海外編

 I 米国 

1. 一般経済の概況

米国経済は、2 0 0 1年3月に1 0年間にわたって安定成長を続けた景気が後退局面に入った。さらに2 0 0 1年9月1 1日に発生した同時多発テロが既に減速を始めていた景気にも影響を与え、2 0 0 1年の実質国内総生産(G D P)成長率は0 . 8% と低水準となった。しかし、その後の消費者心理の回復、企業の設備投資の促進、失業者支援を目的とした景気刺激法案の成立や金融当局の利下げの実施などを行ったことから経済は回復基調に転じ、2 0 0 3年の実質G D P成長率は3 . 0%となり、また、2 0 0 3年の消費者物価指数は前年比2 . 3%増、生産者物価指数も同3 . 2%増となった。2 0 0 3年の貿易収支は、貿易赤字(国際収支ベース)が前年より1 3 . 3%、金額にして6 4 2億ドル増加し、5,471億ドルとなった。

2. 農・畜産業の概況

米国経済における農業の位置付けは、他産業の発展に伴い時代の経過とともに低くなる傾向にあるが、2 0 0 3年においては、G D Pのうち農業生産(農産物販売額:現金収入の暫定値)の占める割合は1 . 9%と前年比5 . 5%増となった。世界の農業生産および農産物貿易における米国農業が占める割合は依然高い水準にあると言える。

2 0 0 3年の農業経営体数(農産物の年間販売額1千ドル以上)は2 1 2万7千戸であった。また、1経営体当たりの農用地面積は、4 4 1エーカー(1 7 8ヘクタール)であり、農用地面積全体としては9億3 , 8 7 5万エーカー(3億7 , 9 8 9万ヘクタール)であった。なお、年間1 0万ドル以上の農産物販売実績のある経営体は全体の1 5 . 5%で、全農用地面積の58.0%を占めている。

2 0 0 3年の農産物販売額(現金収入の暫定値) は、2 , 1 1 6億ドルと前年を8 . 5%上回った。その内訳を見ると、作物部門は1 , 0 6 2億ドルで、前年を4 . 8%上回った。更に、畜産部門も、前年を1 2 . 5%上回る1 , 0 5 5億ドルとなり、農産物全体に占めるシェアが49.9%となった。

畜産部門の品目別の販売額を見ると、肉用牛が451億ドル(農産物全体に占める割合は21.3%) と第1位であり、次いで養鶏(家きん、採卵鶏) が2 3 9億ドル(同1 1 . 3%)となっている。約6割が家畜飼料となるトウモロコシの販売額が1 8 3億ドル(同8 . 6%)となっており、畜産部門の重要性がうかがえる。

3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

米国は年間約7 , 7 0 0万トンの生乳を生産しており、世界最大の酪農国である。しかしながら、国内に巨大な消費市場を抱えていることなどから、国際乳製品市場における米国の地位は比較的低いものとなっている。

ア 主要な政策

酪農の主な制度には、加工原料乳価格支持制度と連邦生乳マーケティングオーダー制度(F M M O)がある。加工原料乳価格支持制度は、米農務省(U S D A)の1機関である商品金融公社(C C C)が、加工原料乳の支持価格水準に見合う価格でチーズ、バターおよび脱脂粉乳を買い上げることにより、加工原料乳の価格を間接的に支持する制度である。

この制度は9 6年農業法に基づき、2 0 0 0年1月1日以降廃止されることとなっていたが、生産者の強い反対などを反映して、延長が繰り返された結果、今日まで実施され続けている。

2 0 0 2年新農業法では、これまで延長された支持価格を固定したまま、法律の実施期間と同じく2007年12月まで延長することとされた。

一方、F M M Oは、オーダー地域内で取引される飲用規格生乳について、用途別の最低取引価格を設定するとともに、生乳取扱業者に対して、生産者へのプール乳価での支払いを義務付けることにより、生産者に対しては安定的な市場を確保すること、また、消費者に対しては合理的な価格で十分な量の良質な飲用乳を供給することを目的としたものである。2 0 0 0年1月からは紆余(うよ)曲折を経て、@オーダー数の再編統合(3 1から1 1へ)、A生乳の用途区分の再分類(3区分から4区分へ)、B最低取引価格の設定に用いられる価格について、これまでの基礎公式価格(B F P)に代えて、多成分価格形成システムに基づく新基礎価格の導入などの変更が加えられた。なお、2 0 0 2年新農業法においては、前述の変更後の制度を維持する形で2 0 0 7年1 2月末まで継続されることとなっている。

イ 生乳の生産動向

(ア)酪農経営体数

酪農経営体数は、小規模層を中心に一貫して減少傾向で推移しており、2 0 0 3年には前年比5.3%減の8万6千戸となった。

(イ)飼養頭数と生産量

経産牛の飼養頭数は、8 0年後半から減少傾向で推移してきており、9 9年、2 0 0 0年には飼養頭数が増加したものの、2 0 0 1年は再び減少に転じ、2 0 0 2年はほぼ前年同となったものの、2 0 0 3年は前年比0.6%減の908万頭となった。

2 0 0 3年の生乳生産量は、0 . 1 %増の7 , 7 2 5万トンとなった。

(ウ)経産牛1頭当たり乳量

2 0 0 3年の経産牛1頭当たり乳量は、前年比0.8%増の8,504kgとなった。

(エ)地域別生産動向

生乳は、すべての州において生産されているが、生産量の半分以上は上位5州(カリフォルニア、ウィスコンシン、ニューヨーク、ペンシルベニア、アイダホ)によって占められており、上位10州(6位以下:ミネソタ、ニューメキシコ、ミシガン、テキサス、ワシントン)では全体の7割以上を占めている。特に9 3年にウィスコンシン州を抜いて首位になったカリフォルニア州は、その後も生産拡大を持続し、2 0 0 3年の年間生産量は前年比1 . 1%増の1 , 6 0 7万トンとなった。ウィスコンシン州は、1 , 0 1 0万トンで前年比0 . 9% 増となった。カリフォルニア州を代表とする西部の新興生産地域は、冬期でも比較的温暖で乾燥しているために畜舎などへの投資コストが低く、さらに安価な労働力も確保しやすいことなどから、大規模化が図りやすいという利点がある。カリフォルニア州で5 0 0頭以上の経営体による生産量の州全体に占める割合が8 4 . 0%であるのに対し、ウィスコンシン州では1 5 . 0%となっている。

ウ 牛乳・乳製品の需給動向

(ア)生産動向

2 0 0 3年のチーズの生産量(カッテージチーズを除く)は、前年比0 . 6%増の3 9 0万トンとなった。チェダーチーズを中心とするアメリカンタイプの生産は減少したが、モッツァレラチーズなどイタリアンタイプの生産は増加した。このイタリアンタイプの生産増加は、宅配ピザやファストフードでの需要の増加によるところが大きい。なお、チーズ生産の内訳は、アメリカンタイプが4 2 . 7%、イタリアンタイプが4 1 . 0%となっている。

また、脱脂粉乳の生産量は、生乳生産量がほぼ横ばいだったことから前年比0 . 4%減の7 2万1 千トンとなった。一方、バター生産量についても、前年比8.3%減の56万4千トンとなった。

(イ)消費動向

1人1年当たりの飲用乳・クリーム消費量(製品ベース、以下同じ)は、他の飲料との競合などにより、おおむね減少傾向で推移しているが、2 0 0 3年も前年比1 . 0%減の9 2 . 5 k gとなった。なお、飲用乳の消費は、全脂牛乳から低脂肪牛乳、脱脂牛乳へと低脂肪タイプへの移行が進んでいる。

一方、1人1年当たりのチーズ(カッテージチーズを除く)消費量は、近年おおむね増加傾向で推移してきており、2 0 0 3年は前年同の1 3 . 9 キログラムとなっている。また、1人1年当たりのバター消費量は、前年比2 . 3%増の2 . 0キログラムであった。

エ 牛乳・乳製品の価格動向

(ア)生乳価格

加工原料乳価格(グレードB規格生乳の農家販売価格)の推移を見ると、2 0 0 3年は生乳生産がほぼ横ばいであったことから、年平均では前年比8%高の1 0 0ポンド当たり1 1 . 8 0ドルとなった。平均生乳販売価格は、加工原料乳価格の値上がりを反映し、前年比3 . 6%高の1 2 . 5 5ドルとなった。

(イ)乳製品の卸売価格

2 0 0 3年の乳製品の卸売価格は、生乳生産量がほぼ前年同となったことから、脱脂粉乳を除き、前年を上回って推移した。チェダーチーズ価格は供給減により値上がりし、年平均価格は、前年比1 1 . 0%高のポンド当たり1 2 7 . 0セントとなった。また、脱脂粉乳価格は、生産量は減少したものの卸売価格には反映されず、前年比8 . 6%安の8 4 . 1セントとなった。またバターは、生産量が減少したことにより前年比3 . 5%高の1 1 4 . 5セントとなった。

オ 乳製品の政府買い上げ

2 0 0 3年の商品金融公社(C C C)による余剰乳製品の買い上げ数量は、昨年に引き続き大幅に増加し、乳脂肪分ベースで2 5 6 . 1%の増加となった。

(2)肉牛・牛肉産業

米国は、世界の牛肉生産量の約4分の1を占める最大の生産国であり、豪州、ブラジルに次ぐ輸出国である。また、同時に世界最大の牛肉の輸入国でもある。国内的にも、肉牛産業は農産物販売額に占める割合が最大となっており、米国農業の中でも最も重要な部門の1つとなっている。

子牛生産は、家族経営による粗放的な生産・管理が行われる一方、育成された肥育素牛は、大規模なフィードロットで効率的な穀物肥育が行われている。肉牛の流通面では、大手パッカーによる寡占化が顕著となっている。

ア 肉牛の生産動向

(ア)肉用牛繁殖経営体数

肉用牛繁殖経営体数(年間に1頭以上飼養) は、減少傾向で推移しており、2 0 0 3年も前年比2.0%減の79万2千戸となった。


(イ)飼養頭数

米国の牛飼養頭数は、約1 0年のサイクルで増減を繰り返している。2 0 0 4年1月1日現在の牛の総飼養頭数は、前年比1 . 3%減の9 , 4 8 8万頭となった。

8 8年に1億頭を下回り、9 0年に底を打ったキャトルサイクルは、9 1年以降上昇局面に転じていた。9 6年には、肥育素牛価格の低迷などにより、繁殖経営体の収益性が急速に悪化したことに加えて、テキサス州などの南西部を襲った干ばつの影響もあり、キャトルサイクルは下降に転じた。その後も繁殖雌牛頭数が減少傾向にあることから、総飼養頭数は9 8年以降1億頭を下回って推移している。

飼養頭数の内訳を見ると、肉用種繁殖雌牛は前年比0 . 4%減の3 , 2 8 6万頭、このうち5 0 0ポンド以上の肉用種更新用未経産牛は、前年比1 . 9 %減の552万頭となった。

2 0 0 3年における子牛生産頭数(乳用種を含む) は、繁殖雌牛飼養頭数の減少により、前年比0.8%減の3,790万頭となった。

イ 牛肉の需給動向

(ア)生産動向

2 0 0 3年の成牛と畜頭数(コマーシャルベース) は、前年比0.7%減の3,549万頭となった。

種類別(連邦政府検査ベース)では、去勢牛が前年比2 . 0%減、未経産牛が前年比2 . 3%減となっている一方で、経産牛は前年比6 . 4%の増加となった。このうち、肉用経産牛は、前年を3 . 7% 上回る316万頭となった。

一方、2 0 0 3年の成牛のと畜時平均生体重(連邦政府検査ベース)は、前年比8キログラム減の5 6 0キログラムとなった。また、平均枝肉重量(連邦政府検査ベース)も、前年比8 . 6キログラム減の3 3 8 . 4キログラムとなり、前年を大幅に下回って推移した。

この結果、2 0 0 3年の牛肉生産量(枝肉ベース) も、前年比3 . 1%減の1 , 1 9 1万トンとなり、減少に転じた。

(イ)輸出入動向

2 0 0 3年の輸入量(枝肉ベース)は国内牛肉生産量(枝肉ベース)が減少したものの、国内需要も減少したため、前年比6 . 6%減の1 3 6万3千トンとなった。国別に見ると、豪州からの輸入は前年よりも0 . 7%減となったものの、前年に引き続き第1位となった。さらに、カナダからの輸入は、2 0 0 3年5月のB S E患畜牛発見による輸入停止措置に伴い前年比3 2 . 0%減の3 3万6千トンと大きく減少した。

また、2 0 0 3年の生体牛の輸入もカナダでのB S E発生の影響を受け、前年比3 0 . 0%減の1 7 5万2千頭となった。国別では、2 0 0 2年に引き続きメキシコからの輸入が前年比5 1 . 8%の大幅な増加となった一方で、カナダからの輸入は輸入停止措置により前年比6 9 . 6%減の5 1万2千頭と大幅に減少し、メキシコに第1位の座を譲り渡した。

2 0 0 3年の牛肉輸出量(枝肉ベース)は、前年比3 . 1%増の1 1 4万3千トンであった。国別では、最大の輸出相手国である日本向けが、日本の国内需要が回復してきたことなどにより、前年比1 9 . 3%増の4 1万7千トンと大幅に増加した。これに対し、メキシコ向けは、前年を6 . 5%下回る2 6万7千トンになるとともに、韓国向けも前年を1.6%下回る26万7千トンとなった。

(ウ)消費動向

1人1年当たりの牛肉消費量(小売重量ベース)は、健康志向の高まりなどから減少傾向が続いたが、小売価格の値下がりや消費拡大キャンペーンが奏功し、9 4年以降わずかながら増加傾向で推移している。2 0 0 2年に同時多発テロ発生などで一時的に落ち込んだ景気も回復し、国内需要が増大したことから牛肉消費量も増加に転じたものの、2 0 0 3年は前年比4 . 2%減の2 9 . 4キログラムと再び減少した。

ウ 肉牛・牛肉の価格動向

(ア)肥育素牛価格

肥育素牛価格(オクラホマシティー、6 0 0〜 6 5 0ポンド)は、2 0 0 3年平均では、1 0 0ポンド当たり95.2ドルと前年を9.8%上回った。

(イ)肥育牛価格

肥育主要7州(アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、アイオワ、カンザス、ネブラスカ、テキサス州)における肥育素牛導入頭数は、前年比6 . 5%増の2 , 1 4 7万頭となった。また、肥育牛出荷頭数は前年比0.8%減の2,011万頭となった。

チョイス級肥育牛価格(ネブラスカ、1 , 1 0 0〜 1 , 3 0 0ポンド、去勢牛)は、2 0 0 3年平均で1 0 0ポンド当たり8 4 . 7ドルとなり、前年に比べて2 6 . 2% の値上がりとなった。

(ウ)牛肉卸売価格

2 0 0 3年の卸売価格(チョイス級、5 5 0〜7 0 0ポンド、カットアウトバリュー)は、前年比25.5%高の100ポンド当たり143.6ドルとなった。

(エ)牛肉小売価格

牛肉の2 0 0 3年の平均小売価格(チョイス級) は、前年比1 3 . 0%高のポンド当たり3 7 4 . 6セントとなった。

(3)養豚・豚肉産業

米国の養豚産業は、アイオワ州やイリノイ州を中心とするコーンベルト地帯において、伝統的に穀物生産や肉牛経営の副業として営まれてきた。一方、ノースカロライナ州を代表とする地域でのインテグレーションの出現が、養豚産業に対し、生産・流通などの面で大きな変化をもたらしている。

また、豚肉輸出は近年大幅な伸びを示しており、9 5年には4 0数年ぶりに純輸出国に転じた。一方で、大規模経営体による環境問題が顕在化しており、各州において環境規制を強化する動きが見られている。

ア 豚の生産動向

(ア)養豚経営体数

養豚経営体数は、小規模層を中心として減少傾向で推移しており、2 0 0 3年1 2月1日現在では、前年比2 . 2%減の7万4千戸となった。1経営体当たりの飼養規模別では、1 0 0頭未満の層が全経営体数の6 0 . 3%を占めているものの、飼養頭数では全体の1 . 0%を占めるに過ぎない。一方、5 千頭以上の層は、経営体数全体の3 . 1%に過ぎないが、全飼養頭数の53.0%を占めている。

(イ)飼養頭数

豚飼養頭数は、8 7年から増加傾向で推移してきたが、9 5年以降、飼料価格の値上がりの影響を受けて減少に転じた。その後、飼料価格の下落や台湾における口蹄疫の発生による輸出意欲の高まりに伴い、9 7年後半から増加に転じたが、9 8年に豚価が下落し、以降、前年水準を下回って推移した。2 0 0 1年には3年ぶりに増加に転じ、2 0 0 2年は前年比0 . 4%減となったものの、2 0 0 3年(1 2月1日現在)には前年比1 . 4 %増の6 , 0 3 9万頭と再び増加に転じた。

飼養頭数の内訳を見ると、繁殖豚は前年比0 . 8%減の5 9 7万頭に、一方で、肥育豚は前年比1.1%増の5,407万頭となった。

2 0 0 3年(2 0 0 2年1 2月〜2 0 0 3年1 1月)の子豚生産頭数は、一腹当たり産子数が前年比0 . 6 %増の8 . 8 8頭となったものの、繁殖母豚が前年比1 . 5% 減となったことなどから、1 0 , 0 4 1万頭と前年より0.9%減少した。

イ 豚肉の需給動向

(ア)生産動向

2 0 0 3年のと畜頭数(コマーシャルベース)は、前年比0 . 5%増の1 0 , 0 7 8万頭と増加したものの、豚肉生産量は、前年比1 . 7%減の8 8 1万トンとなった。

なお、2 0 0 3年のと畜時平均生体重(連邦政府検査ベース)は、前年同の1 2 1 . 1キログラム、また、平均枝肉重量(連邦政府検査ベース)は、前年より0.7%増の90.2キログラムとなった。

(イ)輸出入動向

豚肉の輸入量(枝肉ベース)は、9 7年以降おおむね前年を上回ってきており、2 0 0 3年は、前年比1 0 . 7%増の5 3万8千トンとなった。国別に見ると、カナダが4 4万1千トン(総輸入量に占める割合は8 2 . 0%)、デンマークが6万7千トン(同12.4%)となっている。

また、生体豚の輸入は、ほぼ1 0 0%がカナダからのものであり、同国からの輸入頭数は、米国内での生産頭数が減少していることなどから、その代替として輸入子豚への需要が高まったことにより、前年比29.6%増の744万頭となった。

一方、輸出量(枝肉ベース)も、毎年前年を上回って推移しており、最大の輸出先である日本向けが、前年比2 . 4%増の3 6万トンと引き続き好調であったことや、2 0 0 1年に大幅に増加した第2位の輸出先であるメキシコ向けが、前年比1 1 . 2%増の1 5万8千トンとなったこと、香港向けが、前年を5 7 . 0%上回る大幅な伸びとなったことから、2 0 0 3年の輸出量全体は前年比1 5 . 6% 増の77万9千トンとなった。

(ウ)消費動向

1人1年当たりの豚肉消費量(小売重量ベース)は、近年ほぼ横ばいで推移している。2 0 0 3 年は小売価格もほぼ前年同となったことなどにより、前年比0.4%増の23.5キログラムとなった。

ウ 肥育豚・豚肉の価格動向

(ア)肥育豚価格

肥育豚取引価格(5大市場の平均;オマハ、スーシティー、セントジョセフィン、セントポール、スーフォールズ)は、2 0年来の安値となった9 4年を底に、生産の減少および輸出需要の増加から好調に推移し、9 6年には1 0 0ポンド当たり5 3 . 4ドルとなった。しかし、9 7年以降、生産の増加などから、価格(9 7年以降は全米の平均) は下落傾向で推移し、9 9年には3 4 . 0ドルまで下落した。その後、2 0 0 0年、2 0 0 1年と価格は上昇したものの、2 0 0 2年には生産量の増加などから再び下落し、前年比23.8%安の34.9ドルとなった。2 0 0 3年は生産量が減少し、消費量および輸出量が増加したことなどから、前年比1 2 . 9%高の3 9 . 4 ドルとなった。

(イ)豚肉価格

@部分肉卸売価格

2 0 0 3年の部分肉卸売価格(カットアウトバリュー)は、前年比1 0 . 1%高の1 0 0ポンド当たり58.9ドルとなった。

A豚肉小売価格

2 0 0 3年の豚肉の平均小売価格は、前年同の1 ポンド当たり265.8セントとなった。

(4)養鶏・鶏肉産業

米国の養鶏産業は、飼料穀物の大生産国という利点を生かし、生産から流通までの一貫したインテグレーションの進展により、極めて効率的な生産が行われている。また、不需要部位のもも肉を中心として、鶏肉の生産量の約2割を輸出すると同時に、米国内では、消費者の健康志向からむね肉を中心として消費を大きく伸ばしている。

ア ブロイラーのふ化羽数の動向

2 0 0 3年のブロイラーふ化羽数は、前年同様にブロイラー価格が堅調に推移したものの、ふ化羽数はほぼ前年同の90億7,461万羽であった。

イ 鶏肉の需給動向

(ア)生産動向

2 0 0 3年のブロイラー生産は、ブロイラーふ化羽数がほぼ前年同となったことにより、前年を0 . 5%下回る1 , 4 5 8万トンとなった。生体ベースでの1羽当たり重量は、骨なしむね肉への需要増に伴うブロイラーの大型化を背景に近年増加傾向にあり、前年比1 . 4%増の2 . 4キログラムとなっている。

(イ)輸出動向

ブロイラーの輸出量は、8 5年以降一貫して増加傾向で推移したが、2 0 0 2年には前年比1 3 . 5% 減の2 1 8万トンとなった。しかしながら2 0 0 3年には前年比2 . 4%増の2 2 3万2千トンと再び増加に転じた。国別では、2 0 0 1年に前年比8 2 . 6%の大幅増で1位となったロシア向けは、ロシアの国内生産者の保護を目的とした関税割当制度の実施、米国のブロイラー輸出業者に対する新たな衛生条件の設定などにより2 0 0 2年以降輸出量が制限され、2 0 0 3年も対前年比4 . 2%減の6 6万1千トンにとどまった。昨年第2位の香港向けも前年比2 2 . 0%減の1 4万トンとなった。一方、メキシコ向けは前年比1 2%増の1 6万5千トンとなっている。

(ウ)消費動向

1人1年当たりの鶏肉消費量(小売重量ベース)は、健康志向の高まりや加工度の高いアイテムの増加などから、順調な伸びを示してきており、2 0 0 3年は前年比1 . 4%増の3 7 . 0キログラムとなった。

ウ ブロイラーの価格動向

(ア)ブロイラー価格

2 0 0 3年のブロイラー価格(生体ポンド当たりの生産者販売価格)は、前年比1 3 . 1%高の3 5 . 3セントとなった。

(イ)鶏肉価格

@卸売価格

2 0 0 3年のブロイラーの丸どり卸売価格(中抜き、1 2都市平均)は、前年比1 1 . 7%高のポンド当たり6 2 . 0セントとなった。なお、国内向けが主体となっているむね肉がポンド当たり1 5 5 . 8セント(前年比1 6 . 6%高)であるのに対し、輸出向けが主体であるもも肉は3 4 . 8セント(同1 . 7% 安)となっており、日本と違いむね肉の方がもも肉より4倍以上高くなっている。

A小売価格

ブロイラーの丸どり小売価格(中抜き)は、前年比3 . 7%安の1ポンド当たり1 0 3 . 4セントとなった。

(5)飼料穀物

米国は、世界最大の飼料穀物の生産・輸出国である。代表的な飼料穀物であるトウモロコシについては、世界の生産量の約4割、輸出量についてはその約6割強を占めていることなどから、需給などに与える影響力は極めて大きいものとなっている。

ア 主要な政策

飼料穀物については、9 6年農業法により、政府の定める目標価格と市場価格(またはローンレート)の差を補てんする不足払い制度とこれに関連する減反計画が廃止され、農産物の作付け(野菜、果物を除く)が自由化された。一方、その代替措置として、市場価格とは切り離された形で、過去の作付面積などの実績に基づき、一定の漸減する直接支払いを2 0 0 2年度までの7 年間受給できる農家直接固定支払い制度が導入された。このほかの主なものとしては、生産者が農産物を担保に商品金融公社(C C C)からローンレート(過去の市場価格を基に算出)での融資を受けるマーケティング・ローン(価格支持融資制度)などがある。なお、飼料穀物価格が需給緩和の影響で、9 6年の秋をピークに下落し、生産者所得が減少したことを受け、農家直接固定支払い制度の単価に上乗せする形で、9 8 年から毎年緊急支援措置が講じられている。こうした中、紆余曲折を経て成立した2 0 0 2年新農業法では、価格支持融資や農家直接固定支払いを存続させるとともに9 6年農業法で廃止された不足払い制度に類似した直接支払い制度(価格変動対応型支払い:価格の変動に応じ目標価格との差額を補てん)を新設している。

なお、これらの詳細については、「畜産の情報」海外編2 0 0 2年8月号「特別レポート」を参照されたい。

イ 穀物の生産動向

2 0 0 3/0 4年度(9〜8月)のトウモロコシ(サイレージ用を除く)の生産量は、前年度比1 2 . 2 %増の1 0 1億1 , 3 9 0万ブッシェル(2億5 , 6 9 0万トン)となった。1エーカー(約0.4ヘクタール) 当たりの収穫量は、前年度と比べて1 0 . 0%増の1 4 2 . 2ブッシェル(=8 . 9トン/ヘクタール)となった。作付面積については、前年比0 . 2%減の7,874万エーカー(3,187万ヘクタール)であった。

2 0 0 3年8月末現在の在庫量は、前年比2 1 . 3% 減の8億5 , 5 6 0万ブッシェル(2 , 1 7 3万トン)と大幅に減少した。

ウ 穀物の輸出動向

2 0 0 3/0 4年度のトウモロコシの輸出は、韓国、エジプト向けなどが大幅に増加したことから、前年度比1 9 . 5%増の4 , 8 1 8万トンとなった。なお、日本への輸出も前年度比1 . 6%増の約1 , 4 6 1万1千トンで、全体に占める割合は3 0 . 3%となっている。

エ 穀物の価格動向

2 0 0 3/0 4年度のトウモロコシの生産者販売価格は、エタノール原料向けなどへの需要が昨年同様に伸びたことなどから、前年度比4 . 3%高の1ブッシェル当たり2.42ドルとなった。

EPA、畜産環境規制強化のための最終規則を公表(米国)

米環境保護庁(E P A)は、2 0 0 2年1 2月水質保全法(C W A)に基づく大規模畜産経営体(C A F O) に対する規制強化のための最終改正規則を公表した。今回の改正は、これまで一部の例外を認めていたC A F Oに該当する農家をすべて規制の対象にするとともに、C A F Oにおける家畜排せつ物の管理を徹底させることによって、畜産経営体からの水質汚染物質の排出をさらに抑制することが目的であり、現行の規則制定から2 5年以上を経て初めての見直しとなる。

しかし、E P Aがおよそ2年前(2 0 0 1年1月)のクリントン政権時代に公表した第1次案に比べると、いくらか緩和された内容となっている。これは、規制対象農家の拡大や、家畜排せつ物の管理コストの増大を懸念する全米最大の農業団体ファーム・ビューロー(A F B F)をはじめ、全国豚肉生産者協議会(N P P C)といった畜産の専門生産者団体などからの強い反対が背景にある。

今回の最終規則の主なポイントは、次のとおり。

@規制対象農家の拡大

C W A は、全国汚染物質排出排除システム(N P D E S)に基づく許可を受けていない点源汚染源(C A F Oもこれに該当する)からの汚染物質の排出を禁止している。第1次規則案では、そもそものC A F Oの要件を厳しくし、それまでの1 , 0 0 0家畜単位(注:豚2 , 5 0 0頭、肥育牛1 , 0 0 0頭、乳用成牛7 0 0頭、鶏1 0万羽などに相当)以上という基準を、最も厳しいオプションでは3 0 0家畜単位以上にまで広げるといった提案がなされていた。

今回の最終規則では、C A F Oの要件自体の見直しは行わないが、これまで認められていた例外(注:2 5年に1度の発生頻度で、2 4時間続く暴風雨に見舞われたようなときだけ汚染物質を排出する経営体や、排せつ物の乾燥処理を行う家きん飼養農家などにはN P D E Sに基づく許可取得義務はないという規定)を廃止し、C A F Oの要件に当てはまるすべての経営体がN P D E Sに基づく許可を受けなければならないこととされた。これにより規制対象農家の数は、全米約2 3万8千戸の舎飼主体の畜産経営体(A F O)のうち、これまでの約4 , 5 0 0戸から約1万5 , 5 0 0戸(第1次規則案では最大約3万9千戸)にまで増加するとE P Aは見込んでいる。

A栄養分管理計画の作成

N P D E Sの許可要件として、各経営体におけるたい肥の農地への施用や汚水処理方法に関する栄養分管理計画の作成・履行が義務付けられるとともに、許可取得後も年1回の報告義務が課せられることとなった。

B排水制限指針の更新

すべてのC A F Oに対して適用される排せつ物の適切な管理のための排水制限指針(E L G)が新たな技術的知見などを基に見直され、特に、新設される施設型畜産経営体(豚、鶏など)に対してはゼロ排出基準が導入されることとなった。

また、米農務省(U S D A)は、2 0 0 2年農業法に基づく環境改善奨励計画(E Q I P)をはじめとする環境保全事業の拡充により、新たな規制対象農家などへの側面的な支援策を講じていく方針である。今回の最終規則は、官報掲載から6 0日以内に施行されることとなっているが、新たに課せられる義務に応じて一定の経過期間が設けられている。

米生乳団体、独自の生乳生産削減プログラムを開始

米国最大の生乳生産者団体である全国生乳生産者連盟(N M P F:3 3酪農協同組合(組合員約6 万人)は2 0 0 3年7月3日、生乳生産量削減プログラム「Cooperatives Working Together(C W T)」を開始した。

N M P F独自で運用するこのプログラムは、2 0 0 3 年7月から2 0 0 4年6月までの1年間のみ実施されることになっており、参加はN M P F会員の個人の裁量に任されている。また、このプログラムにはN M P F会員以外も参加することができる。実施に当たりN M P Fは、参加者から生乳生産量換算で1 0 0ポンド当たり5セントを徴収し、これを財源として次の3つのプログラムを実施するとしている。参加者はこれらのプログラムに参加した場合、N M P F から補償金の交付などが受けられる。N M P Fは参加者から徴収した6 , 0 0 0万ドルを財源に今後1年間で1 2億ポンド(約5 4万トン)の生乳生産の削減とそれによる1 0 0ポンド当たり3 5セントの乳価の上昇を目指す。N M P Fは最近の乳価の回復(2 0 0 3年9月の乳価は前年同月比2 0 . 7%高の1 0 0ポンド当たり1 4 . 1ドル)については様々な要因が挙げられるが、C W Tもその一つであるとしている。

1 牛群とうたプログラム

牛群とうたプログラムについては、総削減目標数量の4 5%に相当する約2 5万トンの削減を目標としており、3万3千頭(全米の経産牛頭数の約0.36%)のとうたを実施する。とうたに際しては、全米を5つのブロックに分け、地域間でのバランスに配慮しつつとうた計画が立てられた。とうたは2 0 0 3年1 0月末までに完了する。とうたに際しては、他農場への販売牛はプログラムの対象外とされるが、搾乳牛の月齢や乾乳中であるか否かは問われない。保証は搾乳牛の販売に対して行われ、平均保証価格は生乳生産量1 0 0ポンド当たり4 . 0 3 ドル。

2 生乳生産量削減プログラム

生乳生産削減プログラムについては、総削減目標数量の1 0%に相当する約5万トンの削減を目標としており、参加農家は当該農家における生乳生産量の1 0%以上を削減することが求められる。しかし、削減のための具体的な手法(とうた、飼料や飼養管理の変更など)はあくまで参加農家の判断に委ねられる。

3 乳製品輸出支援プログラム

乳製品輸出支援プログラムについては、総削減目標数量の3 5%に相当する約2 0万トンを目標とするが、2 0 0 3年1 1月現在、生乳価格は安定しているため実施していないとする。ただし、2 0 0 4年以降乳価が再び下降した場合、本プログラムを活用する見込みであるとしている。

カナダでのBSE発生後における米国およびメキシコの牛肉貿易をめぐる状況

ベネマン米国農務長官は2 0 0 3年8月8日、カナダからの反すう動物由来の製品の一部について、公衆衛生上の影響は極めて低いとして輸入許可申請を受け付けると発表した。

米国は5月2 0日のカナダでのB S E発生以降同国からの反すう動物由来製品の輸入を禁止していたが、@3 0カ月齢未満の牛由来の骨なし部分肉A1 2 カ月齢未満の羊・ヤギ由来の骨なし部分肉B3 6週齢未満の子牛由来の部分肉C牛の肝臓D反すう動物以外に使用するワクチンE反すう動物以外由来の動物タンパクおよび獣脂を含むペットフードおよび飼料原料について、9月1日から事前の輸入許可申請に基づく輸入を認めるとしている。

また、個人的な消費目的の狩猟肉については、米国農務省(USDA)動植物衛生検査局(APHIS) の許可を得れば同日から輸入できるとした。なお、U S D Aはカナダ以外のB S E発生国についても、当該国から要請があれば、条件付きで解禁について検討するとしている。

米国農務省は8月8日、カナダからの牛の部分肉の条件付輸入解禁に対応するため、対日輸出向けの牛肉・牛肉製品については、米国内でと畜された牛肉のみを含むことを証明する牛肉輸出証明(Beef Export Verification(B E V))プログラムを9月1日より実施すると発表した。同プログラムは任意の制度であるが、9月1日以降は、同プログラムに基づいて生産された牛肉・牛肉製品のみに対日輸出用の衛生検疫証明書が発行される。このため、9月1日以降に生産されるカナダ産の部分肉のみならずメキシコ産の部分肉などを含む牛肉・牛肉製品は米国から日本に輸出することができなくなる。

同プログラムの認証を受けるに際しては、関係書類をU S D A農業マーケティング局(A M S)に提出した後、査察官による査察に合格する必要がある。認証を受けた者の名称はU S D Aのホームページに掲載されるが、年3回実施されるU S D Aによる査察の結果不適当であるとされた場合には、認証が取り消される。また、認証を受けた者には関係書類や記録の1年間の保管が義務付けられる。

メキシコ政府は1 0月1日、カナダからの牛肉および牛肉製品の輸入のための動物検疫条件を決定したと公表した。カナダとメキシコ政府間では既に8月1 3日に3 0カ月齢未満の牛骨なし肉などの輸入を再開することについて合意に達していた。今回の輸入条件により、3 0カ月齢未満の牛から生産された骨なし肉、内臓(心臓、肝臓、舌および腎臓)、牛肉加工品および牛脂について輸入が認められる。また、米国から既に輸入が条件付きで認められている骨なし肉およびその加工品については、メキシコ向けの輸出であることを明記することを条件に米国経由での輸出を認めることについても米国の衛生当局と合意した。なお、生体については検討中である。

カナダからメキシコには2 0 0 1年には、6万9 千トンの牛肉などが輸出されており、輸出量の1 4%を占め、米国(7 3%)に次ぐ第2の輸出先となっていた。