海外編 |
■■■ II EU ■■■ |
表1 主要経済指標 |
欧州連合の加盟国等(2004年12月時点) |
図1 農業生産額に占める畜産のシェア(2005年) |
図2 畜産生産額に占める畜種別のシェア(2005年) |
表2 主要農業経済指標 |
3. 畜産の動向 |
2005年のEUの生乳生産量は、全世界(約6億3,056万トン:FAO資料)の約23%を占め、これは、単一国としては世界最大であるインドの生産量の約1.5倍に相当する。EUは、牛乳・乳製品の自給率が117%の純輸出市場であり、国際乳製品市場に大きな影響力を持っている。2005年において、EUが世界の乳製品貿易量に占める割合は、チーズが34%、バターが36%、脱脂粉乳が18%で、いずれも世界最大となっている。 |
ア.生乳生産割当(クオータ)制度 この制度の終了年度は、「アジェンダ2000」において2007/08年度(毎年4月〜3月)と定められていたが、2003年6月に合意した共通農業政策(CAP)改革において、2014/15年度まで継続されることとなった。 イ.乳製品の介入買入れ バターの市場価格が介入価格(100キログラム当たり282.44ユーロ(2005年7月1日〜2006年6月30日))の92%を下回った場合、加盟国の介入機関により、入札方式による一定規格のバターの介入買い入れが行われる。なお、CAP改革により、バターの介入買入限度数量を新たに設定し、2004年に7万トン、その後毎年1万トンずつ削減し、2008年に3万トンまで削減することとなった。 また、一定規格の脱脂粉乳については、3月1日〜8月31日の間、加盟国の介入機関が介入価格(100キログラム当たり184.97ユーロ(2005年7月1日〜2006年6月30日))で買い入れる。なお、その年の介入買い入れ数量が10万9千トンを超えた場合、介入買い入れは停止され、入札による買い入れが実施できることとなっている。 ウ.酪農奨励金 なお、本奨励金は、CAP改革で導入された生産とリンクしない直接支払い(デカップリング)に2008年から統合されることとなっているが、加盟国はより早い時期に統合することができる。 エ.輸出補助金 オ.域内消費の促進 |
ア.酪農経営体数 イ.飼養頭数 1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は、15カ国平均30頭(2003年)で、2001年の前回調査の29頭から増加した。しかし、最も飼養規模の大きいイギリスが79頭であるのに対し、規模が小さいギリシャでは14頭など、加盟国間で差が大きい。 ウ.経産牛1頭当たり乳量 エ.生乳生産量 |
表3 酪農経営体数、乳用経産牛飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移 |
図3 酪農経営体数(2005年)および乳用経産牛飼養頭数(2005年12月) |
図4 生乳生産量(2005年)および経産牛1頭当たり乳量(2005年) |
表5 バター需給の推移
|
表6 1人当たりバター消費量の推移
|
図5 バターの国別生産量(2005年)
|
|
ウ.脱脂粉乳 2005年のEU25カ国の生産量(バターミルクパウダーなどを含む)は111万トンで、前年を2.4%上回った。これは、脱脂粉乳の需要が好調である中、生乳生産量が増加したことに加え、カゼインや全粉乳の生産量の減少によりその原料となる生乳が脱脂粉乳に仕向けられたことによるものである。 2005年のEU25カ国の域外への輸出量は、19万4千トンとなった。主な輸出先は、アルジェリア(3万2千トン)、エジプト(1万5千トン)などの北アフリカやタイ(2万1千トン)、インドネシア(1万6千トン)、ベトナム(1万1千トン)などの東南アジアなどである。生産の減少に伴い需給が引き締まったことから、2000年10月以降、介入在庫はゼロとなった。しかし、2002年には脱脂粉乳の生産量が大きく伸びたこともあり、2002年3月以降介入在庫が生じたが、2004年に続き2005年も消費量が生産量を上回ったことから、期末在庫量は前年比87.5%減の8千トンと大幅に減少している。 |
表7 脱脂粉乳需給の推移 |
図6 脱脂粉乳の国別生産量(2005年) |
エ.チーズ チーズ生産量は、堅調な域内需要に加え、世界的な需要増加を背景に95年から2004年までの10年間で、EU15カ国で約16%増加した。99年には、ロシアの経済悪化による同国向け輸出の停滞の影響で一時的に生産の伸びが鈍化したものの、その後回復している。2001年には、BSE問題の再燃による代替需要生産の拡大により、最近では最大の伸びを示したが、その後落ち着き、2005年のEU25カ国の生産量は前年比1.5%増の857万3千トンとなった。このうち主に牛乳を原料として乳業工場で製造されるものは786万8千トン(マルタを除く)となっている。 |
表8 チーズ需給の推移 |
図7 チーズの国別生産量(2005年) |
2005年のEU25カ国の域外への輸出量は54万5千トンであった。堅調なチーズの国際価格およびロシアの経済発展により、着実に増加が見られている。主な輸出先はロシア(12万1千トン)、米国(11万2千トン)、日本(5万トン)である。 一方、域外からの輸入量は、10万2千トンであった。主な輸入先は、スイス(4万2千トン)ニュージーランド(2万3千トン)、豪州(1万8千トン)である。 2005年のEU25カ国のチーズ消費量は839万4千トンで、1人当たりの消費量は18.4キログラムであった。国別の1人当たりの消費量には、加盟国間でかなりの差があり、フランス(22.9キログラム)、ドイツ(22.1キログラム)などで多く、スロバキア(9.3キログラム)、イギリス(11.1キログラム)などで少なくなっている。 |
図8 チーズの輸出先国(2005年) |
表9 1人当たりチーズ消費量の推移 |
ウ.バター卸売価格 |
表12 主要国のバター卸売価格 |
エ.脱脂粉乳卸売価格 |
表13 主要国の脱脂粉乳卸売価格 |
オ.チーズ卸売価格 |
表14 主要国のチーズ卸売価格 |
2005年のEUの牛肉生産量は、FAOによると世界の牛肉生産量(約6,400万トン)の13%を占めている。幅広い気候・地理・歴史的条件の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や生産する牛のタイプ(子牛、経産牛、去勢牛、雄牛など)は、国によってかなり異なっている。このような中、EUにおける牛肉自給率は2002年までは、100%を超えていたが、2000年末のBSE問題の再燃によって低下した消費が回復し、消費量が生産量を上回ったことから、2003年以降、牛肉の純輸入地域となっている。 ア.介入買い入れ セーフティーネット介入は、規則(EC/1208/87)に基づく枝肉の欧州平均市場価格が、2週間にわたって1,560ユーロ/トンを下回る場合に実施される。 イ.民間在庫補助 ウ.直接支払い なお、2003年のCAP改革により、これらの生産にリンクした直接支払いは、原則、生産とはリンクしない直接支払い(デカップリング)へと統合された。ただし、加盟国は、これらの生産と結びついた直接支払いについてもデカップリングと併せて継続することが可能となっている。 (ア)繁殖雌牛奨励金(Suckler cow premium) (イ)特別奨励金(Beef special premium) (ウ)と畜奨励金 エ.輸出補助金 オ.BSE関連対策 |
図9−2 国別タイプ別牛飼養割合 |
イ.輸入および輸出 輸出については、従来から北アフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。しかし、2001年秋以降のBSE問題の再燃や2002年2月の口蹄疫(FMD)の発生により、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が講じられた。2005年のEU25カ国の域外への輸出量は、前年比33.5%減の21万8千トン(枝肉換算)となった。牛肉輸出量は、生産量の減少により、大きく減少している。 ウ.消費 1人当たりの牛肉消費量も同様に、2001年には18.3キログラムと前年を1.0キログラム下回ったが、2003年には2001年レベルからから1.9キログラム増加し、20.2キログラムとなった。なお、新規加盟国での牛肉消費量は、まだそれほど高くなく、2005年のEU25カ国の牛肉消費量は、17.7キログラムとなっている。 エ.介入在庫 |
表17 主要国の成牛1頭当たり平均枝肉重量 |
表18 主要国の成牛参考価格の推移 |
ア.枝肉卸売価格 イ.小売価格 |
表19 牛枝肉卸売価格の推移 |
表20 牛肉小売価格の推移 |
2005年のEUの豚肉生産量は、世界の豚肉生産量(約1億43万トン:FAO資料)の21%を占めている。EUは豚肉自給率107.6%の純輸出地域である。特に、デンマークの輸出量はEU全体の輸出量の約4割を占め、米国の輸出量の約1.4倍に相当する。EUでは、加盟国間で差が大きいものの、食肉消費量に占める割合は豚肉が最も大きい。 ア.民間在庫補助 イ.輸出補助金 ア.養豚経営体数 2003年のEU25カ国ベースのEU全農業経営体数(987万戸)に占める豚飼養経営体数の割合は22%である。国別では、ポーランド(64万3千戸)、ハンガリー(43万5千戸)、リトアニア(16万9千戸)、イタリア(16万9千戸)、ポルトガル(11万戸)が上位である。 |
表21 養豚経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移 |
イ.飼養頭数 2005年のEU25カ国の1戸当たりの飼養頭数は69.0頭となっている。2003年のEU25カ国ベースの1戸当たりの飼養頭数は70.2頭であり、国別では、規模が大きいアイルランドの1,473.7頭、デンマークの1,165.5頭、オランダの1,040.9頭からポルトガルの20.4頭やギリシャの27.9頭まで加盟国間で大きな差が見られる。なお、新規加盟国では、飼養経営体数が多いポーランドの31.1頭、ハンガリーの12.2頭など、小規模の経営体が多いことがうかがえる。 |
図10 国別豚飼養頭数(2005年12月) |
表22 豚肉需給の推移(枝肉換算) |
図11 豚肉の輸出相手国(2005年) |
ア.豚肉の市場参考価格 2000年末に発生したBSE問題の再燃により参考価格は上昇したものの、その沈静化により下落に転じた。この下落は、2003年に下げ止まり、2004年には、日本の米国産牛肉輸入禁止による代替需要での、EU産豚肉の需要の増加、ドイツでの供給不足、年初の価格の低迷に対する民間在庫補助や輸出補助金の導入などにより上昇した。EU25カ国の2005年の参考価格は、100キログラム当たり139.13ユーロとなった。 |
表24 主要国の豚枝肉参考価格の推移 |
イ.小売価格 |
表25 豚肉小売価格の推移 |
欧州委員会は2005年7月15日、今後のEUにおける伝達性海綿状脳症(TSE)対策について、加盟各国、欧州議会および関係者と議論するための資料として、「指針(Roadmap)」を承認した。これは、これまで実施してきたBSE対策の効果により、BSE陽性牛の頭数が減少し続けていることを踏まえ、EUにおいて実施しているBSE対策に関する特定危険部位(SRM)の除去月齢、動物性たんぱく質の飼料給与禁止措置(フィードバン)、監視措置、BSEリスクに基づく第三国のカテゴリー分け、関連牛のとうた、イギリスからの牛肉輸出規制などについて、短・中期的(2005〜09年)に将来実施する施策の選択肢を示すものである。 SRMに関しては、引き続きその確実な除去により、消費者保護のレベルを確保・維持しながら、科学的知見に基づきSRMとする部位や対象月齢を変更するとした。EUでは2000年10月から、全加盟国の家畜の可食部からSRMの除去を義務付けている。EUでは、扁桃、腸(十二指腸から直腸まで)および腸間膜はすべての月齢において、また、頭がいと脊柱(注)は、12カ月齢超の牛においてSRMと規定していた。このような中、欧州食品安全機関(EFSA)は2005年5月26日、同機関の生物学的危険に関する科学パネルが実施したSRM除去の月齢の制限に関する評価を公表し、BSEが発見された最も若い牛(28カ月齢)の月齢を下回るもので問題ないと結論付け、SRMの除去月齢を24カ月齢超に引き上げることを提案した。こうした中、欧州委員会は2005年7月19日、EUのフードチェーン・家畜衛生常設委員会に、SRMの除去月齢を12カ月齢超から引き上げる提案を行った。 フィードバンに関しては、一定の条件が整えば、対策を緩和するとした。EUでは、2001年1月1日以降、家畜への動物性たんぱく質を飼料に利用することを禁止しているが、自然環境での混入については、リスク評価に基づきそれを許容するかどうかについて検討することとした。魚粉についても飼料に使用することは禁止されているが、反すう動物以外の動物への使用再開を提案した。 また、BSEリスクに基づく第三国のカテゴリー分けについては、2005年のOIE総会で承認された3区分法に基づき、EUのBSE対策の移行期間が終了する2007年7月1日前に実施するとした。さらに、サーベイランスについては、BSE検査の頭数を削減しつつ、その対象を絞ったより効果的なものにし、また、BSE関連牛を即時にとうたすることについては、これを中止し、と畜時のBSE検査などに切り替えるとした。 (注) 頭がいは、下顎骨を含まず、脳および眼球を含む、脊柱は、棘突起(尾椎、頚椎、胸椎、腰椎)、横突起(頚椎、胸椎、腰椎)、正中仙骨稜、仙椎翼は含まず、背根神経節および脊髄を含む。 |
欧州委員会は、鳥インフルエンザに対する予防対策として、発生国からの生きた鳥、家きん肉、未処理の羽毛などの輸入の一時停止、野生に生息する鳥から、家きんやそのほかの鳥(ペット用の鳥、動物園の鳥など)への感染を減少させるなどの対策を講じた。 リスクの高い地域の対策として、(1)家きんの屋外での飼養の禁止、(2)動物福祉の目的で設置された屋外の給水所は、野生の水鳥から十分に隔離すること、(3)野鳥が接触する給水所の水において、ウイルスの不活化が確実となっていない場合は、これを家きんに給与しないこと、(4)鳥の狩猟目的のおとり用の鳥の使用を禁止−とした。 各加盟国は、家きんやそのほかの鳥を一堂に集めることによるショー、展示会、文化的なイベントを禁止した。また、欧州委員会は2005年10月21日、野生に生息する鳥から、動物園で飼養しているウイルスに対する感受性の高い鳥に、鳥インフルエンザの感染を阻止するための予防対策を適用した(委員会決定2005/744/EC)。 加盟国は、湿地や渡り鳥の飛行経路などのリスクが高い地域を考慮し、動物園で飼養するウイルスに対する感受性の高い鳥に対する措置を講じた。また、リスクアセスメントに基づき、もしこれらの鳥にワクチン接種を必要とするならば、ワクチン接種を適用する決定をしても良いとした。なお、ワクチン接種に際しては、対象品種、ワクチンの接種期間、ワクチン接種した鳥の特定、記録、移動制限などの条件が規定された。 また、欧州委員会は2005年10月27日、英国で隔離検疫中に死んだオウムからH5N1型ウイルスの鳥インフルエンザが確認されたことに伴い、EUでの鳥インフルエンザに対する防御を高めるため、商業目的の家きんを除く生きたペット用の鳥の輸入を一時停止する決定を適用した。(委員会決定2005/760/EC)さらに、第三国から飼い主と共に移動するペットの鳥に関しては、5羽以内であれば、第三国で認められた30日間の隔離検疫を受けた場合(そうでない場合は、目的地の加盟国で30日間の隔離検疫を受検した場合)、EUに持ち込むことを認め、また、隔離検疫以外の方法としては、鳥インフルエンザに対するワクチン接種または移動前に約10日間のウイルスの分離検査で陰性であることとする委員会決定を適用した(委員会決定2005/759/EC)。 |
英国は2005年11月7日より、96年5月1日以降、公衆衛生保護対策として30カ月齢を超える(OTM)牛を食肉として流通することを禁止していた対策を見直し、OTM牛の食肉の市場への流通を開始した。新たな対策では、96年8月1日(肉骨粉の給与禁止措置開始日)より前に生まれた牛を除き、BSE検査で陰性であった牛の肉のみが食用として流通する。2005年9月14日に、イギリス食肉家畜委員会(MLC)が公表した「OTM処分対策の変更の影響に関する報告書」によれば、今回の変更により2005年には2万3千トン(8万頭)、2006年には18万5千トン(63万5千頭)の牛肉がフードチェーンに流通すると見込まれている。なお、これらの増加分は、すべて乳用牛由来のものと見込んでいる。また、対策前後の価格動向を見ると、この対策の変更による取引価格に与える影響はほとんど無いと考えられている。 英国環境・食糧・農村地域省(DEFRA)は11月14日、OTM牛のと畜が可能なと畜場の一覧を公表した。この承認を受けるには獣医の検査官による2日間の査察や作業手順に係る法的拘束力のある合意を結ぶなどの厳格な基準に従う必要があり、未承認のプラントではOTM牛のと畜はできないこととなっている。また、英国食品基準庁(FSA)は2005年11月10日、OTM牛から特定危険部位(SRM)である脊柱を取り外すことが可能な食肉処理場の一覧を公表した。 FSAは2005年11月9日、消費者向けに、BSEの現状や2005年11月7日から開始された新たなBSE対策などの情報を盛り込んだリーフレットと冊子を公表した。冊子では、OTM対策の見直しの紹介のほか、主に、
ことなどを紹介し、英国産牛肉の安全性を改めて消費者に強調するものとなっている。 |