 0年から9 5年にかけて5 8%増加したが、近年は安定的に推移している。2 0 0 3年の豚の飼養頭数を地域別に見ると、中央平原地帯である四川省5 , 5 6 5万頭(全国シェア11.9%)、湖南省4,109万頭(同8.8%)、河南省3 , 9 1 4万頭(同8 . 4%)、山東省2 , 9 7 5万頭(同6 . 4%)、河北省2 , 7 6 3万頭(同5 . 9%)、広西省2 , 6 3 8万頭(同5 . 7%)などどなっており、6省で全体の47%を占めている。

1人当たり豚肉消費量は、経済成長による需要の伸びから9 8年と2 0 0 2年を比較すると、3 1 . 0 キログラムから3 3 . 6キログラムと増加し、年平均伸び率は2.0%となった。

2 0 0 3年の豚肉輸入量は、1 4万9千トンと前年を2 . 8%上回った。主な輸入先は米国、カナダ、デンマークとなっており、主として大都市の高級ホテル、レストラン用に供給されている。

2 0 0 3年の豚肉輸出量は、2 8万2千トンと前年を3 0 . 6%上回った。中国からの牛肉輸出は主にロシア、香港、シンガポール、北朝鮮など近隣諸国向けに行われている。また、香港向けを主体として生体輸出も2 0 0 3年は約1 7 6万頭行われている。

(4)鶏肉産業

中国の養鶏は、7 0年末の農政改革を契機として大きく発展し、豚肉に次ぐ食肉として消費されるとともに、輸出産業としても位置付けされるようになっている。F A Oによると2 0 0 3年の中国の鶏肉生産量は9 6 6万トンと米国に次いで世界第2位であり、そのシェアは、全世界の1 5%を占めている。これは、国内のみならず海外資本を導入したインテグレーションによる契約生産により海外の優良品種や生産技術の導入などに伴う生産性の向上が大きく寄与している。

@鶏肉の生産動向

2 0 0 3年の鶏飼養羽数は、5 0億6千万羽と前年を6 . 8%上回った。養鶏産業はインテグレーションによる急成長から、9 8年以降供給過剰に陥り、価格が低迷したため、輸入鶏(ブロイラー)から国内需要の高い、中国人の好みに合う風味や歯ごたえのある在来鶏、いわゆる地鶏への生産転換が国内向けに行われている。在来鶏と輸入鶏との交配による品種改良も盛んに行われており、鶏肉生産の約半分がこの改良種により行われている。

2 0 0 3年の鶏肉生産量は、前年比3 . 6%増の9 8 9 万8千トンとなり、近年一貫して増加傾向で推移している。

A鶏肉の需給動向

鶏肉輸出は、2 0 0 1年後半以降、家畜衛生や飼養管理という困難な問題に直面している。すなわち、鳥インフルエンザ、ニューカッスル病の発生に加え、抗生物質の残留問題などにより、E Uや日本において中国産鶏肉などの輸入一時停止措置が講じられた。このため、2 0 0 3年の鶏肉輸出量は、前年を1 1 . 4%下回る3 8万8千トンとなった。なお、鶏肉の輸出量は、生産量の約4%を占めるに過ぎない。

B鶏肉の価格動向

2 0 0 2年の鶏肉の生体卸売価格は、前年比0 . 7% 高のキログラム当たり7 . 3 5人民元となった。2 0 0 3年は上半期のS A R Sによる影響があったものの、その後急速に回復し、加工品を中心とした消費量の増加などにより、前年比8 . 9%高のキログラム当たり8 . 0 0人民元となった。また、鶏肉の2 0 0 3年のと体小売価格は前年を0 . 8%下回るキログラム当たり9.25人民元となった。

2003年の中国の食糧生産はかなりの減産へ

中国の食糧生産動向が世界的な関心事に

中国では近年、目覚しい経済発展が持続していることから、所得向上に伴う食糧(米、小麦およびトウモロコシのほか、豆類と芋類を含む)の需要の増大や、食生活の西洋化による肉類消費の増加が顕著化している。

9 4年、それまで増加傾向で推移していた中国の食糧生産が前年を割り込み、突如トウモロコシの輸入国に転じたことから、9 5年に米国のワールドウォッチ研究所のレスター・ブラウン所長は、「誰が中国を養うのか」という論文を発表し、中国の食糧消費の増大、特に肉類消費の急増が世界の穀物需給をひっ迫させるのではないかとの警鐘を鳴らした。

食糧生産はその後、政府が買付価格を引上げるなど耕種農家の増産意欲を喚起したため増産に転じ、9 0年代後半は年間5億トン前後の最高水準の生産が続いた。しかし、供給過剰による価格低迷という問題に直面したため、政府は買付価格を引き下げるとともに野菜などの換金作物への生産シフトを進めた。その結果、近年の食糧生産は4億5千万トン前後を維持していた。

2003年は前年比5.8%減の4億3,070万トン

しかしながら、2 0 0 3年の食料生産量は前年比5 . 8%減の4億3 , 0 7 0万トンと9 1年の水準まで減少した。そのうち、飼料穀物として重要なトウモロコシは同4 . 5%減の1億1 , 5 8 3万トンと、食糧全体に比べて減少幅は小さいものの3年ぶりの減少となっている。

中国政府は、減少に至った最大の要因として、生産地において干ばつや水害などの自然災害が多発したことを挙げている。しかし、その一方で、今回の食糧減産の背景には、工業化が進む中国において農業の脆弱化が進行しているとみる向きもある。食糧を増産しても収入が上がらないため、農民はほかの換金作物に生産をシフトさせているとされ、こうした状況が続けば国際的に穀物需給がひっ迫する中で、中国が世界の食料需給の撹乱要因として再び浮上する可能性をはらんでいると言える。

2 0 0 4年農業の最重要目標として、食糧生産4億5,500万トンを掲げる

食糧生産のかなりの落ち込みによる将来的なひっ迫の危機感から、2 0 0 3年には中央農村工作会議が異例とも言える年2回開催された。この会議では、2 0 0 4年の農業の最優先課題として食糧生産量を前年比5 . 6%増の4億5 , 5 0 0万トンにまで回復させることや、農民収入を約5%増加させることなどを掲げるとともに、農業税率の引き下げや食糧生産農家への直接補助、農業への財政投入増加など、3農問題(農業問題、農民問題、農村問題) の解決を根本に据えた政策を打ち出している。会議に出席した胡錦涛国家主席は、3農問題の解決なしに食糧生産の回復、ひいては中国経済の持続的発展および社会の安定は実現できないとして、これらの問題の解決の重要性をアピールした。

トウモロコシ生産地と畜産地域の連携が課題

黒龍江省、吉林省および遼寧省の中国東北部は、肥よくで広大な土地を生かしたトウモロコシなど飼料作物の最大の産地である。中国統計年鑑によると、2 0 0 3年のトウモロコシの生産量は1億1 , 5 8 3万トンで、うち吉林省は1 , 6 1 5万トン(全国第1位)、遼寧省は9 0 7万トン(同4位)、黒龍江省は8 3 1万トン(同6位)となっており、これら東北3省で全国の3割を占めている。一方、中国の畜産で最も重要な養豚業が盛んな地域は四川省(豚飼養頭数5 , 5 6 5万頭、2 0 0 3年:全国第1位)、湖南省(同4 , 1 0 9万頭、第2位)および河南省(同3 , 9 1 4万頭、第3位)などをはじめとした中南部地域であり、畜産の主要生産現場とそれを支える飼料生産地との間で地域間の需給アンバランスが生じている。輸送距離が長いため、コストと時間を要することが構造的な問題とされてきた。

しかしながら、こうした構図も近年は東北部やその近辺における畜産物の消費量が増加してきたことで変化しつつある。吉林省では省政府による「食糧を食肉へ」キャンペーンにより、畜産の生産性を高めることで農民の所得増大に成功した。これに加えて、飼料穀物の東北部から中南部へのスムーズな移入を促進するとともに、生産性および品質向上を狙った品種への転換や飼料産業の育成などを図っていくことが政府の今後の狙いになると思われる。