海外編

 IV 東南アジア 




1. 一般経済の概況

 東南アジア諸国連合(アセアン)加盟国の経済は、2004年末に発生したスマトラ沖地震や、引き続き一部の国で発生している鳥インフルエンザ(AI)の影響を受けた。2005年4月には、アセアン全体と日本とのEPA交渉が開始された。また、2005年12月には、マレーシアにおいて、アセアン10カ国、日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド(NZ)の16カ国による初の東アジア首脳会議が開催され、「鳥インフルエンザの予防、抑制、対策に関する東アジア首脳会議宣言」が採択されるなどの動きもあった。域内の各国の実質国内総生産(GDP)の伸びは、経済が高水準の国ではおおむね前年を下回ったものの、低水準の国ではおおむね前年を上回った。

 ブルネイでは原油、石油製品および液化天然ガスなどが輸出総額の9割を占めるという天然資源への過度の依存からの脱却を目指して、経済の多角化を図るため、第8次五カ年計画(2001〜2005年)が進められている。2005年5月には、17年ぶりの大幅な内閣改造が行われた。2005年の実質GDP成長率は前年の1.7%から3.6%に上昇した。

 カンボジアは2004年7月に成立した第三次連立政権において、中央部に「グッド・ガバナンス(汚職追放、司法改革、行政改革、国軍改革)」を掲げ、これを最優先課題として取り組む一方、農業セクターの強化、インフラ復興と建設、民間セクター開発と雇用創出、キャパシティービルディングと人材開発を四辺に掲げ、優先課題を明確にした「四辺形戦略」と呼ばれる国家開発戦略を打ち出した。政治的安定もあり、2005年の実質GDP成長率は前年7.7%を上回る8.4%だった。

 インドネシアでは、2004年12月26日に起こったスマトラ沖地震で、16万人を超える死者・行方不明者が出た。また、2005年には石油燃料価格の引き上げや金利引き上げも行われたが、実質GDP成長率は5.6%で、前年の5.1%を超えた。スマトラ沖地震からの復興という共通の目的に向けて、アチェ州の独立運動についての和平協議が進展した。7月からは日本とのEPAの交渉が開始された。一方、7月には鳥インフルエンザ感染による初のヒト死亡例が確認され、9月には政府が非常事態宣言を発令した。10月にはバリ島で連続爆弾テロ事件が発生するなど、治安を大きく乱す事件も起こった。

 ラオスは、引き続き一党独裁下での市場経済化路線を推進しており、外貨獲得を目的とした隣国タイへ電力を供給するための新たなダムの起工式には、タイの首相も参列した。また国内を横断し、ベトナムとミャンマーを結ぶ「東西経済回廊」の建設が進められている。2005年の実質GDP成長率は、7.2%と、前年の6.9%を上回った。

 マレーシアは、2005年、通貨リンギについて、米ドルへの固定レートを廃止し、管理変動相場制に移行した。また、国際的な自動車市場の自由化の流れに対応し、国内自動車産業の競争力向上を目的とする新たな自動車政策を発表した。12月には第1回の東アジア首脳会議の議長国を務めた。これに合わせて行われた日本との首脳会議で、2004年1月に交渉が開始された経済連携協定(EPA)が署名された。実質GDP成長率は5.3%と、前年の7.1%を下回った。

 ミャンマーは、政府が2003年5月に、非暴力民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー女史を再度自宅軟禁下に置いた状況が継続している。2005年7月にはアセアン外相会議において、ニャン・ウイン外相が、国民和解と民主化のプロセスに集中したいため、翌年のアセアン議長国の就任を見送る旨表明した。また、11月には、首都をヤンゴンからピンマナ県のネーピードーに移転する旨発表された。米国やEUの対ミャンマー制裁措置の実施もあり、実質GDP成長率は12.2%と、前年の13.6%を下回った。

 フィリピンは、2005年6月に、前年の大統領選挙で再選されたアロヨ大統領の選挙不正疑惑が浮上し、閣僚からの辞任要求や下院での大統領弾劾請求の提出が行われたが、その後同請求は却下され、辞任要求運動は鎮静化した。一方、大統領は憲法改正を提案し、12月には外国投資を制限する経済条項や議院内閣制、連邦制、一院制などを内容とする憲法改正案が提出された。実質GDP成長率は5.1%と、前年の6.0%を下回った。

 シンガポールは、前年の総選挙での与党の圧勝を受け安定した内政状況を反映し、民間消費支出の鈍化等内需が不振であったにもかかわらず好調な輸出に支えられ、年度後半に成長を加速した。この結果、2005年の実質GDP成長率は、前年の8.7%は下回ったものの、6.4%を達成した。

 タイは、2005年2月の下院総選挙でタクシン首相が率いるタイ愛国党が4分の3以上の議席を獲得して圧勝し、タクシン政権は2期目に入った。タクシン政権は、7月にはイスラム系武装勢力による襲撃事件が続発する南部を非常事態地域に指定する等強硬策を取る一方、貿易拡大のため各国とのFTAを積極的に進め、1月には豪州と、7月にはNZとの間で発効している。また、9月には、日本とのEPAについて大筋合意がなされた。実質GDP成長率は、4.5%と、前年の6.2%を下回った。

 ベトナムは、1986年から導入されたドイモイ(刷新)政策に基づき、社会主義市場経済を推進している。2005年3月には、最大都市ホーチミンに続き首都ハノイに証券取引所が開設され、6月には、カイ首相がベトナム戦争後首相として初めて訪米した。1995年にはWTOへの加盟を申請しており、交渉が進行中である。12月の東アジア首脳会議に合わせて開催された日越首脳会談では、二国間のEPA交渉の開始に向け2006年から共同検討会合を開始することに合意した。2005年の実質GDP成長率は前年の7.8%を上回る8.4%となった。


表1 主要経済指標



2. 農・畜産業の概況 

 アセアン10カ国のうち、シンガポールとブルネイは、GDPに占める農業の割合が5%以下と低い。マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアは、GDPに占める農業の割合が8%〜14%台となっている。ベトナムは21%となっているが、製造業の発展により、これらアセアン先進4カ国の状況に近づきつつある。これら5カ国では、多くの農村人口を抱えており、農村が失業者の緩衝機能を果たしているといわれている。

 また、米などの主要作物の価格が政策的に低く抑えられているため、農業分野の生産額が高くならないという特徴も有している。他の3カ国のGDPに占める農業の割合については、カンボジアが40%に満たないものの、ラオスが50%を若干下回る程度となっており、ミャンマーは50%を超えている。

 政情不安が長引いたこれら3カ国では、ほかの産業の発展が遅れているため相対的に農業の比重が高いが、ミャンマーで2004年には57%だったGDPに占める農業の割合が51%となるなど、政情の安定化に伴って農業の比重が低下してきている。

 マレーシアは、油ヤシ、ゴムなど永年性作物の栽培が多く、油ヤシの下草などを利用した畜産物の生産拡大の可能性はあるものの、将来的に食用作物栽培が増え、飼料資源が拡大するとは考えにくい。一方、フィリピンは、トウモロコシ、米などの食用作物が中心となっている。アセアン諸国中、ベトナム、タイ、ミャンマーは米の輸出国である。

 畜産物の生産量は、食習慣、宗教、農業の形態などを反映して、各国ごとに畜種の重要度が異なっているため、国ごとに大きな差がある。


表2 アセアン諸国の主要穀物及び畜産物生産量

 

3. 畜産の動向 

(1)酪農・乳業

 東南アジア諸国では、一般に牛乳・乳製品は、伝統的食文化としての位置付けが低く、また、気候条件が酪農にあまり適していないことや良質な飼料を得にくいことなどもあり、酪農・乳業は欧米諸国に比べて活発ではない。従来から、乳製品の主体は全粉乳などの粉乳類か、缶入り加糖れん乳主体であったが、冷蔵施設の普及に伴い、特に各国都市部およびその周辺では飲用乳の需要も高まりつつある。

 東南アジアでは、各国とも牛乳・乳製品の自給自足にはほど遠い現状にあるが、生乳生産、工場インフラ、地理的条件などを総合的に考慮すると、将来的には、輸入乳製品からの還元乳の製造を含め、タイやベトナムがインドシナ半島諸国の牛乳・乳製品供給基地になるとの見方が有力であり、2億を超える人口を擁し、ジャワ島を中心に近年経済発展を遂げているインドネシアにおける需要の伸びも期待されている。

 東南アジアでは、乳脂肪の一部または全部を価格の安いパーム油などの植物性脂肪で置き換えた、国際規格上は乳製品表示を行い得ない模擬乳製品が普及しており、これに加えて、各国統計上の取り扱いもあいまいであることから、乳製品に対する需給は概して不透明なものとなっている。



(1)生乳生産動向

 乳牛の飼養頭数は、タイ、フィリピンおよびマレーシア(2004年)は増加しインドネシアでは減少した。

 インドネシアの乳牛飼養頭数はタイに次ぐ規模であるが、2005年の飼養頭数は前年より約3千頭減の36万1千頭となっている。同国における乳用牛は、ほとんどがジャカルタなど大消費地に隣接するジャワ島の冷涼な気候の山岳地域で飼養されている。同国では遺伝的能力の高い繁殖牛の不足に加え、平均飼養頭数が約3頭と零細な経営が多くを占めている。同国は政府が乳用牛増頭計画を掲げているものの、計画達成のための一つの方策である人工授精はジャワ島以外では極めて限定的であることや、2000年以降計画に沿った人工授精が行われていないことなどにより増頭計画は進んでいない。

 マレーシアの乳用牛は大半が半島部で飼養されており、2004年の乳用牛飼養頭数は約2万9千頭となっている。飼養頭数の割合は、シンガポールに国境を接するジョホール州が全体の約3割、首都クアラルンプール近郊のスランゴール州が約2割となっている。また、同国の乳用牛は約8割がホルスタイン交雑種であり、他はインド原産種となっている。同年の生乳生産量は、約3万9千トンとなっており、このうち約85%が半島部で生産されている。同国は歴史的に天然ゴムや油ヤシのプランテーションのための土地開発が多く、反すう家畜のための飼料基盤の不足から政府の振興策ははかどっていない。

 フィリピンの乳用牛飼養頭数は、前年比18%増の約1万頭となっており飼養頭数は増加傾向で推移している。同国では、乳用水牛の飼養頭数が約1万3千頭と乳用牛より飼養頭数は多い。生乳生産量は、約1万2千トンで牛乳のほか水牛乳とヤギ乳も含まれる。生乳生産量に占める牛乳の割合は約6割で、残りの4割は水牛乳とヤギ乳となっている。同国の生乳換算による自給率は1%未満となっており、消費量のほぼ全量が輸入品および輸入品を原料とした加工品となっている。

 タイの乳牛飼養頭数は前年比17%増の47万9千頭となっており、99年以降増加傾向で推移している。同年の生乳工場における処理量(表4の国内生産量)は同5%増の88万8千トンで、このうちの約9割は飲用乳に加工され、残りはヨーグルトなどに加工されている。生乳生産量が増加している要因としては、2001年より学校供給用牛乳に国産生乳の100%使用が義務付けられたことなどにより、生産者が増頭を図ったことなどが主な要因とされている。

 ベトナム農業・農村開発省によると、乳用牛の飼養頭数は前年比8.7%増の約10万4千頭となった。主な飼養地域は、南部ホーチミン周辺のメコンデルタ地域で全体の約6割を占めている。また、生乳生産量は19万8千トンとなり、同国内の生乳需要の約22%に相当するとしている。同国では2001年以降、豪州やオランダから乳用牛の雌子牛を導入すると同時にホルスタイン種などの精液を用いて在来種に人工授精を行い、交雑種作成を活発化するなど、酪農振興に取り組んでいる。


表3 乳用牛の飼養頭数と生乳生産動向
表4 牛乳・乳製品の需給


(2)牛乳・乳製品の需給動向

 生乳換算で見た場合、牛乳・乳製品の輸入量が国内消費量に占める割合は、最も低いインドネシアでも約8割を占めている。東南アジアにおける輸入乳製品の中心となるのは粉乳であり、そのまま小分けして販売されるほか、LL牛乳や缶入り加糖れん乳なども、全粉乳や脱脂粉乳から還元製造されるものが多い。

 マレーシアの2004年における牛乳・乳製品の1人当たり消費量は、約51.8キログラムで東南アジア最大となっている。また、地域別では半島部における消費量が高く、同約64.1キログラムとなっている。同国は、牛乳・乳製品の輸出量が約32万3千トンとなっており国内生産量の約8倍となっているが、ほとんどが調製品および加工食品に含まれる乳成分である。

 フィリピンにおける牛乳・乳製品の1人当たり消費量は、前年比28.3%減の約15.8キログラムとなった。同国の生乳換算による自給率は1%未満で、消費量のほぼ全量が輸入品および輸入品を原料とした加工品となっており、フレッシュ牛乳の飲用習慣は希薄とされている。同国における乳製品の主な輸入先は豪州とNZとなっており、この2カ国で全輸入量の約6割を占めている。

 タイにおける牛乳・乳製品の1人当たりの消費量は、生乳がおよそ17.2キログラム、乳製品が13.6キログラムとなっており、学乳制度の導入や政府や民間企業による乳製品の消費拡大運動などにより、生乳や乳製品の消費量は増加傾向で推移している。また、牛乳・乳製品の輸出量は約84万4千トンとなっている。近年、豪州などからの脱脂粉乳の輸入が増加傾向で推移しており、還元乳やれん乳などへ再加工の上、周辺国などへの輸出が増加している。

 インドネシアにおける牛乳・乳製品の1人当たり消費量は、約9.3キログラムで前年よりは増加しているものの消費量は少ない。その他の国における乳製品の消費をみるとマレーシア、ベトナム、ミャンマーは加糖れん乳が中心となり、ラオス、カンボジアは依然としてほとんど乳製品を消費していない。




(2)肉牛・牛肉産業

 アセアン諸国では、2003年から2004年にかけて鳥インフルエンザ(AI)の発生が確認された。このため、鶏肉・鶏卵需要に及ぼす影響が懸念され、このうち鶏肉需要の一部は他の食肉への代替がみられたとしている。ただし、牛肉需要についてみると、1人当たり消費量は横ばいないし微減となっており、AI発生による鶏肉需要からの代替はみられない。牛肉消費については、各国における食習慣や経済状況による影響が強いものと考えられる。



(1)肉牛の生産動向

 肉牛の飼養頭数は、アセアン諸国の中ではミャンマーの飼養頭数が最も多く、次いでインドネシア、ベトナムなどの順になっている。アセアン先進4カ国では、インドネシアの飼養頭数が最大で、タイ、フィリピン、マレーシアの順になっている。

 インドネシアの肉牛飼養頭数は、97年に過去最大である1,194万頭を記録して以降、総じて漸減傾向で推移している。ここ数年の飼養頭数は1,050万頭台で推移しており、2005年は1,056万9千頭となった。地域別の飼養頭数は、首都ジャカルタのあるジャワ島が全体の約4割を占めている。また、同国では豪州などから肥育素牛を輸入して3カ月程度肥育した後、と畜に供するいわゆるフィードロット産業が盛んである。ただし、生体輸入頭数は2002年の42万9千頭をピークに減少傾向が続いており、2005年の輸入頭数は33万2千頭であった。一方、水牛の飼養頭数は減少傾向が続いている。98年以降は200万頭台の水準で推移しており、2005年の飼養頭数は212万8千頭となっている。この間、水牛肉生産量(生体重換算)は4万トン台で大きな変化がないことから、水牛の飼養頭数の減少は、農作業の機械化による役用の減少が主な要因と考えられる。

 マレーシアの2004年における肉牛飼養頭数は78万7千頭、水牛飼養頭数は13万8千頭となっており、肉牛は増加傾向、水牛は減少傾向で推移している。半島部における飼養頭数の割合は、肉牛が9割を超えるのに対して水牛は6割となっている。水牛については、ボルネオ島に位置するサバ州およびサラワク州の飼養比率が高くなっており、主に使役に供される機会が多いためと考えられる。

 フィリピンの肉牛飼養頭数は254万8千頭、水牛飼養頭数は333万7千頭となっており、肉牛、水牛ともに総じて増加傾向で推移している。豪州などから素牛を輸入する商業的なフィードロット経営もみられるが、牛・水牛ともに飼養頭数が20頭未満の小規模経営が全体の9割以上を占めている。このため、同国政府は農村部における零細経営をその主な対象として就労機会、収入の確保などを目的とし、新技術の普及促進、専門家の育成などの畜産活性化策を打ち出している。同国では水牛の飼養頭数が肉牛を上回っているが、政府による振興政策などもあり、その飼養頭数はアセアンで最大である。

 タイの肉牛飼養頭数は、96年以降減少していたが、政府の肉牛振興政策などにより2001年からは微増傾向に転じている。2005年における飼養頭数は前年比16.9%増の779万6千頭、牛肉生産量は同7.4%増の10万トンとなった。アセアン先進4カ国のうち、タイだけは政策的意図により豪州などから生体牛を輸入して肉牛肥育を行うフィードロット経営が見られないことが特徴である。同国では、ミャンマー、カンボジア、ラオス、中国などの周辺国から生体牛輸入が増加しており、このうちミャンマーからの輸入が約9割を占めている。水牛については、同国でも役畜として供されてきたが、工業化の伸展に伴う農業の機械化が進んだことに伴い、飼養頭数の減少が他のアセアン諸国と比べて顕著であった。しかし、政府が同国東北部を中心として、水牛を含む肉牛飼養を奨励したことなどから、近年はおおむね160万頭台の水準で推移しており頭数減に歯止めがかかっている。

 ベトナムの牛飼養頭数は前年比12.9%増の544万頭、水牛は同1.7%増の292万頭とされており、飼養頭数は増加傾向で推移している。水牛は1995年から2000年の間に一時頭数が減少したものの、2000年以降は微増傾向で推移している。従来、水牛肉は食用としては重要視されていなかったものの、今後はホーチミンやハノイなどの消費地への供給を目指すとしている。


図1 牛・水牛の飼養頭数の推移
表5 肉牛の飼養頭数と牛肉生産動向


(2)牛肉の需給動向

 インドネシアにおける牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉が約2.2キログラム、水牛肉が約0.1キログラムの合計2.3キログラムとほぼ前年並みとなった。同国における牛肉消費量は、ジャカルタなど一部地域に集中しており、また、食肉全体の消費についても民族・宗教によって慣習が異なることなどから消費動向における地域差が大きいとされている。

 マレーシアでは、牛肉消費量に占める輸入品の割合が高いのが特徴であり、国内消費量に占める輸入品の割合は約9割とアセアン先進4カ国中最大となっている。牛肉の1人当たり消費量についても地域差が大きく、2004年における同消費量は半島部が約5.8キログラムとアセアン各国中でも突出しているが、ボルネオ島に位置するサバ州およびサラワク州ではいずれも約2キログラム台となっている。

 フィリピンの牛肉消費量に占める輸入品の割合は約3割で、輸入量は、アセアン先進4カ国のうちマレーシアに次ぐ規模となっており、ブラジル、豪州、NZなどからの輸入量が多い。2005年の牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉が約2.2キログラム、水牛肉が約1.6キログラムの合計3.8キログラムとなり前年を11.6%下回った。同国の水牛肉需要については安定的に推移しているが、牛肉需要については2000年に約3.1キログラムとなったものの、2001年以降は減少傾向で推移している。


図2 牛肉・水牛肉の生産量の推移
表6 牛肉の需給

 タイにおける牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉が約1.7キログラム、水牛肉が約0.3キログラムの合計2.0キログラムとなりほぼ前年並みとなった。牛肉の輸入量は約3千トンとなっており前年よりは増加しているものの消費量に占める割合は少なく、輸入先はその大部分が豪州とNZとなっている。



(3)養豚・豚肉産業

 アセアン諸国では、インドネシアをはじめ宗教上の理由から豚肉を消費しないイスラム教徒の人口が多い。このため、国によって食肉における豚肉の重要度には大きな格差があり、国の政策上の位置付けもさまざまである。しかし、イスラム教徒の多い国においても、中国系住民などの豚肉需要をまったく無視することはできず、種々の規制は設けながらも養豚を許容している。


図3 豚の飼養頭数の推移
表7 養豚の現状と豚肉生産動向


(1) 豚の生産動向

 東南アジアで最も飼養頭数が多いのはベトナムであり、2005年の飼養頭数は前年比5%増の約2,743万5千頭となっている。同国の養豚の大部分は小規模農家による在来種、もしくは在来種をベースにした交雑種を用いたものであるが、政府系または民間の経営による外来種の三元交配種を使った数千頭規模の大規模養豚が増加しつつある。

 インドネシアの飼養頭数は97年以降、減少し続けた。しかし、98年後半にマレーシアの半島部諸州で豚のウイルス性脳炎が発生したため、シンガポールが同国からの生体豚と豚肉の輸入を全面的に禁止し、輸入先をインドネシアのリアウ州に切り替えたことなどから、2000年の536万頭から、2001年以降の飼養頭数は増加に転じている。2004年は同3%減の598万頭とやや減少したものの、2005年には同14%増の680万1千頭となっており、増加基調は続いている。

 マレーシアでは、ウイルス性脳炎の影響による大量と畜や廃業などにより、半島部における飼養頭数は、98年から99年にかけてそれまでの240万頭台から130万頭台まで減少した。99年以降は飼養頭数が徐々に回復し、2001年以降は140万頭台で推移しており、2004年の飼養頭数は148万4千頭となった。また、サバ、サラワク両州(ボルネオ島部)を加えたマレーシア全体の飼養頭数は同2%増の211万1千頭となった。同国では従来の厳しい環境規制のほか2007年を期限とする新たな集中養豚地域化(IPFA)計画の実施を計画していることから、養豚産業を取り巻く環境の変化は今後も継続するものとみられる。

 ベトナムに次いで飼養頭数が多いフィリピンは、宗教的制約が少ないため、94年以降、飼養頭数は順調に増加していたが、2005年は前年比3%減の1,214万頭と減少に転じた。

 タイは、ブロイラーに次ぐ輸出産業として養豚振興を推進してきており、97年には飼養頭数が1,014万頭となりフィリピンを抜いたものの、98年以降は政策意図とは逆に、飼養頭数が増減を繰り返す状態が続いている。98年以降は、おおむね700万頭から800万頭台で推移しており、2004年は同20%減の628万6千頭となったが、2005年は同30%増の817万5千頭となった。



(2) 豚肉の需給動向

 2005年のインドネシアの豚肉生産量は、前年比11%減の17万4千トン、フィリピンは同4%増の141万5千トン、タイは同2%減の40万トンとなった。2004年のマレーシアの豚肉生産量は、同7%増の20万3千トン(ボルネオ島部含む)となり、前年の豚の飼養頭数の増減を反映しているものと思われる。

 インドネシアの豚肉消費量は、2004年には同64%増の19万2千トンとなり、2005年には前年の急増の影響により同38%減の11万9千トンとなっている。このような急激な増減は、後述のようにインドネシアの鶏肉の需給動向を正確に把握することは難しいため確認することは難しいが、AIの発生による鶏肉からの需要のシフトが要因の一つと考えられる。

 2004年のマレーシアの豚肉消費量は19万4千トン(半島部のみ)とほぼ前年並みで推移した。2005年のフィリピンの豚肉消費量は、同3%増の144万6千トン、タイは同2%減の40万5千トンとなった。

 アセアン諸国における豚肉の消費動向は宗教の影響を強く受けており、2005年の1人当たり豚肉消費量は、イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアでは0.6キログラムであるのに対し、食肉に関する宗教的制約の少ないフィリピンでは16.8キログラム、同様にタイで6.5キログラムとなっている。

 一方、マレーシアでは、イスラム教を国教と位置付けているものの、伝統的に豚肉食を好む中国系住民(非イスラム)が3割程度存在するマレーシア半島部の1人当たり豚肉消費量は7.6キログラムとタイを上回っており、同国の養豚が国として無視し得ない状況にあることをうかがわせている。


図4 豚肉の生産量の推移
表8 豚肉の需給



(4)養鶏・鶏肉産業

(1)鶏の生産動向

 東南アジアでは、2003年から2004年にかけて、インドネシア、カンボジア、タイ、ベトナム、ラオスおよびマレーシアの各国でAIの発生が確認されたが、2005年には、引き続きタイ、ベトナム、インドネシアで発生がみられた。また、タイ、ベトナムに加えてインドネシアでも人への感染事例および死者が報告されるなど、東南アジア地域における鶏肉産業へ大きな打撃を与えるとともに、公衆衛生上も社会的な問題となった。

 インドネシアのブロイラー飼養羽数は、2004年はAIの影響を受けて前年比15%減の7億7千9百万羽であったが、2005年は同4%増の8億1千百万羽に増加した。また、2005年の生産量は、飼養羽数の減少を受けて同8%減の77万9千トンとなった。飼養羽数は、AIの影響を受け大幅に減少した前年の影響を受けて低水準であるものの、依然として東南アジア地域では最多となっている。採卵鶏の飼養羽数は同9%減の8千5百万羽、鶏卵の生産は同11%減の68万1千トンとなった。AIの発生による影響はあるものの、同国における鶏卵・鶏肉の安価なタンパク源としての重要性は変わっていない。

 マレーシアの2004年の飼養羽数は合計で1億7千4百万羽、うち半島部では約8割の1億4千万羽(ブロイラー1億1千2百万羽、採卵鶏2千9百万羽)が飼育されており、ボルネオ島のサラワク州で残りの2割程度、同島のサバ州ではわずかな飼養となっている。同国では、2004年8月に半島部北部においてAIの発生が確認されたため、家きんの殺処分などの防疫対策が実施された。

 フィリピンについては、2005年7月にアヒルで弱毒性のAIウイルスの検出が報告されたが、鶏での発生は確認されていない。同国のブロイラー飼養羽数は、前年17%減となった影響で同28%増の約4千万羽、採卵鶏の飼養羽数は、同22%増の約2千2百万羽となった。生産量は、ブロイラーが同2%減の64万7千トン、鶏卵が同8%増の32万トンとなった。また、2004年にタイなどの鶏肉生産主要国におけるAI発生により、清浄国であったフィリピンから日本向けの鶏肉輸出が急増したが、2005年7月のウイルス検出により、輸入は停止された。

 タイの2005年におけるブロイラー、採卵鶏の飼養羽数は、2004年1月に発生したAIの影響により同年の飼養羽数がそれぞれ同38%、14%と大きく減少した影響で、ブロイラーが同44%増の1億4千8百万羽、採卵鶏が同98%増の4千百万羽となった。生産量は、ブロイラーが同23%増の107万トン、鶏卵が同19%増の45万3千トンとなった。


図5 ブロイラーの飼養羽数の推移
表9 鶏の飼養状況と鶏卵・肉の生産動向


(2)鶏肉の需給動向

 鶏肉消費に関しては宗教上の制約が少なく、庭先での飼養による環境保全的機能も果たすため、東南アジアでは最も身近で重要な食肉となっている。

 インドネシアにおける2005年のブロイラーの飼養羽数はタイの約5.5倍であるにもかかわらず、ブロイラー肉の生産量はタイの約7割という状況となっている。この要因としては、インドネシアに限ったことではないが、ブロイラーをと畜場で処理した場合には少額ながら税金徴収の対象になることやコールドチェーンが未発達であること等により、と畜場以外で処理したり生きたまま販売したりするケースが多数を占めるため、かなりの生産量が統計で把握できないことが考えられる。したがって、と畜場以外での処理が簡単に行える鶏肉については、インテグレーターの市場占有度が高いタイを除き、統計上から需給動向を正確に把握することは困難である。

 また、インドネシアとフィリピンは、在来鶏の飼養羽数が多く、価格はブロイラーより高いものの、一般には在来鶏肉の方が好まれる傾向がある。このことも、需給動向を詳細に統計的に捉えることが困難である一因となっている。

 2004年1月以降、タイ産鶏肉の主要輸出先である日本およびEU各国が、相次いで同国からの家きんなどの輸入一時停止措置を実施した。その後、加熱処理された鶏肉調製品については、主要国に輸入再開を認められたものの、非加熱鶏肉の輸入停止措置は継続して行われている。そのため、同国の輸出は非加熱鶏肉から加熱処理された鶏肉調製品へとシフトしており、冷凍鶏肉の輸出量は2003年の37万1千トンから2004年には2万7千トン、2005年には5千トンに減少したが、鶏肉調製品の輸出量は2003年の12万7千トンから2004年には17万4千トン、2005年には23万6千トンへと逆に増加した。


図6 ブロイラー肉の生産量の推移
表10 ブロイラー肉の需給


(3)鶏卵の需給動向

 東南アジア各国には鶏卵を粉卵や液卵に加工する施設がほとんどないため、市場動向に応じて価格が乱高下しやすい傾向がある。また、価格の変動に伴って生産量を調整する需給安定システムがうまく機能していないため、頻繁に供給過剰の問題を抱えることとなる。2005年の1人1年当たりの鶏卵消費量は、インドネシアが3.0キログラム、フィリピンが3.5キログラム、タイが7.2キログラムとなっており、インドネシアを除き2004年に比べ消費量は増加している。2004年のマレーシア半島部における1人1年当たりの鶏卵消費量は14.0キログラムとなっており、2003年より4%減少した。マレーシアを除き、各国とも依然として低い消費水準にあるため、各国は供給過剰対策として消費拡大キャンペーンに力を入れている。

表11 鶏卵の需給

 東南アジアではタイのほか、シンガポール向けに輸出していたマレーシアを除き、輸出入の実績はほとんど無い。タイの2005年輸出実績は、AIの発生により67%減少した前年に比べて83%増の約7千トンとなった。なお、シンガポールは鶏卵の1日当たり国内消費量の約2/3に相当する2百万個をマレーシアから輸入していたが、鶏肉の需給動向で述べたとおり、2004年8月のマレーシアにおけるAI発生により、同国からの家きん製品などの輸入を停止した。不足分については、豪州およびNZから手当てすることとしたが、その後、鶏肉と同様にシンガポールへの輸出可能な生産農場を限定した上で同国からの輸入停止措置を一部解除している。





タイ酪農の問題点

 アセアン地域では、地域内の自由貿易構想であるアセアン自由貿易地域(AFTA)が92年に合意され、域内の貿易自由化が促進されているほか、アセアンとしても中国、インド、日本などと自由貿易協定(FTA)の交渉を行っている。また、タイはタクシン前政権下において、独自にFTAの二国間交渉も積極的に行っており、2002年には初めての二国間FTAとしてバーレーンとの間で枠組み協定を締結した。その後は、2003年にインドとペルー間における枠組み協定に合意したほか、日本や米国との交渉を本格化させている。そのほか、豪州との間における二国間FTAは、2004年7月に調印し2005年1月より発効しているほか、豪州とのFTA締結後に実施したNZとの二国間FTA交渉についても、2004年11月に両国首脳間で合意に達した後、2005年4月に二国間FTAに調印し2005年7月より発効している。

 豪州との二国間FTA締結に当たっては、豪州側で輸入農産物に対する衛生基準などが厳格に定められているため、タイ農業関係者の間ではタイ産農産物が豪州側の基準を満たせないため輸出促進にはつながらないなどの意見もみられた。また、豪州からは畜産物のうち特に乳製品の輸出拡大が予想されていたが、タイにおける酪農経営の約7割が飼養頭数20頭以下の零細経営であるのに対し、平均飼養頭数が200頭規模で近代的な酪農経営を行う豪州と関税を設定しない中で競合することも大きな懸念とされた。タイは豪州とのFTAにおいて、農産物のうち畜産物や米をセンシティブ品目として指定したが、牛肉および豚肉の関税撤廃期限を2020年までと設定したのに対し、乳製品は2025年までと他の品目に比べ関税の撤廃期限を長く設定している。

 タイにおける乳製品輸入額は、2004年が約122億1千万バーツであったが、2005年には約136億5千万バーツまで増加した。このうち、豪州産乳製品については、2004年が約20億6千万バーツでシェアは約17%であったが、2005年には32億3千万バーツでシェアが約24%まで増加している。同年における両国間の貿易額は、前年比で約30%増加しており豪州政府はFTAの効果と評価している。豪州からタイへの輸出額が増加した品目は、乳製品(輸出額前年比62%増)のほか銅(同60%増)、アルミニウム(同47%増)、医薬品(同24%増)などが挙げられる。一方、タイ政府も豪州との二国間貿易では、輸入増加による輸入額の超過は認めているものの、その要因としては乳製品などの輸入増加ではなく、銅などの鉱物輸入が増加した結果との見解を示している。

 同国では、学乳制度などの導入もあり乳製品の生産量および消費量は増加傾向で推移している。同国の学乳には国産生乳の使用が義務付けられているが、学校の休暇期間中は余乳の発生が問題となっている。これは乳業メーカーが学乳以外の製品については、価格の安い輸入脱脂粉乳などを飲用乳の原料にする傾向が強いためとされており、同国において酪農を推進するうえでも以前からの懸念となっているが、2005年時点では政府による抜本的な対策は行われていない。

タイの品目別乳製品輸入額



第1回東アジア首脳会議で鳥インフルエンザ宣言発出

 マレーシアのクアラルンプールにおいて2005年12月14日、アセアン10カ国、日本、中国、韓国、インド、豪州、NZの16カ国の参加により、第1回東アジア首脳会議(EAS:East Asia Summit)が開催された。これは、欧州連合(EU)や北.米自由貿易協定(NAFTA)といった世界の地域主義の流れに対抗するために、アジアの地域協力や統合強化を目指す共同体である東アジア共同体の構築に向けた取り組みとして、2004年11月に第10回アセアン首脳会議、第8回アセアン+3(日中韓)首脳会議で開催が決定されたものである。東アジアにおける地域協力は開かれた協力として地域内外のパートナーの関与を得て進展してきた観点から、7月のアセアン+3外相会議においてインド、豪州、NZの参加が正式に決定された。日本からは小泉前総理大臣が出席した。

 これに先立ち12月12日に開催されたアセアン+3首脳会議において、小泉前首相から、アセアン地域内で鳥からヒトへの感染と感染者の死亡が報告され、感染力の強い新型インフルエンザへのウイルス変異が強く懸念されている鳥インフルエンザ対策として、総額1.35億ドルのアジア向け支援策が表明された。具体的には以下の支援策が挙げられている。

  1. 50万人分の抗インフルエンザ・ウイルス薬および検査キットなどのその他の必要物資の備蓄支援
  2. 国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(OIE)、国連食糧農業機関(FAO)といった国際機関を通じた住民啓発、監視強化、防疫、早期対応の向上などに向けた支援
  3. 共同研究の促進
  4. 早期封じ込めに関する国際会議の開催
  5. 研修員受け入れ、専門家派遣、機材供与などのキャパシティ・ビルディング

 また、14日のEASでは、EASと東アジア地域における共同体形成との関係等に関する「東アジア首脳会議に関するクアラルンプール宣言」が採択されるとともに、「鳥インフルエンザの予防、抑制、対応に関する東アジア首脳会議宣言」が発出された。その骨子は、東アジア首脳会議に参加する16カ国が、特に鳥インフルエンザがヒト感染型の新型インフルエンザに変化することを防止するため、以下を通じて国家、地域、国際的な能力強化のためにあらゆる可能な努力を行うというものである。

  1. 新興感染症一般の予防、抑制のための国家政策の改善
  2. ヒト感染型インフルエンザの大流行のリスクを減じるための家きんの鳥インフルエンザの抑制と根絶
  3. 国家レベルでの鳥インフルエンザ発生の効果的な封じ込めおよび東アジアサミット参加国間での支援とリスクコミュニケーション
  4. 国家・地域レベルでの新型インフルエンザ対応のための多分野における調整されたアプローチの実施、特に動物衛生と保健分野の連携
  5. 国家・地域における新型インフルエンザ対策戦略の策定
  6. 抗ウイルス薬の備蓄ネットワーク構築を含む鳥インフルエンザの予防・抑制プログラムと新型インフルエンザ対策・対応計画を実施するための、国家・地域レベルにおける制度面での能力強化
  7. 各国と国際機関間の情報共有手続きの確立を含めた新型インフルエンザへの対処のためのキャパシティ・ビルディングの強化
  8. アセアン加盟国、その他の東アジアサミット参加国、WHO、OIE、FAO、世界銀行、アジア開発銀行を含む国際機関との間の協力の増進

 また、必要なフォローアップの行動は、WHO、OIE、FAO、世銀、アジア開銀、アセアン対話国と緊密に連携し、既存のアセアンのメカニズムを通じ実施されるとしている。