海外編

 II EU 




1. 一般経済の概況
 EUは2004年5月1日、新たに中・東欧8カ国(チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロバキア、スロベニア)および地中海2カ国(キプロス、マルタ)の計10カ国を新たに加え、25カ国へと拡大した。これにより、人口4億5,700万人、実質国内総生産(GDP)約10兆3,300億ユーロの国家連合へと生まれ変わった。

 この2004年における欧州連合(EU25カ国)のGDPの成長率は、前年比1.6ポイント増加の2.4%へ上昇した。世界的な景気後退を受けて低迷していたEU経済は、2003年後半からの外需に支えられ、4年ぶりにプラスに転じている。しかし、2004年後半からは、世界経済の減速、原油価格の高騰、ユーロ高の影響から回復ペースは鈍化し、第4四半期の成長率は1.9%へと落ち込んでいる。

 また、EUの失業率は、EU15カ国では前年比0.1ポイント増の8.1%とほぼ横ばい、EU25カ国では失業率が約19%と高いポーランドなどの加盟により同9.0%となっている。

 なお、EUでは、99年1月より単一通貨ユーロが導入され、2004年時点では、EU15カ国のうち、イギリス、デンマークおよびスウェーデンを除く12カ国でユーロが流通している。2004年のユーロの対円為替相場は1ユーロ=135.76円で、ゼロ金利が続く日本との金利格差を背景に、ユーロ導入後の2000年時点の1ユーロ=101.89円より大幅な円安傾向で推移している。

表1 主要経済指標
 
欧州連合の加盟国等(2004年12月時点)



2. 農・畜産業の概況
 EUは、加盟25カ国全体で1億6,239万ヘクタール(2004年)の農用地面積を有し、農業経営体数は987万1千戸(2003年)、1戸当たりの農用地面積は、15.8ヘクタール(2003年)である。

 2004年におけるGDPのうち、農業生産の占める割合は、前年同の1.6%であった。また、同年の(以下同じ)労働人口に占める農業従事者の割合は5.0%であり、他の先進国と同様に、その割合は高くない。農業生産額は3,304億6千万ユーロとなり、前年を5.8%上回った。このうちの約41%に相当する1,320億9千万ユーロを畜産が占めており、EU農業の主要部門となっている。畜産の内訳を見ると、生乳が429億ユーロ(同約13%)、牛肉・子牛肉が306億6千万ユーロ(同約10%)、豚肉が282億8千万ユーロ(同約9%、キプロスを除く。)、卵・家きんが186億3千万ユーロ(同約6%)である。

 2004年のEU農業を概観した中で、特徴的な事項として、年間を通じた好天による好調な穀物生産が挙げられる。

 2004年の農業経済を部門別に見ると、畜産部門では、牛肉や豚肉の価格が上昇した一方、生乳や家きん肉・鶏卵の価格が下落したことにより、生産者価格は前年比0.4%安となったものの、牛肉および生乳を除き生産が増加したことから生産額は前年比0.7%増となった。一方、耕種作物部門においては、好調な生産により、生産量は前年を12.5%上回り、生産額も前年比3.1%増となった。

 農業者1人当たりの農業所得(実質)は、ベルギー(前年比8.8%減)、オランダ(同11.5%減)など6カ国が前年を下回ったものの、チェコ(同107.8%増)、ポーランド(同73.5%増)、エストニア(同55.9)など新規加盟国において大幅に前年を上回ったことから、EU25カ国では前年を3.3%上回ることとなった。

図1 農業生産額に占める畜産のシェア(2004年)
 
図2 畜産生産額に占める畜種別のシェア(2004年)
 
表2 主要農業経済指標



3. 畜産の動向
(1)酪農・乳業

 2004年のEUの生乳生産量は、全世界(約6億2,214万トン:FAO資料)の約23%を占め、これは、単一国としては世界最大である米国の生産量の約1.9倍に相当する。EUは、牛乳・乳製品の自給率が116%の純輸出市場であり、国際乳製品市場に大きな影響力を持っている。2004年において、EUが世界の乳製品貿易量に占める割合は、チーズが39%、バターが38%、脱脂粉乳が25%で、いずれも世界最大となっている。


@主要な政策
ア.生乳生産割当(クオータ)制度
 国別に生産割当枠(クオータ)を定め、クオータ超過に対しては、指標価格の115%の課徴金が課せられる。加盟国間でのクオータの譲渡は認められていないが、農家間では、売却・リースや加盟国によるクオータの買い上げ・再配分などを通じて移動・調整することができる。
 この制度の終了年度は、「アジェンダ2000」において2007/08年度(毎年4月〜3月)と定められていたが、2003年6月に合意した共通農業政策(CAP)改革において、2014/15年度まで継続されることとなった。

イ.乳製品の介入買入れ
 バターや脱脂粉乳の介入買い入れを通じた乳製品の価格支持により、間接的に生乳価格を支持している。この介入価格は、CAP改革により、バターについては、4年間で25%、脱脂粉乳については、3年間で15%段階的に引き下げることとなった。
 バターの市場価格が介入価格(100キログラム当たり305.23ユーロ(2004年7月1日〜2005年6月30日))の92%を下回った場合、加盟国の介入機関により、入札方式による一定規格のバターの介入買い入れが行われる。なお、CAP改革により、バターの介入買入限度数量を新たに設定し、2004年に7万トン、その後毎年1万トンずつ削減し、2008年に3万トンまで削減することとなった。
 また、一定規格の脱脂粉乳については、3月1日〜8月31日の間、加盟国の介入機関が介入価格(100キログラム当たり195.24ユーロ(2004年7月1日〜2005年6月30日))で買い入れる。なお、その年の介入買い入れ量が10万9千トンを超えた場合、介入買い入れは停止され、入札による買い入れが実施できることとなっている。

ウ.輸出補助金
 EU産乳製品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、チーズ、バター、脱脂粉乳などの輸出に対して輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに販売・輸送コストなどを勘案して設定される。

エ.域内消費の促進
 脱脂乳、脱脂粉乳の飼料用消費やバターのアイスクリームおよびベーカリー用消費に対する補助のほか、牛乳の学校給食用消費に対する補助などが行われている。



A生乳の生産動向
ア.酪農経営体数
 EU15カ国の酪農経営体数は、小規模層を中心に減少傾向にあり、2003年には63万5千戸となった。2001年に行われた前回の調査(69万2千戸)と比較すると、2年間で8.3%減少している。

イ.飼養頭数
 EU15カ国の2004年12月現在の乳用経産牛飼養頭数は、前年を2.2%下回る1,883万頭となり前年に引き続き減少した。クオータ制度の下で生乳生産の増加が抑えられている一方、経産牛1頭当たりの乳量が着実に増加していることが、飼養頭数減少の要因となっている。なお、EU25カ国では前年を2.4%下回る2,340万頭となっている。
 1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は、15カ国平均30頭(2003年)で、2001年の前回調査の29頭から増加した。しかし、最も飼養規模の大きいイギリスが79頭であるのに対し、規模が小さいギリシャでは14頭など、加盟国間で差が大きい。

ウ.経産牛1頭当たり乳量
 EU25カ国の2004年の経産牛1頭当たり乳量は、遺伝的能力や飼養管理技術の向上などにより、前年比0.4%増の5,897キログラムとなった。ただし、加盟国間での差は大きく、スウェーデンの8,106キログラム(同0.4%増)、デンマークの7,756キログラム(同2.1%増)に対し、ポーランドでは4,076キログラム(同0.6%増)と約2倍程度の開きがある。

エ.生乳生産量
 EUでは、CAPによるクオータ制度により、近年、生乳生産量は安定的に推移しているが、2003年の生乳生産量はクオータを超過し、これらの国において生乳の生産を削減したため、EU25カ国の2004年の生乳生産量は、前年比1.6%減の1億4,132万トンとなった。国別では、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、ポーランド、オランダの6カ国がいずれも1千万トンを超えている。
 なお、2004年度(2004年4月〜2005年3月)の生乳出荷量は1億2,258万トンで、EU全体ではクオータを0.9%上回った。この結果、国別クオータを上回ったドイツ、イタリア、オランダなどに対して超過課徴金(スーパーレヴィー)が課せられた。


表3 酪農経営体数、乳用経産牛飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移
 
図3 酪農経営体数(2003年)および乳用経産牛飼養頭数(2004年12月)
 
図4 生乳生産量(2004年)および経産牛1頭当たり乳量(2004年)



B牛乳・乳製品の需給動向
ア.飲用乳
 EU25カ国の2004年の飲用乳生産量(販売量)は、前年比0.5%増の3,361万トンであった。2004年の国別の1人当たりの飲用乳(乳飲料、ヨーグルトなどを含む)消費量は、スウェーデンの149.4キログラムからイタリアの63.1キログラムまで、加盟国間でかなりの差がある。近年の飲用乳消費は、全脂肪乳の割合が5割以下に減少する一方、低脂肪乳の割合が増加する傾向となっている。また、発酵乳などの消費は引き続き増加している。

表4 1人当たり飲用乳消費量の推移
表5 バター需給の推移
   
図5 バターの国別生産量(2004年)
 
 

イ.バター
 2004年のEU25カ国のバター生産量は、全世界のバター生産量の(約830万トン:FAO資料)の24%を占める。EUはインドに次ぐ世界第2位のバター生産地域である。

 2004年のEU15カ国のバター生産量(バターオイルを含む)は、180万2千トンで前年を3.6%下回った。これは生乳生産量の減少に加え、加工原料乳が付加価値の高いチーズにより仕向けられていることによるものであった。なお、EU25カ国の生産量は211万2千トン(バターオイルを除く生産量は194万5千トン)であった。

 2004年のEU25カ国の域外への輸出量は、34万4千トンであった。主な輸出先は、モロッコおよびエジプトなどの中東諸国やロシアである。一方、域外からの輸入量は8万9千トンであった。

 EU15カ国の1人当たりのバター消費量は、消費者の健康に対する関心の高まりにより90年代から減少傾向にあったが、2004年は前年同の4.4キログラムとなった。国別では、フランス(7.8キログラム)、ドイツ(6.5キログラム)での消費が多いが、マーガリンやデイリースプレッドの消費が多いデンマーク(1.7キログラム)などの北欧の国や、オリーブ油など植物油脂の消費が多いスペイン(0.9キログラム)などの南欧の国では少ない。なお、EU25カ国の1人当たりのバター消費量は、4.2キログラムとなっている。


表6 1人当たりバター消費量の推移
表7 脱脂粉乳需給の推移

ウ.脱脂粉乳
図6 脱脂粉乳の国別生産量(2004年)
 EU25カ国は、脱脂粉乳の生産量では全世界(約329万トン:FAO資料)の約36%(2004年)のシェアを占める世界最大の生産地域である。
 2004年のEU15カ国の生産量(バターミルクパウダーなどを含む)は89万6千トンで、前年を19.8%下回った。これは生乳生産量の減少に加え、加工原料乳が付加価値の高いチーズにより仕向けられていることによるものである。なお、EU25カ国の生産量は、111万3千トン(バターミルクパウダーなどを除く生産量は、104万1千トン)であった。

 2004年のEU25カ国の域外への輸出量は、27万9千トンとなった。主な輸出先は、アルジェリア(4万6千トン)、エジプト(1万5千トン)などの北アフリカやインドネシア(2万4千トン)、タイ(2万7千トン)、マレーシア(1万3千トン)などの東南アジアなどである。生産の減少に伴い需給が引き締まったことから、2000年10月以降、介入在庫はゼロとなった。しかし、2002年には脱脂粉乳の生産量が大きく伸びたこともあり、2002年3月以降介入在庫が生じたが、2004年には消費量が生産量を上回ったことから、在庫量は前年比58.8%減の8万トンと大幅に減少している。

エ.チーズ
 EU25カ国は、チーズの生産量では全世界(1,823万6千トン:FAO資料)の47%(2004年)のシェアを占める世界最大の生産地域である。
 チーズ生産量は、堅調な域内需要に加え、世界的な需要増加を背景に95年から2004年までの10年間で、EU15カ国で約16%増加した。99年には、ロシアの経済悪化による同国向け輸出の停滞の影響で一時的に生産の伸びが鈍化したものの、その後回復している。2001年には、BSE問題の再燃による代替需要生産の拡大により、最近では最大の伸びを示したが、その後落ち着き、2004年の生産量は前年比1.3%増の741万5千トンとなった。なお、2004年のEU25カ国での生産量は、842万4千トンであり、このうち主に牛乳を原料として乳業工場で製造されるものは770万3千トン(キプロス、マルタを除く)となっている。

表8 チーズ需給の推移
図7 チーズの国別生産量(2004年)
   
図8 チーズの輸出先国(2004年)
表9 1人当たりチーズ消費量の推移

 2004年のEU25カ国の域外への輸出量は54万9千トンであった。堅調なチーズの国際価格およびロシアの経済発展により、着実に増加が見られている。主な輸出先は、米国(11万9千トン)、ロシア(10万2千トン)、日本(5万5千トン)である。
 一方、域外からの輸入量は、11万1千トンであった。主な輸入先は、スイス(4万トン)、ニュージーランド(2万6千トン)、豪州(2万2千トン)である。

 2004年のEU25カ国のチーズ消費量は822万9千トンで、1人当たりの消費量は18.0キログラムであった。国別の1人当たりの消費量には、加盟国間でかなりの差があり、ギリシャ(28.7キログラム)、フランス(23.8キログラム)、イタリア(23.1キログラム)、ドイツ(21.9キログラム)などで多く、スペイン(9.5キログラム)、アイルランド(10.4キログラム)、イギリス(11.3キログラム)などで少なくなっている。なお、新規加盟国の1人当たりのチーズ消費量は12.5キログラムで、EU25カ国の平均を大幅に下回っている。


表10 主要国の生乳生産者価格
表11 ドイツにおける牛乳小売価格の推移
   
表12 主要国のバター卸売価格


C生乳および牛乳・乳製品の価格動向
ア.生乳生産者価格
 生乳については、バターや脱脂粉乳の介入買い上げ措置を通じて、間接的に価格を支持するための目標となる生乳指標価格が設定されていたが、2003年のCAP改革により、2004年4月1日に廃止された。
 EU15カ国の2004年の国別生乳生産者価格(農家渡し、脂肪分3.7%)は、CAP改革による介入価格の削減により、前年度を1.4%下回る100キログラム当たり28.50ユーロとなった。国別で見てもほとんどの国で前年度を下回った。

イ.牛乳小売価格
 ドイツの2004年の全脂乳(回収ビン)の小売価格は、1リットル当たり0.81ユーロであった。

ウ.バター卸売価格
 2004年のEU各国のバター卸売価格(工場渡しまたは倉庫渡し)は、需要の低迷などにより、主要国では前年を下回った(フランス:前年比1.0%安、ドイツ:同2.6%安)。

エ.脱脂粉乳卸売価格
 2004年のEU各国の脱脂粉乳卸売価格(工場渡し)は、近年に需要が伸びているチーズやその他の高付加価値乳製品の生産が増加し、脱脂粉乳の生産が減少したが、域内での食品産業での需要は増加したため、主要国では前年を上回った(ドイツ:前年比1.0%高、フランス:同2.0%高)。

オ.チーズ卸売価格
 2004年のEU各国のチーズ卸売価格(工場渡し)は、生産国や商品によりその価格の推移にバラツキが見られた。例えば、ドイツのゴーダチーズでは、需要の増加に伴う生産の増加により、チーズメーカー間の競争が生じ、価格は低下した。一方、イギリスのチェダーチーズでは、国際市場での価格の上昇に伴い、前年を上回った。


表13 主要国の脱脂粉乳卸売価格
 
表14 主要国のチーズ卸売価格



(2)肉牛・牛肉産業

 2004年のEUの牛肉生産量は、世界の牛肉生産量(約5,971万トン:FAO資料)の14%を占めている。幅広い気候・地理・歴史的条件の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や生産する牛のタイプ(子牛、経産牛、去勢牛、非去勢牛など)は、国によってかなり異なっている。このような中、EUにおける牛肉自給率は2002年までは、100%を超えていたが、2000年末のBSE問題の再燃によって低下した消費が回復し、消費量が生産量を上回ったことから、2003年以降、牛肉の純輸入地域となっている。

表15 牛(乳牛を含む)飼養経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移


@主な政策
ア.介入買い入れ
図9−1 国別牛飼養頭数(2004年12月)
 域内の牛肉価格が下落した場合、加盟国の介入機関を通じ、一定基準を満たす牛肉を買い入れ、市場から隔離することにより、価格を一定以上に維持している。2002年6月30日までは、域内または加盟国・地域の牛肉市場平均価格が、介入価格となる84%または80%の水準を2週間連続して下回った場合に発動される通常介入(買い入れ数量上限あり)と、価格が極端に低下した場合に実施されるセーフティーネット介入(買い入れ数量上限なし)の2つの方式が実施されていたが、通常介入については、2002年6月30日に廃止され、同年7月1日以降、民間在庫補助に移行した。

 セーフティーネット介入は、規則(EC/1208/87)に基づく枝肉の欧州平均市場価格が、2週間にわたって1,560ユーロ/トンを下回る場合に実施される。

イ.民間在庫補助
 EU市場でR3に格付けされた雄牛の枝肉基本価格を100キログラム当たり222.4ユーロと定め、EU平均市場価格が基本価格の103%を下回り、それが継続する可能性がある場合に、一定量の牛肉を一定期間、自己負担により在庫する業者に対し助成が行われる。

ウ.直接支払い
 2000年度からの介入価格の引き下げにより減少した農業所得を補償するため、繁殖雌牛奨励金などの奨励金について、単価が引き上げられたほか、2000年には新たにと畜奨励金が新設された。

(ア)繁殖雌牛奨励金(Suckler cow premium)
 繁殖雌牛を飼養する肉用牛生産者(生乳出荷量がゼロまたは生乳生産枠(クオータ)が120トン以下の生産者)に対し、1頭当たり200ユーロの奨励金が交付される。

(イ)特別奨励金(Beef special premium)
 雄牛や去勢牛を飼養する生産者に対し、肉牛の生存中に2回(10カ月齢および22カ月齢(雄牛は1回のみ))まで、各農家90頭を限度として、去勢牛1頭当たり150ユーロ、雄牛1頭当たり210ユーロの奨励金が交付される。

(ウ)と畜奨励金
 牛を一定期間飼養後、と畜または域外に輸出した生産者に対し、8カ月齢以上の牛1頭当たり80ユーロ、1カ月齢超7カ月齢未満の子牛1頭当たり50ユーロの奨励金が交付される。

エ.輸出補助金
 EU産牛肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。

オ.BSE関連対策
 動物性たんぱく質の飼料利用全面禁止などのBSE撲滅対策、牛肉の安全性を確保するための30カ月齢超の食用向けの健康な牛に対するBSE全頭検査などが実施されている。


図9−2 国別タイプ別牛飼養割合(2004年12月)

表16 牛肉需給の推移(枝肉換算)
表17 主要国の成牛1頭当たり平均枝肉重量



A肉牛の生産動向
ア.牛飼養経営体数
 2003年のEU15カ国の牛飼養経営体数(乳牛飼養を含む)は134万9千戸で、2001年の前回調査に比べ9%減となっている。なお、EU25カ国では、261万1千戸となっている。
 牛飼養経営体数は、EU25カ国の全農業経営体数(987万戸)の26%を占めていることから、EU全農業経営体の4分の1は何らかの形で牛を飼養していることになる。牛飼養経営体数の多い国は、ポーランド(84万6千戸)、フランス(24万5千戸)、ドイツ(19万8千戸)、イタリア(17万3千戸)、スペイン(16万6千戸)の順となっている。

イ.飼養頭数
 EU25カ国の2004年12月現在の牛飼養頭数は8,641万2千頭(乳用経産牛を含む)で、前年同期比1.2%減となった。
 EU15カ国の1戸当たりの飼養頭数は57.8頭(2003年)で、2001年と比較して3.5頭増加しており、引き続き飼養規模が拡大している。国別では、オランダ(95.9頭)、イギリス(95.5頭)、ルクセンブルグ(92.4頭)から、ポルトガル(16.2頭)まで飼養規模の差が大きい。スペイン(39.5頭)、イタリア(38.9頭)、ギリシャ(30.2頭)などの南欧の国では、飼養規模が相対的に小さい。
 また、最も牛飼養経営体数が多いポーランドで6.5頭と、新規加盟国の飼養規模が相対的に小さいことから、EU25カ国の1戸当たりの飼養頭数は33.8頭(2003年)となっている。


表18 主要国の成牛参考価格の推移
 
表19 牛枝肉卸売価格の推移
 
表20 牛肉小売価格の推移


B牛肉の需給動向
ア.牛と畜頭数および牛肉生産量
 2004年の牛と畜頭数は2,883万3千頭となった。国別のと畜頭数を見ると、フランス(542万頭)、イタリア(422万頭)、ドイツ(414万頭)、スペイン(273万頭)、イギリス(236万頭)の順で、これら5カ国でEU25カ国の全と畜頭数の約65%を占めている。
 また、牛肉生産量は、過去最高の866万トン(枝肉換算)を記録した91年(12カ国)以降減少傾向にある。2004年(25カ国)においては、804万8千トン(枝肉換算)となった。
 1頭当たりの平均枝肉重量(2004年)は、成牛で314.9キログラム、子牛は131.3キログラムであった。

イ.輸入および輸出
 輸入については、ガット・ウルグアイラウンド合意に基づき、さまざまな関税割当や近隣国との特恵制度が設けられている。2004年のEU25カ国の域外からの輸入量は、50万4千トン(枝肉換算)となった。生産量の減少に加え、域内の消費量が増加し、輸入量は増加している。主な輸入先は、ブラジル、アルゼンチンなどである。
 輸出については、従来から北アフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。しかし、2001年秋以降のBSE問題の再燃や2002年2月の口蹄疫(FMD)の発生により、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が講じられた。2004年のEU25カ国の域外への輸出量は、31万8千トン(枝肉換算)となった。牛肉輸出量は、生産量の減少に加え、域内の消費量の増加により、大きく減少している。

ウ.消費
 2000年10月のフランスでのBSE感染牛の販売疑惑や同年11月にドイツ、スペインでBSEの初発例が発見されたことなどにより、牛肉の安全性に対する疑念がEUの消費者に広がったことから、2001年のEU15カ国の消費量は前年比5.8%減の686万3千トンとやや落ち込んだ。しかし、2002年以降回復し、2003年には、牛肉の消費は前年比2.2%増の768万トンと99年の水準を超えた。なお、2004年のEU25カ国の消費量は813万6千トンであった。
 1人当たりの牛肉消費量も同様に、2001年には18.3キログラムと前年を1.0キログラム下回ったが、2003年には2001年レベルからから1.9キログラム増加し、20.2キログラムとなった。なお、新規加盟国での牛肉消費量は、まだそれほど高くなく、2004年のEU25カ国の牛肉消費量は、17.9キログラムとなっている。

エ.介入在庫
 96、97年にBSE問題の影響による価格下落に伴い、介入買い入れが実施されたことにより急激に増加した介入在庫も、98年末の50万4千トンをピークに減少し、2000年末にはわずか2千トンにまで減少した。しかし、2000年末のBSE問題の再燃により、牛肉価格が落ち込んだため、通常介入だけでなくセーフティーネット介入も実施された。また、従来、介入買い上げの対象となっていなかった経産牛を買上対象とした特別買い上げも実施された結果、2001年末の介入在庫量は前年同月の22万2千トンに達していた。その後消費の回復により、在庫は減少し、2004年にゼロとなった。


表21 養豚経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

図10 国別豚飼養頭数(2004年12月)
図11 豚肉の輸出相手国(2004年)
   
表22 豚肉需給の推移(枝肉換算)
表23 主要国の豚1頭当たり平均枝肉重量


C肉牛・牛肉の価格動向
ア.成牛の参考価格
 成牛の市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における成牛(生体)の加重平均価格をベースとして算出され、EUにおける肥育牛の市場価格の動向を把握するものとして使用されていたが、これは2002年末に廃止された。
 2001年の参考価格は、2000年秋以降のBSE問題再燃の影響で、前年比14.8%安の100キログラム当たり110.79ユーロと記録的な落ち込みを見せたが、2002年には、前年比5.5%高の100キログラム当たり116.91ユーロと回復している。

イ.枝肉卸売価格
 2004年の枝肉卸売価格は、牛肉の安定した需要に対し、域内の供給量が不足したことにより主要国では前年を上回った。

ウ.小売価格
 2004年の小売価格は、牛肉の安定した需要に対し、域内の供給量が不足したことにより主要国では前年を上回った。


表24 主要国の豚枝肉参考価格の推移
 
表25 豚肉小売価格の推移



(3)養豚・豚肉産業

 2004年のEUの豚肉生産量は、世界の豚肉生産量(約1億48万トン:FAO資料)の21%を占めている。EUは豚肉自給率107%の純輸出地域であり、世界の豚肉輸出量(約431万トン)に占める割合は74%(2004年)と最大である。特に、デンマークの輸出量はEU全体の輸出量の約4割を占め、米国の輸出量の約2倍に相当する。EUでは、加盟国間で差が大きいものの、食肉消費量に占める割合は豚肉が最も大きい。


@主な政策
ア.民間在庫補助
 域内の豚肉価格が下落した場合、特定の豚肉を一定期間在庫する者に対し補助金が交付される。

イ.輸出補助金
 EU産豚肉および加工品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。



A肉豚の生産動向
ア.養豚経営体数
 2003年のEU15カ国の養豚経営体数は、2001年の前回調査に比べ13%減の64万4千戸で、減少が続いている。なお、EU25カ国では、216万5千戸となっている。
 EU25カ国のEU全農業経営体数(987万戸)に占める豚飼養経営体数の割合は22%である。国別では、ポーランド(64万3千戸)、ハンガリー(43万5千戸)、リトアニア(16万9千戸)、イタリア(16万9千戸)、ポルトガル(11万戸)が上位である。

イ.飼養頭数
 2004年12月現在のEU15カ国の豚飼養頭数は1億2,319万4千頭で、前年を1.3%上回った。なお、EU25カ国では1億5,165万7千頭となっている。
 EU25カ国の1戸当たりの飼養頭数は70.2頭(2003年)となっている。EU15カ国では189.4頭となっており、国別では、規模が大きいアイルランドの1,473.7頭、デンマークの1,165.5頭、オランダの1,040.9頭からポルトガルの20.4頭やギリシャの27.9頭まで加盟国間で大きな差が見られる。なお、新規加盟国では、飼養経営体数が多いポーランドの28.9頭、ハンガリーの11.3頭など、小規模の経営体が多いことがうかがえる。



B豚肉の需給動向
ア.と畜頭数と豚肉生産量
 2004年のEU25カ国の豚と畜頭数は2億4,120万1千頭となった。また、豚肉生産量は2,122万トン(枝肉換算)となっている。
 2004年のEU25カ国の1頭当たりの平均枝肉重量は、87.9キログラムであった。

イ.輸入および輸出
 2004年のEU域外からの豚肉(生体豚、調製品およびラードを含む)の輸入量は3万6千トン(枝肉換算)となった。豚肉輸入量は、2003年の主な輸入相手国であったハンガリー、ポーランドなど東欧諸国がEUに加盟したことにより減少している。
 一方、2004年の域外への輸出量は、177万3千トン(枝肉換算。製品重量ベースでは148万7千トン)となった。

ウ.消費
 2004年のEU25カ国の消費量は、1,983万トンであった。2004年のEU25カ国の1人当たりの豚肉消費量は、43.4キログラムであった。



C肥育豚、豚肉の価格動向
ア.豚肉の市場参考価格
 豚枝肉市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における豚枝肉の加重平均価格をベースとして算出される。
 2000年末に発生したBSE問題の再燃により参考価格は上昇したものの、その沈静化により下落に転じた。この下落は、2003年に下げ止まり、2004年には、日本の米国産牛肉輸入禁止による代替需要でのEU産豚肉の需要の増加、ドイツでの供給不足、年初の価格の低迷に対する民間在庫補助や輸出補助金の導入などにより、前年比8.8%高の100キログラム当たり138.43ユーロとなった。

イ.小売価格
 2004年の豚肉の小売価格は、EU全体での豚肉の堅調な需要に伴い、枝肉価格が上昇したことから、主要国では前年を上回った。




EU、25カ国体制へ拡大

 中東欧諸国など10カ国が2004年5月1日、新たにEUに加盟した。それに伴い、それらの国々の食肉加工場や乳業工場などの食品加工施設のうち、既にEUの基準に適合しているものおよび2003年4月に署名された加盟条約(Accession Treaty)で移行期間が認められた一部の施設(新規加盟国合計で730施設)は加盟以降も生産を続けられるが、それ以外のものは、加盟後生産ができないこととなった。

 これに対し、EUのフードチェーン・家畜衛生常設委員会は2004年4月15日、EU基準に適合させるための移行期間を新たに認める食品加工場の追加承認を行った。

 これにより、新規加盟国における407の食品加工施設に3カ月から1年間の移行期間が認められ、加盟後も生産を継続できることとなった。
 欧州委員会によれば、今回新たに移行期間が認められた食品加工施設は、EUの衛生基準には適合しているが、その他のEU基準に適合させるためにもう少し時間が必要なものとされる。また、フードチェーン・家畜衛生常設委員会は、加盟条約において移行期間が認められている施設のうち、適合のための作業が終了または施設を閉鎖した131施設については、移行期間が認められた対象施設のリストから削除することを認めた。

 今回の対象施設の追加、削除により、移行期間が認められた新規加盟国の施設は、合計で1,006施設となるが、これは新規加盟国にある合計12,000施設の約8%に相当するものである。

 移行期間が認められた施設で生産される製品については、当該国内では販売が認められるが、他の加盟国への販売はできない。また、移行期間が認められた施設で生産された製品が他の加盟国で販売されることを防ぐため、EU基準に適合した施設で生産され、EU域内で流通可能な製品と区別するための表示が行われることとなっている。

 移行期間が認められた合計1,006施設の内訳をみると、域内での大農業国であるポーランドが721施設と、全体の7割以上を占めている。一方、施設の種類をみると、食肉関係が584カ所と半数以上を占めており、続いて乳製品関係の214施設となっている。



牛肉の消費回復によりEUの牛肉介入在庫量はゼロに

 欧州委員会は2004年3月26日、EUの牛肉介入在庫がゼロになったことを発表した。

 EUでは、2000年末のBSE問題の再燃により、牛肉価格が著しく下落したため、牛肉価格の回復を目的として、2000年12月から牛肉の介入買い入れを実施することを決定した。この買い入れによる在庫量は、2001年末に最大となる26万トンとなったが、2002年当初からEU域内の牛肉市況が好転したことから、2002年6月以降、介入在庫からの牛肉の売却が行われていた。欧州委員会は、この介入在庫からの売却が、当初同委員会が予想していたよりも早く完了したと伝えている。

 EUでは、域内の牛肉価格が下落した場合、加盟各国の介入機関を通じて、一定基準を満たす牛肉を買い入れ、市場から隔離することにより、価格を一定以上に維持する介入買い入れ制度があった。この制度は、アジェンダ2000による共通農業政策(CAP)改革により、2002年6月30日をもって廃止され、同年7月1日以降、民間在庫補助(APS)に移行したが、2002年当初から、牛肉価格は安定しているため、牛肉のAPS発動は実施されていない。

 欧州委員会農業総局が2004年3月に発表した、農業分野の中期予測では、2002年のEU15カ国の牛肉の1人当たり消費量は、前年比10.8%増の19.7キログラムで、2003年は、同2.6%増の20.8キログラムになると予測している。2003年の消費量は、BSE問題再燃前の99年(20.4キログラム)をも上回るものとなり、今回の介入在庫の放出も、この牛肉消費の回復が要因であるとも伝えている。

 このように、EU15カ国の牛肉消費量は回復しているが、EU15カ国での牛肉生産量は引き続き低下することが予測されており、これまで牛肉の自給率が100%を超えていたEUも、今後は牛肉の純輸入国となることが見込まれている。



欧州委員会、豚肉への輸出補助金を一時再開

 EUの豚肉管理委員会は2004年1月23日、豚枝肉などに対する輸出補助金の一時再開を決定し、欧州委員会は27日からこの措置を適用した。

 欧州委員会によれば、欧州の養豚産業の状況として、@ユーロが米国ドルに対し非常に強い状態となっていること、A域内の豚肉需要が停滞していること−などの困難に直面し、豚肉価格が非常に低迷している。さらに、2003年夏の猛暑による影響で飼料穀物の価格が上昇しているため、養豚農家の経営は非常に厳しいものとなっている。この状況はEUの養豚産業に打撃を与えるものであり、これに対処するために、例外的措置(輸出補助金)が必要であるとした。

 なお、欧州では、豚肉価格の低迷を打開するため、まず、2003年12月中旬に豚肉の民間在庫補助(APS)の導入を決定し、実施した。欧州委員会によれば、2004年1月23日までに既に8万5千トンの豚肉がこの対策の対象として申し込みが行われた。しかしながら、このAPSは、豚肉価格の下落を止めることには寄与したが、好転させるには十分ではないとして、欧州委員会は、この輸出補助金の再開に踏み切ったものである。

 この輸出補助金は、2004年4月末までに、現在のEU域内(15カ国)から加盟予定国(10カ国)および加盟候補国(ルーマニア、ブルガリアの2カ国)以外の第三国に輸出される豚肉などの一部に適用されるものであり、補助の対象となる部位とその補助金単価の主なものは以下のとおり(金額は100キログラム当たり)。

豚枝肉  :40ユーロ
骨付きカタ:40ユーロ
骨付きバラ:25ユーロ

 豚枝肉などに対する輸出補助金が2000年6月以来約3年半ぶりに一時再開したことになるが、これについて、デンマークの最大手の豚肉関連会社であるデニッシュクラウンは、「今回の措置による当社への恩恵は、非常に限られている。なぜなら、日本向けの豚肉(冷凍のロイン、骨なしバラ肉)などが、今回の輸出補助金の対象とされていないためである」と不満を表している。また、同社はAPSを活用してきたが、輸出補助金の一時再開により、APSが終了することとなり、「良い対策(APS)が、それより劣る対策(輸出補助金)に取って代わられた」とのコメントを公表している。