海外編

 III オセアニア【豪州】 




1. 一般経済の動向

 豪州経済は、90年代に入り個人消費や住宅建設の増加などの内需の拡大を背景に、実質国内総生産(GDP)成長率は比較的高い水準で推移したが、2000年7月の物品サービス税(GST)導入の影響により、シドニーオリンピック終了後の2000年末、一時的にマイナス成長となった。しかし、再び個人消費や住宅建設などの内需回復、また、鉄鋼石、石炭などの第一次産品を中心とした輸出の増加も手伝って経済は回復に向かい、その後は順調に推移している。2005/06年度の実質GDP成長率は、前年度から0.2ポイント上昇の2.9%と安定した成長を持続している。また、GDPも9,226億6千万豪ドルと前年度を上回った。

 2005/06年度の平均失業率は、安定した経済状況を反映し、前年度から0.2ポイント改善して5.0%と過去最低水準となった。平均失業率は、1994/95年度以降、継続的に1ケタ台を維持している。

 一方、貿易収支については、主要通貨に対して豪ドル高で推移する為替動向やおう盛な国内需要などにより、2005/06年度は145億2千万豪ドルの損失を計上し、4年連続での記録的な赤字となった。

 なお、日本は、輸出入を合わせた貿易総額で米国を上回り、豪州にとって引き続き最大の貿易相手国であるが、最近は、第2位の中国との差が縮まってきている。


表1 主要経済指標
表2 農場数などの推移



2. 農・畜産業の概況

 豪州の農業(林業、水産業を除く)は、GDPで全体の約2.8%(2005/06年度)、就業人口で全体の約3.5%(林業、水産業を含む)を占めるにしかすぎず、産業全体に占める割合は必ずしも高くない。しかし、2005/06年度の全商業輸出額に占める農産物の割合は18.0%と鉱物資源(58.8%)に次いで高く、輸出産業の中で重要な位置を占めている。

 豪州では、国土面積(約7億7千万ヘクタール)の約6割に相当する約4億6千万ヘクタールが農業可能地であるが、そのうちの約9割は牛や羊の放牧のみに利用可能な自然草地であり、野菜などが栽培される耕地面積(採草地を含む)は、約4,800ヘクタールにしかすぎない。この中で、2005年3月末現在の農場数は、前年より0.5%減の約13万戸となった。豪州の農場数は、97年まで減少傾向で推移し、その後、1農場当たりの農業粗収入の向上に伴い増加傾向となったが、2000年の酪農乳業制度改革や、2002/03年度の大規模な干ばつなどにより、再び減少傾向にある。

 一方、経営面では、肉牛、羊、酪農などの専業経営のみならず穀物などとの兼業も多いことから、農業従事者全体の約8割が何らかの形で畜産経営に携わっているとみられている。


 近年、上昇を続けていた農業粗生産額は、2002/03年度の干ばつの影響により大きな落ち込みをみせたが、その後はおおむね増加基調にある。2005/06年度は畜産物の生産がほぼ前年度並みであった反面、穀物生産が前年度を大きく上回ったことで、前年度比9.1%増の約385億8千万豪ドルとなった。

 内訳をみると、畜産物粗生産額が前年度比0.6%減の約177億2千万豪ドル、一方、穀物など畜産以外の農産物の粗生産額が前年度比15.4%増の約208億6千万豪ドルとなっている。過去、畜産物の粗生産額は、農業全体の半分以上を占めていたが、干ばつの影響などにより縮小し、その後の回復は遅れている。

 なお、畜産物生産額のうち、肉牛・牛肉は約76億豪ドル(1.2%減)、牛乳・乳製品は約33億豪ドル(6.4%増)である。

 2005/06年度の農産物総輸出額(FOB)は、前年度比0.1%減の約276億5千万豪ドルと、特に大きな変化は見られなかった。

 このうち、畜産物輸出額は、前年度比3.0%減の約136億9千万豪ドルとなった。内訳は、肉牛・牛肉が約46億豪ドル(5.9%減)、羊・羊肉が約15億豪ドル(13.4%増)、羊毛が約25億豪ドル(10.4%減)、牛乳・乳製品が約26億豪ドル(6.3%増)となり、日本向けなどに輸出を伸ばした羊・羊肉の伸びが特に目立った。

 2005/06年度の畜産物輸出額は、肉牛・牛肉部門の落ち込みなどから、農産物総輸出額全体の49.6%と、過半数を下回る結果になっている。


図1 農業粗生産額(2005/06年度)
図2 農産物総輸出額(2005/06年度)



3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

 豪州の酪農は、放牧を主体とする経営が大部分であるため、酪農生産が盛んなビクトリア州を中心に、気象条件に恵まれ、牧草生育に有利な地域に集中している。

 また、生産される生乳の約8割が加工向けであり、さらに、製造される乳製品の約7割が輸出向けという輸出依存型産業である。

 従って、生乳生産量は気象条件や牧草の生育状況などによって大きく変動するとともに、酪農経営は乳製品の国際市況および為替の変動の影響を受けやすいという特徴を有している。



(1)主要な政策

 豪州では、かつて、加工原料乳に対する価格補てん政策(連邦制度)と飲用向け生乳に対する最低価格保証政策(各州の制度)を実施していたが、2000年7月1日に両制度がともに撤廃となり、生乳の販売流通は完全に自由化となった。このほか、2003年7月には酪農団体の再編が行われ、豪州酪農庁(ADC)と他の研究機関が統合して新たにデイリー・オーストラリア(DA)が発足し、販売促進や研究開発、マーケット情報提供などを一括して行っている。

 なお、これらの事業財源の多くは、生乳の販売時に課される生産者課徴金(強制徴収)によるものである。


(2)生乳の生産動向

 乳用経産牛の飼養頭数は、1957年の345万1千頭をピークに減少を続けてきたが、92年以降、好調な酪農市況を反映して増加に転じ、その後はおおむね増加基調で推移していた。しかし、2002/03年度の干ばつで飼養環境の悪化が進んだことから、一転して減少に転じている。2006年6月末の乳用経産牛飼養頭数は、前年同期比1.2%減の199万頭となった。また、同時点の酪農家戸数も、前年同期比4.3%減の8,844戸となった。一方、酪農家の大規模化が進んでいることで、1戸当たりの経産牛飼養頭数は224頭と規模拡大が進んでいる。


表3 乳牛飼養頭数等の推移
図3 酪農家戸数と乳牛飼養規模の推移

 生乳生産量は、90年代に入りガット・ウルグアイラウンド合意に伴う乳製品輸出の拡大への期待を背景に、増加傾向で推移してきた。

 2005/06年度の生乳生産量は、2002/03年度の干ばつの影響で経産牛飼養頭数の回復が遅れていることなどが影響し、前年度比0.3%減の1,009万2千キロリットルと減少したが、引き続き1千万キロリットル台を維持している。

 豪州では、放牧に適した乳牛へと品種改良が進められたこともあり、日本や米国などと比較して経産牛1頭当たり乳量はそれほど多くない。しかし、近年は、遺伝的改良や飼養管理技術の改善などにより着実に増加している。2005/06年度の経産牛1頭当たり乳量は前年度比1.0%増の5,034リットルと、干ばつ前の2001/02年度の水準には達しないものの、引き続き増加した。


図4 生乳生産量と乳牛1頭当たり乳量の推移
図5 州別生乳生産量(2005/06年度)

 生乳生産量に占める加工向けのシェアは、乳製品輸出の拡大に伴って徐々に上昇する傾向にあった。しかし、2005/06年度は、生乳生産量が前年度に比べて減少したことや、国内の飲用乳需要が回復傾向にあることなどから、前年度比0.5%減の79.5%となった。生乳生産量を州別に見ると、ビクトリア州が全体の65%を占めて他州を大きく引き離しており、豪州最大の酪農地域であることを示している。

 一方、飲用乳の処理量は、シドニーなど大消費地を擁するニューサウスウェールズ州が最も多く、ビクトリア州、クイーンズランド州と続いている。

 このように、生乳生産に占める飲用向けの割合が州によって大きく異なっているため、飲用向け割合が高い地域とそれ以外の地域とでは、乳業メーカーごとの平均生産者乳価にも差が生じている。



(3)牛乳・乳製品の需給動向

 主要乳製品の生産量は、乳製品の国際需要の拡大を反映して増加傾向にあったが、2002/03年度の干ばつの影響により減少に転じていた。2005/06年度の生産量は、生乳生産量が前年度に比べて微減したことから、一部品目を除いて前年度を下回った。品目別にみるとチーズが4.0%減の37万3千トン、脱脂粉乳が9.7%増の22万8千トン、全粉乳が16.3%減の15万8千トン、バター(バターオイルを含む)が0.5%減の14万6千トンとなった。一方、近年、ホエイパウダーやカゼインは、需要増を反映して生産が増加している。

表4 牛乳・乳製品生産量の推移

 2005/06年度の主要乳製品の輸出量は、国際的な乳製品需要は高かったものの、生乳生産量が微減したことなどから脱脂粉乳、全粉乳以外の品目で前年度の輸出量を下回った。中でもチーズは前年度比11.5%減と大きく減少した。

 2005/06年度の乳製品生産量に占める輸出量の割合は、全粉乳が100.0%超(過去の在庫分も含む)、脱脂粉乳が95.4%、チーズが54.1%、バター(バターオイルを含む)が50.2%と、輸出量は生産量の過半を占めており、輸出依存度が高いことが読み取れる。


 乳製品の輸出先は、日本、東南アジアを含めたアジア地域の合計が、輸出額ベースで全体の65.8%と、圧倒的なシェアを占めた。

 特に粉乳類は、還元乳などの需要が多い東南アジア地域向けの輸出割合が高く、脱脂粉乳、全粉乳ともに輸出量全体の約8割がアジア諸国向けに輸出されている。


表5 主要乳製品輸出量の推移
図6 地域別乳製品輸出額(2005/06年度)

 飲用乳の1人当たり消費量は、他の先進国と同様に飲用乳以外のさまざまな飲料が市場に投下されたことで、90年代中ごろから減少傾向で推移してきた。しかし、カフェ文化の浸透などに伴い飲用乳の間接消費が増えた結果、2003/04年度からわずかながら増加に転じ、2005/06年度は前年度比0.8%増の101.0リットルとなった。また、最近の健康ブームを反映してヨーグルトの消費の伸びが目立っている。一方、増加基調で推移してきたチーズの1人当たり消費量は、ここ数年、伸び悩んでいる。

表6 1人当たり乳製品消費量の推移


(4)乳価の動向

 生産者乳価は、1999/2000年度まで飲用乳価と加工原料乳価の差が2倍以上に拡大していたが、2000年6月末をもって飲用向け生乳に対する最低価格保証制度が廃止となり、それ以降、飲用向けの乳価は大きく低下した。2005/06年度の平均乳価は、国際的な乳製品市況の上向きを反映して前年度比5.1%高の1リットル当たり33.1豪セントと上昇している。

表7 生産者乳価の推移



(2)肉牛・牛肉産業

 豪州の肉牛生産は、酪農生産と同様、牧草(放牧)に依存した生産構造となっており、また、牛肉生産量の6割以上を輸出に向ける輸出依存型産業となっている。

 肉牛は、乳牛に比べると粗放的な飼養管理が可能であり、また、利用可能な草地の範囲が広いことに加え、熱帯・乾燥地域などの自然条件が厳しい地域でも、これに適応する品種を選択的に導入することによって飼養が可能となることから、内陸部の極端な乾燥地帯を除き、ほぼ豪州全土でさまざまな品種による生産が行われている。


(1)主要な政策

 肉牛や牛肉の需給を管理する制度・政策は特になく、生産者は国内外の市場動向を勘案しつつ経営を行っている。また、豪州家畜検疫検査局(AQIS)などの政府機関が防疫政策を、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)などの業界団体が販売促進、研究開発、市場情報の提供などを行っているが、これらの事業財源の多くは、生体の取引(販売)時に課される生産者課徴金(強制徴収)によるものである。



(2)牛の飼養動向

 豪州における牛飼養頭数(乳牛を含む)の推移を中・長期的に見ると、1960年代後半から70年代半ばにかけて、世界的な牛肉需要の増大を背景に急速に増加し、76年には過去最高の3,343万頭を記録した。その後、第二次オイルショック(79年)などによる世界的な牛肉需要の減退や肉牛経営の悪化、大干ばつの発生(82年)などによってと畜頭数が急増し、84年には2,216万頭とピーク時である76年の飼養頭数に比べ約3分の2まで減少したが、それ以降は緩やかな増加に転じた。

 96年以降は、干ばつなどの影響による増減はみられたものの、全体として2,600〜2,700万頭台でほぼ安定的な推移となった。しかし、2002/03年度の干ばつの影響で頭数は再び落ち込みをみせている。2006年6月末の牛飼養頭数は、その後の飼養頭数の回復により前年比2.6%増の2,850万頭となった。

 肉用牛の飼養頭数を州別に見ると、クイーンズランド州(シェア42.3%)、ニューサウスウエールズ州(同21.1%)、ビクトリア州(同15.9%)の東部3州で全体の8割近くを占めている。また、近年は東南アジア向け生体牛輸出の拡大を背景に、クイーンズランド州北部や北部準州(同6.3%)の伸びが著しい。

図7 牛飼養頭数の長期的推移
表8 牛飼養頭数の推移
図8 州別肉牛飼養頭数(2005年6月末現在)


(3)牛肉の需給動向

 2005/06年度の牛と畜頭数(子牛を含む)は、肉牛生産農家の牛群再構築などによる出荷の抑制から前年同期比5.1%減の840万2千頭となった。

 一方、枝肉生産量は、2002/03年度の干ばつによる早期出荷が一段落したことで1頭当たりの枝肉重量が増加したため、前年度比3.9%減の207万7千トンと、と畜頭数の減少分ほどの落ち込みは見られなかった。

 また、牛肉の輸出量は、米国産牛肉の輸入停止問題を背景とした輸出需要が一段落したことで、全体としては前年度比5.9%減の94万9千トン(船積み重量ベース)となった。

 2005/06年度の国別輸出量(船積み重量ベース)の割合は、米国向けが前年度比4.7ポイント減の31.9%、日本向けも同0.8ポイント減の42.6%と、いずれも減少した。しかし、日本向けは、豪州にとって引き続き最大の輸出先となっている。一方、韓国向けは、同4.0ポイント増の15.0%と上昇した。輸出量でみれば、米国向け、日本向けともに前年度実績を下回ったが、韓国向けが、米国産牛肉の輸入停止に伴う豪州産牛肉への依存度が増したことで過去最大の輸出実績を記録した。


表9 牛肉需給の推移
表10 牛肉の国別輸出量の推移(船積み重量ベース)

 生体牛の輸出については、90年代中頃からインドネシア、フィリピンなど東南アジア向けの肥育素牛を中心に急増した。生体牛の輸出は、97年のアジア経済危機の影響により一時的に減少したものの、その後の順調な経済復興や中東諸国など新規市場の開拓もあって、再び増加基調に転じた。2005/06年度は、牛肉輸出需要のあおりを受けて肉牛価格が上昇傾向にあったことが影響し、前年度比7.0%減の58万頭と減少した。

 2005/06年度の豪州の1人当たりの牛肉消費量は、価格が上昇する中で、好調な経済を反映して前年度同の35.9キログラムを維持した。しかし、近年では、健康志向や低価格を反映して鶏肉が伸びており、食肉の中では鶏肉(38.0キログラム)の消費量が最も多く、次いで牛肉、豚肉(22.2キログラム)、羊肉(13.0キログラム)の順となっている。


表11 生体牛の国別輸出頭数の推移
表12 1人当り食肉消費量の推移


(4)肉牛価格の動向

 肉牛の販売価格は、96〜97年にかけて、英国などにおけるBSE報道やアジア経済危機などによる世界的な牛肉需要減退の影響を受けて低迷した。その後は需要が回復した反面、供給がタイトであったことから、肉牛販売価格は回復基調に転じ、2001年9月には、過去最高水準の高値となった。

 2005/06年度は、干ばつの影響が緩和してきたことから肉牛生産者の出荷抑制傾向がみられた中で、豪州産牛肉に対する需要が引き続き高かったことから、肉牛価格は上昇基調で推移し、再び最高水準に達している。

表13 肉牛価格の推移(枝肉換算)




フィードロット飼養頭数、収容能力記録をいずれも再更新

 豪州フィードロット協会(ALFA)は2006年8月、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)との共同調査による四半期ごとの全国フィードロット飼養頭数調査結果を発表した。これによると、2006年6月末時点の総飼養頭数は94万頭と、前回調査時(2006年3月末)に比べ5%増加し、前回調査時の飼養頭数記録を再び更新した。また、フィードロット収容可能頭数も、前回調査時に比べ3%増となる113万2千頭に拡大し、同じく過去最高となった。この結果、フィードロットの稼働率も83%となり、引き続き高水準を維持している。

 フィードロット飼養頭数の増加理由についてALFAでは、牛肉の主要輸出市場であるアジア市場で米国産牛肉の輸入が停止されたことによる輸出需要や、豪州国内での好景気を背景とした強い牛肉需要が、今日のフィードロット収容能力の拡大、飼養頭数の増加につながっているとしている。また一方で、主要肉生産地であるクイーンズランド(QLD)州やニューサウスウェールズ(NSW)州など主要肉牛生産地での少雨(放牧地での牧草不足による素牛の出荷促進)も、これを後押ししているとみている。

 フィードロットの飼養頭数を州別に見ると、QLD州、NSW州での増加が目立っている。また、フィードロットの収容能力についても、同じくこれらの州での拡大(QLD州:2万9千頭、NSW州:8千頭)が、全体の収容能力を拡大させるけん引力となっている。

 フィードロットの飼養頭数を仕向け先別にみると、輸出向け飼養頭数は57万6千頭、飼養頭数に占める輸出向け割合は61.4%と前回調査に比べいずれも若干の減少となった。一方、国内向けについては、安定した牛肉の品質を求めるスーパーなどの需要を背景に、引き続き増加している。

 一方、大手パッカーが所有する一部のフィードロットでは、素牛価格の上昇や豪ドル高を要因に輸出市場での苦戦も伝えられることから、短期間で回転させる国内向けにシフトする動きも出てきており、これもフィードロットの稼働率などを向上させる要因の一つとなっている。

州別飼養頭数内訳
仕向け先別飼養頭数内訳