海外編

 IV 東南アジア 

1. 一般経済の概況

東南アジア諸国連合(アセアン)加盟国の経済は、一部の国で域内イスラム過激派などの活動による緊張が継続し、海外からの投資意欲が低下するとともに、重症急性呼吸器症候群(S A R S)の発生により一時期人の移動の制限などが強化された。しかし、外国直接投資が中国への一極集中を是正する動きから3年ぶりに増加に転じたことや、貿易自由化の進展などにより、おおむね、各国とも前年以上の実質国内総生産(GDP)の伸びを記録した。

ブルネイは原油、石油製品および液化天然ガスなどが輸出総額の9割を占めるという天然資源への過度の依存からの脱却を目指して、経済の多角化を図るため、第8次五カ年計画(2 0 0 1 〜2 0 0 5年)が進められている。2 0 0 2年には外資の導入による新たな産業の育成を目指したブルネイ経済開発委員会( B E D B)が設立された。一方、近年の厳しい財政状況の下、政府職員の採用を控えており、失業率は約5%と上昇している。

カンボジアは2 0 0 3年7月末に総選挙があり、フンセン首相が率いるカンボジア人民党(C P P) が1 2 3議席のうち7 0議席を確保した。2 0 0 3年の実質G D P成長の伸びは5 . 1%だった。また、消費者物価上昇率は1 . 1%と落ち着いた動きとなった。主要輸出品である繊維製品の輸出総額に占める割合は2 3%と前年の1 3%に比べて大きく伸びている。しかし繊維製品の輸出の7 0%が米国に仕向けられており、その輸出枠の設定は2 0 0 4年までとなっている。また、もう一つの外貨獲得産業は観光であり、実質GDPの20%を占めている。

インドネシアは、9 7年1 1月以降、国際通貨基金(I M F)から金融支援を受け、そのプログラムの下で燃料への補助金などの削減を実施してきたが、2 0 0 3年1 2月にはI M Fとの融資契約を終了した。2 0 0 3年の実質G D Pの伸びは前年比4 . 1% で、インフレの低下、株価の上昇などが認められる。ただし、2 0 0 2年のバリ島のディスコ爆破事件以後もテロ事件が続発しており、治安の悪化などが海外投資家の懸念材料になっている。

マレーシアは、2 2年間指導者の座にあったマハティール首相が2 0 0 3年1 0月末に引退し、その後をアブドラ首相が継いだ。2 0 0 3年は米国経済の減速、イラク情勢の悪化やS A R Sの懸念などの影響にもかかわらず、5 . 2%の経済成長を維持した。また、1 0月には第8次マレーシアプランの中間見直しが行われ、基本的な政策に大きな変化は見られないものの、2 0 0 1〜2 0 0 5年の年間平均実質G D P成長率の見通しが7 . 5%から4 . 2%に下方修正された。

ラオスは、2 0 0 3年の実質G D Pの伸びが5 . 8%と前年並みであったが、消費者物価上昇率が前年の1 0 . 7%から1 5 . 5%に上昇した。人口の8割が農村部に居住し、農業が実質G D Pの約半分を占めるが、その伸び率は2 . 2%であった。一方、工業とサービス業は1 1 . 2%および7 . 4%と高い伸びを示した。水力発電による電力、繊維製品および木材製品が輸出を主導しているが、輸出相手国の第1位は、2 0 0 1年から電力輸出などでタイとなっている。

ミャンマーは、政府が2 0 0 2年5月に1 9カ月ぶりに軟禁状態から開放したアウンサウンスーチー女史を再度軟禁状態に置いた。同女史の取り扱いに関してはアセアンの中でもマレーシアやインドネシアからも批判が出ている。2月には金融機関の破綻が相次いだ。2 0 0 3年の消費者物価上昇率は未公表であるが、前年の4 0%を下らないと見込まれる。

フィリピンは、堅調な個人消費の伸びを背景に実質G D P成長率4 . 5%と前年と同等の伸びを見せた。海外企業のコールセンターなどの通信セクターを中心にしたサービスも引き続き高い伸びを見せた。しかし、財政赤字に関しては一部に改善が見られたものの、3月に財政赤字の健全化の目標を2 0 0 6年から2 0 0 9年へ先送りした。この原因の一つに、徴税システムの不備が指摘されている。また、3〜4月にかけて爆弾テロが発生し、治安に対する不安は、海外からの投資の障害になっている。

シンガポールは、政府は2 0 0 3年の経済見通しを当初2〜5%としていたが、3〜5月にかけてS A R Sの影響により観光および運輸業が大きな打撃を受けたことから、第2四半期の実質G D P 成長率はマイナス4 . 2%を記録した。8月に政府は、経済成長見通しを0〜1%に下方修正した。年後半には海外需要が好転し、年間では1 . 1%の成長となった。

タイは、1 9 9 7年の経済危機時のI M F債務を2 0 0 3年に返済完了した。S A R Sが観光業に影響したものの、実質G D P伸び率は、6 . 7%と経済危機後最高の成長を示した。これはタクシン政権の景気刺激策が奏功し、個人消費と民間部門の投資が伸び、さらに輸出入の伸びが寄与したためと考えられている。また、積極的な貿易市場拡大策の下、インドとの間に自由貿易協定(F T A) が締結された。

ベトナムは、2003年にSARSが発生したものの、内外ともに強い需要が着実な経済成長を支え、実質G D Pの伸びは7 . 3%となった。工業分野の伸びが1 0 . 3%と前年に引き続き高く、サービス分野がほぼ前年並みの6 . 6%だった一方、農業分野は4 . 2%から3 . 3%とスローダウンした。国際関係では、米国使節団が訪問するとともに米国産航空機の購入など、米国との関係改善の動きが目立った。これらの動きは将来のW T O加盟を意識したものと考えられる。

2. 農・畜産業の概況

アセアン1 0カ国のうち、シンガポールとブルネイは、G D Pに占める農業の割合が5%以下と低く、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアは、G D Pに占める農業の割合が9%〜 1 0%台となっている。ベトナムは同2 2%となっているが製造業の発展により、これら4カ国の状況に近づきつつある。これら5カ国では、多くの農村人口を抱えており、農村が失業者の緩衝機能を果たしているといわれている。

また、米などの主要作物の価格が政策的に低く抑えられているため、農業分野の生産額が高くならないという特徴も有している。G D Pに占める農業の割合については、カンボジアが4 0% に満たないものの、ラオスが5 0%を若干下回り、ミャンマーは、60%となっている。

これら政情不安が長引いたカンボジアなどの国では、ほかの産業が育っておらず、相対的に農業の比重が高くなっているが、政情の安定化に伴って農業の比重が低下してきている。

マレーシアは、油ヤシ、ゴムなど永年性作物の栽培が多く、油ヤシの下草などを利用した畜産物の生産拡大の可能性はあるものの、将来的に食用作物栽培が増え、飼料資源が拡大するとは考えにくい。一方、フィリピンは、トウモロコシ、米などの食用作物が中心となっている。アセアン諸国中、ベトナム、タイ、ミャンマーは米の輸出国である。

畜産物の生産量は、食習慣、宗教、エネルギー事情などを反映して、各国ごとに畜種の重要度が異なっている。

3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

東南アジア諸国では、一般に牛乳・乳製品は、伝統的食文化としての位置付けが低く、また、気候条件が酪農にあまり適していないことや良質な飼料が得られにくいことなどもあり、酪農・乳業は欧米諸国に比べて活発ではない。従来から、乳製品の主体は全粉乳などの粉乳類か、缶入り加糖れん乳主体であったが、冷蔵施設の普及に伴い、特に各国都市部及びその周辺では飲用乳の需要も高まりつつある。

東南アジアでは、各国とも牛乳・乳製品の自給自足にはほど遠い現状にあるが、生乳生産、工場インフラ、地理的条件などを総合的に考慮すると、将来的には、輸入乳製品からの還元乳の製造を含め、タイやベトナムがインドシナ半島諸国の牛乳・乳製品供給基地になるとの見方が有力であり、2億を超える人口を擁し、ジャワ島を中心に近年経済発展を遂げているインドネシアにおける需要の伸びも期待されている。

東南アジアでは、乳脂肪の一部または全部を価格の安いパーム油などの植物性脂肪で置き換えた、国際規格上は乳製品表示の行い得ない模擬乳製品が普及しており、これに加えて、各国統計上の取り扱いもあいまいであることから、乳製品に対する需給は概して不透明なものとなっている。

@生乳生産動向

乳牛の飼養頭数は、タイとインドネシアで増加し、マレーシアは総飼養頭数およそ3万3千頭(半島部頭数と全体生乳生産量から推計)と、他のアセアン諸国に比べて少ないものの、2 0 0 2 年は前年比で6%程度の伸びを示した。

タイの乳牛飼養頭数は、9 8年以降減少に転じ、9 9年に2 8万3千頭と底を打ってからは増加を続けており、2 0 0 3年には前年に比べ6 . 1%増の3 8万頭となっている。同年の生乳工場における処理量(表4の国内生産量)は6 9万8千トン、このうち9割は飲用乳に加工され、残りはヨーグルトなどに加工されている。近年の生乳生産量の増加は国内における牛乳消費量に大きな比重を占める学乳供給が政策的意図により拡大しており、2 0 0 1年から学校供給用牛乳に国産生乳の1 0 0%使用が義務付けられたことなどに伴って生産者が増頭を図ったことなどが主な要因と考えられる。

インドネシアは乳牛飼養頭数がタイに次いで多いものの、そのほとんどはジャカルタなど大消費地に隣接するジャワ島の冷涼な気候の山岳地域で飼養されている。同国では遺伝的能力の高い繁殖牛の不足に加え、平均飼養頭数約3頭と零細な経営が多くを占めており、技術指導の不徹底などの問題を抱えているものの、2 0 0 3年は中央ジャワ州で8千頭余り増加したことをはじめ、ジャワ島各州の増頭により、前年比4 . 5% 増の3 7万4千頭となっている。また生乳生産は特別市を含むジャワ島5州でインドネシア全体の生産量5 5万3千トンの9 8%以上を占めている。同国は政府が乳用牛増頭計画を掲げているものの、計画達成のための一つの方策である人工授精はジャワ島以外では極めて限定的であることや、2 0 0 0年以降計画に沿った人工授精が行われていないことなどにより増頭計画が思うようにはかどっておらず、主要生産州の中には豪州からの生体牛輸入による増頭を要望するなどの動きが見られる。

マレーシアは政府統計の整理上、ボルネオ島のサバ・サラワク2州については乳用牛というカテゴリーで頭数を公表していないため生乳生産量から全体飼養頭数を推計した。このうちサバ州は州政府の政策により酪農振興が行われており、一定規模の生乳生産が見られるがサラワク州では振興政策がないことから、酪農場は1 件のみとなっている。したがってマレーシアの乳用牛飼養場所は半島部が大半を占めており、大消費地であるシンガポールに隣接するジョホール州が全体の約3割を占め、最大である。また、同国の乳用牛は8割以上がホルスタイン交雑種である。同国は歴史的に天然ゴムや油ヤシのプランテーションのための土地開発が多く、反すう家畜のための飼料基盤の不足から政府の振興策ははかどっていない。2 0 0 2年の乳用牛頭数は半島部で2万8千頭とされる。

表には示していないが、ミャンマーは主に北部マンダレーなどで交雑種を中心に乳用牛を飼養し、政府発表に従えば7 6万2千トン(2 0 0 1年度)の生乳を生産している。これが事実であれば生乳生産量としてはアセアン諸国中最大であり、ここ数年はやや増加傾向で推移しているとされている。同国では冷蔵施設の不備などから生乳としての流通は極めて限定的である。

ベトナム農業・農村開発省によると、2 0 0 3年は南部ホーチミン周辺のメコンデルタ地域を中心に乳用牛全体でおよそ8万頭を飼養し、1 2万トンの生乳を生産している。同国では2 0 0 1年から豪州やオランダから乳用牛の雌子牛を導入すると同時にホルスタイン種などの精液を用いて在来種に人工授精を行い、交雑種作成を活発化するなど、酪農振興に取り組んでおり、同年の平均乳量は搾乳期間3 0 5日で交雑種の場合およそ3,500リットル、純粋種で4,500リットルとされる。なお輸入純粋種は耐暑性など気候適応性に劣るため、小規模経営には奨励されていない。2 0 0 2 〜2003年の年間増頭率は25%である。

フィリピンでは約1万1千トンの生乳を生産しているが、これには政府の統計上水牛乳、ヤギ乳を含む。生産量のうち牛乳は6 , 1 5 0トン、水牛乳は5千トン、ヤギ乳は9 5トンとなっている。同国の生乳換算による自給率は1%未満となっており、消費量のほぼ全量が輸入品および輸入品を原料とした加工品となっている。また、自国における後継牛の確保が進んでおらず、国内の牛群の規模も小さいことから、わずかな頭数の増減が生乳生産の大きな変化として表れる。また、政府の酪農振興方針として乳用牛と乳用水牛、乳用ヤギなどが並行して存在するのが特徴である。

A牛乳・乳製品の需給動向

生乳換算で見た場合、各国の牛乳・乳製品の輸入量は、国内生産量の約1 . 6〜1 7 0倍と非常に幅がある。東南アジアにおける輸入乳製品の中心となるのは粉乳であり、そのまま小分けして販売されるほか、L L牛乳や缶入り加糖れん乳なども、全粉乳や脱脂粉乳から還元製造されるものが多い。

タイでは、近年、飲用乳製品の消費が伸びている一方、牛乳・乳製品の輸出量が国内生産量を上回っている。この理由として、現在国内には生乳から粉乳を生産する加工場がないため国内生産乳は全量飲用乳に加工される一方、豪州など海外から粉乳を輸入し、再加工あるいはリパックする加工工場が国内に多く存在し、周辺国へ乳製品を輸出していることが挙げられる。なお表4に挙げたほかに、乳製品(バターミルク、ヨーグルト、ホエイ、バター、チーズなど) の輸入が7万7千トン、これらの国内消費が7 万4千トン、輸出が2万トン存在し、国民1人当たりの消費量は生乳がおよそ1 5 . 9キロ、このほかに、これら乳製品が11.7キロとなっている。

マレーシアは、生乳生産量で国内の8 5%を占める半島部で、近年急速に乳製品消費が増加しており、1人当たりの年間消費量は半島部で6 3 . 9リットルと、東南アジア最大となっている。一方、ボルネオ島の2州における生産はサバ州で約5千3百トン、サラワク州の実績は唯一の酪農場で生産される9 1トンのみとなっている。半島部は国内生産量の約6倍を輸出しているが、ほとんどが調製品および加工食品に含まれる乳成分である。なお輸出入統計の数字には半島部とボルネオ島部との取引が含まれている。

インドネシアの乳製品需要は首都であるジャカルタ特別市の1人当たり年間消費量が2 2リットルと、突出していることを除けば、州によっては同5キロ程度の消費が見られるものの、その多くはジャワ島各州に集中しており、その他の多くの州では乳製品の需要がほとんど見られない。

その他の国における乳製品の消費をみるとフィリピンは粉乳中心、マレーシア、ベトナム、ミャンマーは加糖れん乳が中心となり、ラオス、カンボジアは依然としてほとんど乳製品を消費していない。

(2)肉牛・牛肉産業

アセアン諸国では、従来から、主に役畜として供されてきた水牛も重要なタンパク質供給源となっているため、ここでは牛肉の生産および消費の中に水牛肉を含めた。

@肉牛の生産動向

牛の飼養頭数は、アセアン諸国の中ではインドネシアがミャンマーに次いで多く、アセアン先進4ヵ国の中では最大となっており、タイなどがこれに続く。

インドネシアの肉牛飼養頭数は、9 7年に過去最大である1 , 1 9 4万頭を記録して以降、漸減傾向で推移しており2 0 0 3年は1 , 0 5 0万頭となっている。同国では豪州などから肥育素牛を輸入して3カ月程度肥育した後、と畜に供するいわゆるフィードロット産業が盛んであり、同年のと畜総数1 7 4万頭のうち2 0%に相当する約3 5万頭はこれに該当する。なお牛肉生産量(生体重換算) は9 7年の3 5万4千トンをピークにその後減少したが、2 0 0 3年には3 7万トンとこれを上回っている。

一方水牛は9 8年以降急速に減少しており、それ以前は3 0 0万頭台で推移していたが2 0 0 3年には2 4 6万頭にまで減少している。この間水牛肉生産量(生体重換算)は4万トン台で大きな変化がないことから、農業の機械化に伴う役用の減少傾向がうかがえる。

タイの肉牛飼養頭数は、9 5年以降減少していたが、政府の肉牛振興政策などにより9 8年からは微増傾向に転じており、2 0 0 3年は前年を6 . 6% 上回る5 9 1万6千頭となった。アセアン先進4カ国のうち、政策的意図により、タイだけは豪州などから生体牛を輸入して肉牛肥育を行うフィードロット経営が見られないことが特徴である。一方工業化の進展に伴い農業の機械化が進む同国では、従来役畜として供されてきた水牛飼養頭数の減少が、他のアセアン諸国と較べて顕著であった。しかし、政府が同国東北部を中心として、水牛を含む肉牛飼養を奨励したことなどから、近年はおよそ1 6 0万頭で頭数減に歯止めがかかっている。2 0 0 3年の牛肉生産量は8万3千トン、水牛肉は同2万1千トンで、ともに減少傾向で推移しているとされる。

ただし同年にはミャンマー、カンボジア、ラオス、中国などの周辺国から牛7万6千頭、水牛3万8千頭が生体で輸入されており、これら関税局で把握されている他にも実態の掴めない生体輸入が相当数存在すると言われており、関税局の統計数値と実際の需給とはある程度相違すると考えられる。

フィリピンでは、牛・水牛ともに飼養頭数2 0 頭未満の小規模経営が全体の9割以上を占めており、農村部における零細経営をその主な対象として就労機会、収入の確保を目的に中期農業開発計画などで畜産活性化策を打ち出しているため肉用牛、水牛頭数ともに堅調に増加傾向で推移している。特に、政府の振興策などにより水牛飼養頭数はアセアン最大である。ただし、輸入生体牛を用いたフィードロット経営は生産規模の点で近年停滞傾向が見られる。

ベトナムの2 0 0 3年の牛飼養頭数は4 3 9万頭、水牛は2 8 4万頭とされており、牛飼養頭数は年々増加傾向で推移しており2 0 0 0年に比べ6 . 3%の増加となっている。水牛は1 9 9 5年から2 0 0 0年の間に一時頭数が減少したものの、2 0 0 0年以降はわずかながら回復し、ほぼ横ばい傾向で推移している。これらの生体重換算による生産量は合計1 6 万トンで、年々増加傾向を示している。

なおアセアン各国の中で政府統計上の最大飼養国であるミャンマーの2 0 0 2年の飼養頭数は、牛が1 , 1 3 0万頭、水牛が2 5 0万頭とされているものの、政策上(主に宗教的理由により)生後1 6 年間のと畜制限があり、一部の州で牛肉食の習慣がある民族に仕向けるための生産振興対象となるマイトン種などの、在来種が存在する他はそのほとんどが役用となっている。近年はインドから流入する生体牛と併せて、肉用としてタイなどへ輸出される生体牛の流通が拡大しており、口蹄疫などの家畜疾病対策上の懸案となっているほか、密輸による移動も多く存在するとされている。

A牛肉の需給動向

インドネシアの牛肉輸入量は前年の1万2千トンから1万1千トンに減少した。主な輸入先は豪州、ニュージーランド(N Z)、米国など。ただしこのほかに、内臓などのくず肉が3万6 千トン輸入されている。

年間1人当たりの消費量は牛肉がおよそ1キログラム、水牛肉は0 . 1キログラム程度とされている。畜種ごとの統計はないものの、食肉全体の消費がジャカルタなど一部地域に集中していること、民族・宗教によって食肉に対する慣習が異なることなどから、消費動向における地域差が大きいことが推察される。

タイでは2 0 0 3年の年間1人当たりの牛肉消費量はおよそ1 . 3キログラム、2 0 0 1年以降減少傾向で推移しており、水牛は同0 . 3キログラムと同様に減少傾向で推移している。同年の牛肉の輸入は1千トン程度とわずかで、その大部分が米国、豪州、NZ産である。

マレーシアは人口が少ないこともあり生産規模はわずかであるものの、半島部を中心に生産量が増加しつつあり、2 0 0 3年の生産量は水牛肉と合わせて2万2千トンとなったが、輸入量が9万5千トンと消費量の多くを輸入に頼っている。また消費は半島部に集中しており、年間1 人当たり消費量はボルネオ2州が2〜3キログラムであるのに対し半島部は5 . 8キログラムとアセアン各国の中では突出している。

フィリピンの1人当たりの消費量は前年とほぼ変わらず4 . 2キログラムを維持しており、需給は安定している。輸入牛肉8万8千トンのうち水牛肉が6 1%の5万4千トンで、大部分がインド産である一方、牛肉はブラジル、豪州、N Z米国などからの輸入となっている。

(3)養豚・豚肉産業

アセアン諸国では、インドネシアをはじめ宗教上の理由から豚肉を消費しないイスラム教徒の人口が多い。このため、国によって食肉における豚肉の重要度には大きな格差があり、国の政策上の位置付けもさまざまである。しかし、イスラム教徒の多い国においても、中国系住民などの豚肉需要をまったく無視することはできず、種々の規制は設けながらも養豚を許容している。

@豚の生産動向

東南アジアで最も飼養頭数が多いのはベトナムであり、2 0 0 3年の飼養頭数は約2 , 4 8 8万頭となっている。同国の養豚の大部分は小規模農家による在来種、もしくは在来種をベースにした交雑種を用いたものであるが、政府系または民間の経営による外来種の三元交配種を使った数千頭規模の大規模養豚が増加しつつある。

ベトナムに次いで飼養頭数が多いフィリピンは、宗教的制約が少ないため、9 4年以降、飼養頭数は順調に増加しており、2 0 0 3年は前年比4%増の約1 , 2 3 6万頭となっている。9 7年にフィリピンの飼養頭数を抜いたタイは、将来的にはブロイラーに次ぐ輸出産業として養豚振興を推進してきたものの、政策意図とは逆に、9 8年から2年連続で飼養頭数が減少した。その後、2 0 0 0年と2 0 0 1年には増加に転じたものの、2 0 0 2 年には前年比1 5%減と約7 0 0万頭にまで減少したが、2 0 0 3年には再度増加に転じ、7 8 2万頭となっている。インドネシアの飼養頭数も9 7年以降は減少し続けた。しかし、9 8年後半にマレーシアの半島部諸州で豚のウイルス性脳炎が発生したため、シンガポールが同国からの生体豚と豚肉の輸入を全面的に禁止し、輸入先をインドネシアのリアウ州に切り替えたことなどから、2 0 0 1年の飼養頭数はほぼ前年並みとなり、2 0 0 2年には前年比10%増、2003年にも4%増となった。

ウイルス性脳炎の影響による大量と畜や廃業などにより養豚産業の既存体質の改善が要求されているマレーシアは、9 8年から9 9年にかけて半島部での飼養頭数がそれまでの2 4 0万頭台から4割以上減少したものの、9 9年以降徐々に回復し、2 0 0 2年の半島部の飼養頭数は1 4 9万頭となっている。同国は中国系住民の割合が3割程度となっているものの、ネグリセンビラン州やセランゴール州など将来的な養豚の廃止や縮小を打ち出した地域もあるため、養豚産業を取り巻く環境の変化は今後も継続するものとみられる。

A豚肉の需給動向

2 0 0 3年のフィリピンの豚肉生産量は、前年比4%増の138万5千トンとやや増加した。タイは、飼養頭数の増加に伴い生産量も5%増の3 6万3 千トンとなった。2 0 0 2年に飼養頭数が増加したマレーシアの生産量は、前年比2 6%増の1 9万3 千トン(ボルネオ島部含む)と増加している。豚の飼養頭数が増加したインドネシアは、シンガポールへの生体輸出が9 9年以降増加しており、シンガポール側の貿易統計上、豚の生体豚輸入は、マレーシアからのものが9 9年まで入っていたことしか確認出来ないが、現実にはインドネシアから、毎日1千頭程度の生体豚が輸入されており、インドネシア側の統計によると、2 0 0 3 年のシンガポールの生体豚輸入量は前年比1 2% 減の2万2千トン(生体重換算)となっている。

フィリピンの豚肉消費量は、前年比4 . 2%増の1 4 1万5千トンとなっているが、1人当たり消費量は同1 . 8%増と全体の消費の伸びを下回っており、消費の増加には人口の増加による自然増の貢献が大きい。タイの消費量は、前年比5 . 3%の増加となっており、1人当たりの消費量も9 . 4% の増加となっている。タイの豚肉消費量がこのように大幅に増加したのは、通貨危機によって落ち込んでいた経済が、いわゆるV字型回復を遂げた後も総じて順調に推移しているためとみられる。一方、イスラム教徒が人口に占める割合が高いインドネシアは、1 1万7千トンと2 7% 減少し、マレーシアの消費量は1 9万5千トン(半島部のみ)と前年比26%増で推移している。

アセアン諸国における豚肉の消費動向は宗教の影響を強く受けており、2 0 0 2年の1人当たり豚肉消費量は、イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアでは0 . 5キログラムであるのに対し、宗教的制約の少ないフィリピンでは1 7 . 2 キログラム、同様にタイで5 . 8キログラムとなっている。

一方、イスラム教を国教と位置付けているものの、伝統的に豚肉食を好む中国系住民(非イスラム)が3割程度存在するマレーシア半島部では8キログラムとなってタイを上回っており、同国の養豚が国として無視し得ない状況にあることをうかがわせている。

(4)鶏肉・鶏卵産業

@鶏の生産動向

タイの鶏肉は2 0 0 2年3月のE Uによる使用禁止薬剤の検出を理由とした禁輸措置などが影響したものの、その後の好調な輸出と輸出仕向けの設備投資、これに伴う増羽により2 0 0 3年のブロイラーの飼養羽数は2 0 0 2年に比べ1 3 . 2%増加し、生産も7 . 3%増加した。鶏卵は恒常的な供給過剰のため2 0 0 3年の採卵鶏の飼養羽数は2 . 8%減少したが、鶏卵の生産は4.6%増加した。

インドネシアのブロイラー飼養羽数は、前年比2%減の約8億5千万羽となっているが、アセアン諸国最多の飼養羽数となっており、これに在来鶏を加えると1 1億9千万羽程度に達する。同国では安価なタンパク源として鶏卵・鶏肉が重要であり、経済状況の回復に伴って肉用鶏の飼養羽数はますます増加する傾向にある。

マレーシアのブロイラー飼養羽数も前年比約1 5%の減少となっているが、同国のブロイラーはタイなどの周辺国に比べて生産コストが高く、コスト削減と品質向上が急務とされている。同国のブロイラー飼養羽数は半島部で8割、ボルネオ島のサラワク州で残りの2割程度、同島のサバ州ではわずかな飼養となっている。

フィリピンの採卵鶏およびブロイラーは、前年比5 . 5%と1 4 . 4%の増加となっている。2 0 0 0年以降の米国産鶏肉の大量流入は落ちつきをみせたものの、依然として需給安定制度が整備されていないことから、価格変動に対する的確な対応が困難であることや輸入飼料への依存によるコスト高などの問題を抱えている。

A鶏肉の需給動向

ブロイラー肉の生産量は、各国の統計で見る限り、輸出を牽引車とした生産拡大が進んできたタイが最も多い。しかし、生産動向で述べたように、インドネシアにはタイの5倍の羽数が飼養されているにもかかわらず、ブロイラー肉の生産量はタイの6割足らずという状況が発生している。これは、インドネシアに限った制度ではないが、ブロイラーをと畜場で処理した場合には少額ながら税金徴収の対象になることから、これを回避する方法としてと畜場以外で処理したり、生きたまま販売するケースが多数を占めるため、統計で補足できない生産量が相当量に上るためであると考えられる。したがって、と畜場以外での処理が簡単に行える鶏肉については、インテグレーターの市場占有度が高いタイを除き、統計上から需給動向を正確に把握することは困難である。

鶏肉消費に関しては宗教上の制約が少なく、庭先での飼養による環境保全的機能をも果たすため、東南アジアでは最も身近で重要な食肉となっている。タイは国内生産量の約4割を日本やE Uを中心に輸出しており、2 0 0 2年初めのE U による禁輸措置をきっかけに残留薬剤などの食品安全性に関してセンシティブになりつつある。マレーシアの輸出はほとんどがシンガポールへの生体鶏となっている。マレーシアからシンガポールへの生体鶏の輸出羽数はここ数年4千万羽台で安定的に推移している。インドネシアとフィリピンは、在来鶏の飼養羽数が多く、価格はブロイラーより高いものの、一般には在来鶏肉の方が好まれる傾向があり、需給動向を詳細に統計的に捉えることが困難である。

B鶏卵の需給動向

東南アジア各国には鶏卵を粉卵や液卵に加工する施設がほとんどないため、市場動向に応じて価格が乱高下しやすい傾向がある。また、価格の変動に伴って生産量を調整する需給安定システムがうまく機能していないため、頻繁に供給過剰の問題を抱えることとなる。1人1年当たりの鶏卵消費量はマレーシア半島部が1 3 . 6キログラムとなっているほかは、タイが8キログラム、フィリピンが3 . 1キログラム、インドネシアが3キログラムとなっており、依然として低い水準にあるため、各国は供給過剰対策として消費拡大キャンペーンに力を入れている。東南アジアではタイのほか、シンガポール向けに輸出しているマレーシアを除き、輸出入の実績はほとんど無い。なお、シンガポールでは8 5年から島の西部農業団地を造成して積極的に外資を導入しつつ鶏卵の生産が行われており、国内消費量の約1/3に相当する1日当たり約百万個を生産している。残りの需要を満たす年間約5 万1千トンはそのほとんどがマレーシアから輸入されている。

輸入依存脱却が求められる肉用牛産業(インドネシア)

インドネシアでは、供給不足分の牛肉を確保するために生体牛を輸入し、一定期間肥育するフィードロット産業が発達している。そして肉用牛の輸入の大部分を口蹄疫(F M D)清浄国であり、同国での飼養に適した品種が飼養されている豪州に依存してきた。同国の2 0 0 3年の肉用牛輸入頭数は、豪州の干ばつの影響による飼料不足からかなりの程度増加した。また、近年、エジプトを始め中東地域において豪州産肉牛の需要が高まりつつあったが、イラク戦争のため周辺地域の需要が減少したことも、同国の輸入が増えた要因の一つである。

2 0 0 3年の豪州の生体牛輸出頭数は全体で1 0 0万頭、うちインドネシア向けが4 9万頭、エジプト1 0 万頭、フィリピン1 1万頭、マレーシア1 0万頭、残りはブルネイや中東各国などとなっている。

同国の生体牛価格および牛肉価格は、豪州からの肥育素牛など生体牛の増加により低水準で推移している。西ジャワ州では8月中旬の生体取引価格が、2カ月前のキログラム1万4 , 5 0 0ルピアに比べ同1万1千ルピアにまで下落した。1万4 千ルピア以下では肥育牛の生産コストは原価割れであるとされている。

この原因として、同国農業省畜産総局のプレスリリースなどでは不正輸入の影響が強調されているが、実際は肉用牛の輸入頭数の増加やそのほかに為替レートの変動や購買力の低下が挙げられ、このような各種の要因が積み重なって国内肉牛産業への影響が現れている。

牛肉を他の畜産品と偽ったり、工業原料と称し実際には食用仕向けとするなどの不正輸入問題は深刻である。これらの多くはインドからマレーシアを経由し公共交通機関や海路から輸入されているとされている。

F M DおよびB S E清浄国である同国にとって、非清浄国からの不正輸入は将来の輸出振興の可能性を奪うのみならず家畜や人体に対する悪影響も大きいとして、政府は、まずは消費者保護対策として2 0 0 3年1 1月から、輸入畜産品に対するインドネシア語表記を義務付けると発表している。ただし、今後の抜本的対策としては、不正輸入が多いとされるスマトラ島東部やカリマンタン島南部の港湾などにおける検査体制の適正化と強化が早急に望まれている。

同国では、将来、安定的に牛肉を確保するためには、特定の輸出国からの供給に依存する体質を改善し、国内肉牛生産を振興する必要性が繰り返し論じられてきた。しかし、現実的には、低い価格水準などの影響で国内の肉牛飼養頭数は伸び悩んでおり、ジャワ島およびその周辺の肉牛飼養頭数の多い地域で散発的に生産性向上の取組みが見られるのみである。中央政府主導による包括的かつ実効性のある取組みが期待されている。

「食品安全年」に向けた取組みが活発化(タイ)

タイでは輸出品の薬剤残留問題や豚肉に使用される食品添加物の問題など、食品の安全性に対する消費者の関心が高まる中、タクシン首相みずから2 0 0 4年を「食品安全年」と位置付け、2 0 0 4年までに、国産農産物について国際食品基準に適合させることを目標に掲げ、輸出・輸入農産物に対しさらなる品質管理の徹底と安全基準の順守を図ることとした。

同国政府は2 0 0 3年6月1 7日の閣議で輸出入農産物の品質検査を行う検査機関の設立を承認した。設立予算は1 9億5千万バーツで当初の株式の4 9%を財務省が保有することとし、第1段階としてバンコク市内に本部を置き、国内に5カ所の支所を設け、年間4 0万件の検査を行える体制を計画した。

一方、農業協同組合省畜産開発局(D L D)は国内飼料製造業者に対しG M P(適正製造基準)およびH A C C P(危害分析・重要管理点)システムを導入するよう指導し、大手5社をこれらのシステムを導入した業者であると認定した。同局によると段階的に国内飼料業者に同様の認定を行うことにより国際競争力の強化を図るとした。

DLDはまた、このキャンペーンの目的に沿って、国内の主に中小養豚業者による団体から要望されていた官民共同の養豚委員会の設立に関する協議の中で、第1歩として下記の諸問題を検討するためのワーキンググループを設けることとした。

  1. 養豚場の登録制度、標準化を含めた基準作成について検討し、国内需給安定の方策を探る。
  2. と畜場の衛生基準について検討し、適切な管理水準への移行を促す。
  3. 流通、小売段階での取扱基準について検討する。
  4. 養豚、豚肉製造の両段階での管理・衛生基準について検討し、薬剤残留問題を解決する。

また、同国保健省は動物用医薬品および食品添加物の使用に際し厳重な管理を行うこととし、違法な薬品を販売する薬品店や企業に対する罰則を強化するとした。

これまで食品の輸出を管轄してきたのは農業協同組合省であり、今後もその権限は変わらないが、このような経緯のなかで国産農産物の輸出基準について新たに、保健省が定めることとされた。また、両省の間では使用禁止薬品に関し、薬品輸入業者は食品・医薬品管理局(F D A)の承認を得た者にしか薬品を販売することができず、F D Aに対し販売実績報告書の提出を義務付けられることとした新規則を設けることが合意された。