海外編

 I 米国 




1. 一般経済の概況 

 米国経済は、2003年第2四半期以降、堅調な個人消費、民間設備投資の持続などにより、2006年第1四半期までほぼ一貫して年率3%程度の成長を記録してきた。しかし、同年第2四半期以降、原油をはじめとするエネルギー価格の上昇による一部消費の陰りやインフレ対応として金利の引上げなどによる住宅市場の冷え込みにより、経済成長は減速傾向に転じた。

 このような状況の中、ブッシュ米大統領は2006年1月の一般教書演説において、減税政策の継続、財政赤字の削減、増大する社会保障費への対応など経済競争力の強化を急ぐ方針を示すとともに、海外への石油依存度を縮小するため、代替エネルギーの開発を推進する方針を掲げたことから、米国における再生可能エネルギーに対する注目はひときわ高まった。

 2006年の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年比0.1ポイント減となり、前年に引き続きマイナス成長を記録した。一方、同年の消費者物価指数は前年比3.2%増、生産者物価指数も同3.0%増となった。また、2006年の貿易収支は、貿易赤字(国際収支ベース)が前年比6.5%増、金額にして512億ドル増の8,383億ドルとなり、過去最大となった前年をさらに上回った。

表1 主要経済指標



2. 農・畜産業の概況

 米国経済における農業の位置付けは、他産業の発展に伴い時代の経過とともに低くなる傾向にあり、2006年においては、GDPのうち農業生産(農産物販売額:現金収入の暫定値)の占める割合は1.8%と前年比6.3%減となった。しかし、世界的に見ると、農業生産額は中国に次いで第2位、農産物貿易額は輸出入ともに首位を占めるなど、米国農業の影響力は引き続き高い水準にあると言える。

 2006年の農業経営体数(農産物の年間販売額1千ドル以上)は208万9千戸であった。また、1経営体当たりの農用地面積は446エーカー(178ヘクタール)で、農用地面積全体としては9億3,243万エーカー(3億7,297万ヘクタール)であった。なお、年間10万ドル以上の農産物販売実績のある経営体は全体の16.7%で、全農用地面積の60.5%を占めている。

 2006年の農産物販売額(現金収入の暫定値)は、2,393億ドルと前年を0.6%下回った。このうち、作物部門は1,200億ドルで前年比3.5%増となった。一方、畜産部門は前年を4.5%下回る1,193億ドルとなり、農産物全体に占めるシェアは、前年を2.0ポイント下回る49.9%となった。

 畜産部門における品目別の販売額を見ると、肉用牛が491億ドル(農産物全体に占める割合は20.5%)と第1位で、次いで養鶏(家きん、採卵鶏)が275億ドル(同11.5%)となった。また、作物部門では、生産量の5割強が家畜飼料に仕向けられるトウモロコシの販売額が217億ドル(同9.1%)と最大となっており、畜産が米国農業に与える影響は極めて大きい。


図1 農産物販売額(2006年度)
図2 畜産物販売額(2006年度)



3. 畜産の動向 

(1)酪農・乳業

 米国は年間8,000万トン強の生乳を生産する世界最大の酪農国である。しかしながら、国内に巨大な消費市場を抱えていることなどから、国際乳製品市場における米国の地位は比較的低いものとなっている。



(1) 主要な政策

 酪農の主な制度には、加工原料乳価格支持制度と連邦生乳マーケティングオーダー制度(FMMO)がある。加工原料乳価格支持制度は、米国農務省(USDA)の1機関である商品金融公社(CCC)が、加工原料乳の支持価格水準に見合う価格でチーズ、バターおよび脱脂粉乳を買い上げることにより、加工原料乳の価格を間接的に支持する制度である。

 この制度は96年農業法に基づき、2000年1月1日以降廃止されることとなっていたが、生産者の強い反対などを反映して、延長が繰り返された結果、今日まで実施され続けている。 2002年農業法では、これまで延長された支持価格を固定したまま、2007年12月まで延長することとされた。

 一方、FMMOは、オーダー地域内で取引される飲用規格生乳について、用途別の最低取引価格を設定するとともに、生乳取扱業者に対して、生産者へのプール乳価での支払いを義務付けることにより、生産者に対しては安定的な市場を確保すること、また、消費者に対しては合理的な価格で十分な量の良質な飲用乳を供給することを目的としたものである。2000年1月からは紆う余よ曲折を経て、@オーダー数の再編統合(31から11へ。その後2004年4月に1地域が廃止されて10地域となった)、A生乳の用途区分の再分類(3区分から4区分へ)、B最低取引価格の設定に用いられる価格について、これまでの基礎公式価格(BFP)に代えて、多成分価格形成システムに基づく新基礎価格の導入−などの変更が加えられた。(その後のFMMOをめぐる議論は囲み記事を参照)



(2) 生乳の生産動向

ア.酪農経営体数
 酪農経営体数は、小規模層を中心に一貫して減少傾向で推移しており、2006年には前年比4.2%減の7万5千戸となった。


表2 酪農経営体数、飼養頭数の推移
図3 酪農経営体数及び飼養規模の推移

イ.飼養頭数と生産量
 経産牛の飼養頭数は、80年代中頃から一貫して減少傾向で推移してきたが、99年に減少傾向に歯止めがかかり、その後は、小幅な増減を繰り返している。2006年の経産牛飼養頭数は、前年比0.8%増の911万頭となった。

 また、2006年の生乳生産量は、前年比2.0%増の8,246万トンとなった。

ウ.経産牛1頭当たり乳量は、70年代中頃以降を見てもほぼ毎年増加傾向で推移しており、2006年では、前年比2.0%増の9,050キログラムとなった。


表3 生乳・乳製品の生産量
図4 生乳生産量と1頭当たり乳量の推移

エ.地域別生産動向
 生乳は、すべての州において生産されているが、生産量の5割強は上位5州(カリフォルニア、ウィスコンシン、ニューヨーク、アイダホ、ペンシルバニア)によって占められており、上位10州(6位以下:ミネソタ、ニューメキシコ、ミシガン、テキサス、ワシントン)では全体の7割強を占めている。特に、93年にウィスコンシン州を抜いて首位になったカリフォルニア州は、その後も生産拡大を持続し、2006年の生産量は前年比3.4%増の1,761万トンとなった。また、第2位のウィスコンシン州は、同2.3%増の1,061万トンとなった。

 カリフォルニア州を代表とする西部の新興生産地域は、冬期でも比較的温暖で乾燥しているために畜舎などへの投資コストが低く、さらに安価な労働力も確保しやすいことなどから、大規模化が図りやすいという利点がある。カリフォルニア州では、500頭以上の経営体による生産量の州全体に占める割合が87.0%であるのに対し、ウィスコンシン州では16.5%となっている。




(3) 牛乳・乳製品の需給動向

ア.生産動向
 2006年のチーズの生産量(カッテージチーズを除く)は、前年比4.1%増の432万トンとなった。このうち、チェダーチーズを中心とするアメリカンタイプの生産量は同2.7%増(177万5千トン)、モッツァレラチーズなどイタリアンタイプの生産量は同4.5%増(180万2千トン)と、ともに前年を上回った。イタリアンタイプの生産増は、宅配ピザやファーストフードでの需要の増加によるところが大きい。同年のチーズ生産量では、アメリカンタイプが41%、イタリアンタイプが42%のシェアを占めた。

 また、脱脂粉乳の生産量は、前年比2.7%増の56万4千トンとなった。一方、バターの生産量については、前年比7.5%増の65万7千トンとなった。

図5 チーズ生産量の推移

イ.消費動向
 1人1年当たりの飲用乳・クリーム消費量(製品ベース、以下同じ)は、ほかの飲料との競合などにより、近年、おおむね減少傾向で推移してきたが、2006年では前年比1.3%増の94.4キログラムとなった。なお、飲用乳の消費は、全脂牛乳から低脂肪牛乳、脱脂牛乳へと低脂肪タイプへの移行が進んでいる。

 一方、1人1年当たりのチーズ(カッテージチーズを除く)消費量は、近年、増加傾向で推移しており、2006年では前年比3.0%増の14.7キログラムとなった。また、1人1年当たりのバター消費量は、前年比3.2%増の2.1キログラムとなった。



(4) 牛乳・乳製品の価格動向

ア.生乳価格
 2006年の加工原料乳の平均価格(グレードB規格生乳の農家販売価格)は、生乳生産が増大したことなどから、前年比15.5%安の100ポンド当たり12.19ドルとなった。また、同年の生乳平均販売価格は、加工原料乳価格の低下を反映し、前年比14.7%安の同12.96ドルとなった。

表4 生乳の生産者販売価格
 

イ.乳製品の卸売価格
 2006年の乳製品の卸売価格は、需要は堅調に推移した一方、生乳生産量が増大したことなどから、軒並み前年を下回って推移した。チェダーチーズ価格は供給増により値下がりし、年平均価格は前年比15.8%安のポンド当たり121.9セントとなった。また、脱脂粉乳価格は、前年比4.9%安の同90.4セント、さらに、バターは、前年比20.2%安の同123.6セントとなった。

表5 乳製品の卸売価格の推移


(5) 乳製品の政府買い上げ

 2006年の商品金融公社(CCC)による余剰乳製品の買い上げは、脱脂粉乳で2万8千トンの買い上げが実施された。

表6 乳製品の政府買い上げ数量の推移


(2)肉牛・牛肉産業

 米国は、世界の牛肉生産量の約4分の1を占める最大の生産国であると同時に、世界最大の牛肉輸入国でもある。国内的にも、肉牛産業は農産物販売額に占める割合が最大となっており、米国農業の中でも最も重要な部門の一つとなっている。

 肉用子牛生産は、家族経営による粗放的な生産・管理が行われる一方、育成された肥育素牛は、大規模なフィードロットで効率的な穀物肥育が行われている。また、肉牛の流通面では、大手パッカーによる寡占化が顕著となっている。

表7 肉用牛繁殖経営体数、飼養頭数の推移

(1) 肉牛の生産動向

ア.肉用牛繁殖経営体数
 肉用牛繁殖経営体数(年間に1頭以上飼養)は、近年減少傾向で推移しており、2007年も前年比0.7%減の75万8千戸となった。

イ.飼養頭数
 2007年1月1日現在の牛総飼養頭数は、前年比0.3%増の9,700万頭となった。米国のキャトルサイクルは、95年をピークに9年連続で減少し続けた後、2005年には一旦上昇局面に転じたものの、2006年のテキサス州を中心とした中南部における干ばつ、また、2006年後半以降の飼料コスト高の影響などにより、肉用牛繁殖経営の収益性が悪化し、肉用繁殖雌牛の増頭意欲が抑制された結果、牛の総飼養頭数は全体的に伸び悩んでいる。

 2007年1月1日現在の飼養頭数の内訳を見ると、肉用繁殖雌牛は前年比0.3%減の3,289万頭、また、500ポンド(約227キログラム)以上の肉用繁殖後継牛は、前年比0.5%減の588万頭となった。

 さらに、2006年における子牛生産頭数(乳用種を含む)は、肉用繁殖雌牛の飼養頭数が伸び悩んだことにより、前年とほぼ同水準の3,757万頭となった。

図6 種類別と畜頭数(2006年)


(2) 牛肉の需給動向

ア.生産動向
 2006年の成牛と畜頭数(コマーシャルベース)は、前年比4.0%増の3,370万頭となった。

 種類別(連邦政府検査ベース)では、去勢牛が前年比4.1%増となったのをはじめ、未経産牛は前年比0.6%増、また、経産牛は前年比11.8%増とそれぞれが前年を上回った。中でも、肉用経産牛のと畜頭数は、前年比18.2%増の298万頭と、特に高い伸び率を示した。

 一方、2006年の成牛のと畜時平均生体重(連邦政府検査ベース)は、前年比8.2キログラム増の579.2キログラムとなった。また、平均枝肉重量(連邦政府検査ベース)も、前年比5.4キログラム増の354.3キログラムと前年を上回った。 この結果、2006年の牛肉生産量(枝肉ベース)は、前年比5.9%増の1,191万トンとなった。

表8 牛肉需要(枝肉換算)の推移

イ.輸出入動向
 2006年の牛肉輸入量(枝肉ベース)は、米国内の生産量が増加したことなどから、前年比14.3%減の139万9千トンとなった。国別に見ると、前年、カナダに首位の座を譲った豪州からの輸入量が、前年比1.4%減の40万3千トンで最大となった一方、カナダからの輸入量は、同22.7%減の38万3千トンと大幅に減少した。

 一方、同年の生体牛の輸入は、メキシコからの輸入は前年とほぼ同水準(125万7千頭)となったものの、カナダからの輸入は前年7月、同国産生体牛の輸入停止措置が条件付きで解除されたことから、前年比84.5%増(103万2千頭)となり、全体では同26.1%増の228万9千頭となった。

 2003年12月、米国内で初めてBSEが発生した影響を受け、2004年に大幅に減少した牛肉輸出量は、2006年には前年比64.3%増の51万9千トンと前年を大幅に上回った。国別では、メキシコ向けは同42.3%増の30万トン、カナダ向けは同125.3%増の10万8千トンとなった。また、2003年まで最大の輸出相手国であった日本向けは、前年比195.1%増の2万3千トンとなった。

図7 牛肉の輸出量と相手国

ウ.消費動向
 1人1年当たりの牛肉消費量(小売重量ベース)は、健康志向の高まりなどから減少傾向が続いたが、小売価格の値下がりや消費拡大キャンペーンが奏功し、94年以降わずかながら増加傾向で推移してきた。2000年以降はわずかな増減を繰り返しながらほぼ横ばいで推移しており、2006年では前年同の29.9キログラムとなった。



(3) 肉牛・牛肉の価格動向

ア.肥育素牛価格
 肥育素牛価格(オクラホマシティー、600〜650ポンド)は、2006年平均では、100ポンド当たり117.7ドルと前年を1.9%下回った。

イ.肥育牛価格
 2006年の肥育主要7州(アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、アイオワ、カンザス、ネブラスカ、テキサス)における肥育素牛導入頭数は、前年比0.4%増の2,061万頭、また、肥育牛出荷頭数は前年比2.1%増の1,968万頭となった。

 チョイス級肥育牛価格(ネブラスカ、1,100〜1,300ポンド、去勢牛)は、2006年平均で100ポンド当たり85.4ドルとなり、前年に比べて2.2%下落した。

表9 肉牛、牛肉の価格の推移

ウ.牛肉卸売価格
 2006年の卸売価格(チョイス級、600〜900ポンド、カットアウトバリュー)は、前年比0.7%高の100ポンド当たり146.8ドルとなった。

エ.牛肉小売価格
 牛肉の2006年の平均小売価格(チョイス級)は、前年比3.0%安のポンド当たり397.0セントとなった。




(3)養豚・豚肉産業

 米国の養豚産業は、アイオワ州やイリノイ州を中心とするコーンベルト地帯において、伝統的に穀物生産や肉牛経営の副業として営まれてきた。一方、ノースカロライナ州やオクラホマ州でのインテグレーションの出現が、養豚産業に対し、生産・流通などの面で大きな変化をもたらしてきた。

 また、95年に40数年ぶりに純輸出国に転じた豚肉輸出は、近年大幅な伸びを示している。一方で、大規模経営体による環境問題が顕在化しており、各州において環境規制を強化する動きがみられている。



(1) 豚の生産動向

ア.養豚経営体数
 養豚経営体数は、小規模層を中心として減少傾向で推移しており、2006年では、前年比2.0%減の6万6千戸となった。1経営体当たりの飼養規模別では、100頭未満の層が全経営体数の60.5%を占めているものの、飼養頭数では全体の1.0%を占めるにすぎない。一方、5千頭以上の層は、経営体数全体の3.7%にすぎないが、全飼養頭数の54.0%を占めている。

表10 養豚経営体数、飼養頭数の推移
 

イ.飼養頭数
 豚飼養頭数は、2002年には前年をわずかに下回ったものの、2003年以降は再び増加傾向で推移し、2006年(12月1日現在)では、前年比1.7%増の6,249万頭となった。

 飼養頭数の内訳を見ると、繁殖豚は前年比1.3%増の609万頭に、また、肥育豚は前年比1.7%増の5,640万頭となった。

 2006年(2005年12月〜2006年11月)の子豚生産頭数は、一腹当たり産子数が前年比0.8%増の9.08頭となったことに加え、繁殖母豚が前年比0.8%増となったことなどから、10,562万頭と前年より1.6%増加した。

図8 養豚経営体数及び飼養規模の推移


(2) 豚肉の需給動向

ア.生産動向
 2006年のと畜頭数(コマーシャルベース)は、前年比1.1%増の10,474万頭となり、豚肉生産量も前年比1.8%増の955万9千トンに増加した。

 なお、2006年のと畜時平均生体重(連邦政府検査ベース)は、前年同の122.0キログラム、また、平均枝肉重量(同)は、前年比0.5%増の91.6キログラムとなった。

表11 豚肉需要(枝肉換算)の推移

イ.輸出入動向
 豚肉の輸入量(枝肉ベース)は、97年以降おおむね前年を上回って推移してきたが、2004年に減少傾向に転じ、2006年では前年比3.3%減の44万9千トンとなった。国別に見ると、カナダが36万トン(総輸入量に占める割合は80.1%)、デンマークが4万7千トン(同10.4%)となった。

 また、生体豚の輸入は、ほぼ100%がカナダからのものである。同国からの輸入頭数は、近年、増加傾向で推移しており、2006年では前年比7.0%増の876万頭と引き続き高水準となっている。

 一方、輸出量(枝肉ベース)も91年以降、毎年前年を上回って推移してきた。2006年では、最大の輸出先である日本向けが前年比2.9%減の46万1千トンと、前年をわずかに下回ったものの、第2位の輸出先であるメキシコ向けが、前年比13.1%増の27万6千トン、また、カナダ向けが、前年比7.5%増の14万7千トンとなったことなどから、輸出量全体では前年比12.3%増の135万9千トンとなり、初めて100万トンの大台を超えた前年をかなり大きく上回った。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの豚肉消費量(小売重量ベース)は、近年ほぼ横ばいで推移している。しかし、2006年では、小売価格が前年を下回ったものの、前年比2.0%減の22.2キログラムとなった。


図9 カナダからの生体豚輸入頭数の推移
図10 豚肉の輸出相手国(2006年)

(3) 肥育豚・豚肉の価格動向

ア.肥育豚価格
 肥育豚取引価格は2002年、生産量の増加などにより、100ポンド当たり34.9ドルまで下落した。2003年以降は、特に輸出量が増大したことなどから上昇基調に転じたものの、2006年では前年比5.4%安の47.3ドルと昨年に引き続き前年水準を下回った。

イ.豚肉価格
(ア)部分肉卸売価格
 2006年の部分肉卸売価格(カットアウトバリュー)は、前年比3.2%安の100ポンド当たり67.6ドルとなった。

(イ)豚肉小売価格
 2006年の豚肉の平均小売価格は、前年比0.7%安の1ポンド当たり280.7セントとなった。

表12 飼育豚、豚肉の価格の推移



(4)養鶏・鶏肉産業

 米国の養鶏産業は、飼料穀物の大生産国という利点を生かし、生産から流通までの一貫したインテグレーションの進展により、極めて効率的な生産が行われている。また、不需要部位のもも肉を中心として、鶏肉生産量の約2割を輸出すると同時に、米国内では、消費者の健康志向からむね肉を中心として消費を大きく伸ばしている。



(1) ブロイラーのふ化羽数の動向

 2005年のブロイラーふ化羽数は、前年同様にブロイラー価格が高水準で推移したことから、前年比1.6%増の94億9千万羽となった。



(2) 鶏肉の需給動向

ア.生産動向
 2006年のブロイラー生産は、ブロイラーふ化羽数はわずかに減少したものの、1羽当たりの平均生体重量が増加したことにより、前年を0.4%上回る1,593万トンとなった。1羽当たり平均生体重量は、骨なしむね肉への需要増に伴うブロイラーの大型化を背景に近年増加傾向にあり、同年では前年比1.9%増の2.48キログラムとなった。

イ.輸出動向
 ブロイラーの輸出量は、85年以降一貫して増加傾向で推移してきたが、近年、その伸び率は鈍化していた。2004年に前年を2.8%下回った輸出量は2005年以降、再び増加傾向に転じ、2006年では前年とほぼ同水準の236万トンとなった。 国別では、最大の輸出先であるロシア向けや、2005年まではロシアに次ぐ輸出先であったメキシコ向けは、それぞれ前年比7.5%減、同12.6%減となったものの、中国向けが同約250%と大幅に増加した。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの鶏肉消費量(小売重量ベース)は、健康志向の高まりや加工度の高いアイテムの増加などから、順調な伸び率を示してきており、2006年では前年比1.2%増の39.5キログラムとなった。

表13 ブロイラー需給(可食処理ベース)の推移
 
図11 鶏肉の輸出相手国(2006年)


(3) ブロイラーの価格動向

ア.ブロイラー価格
 2006年のブロイラー価格(生体ポンド当たりの生産者販売価格)は、高値で推移した前年を10.2%下回るポンド当たり38.9セントとなった。

イ.鶏肉価格
(ア)卸売価格
 2006年のブロイラーの丸どり卸売価格(中抜き、12都市平均)は、前年比9.2%安のポンド当たり64.3セントとなった。なお、国内向けが主体となっているむね肉がポンド当たり112.0セント(前年比16.3%安)であるのに対し、輸出向けが主体のもも肉は同38.6セント(同25.9%安)と、日本とは異なり、むね肉はもも肉の2.5倍以上の高値となっている。

(イ)小売価格
 ブロイラーの丸どり小売価格(中抜き)は、前年比0.7%安のポンド当たり104.9セントとなった。

表14 ブロイラー価格の推移



(5)飼料穀物

 米国は、世界最大の飼料穀物の生産・輸出国である。飼料穀物の主力であるトウモロコシについては、世界の生産量の約4割、輸出量についてはその約6割強を占めていることなどから、世界的な需給動向に与える影響力は極めて大きなものとなっている。


(1) 主要な政策

 飼料穀物については、96年農業法により、政府の定める目標価格と市場価格(またはローンレート)の差を補てんする不足払い制度とこれに関連する減反計画が廃止され、農産物の作付け(野菜、果物を除く)が自由化された。一方、その代替措置として、市場価格とは切り離された形で、過去の作付面積などの実績に基づき、一定の漸減する直接支払いを2002年度までの7年間受給できる農家直接固定支払い制度が導入された。このほかの主なものとしては、生産者が農産物を担保に商品金融公社(CCC)からローンレート(過去の市場価格を基に算出)での融資を受けるマーケティング・ローン(価格支持融資制度)などがある。なお、飼料穀物価格が需給緩和の影響で、96年の秋をピークに下落し、生産者所得が減少したことを受け、農家直接固定支払い制度の単価に上乗せする形で、98年から毎年緊急支援措置が講じられている。こうした中、紆う余よ曲折を経て成立した2002年農業法では、価格支持融資や農家直接固定支払いを存続させるとともに96年農業法で廃止された不足払い制度に類似した直接支払い制度(価格変動対応型支払い:価格の変動に応じ目標価格との差額を補てん)を新設している。



(2) 穀物の生産動向

 2006/07年度(9〜8月)のトウモロコシ(サイレージ用を除く)の生産量は、前年度比5.2%減の105億3,487万ブッシェル(2億6,800万トン)となった。これは、作付面積が前年を4.2%下回った(7,833万エーカー(3,133万ヘクタール))ことに加え、1エーカー(約0.4ヘクタール)当たりの単収が、前年とほぼ同水準(同0.7%増の149.1ブッシェル(9.5トン/ヘクタール)となったためである。

 2007年8月末現在の在庫量は、前年比33.7%減の13億365万ブッシェル(3,300万トン)と大幅に減少した。

表15 トウモロコシ需給の推移


(3) 穀物の輸出動向

 2006/07年度のトウモロコシの輸出は、メキシコ向けが大幅に増加(前年度比38.4%増の877万トン)した一方、日本、中国、韓国向けなどが減少したため、全体では前年度比0.4%減の5,399万トンとなった。なお、日本向けの輸出は、前年度比5.3%減の1,510万8千トンと、輸出量全体の28.0%を占めている。



(4) 穀物の価格動向

 2006/07年度のトウモロコシの生産者販売価格は、飼料および輸出向け需要は前年を下回った一方、燃料用エタノール原料向け需要が増大したことなどから、前年度比52.0%高のブッシェル当たり3.04ドルとなった。

表16 トウモロコシ価格の推移




「米国農務省、次期農業法に向けた重点課題を公表」

 米国農務省(USDA)は2006年9月13日、「将来の米国農業の発展に向けた基盤強化」と題した米国農業政策に関する分析資料を公表した。これは、次期農業法の作成段階における透明性の確保、また、同法に米国民の意見を最大限に反映するため、同省が同年5〜8月にかけ四回にわたり公表してきた、同法の改正に向けた主要な政策課題に関する分析資料の五回目かつ最終版となるものであり、これまでの資料と同様、その後の農業関係者による同法改正に向けた議論の際、広く活用されることとなった。


新農業法をめぐる5つの論点

 米国の農業政策は、おおむね5年ごとに行われる農業法の改正により大枠が定められる。2002年5月に制定された現行農業法の失効を2007年9月に控え、USDAは2005年3月から同年末にかけ、全米48州の52カ所で農業者との意見交換会を開催し、2006年3月には、これらの意見交換会で農業関係者から出された意見などを41本の論点にまとめた意見概要を公表していた。

 その後、USDAは、これら意見概要の中から重要課題に対するさらなる分析を進め、5月8日、農業者が現在直面しているリスク、政府および民間部門による現行プログラムの有効性、同プログラムの代案などに関する「リスク管理分析資料」を公表した。また、6月8日、7月7日には、それぞれ「環境保全プログラム」、「農村開発プログラム」に関する包括的な分析資料を公表した。さらに、8月8日には、四回目の分析資料として、「再生可能エネルギーおよびエネルギー効率プログラム」など、農業が包括するすべてのエネルギー施策に関する分析資料を公表した。

 9月に公表された五回目の分析資料では、@国際市場の役割と重要性、A競争力と効率の強化(研究開発のあり方)、B農畜産物の安全性確保、C次世代の農業者への継承−など、将来の米国農業の発展に重大な影響を及ぼすことが予測される要因に関する包括的な分析結果が述べられた。

 なお、新農業法をめぐる議論は、USDAが同法に関する政府提案を公表した2007年初め頃から活発化し、その後、議論の中心は議会に移り、同年7月末には下院で2007年下院農業法案が可決された一方、上院での可決が年末の12月14日までずれ込むなどうよ曲折を経て、2008年5月22日、両院協議会報告書を受けた包括農業法案が上下両院で可決された。

注)新農業法の概要および成立までの経緯については、「畜産の情報2008年7月号」、「同海外編2007年1月号」および海外駐在員情報(北米)における関連情報を参照。



「FMMO規則の変更をめぐる米国の酪農・乳業界のスタンス」

 米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)は2006年6月、乳製品の製造コストの上昇などを踏まえ、連邦ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO)制度におけるクラスV(チーズ・ホエイ向け)およびクラスW(バター・粉乳向け)の生乳価格の算定方法(具体的には加工経費係数)を修正し、最低取引価格を引き下げるよう規則の変更を提案した。

 同年9月末、この規則変更に関する関係者からの意見提出が締め切られたことを受け、米国の乳業団体および酪農団体はそれぞれの主張と見解を公表したが、乳業団体がクラスV生乳の最低取引価格をさらに引き下げるよう求めたのに対し、酪農団体はクラスT(飲用向け)およびクラスU(アイスクリーム・ヨーグルト向け)についても新たな算定方法を定めて最低取引価格を引き上げるよう主張するなど、両者の立場の違いが明確になった。

 FMMO制度は、加工原料乳の価格支持制度とともに米国の酪農政策の根幹をなす制度であり、農務長官が定める米国本土の10カ所(2004年4月1日以降)の地域内において、一定の規格を満たす生乳について、毎月、用途別に最低取引価格が定められるものである。クラスTについては各地域ごとに異なる価格が設定されるが、クラスU、クラスVおよびクラスWについては全国共通の価格が設定される仕組みになっている。なお、クラスTおよびクラスUの価格は、クラスVやクラスWの価格に品質格差などを考慮して定められた一定額を上乗せして算定されている。

乳業団体はチーズ向け価格のさらなる引き下げを提案

 米国内の乳業メーカーなどで組織される国際乳製品協会(IDFA)は10月10日、チーズには生乳中の9割の乳脂肪しか含まれないことなどを理由に、計算方式を変更してクラスVの価格をさらに引き下げるよう、USDA/AMSに意見を提出したことを公表した。

 IDFAの主張によれば、現在のクラスVの価格算定方法はチーズの製造過程で生乳中の乳脂肪分がすべてチーズに移行することを前提としているが、実際には乳脂肪分の1割程度はバターよりも用途が限定され価格も安いホエイクリームとなることから、これを新たな算定方法に反映させることが適当としている。また、算定要素として用いるチェダーチーズの価格のうち、500ポンド樽に入った業務用については1ポンド当たり3セントの上乗せが行われているが、実態調査の結果、荷姿による価格差はないことが判明したことからこれを廃止すべきとしている。

生産者団体は飲用向け価格の計算方法の見直しを主張

 一方、米国内の酪農家の8割弱が加盟する全国生乳生産者連盟(NMPF)は10月4日、クラスVおよびクラスWに関する規則変更により、自動にクラスTおよびクラスUの最低取引価格も引き下げられるという現行制度への懸念を表明し、USDA/AMSに対してクラスTおよびクラスUについて新たな算定方法を定めるよう求めるとともに、ジョハンズ米農務長官(当時)に対して緊急に公聴会を開催するよう求めたことを明らかにした。

 NMPFは、当初、クラスVおよびクラスWの価格算定に乳製品製造コストの上昇を反映させること自体には反対しないものの、クラスTおよびクラスUの価格はこれらと連動させずに計算するよう主張してきた。しかし、この提案がUSDAに受け入れられなかったことから、計算方式は大きく変えず、クラスVおよびクラスWの価格算定の際に用いられている品質格差相当額を改定することにより価格を引き上げるという新たな提案を行ったものである。なお、現行の品質格差相当額は98年以前のデータに基づき定められたものであり、NMPFはこの見直しによりクラスT価格は100ポンド当たり約73セント引き上げられるとしている。


 FMMO制度は恒久的な制度(1933年農業調整法および1937年農産物販売協定法に規定)であり、その枠組みの見直しが困難である一方、多くの改善点を抱えていることは関係者の共通認識である。なお、2008年農業法においては、酪農・乳業関係者からなるFMMO制度検討委員会の設置が決定され、同制度とカリフォルニア州など州独自の制度の双方について、現行の生乳価格決定規則の内容を評価して政策変更のための勧告を2年以内に上下両院の農業委員会に報告するよう定められた。



「米国、バイオ燃料の生産技術に関する調査研究を推進」

USDA・DOE、1,750万ドルの財政支援を実施

 ジョハンズ米農務長官(当時)およびボドマン同エネルギー省長官は2006年10月11日、セントルイスで開催した再生可能燃料推進会議において、米国の海外への石油依存度を縮小するため、トウモロコシをはじめ、大豆ミール、セルロースなどからのバイオ燃料の生産などに関する調査・開発計画に対し、総額1,750万ドルの資金を提供することを公表した。

 同資金は、商業市場におけるバイオ燃料の価格競争力を高めることを目的とした製造技術の開発に充てられ、今後、今回公表された17の事業実施体により、バイオマスの調査・開発および実証試験が行われることとなった。

 具体的には、1,750万ドルのうち、USDAの2006会計年度予算からは、バイオ燃料の供給原料の生産および製品の多様化に関する調査研究に対し1,280万ドルが、また、エネルギー省(DOE)の2006〜2008会計年度予算からは、バイオエネルギー源としてのセルロースの開発に対し470万ドルが充当されることとなった。

米大統領の先端エネルギーイニシアティブ推進の一環

 再生可能燃料推進会議は同月10〜12日に、USDAおよびDOEの共催により、ブッシュ米大統領が同年初めの一般教書演説で掲げた、先端エネルギーイニシアティブ(Advanced Energy Initiative、AEI)の推進を目的として開催された。このAEIは、米国における自動車燃料、また、一般世帯・商業施設への電力供給手法の転換により、環境汚染を削減し、安価で、かつ代替・再生可能なエネルギー源の商業化を加速することを柱としていた。

 米国における燃料用エタノールの生産量は、2000年初頭以降、原油価格の高騰および環境問題に対する関心の高まりなどを背景に増大傾向で推移してきたが、2005年8月に成立したエネルギー政策法において、再生可能燃料の使用量を定めた再生可能燃料基準(Renewable fuel Standard:RFS)が設けられたことにより、その拡大傾向は加速化し、その原料の9割強に利用されるトウモロコシの価格は2006年初め以降強含みで推移した。


 なお、2007年末のエネルギー法の改正により、RFSが引き上げられた(2008年の年間90億ガロンから2022年の360億ガロンまで段階的に拡大するとともに、360億ガロンのうち210億ガロンをトウモロコシ以外の新たなバイオ燃料で賄うことを義務付け)ことなどにより、米国のトウモロコシ価格は2008年初め以降騰勢を強めることとなった。

 一方、同法の制定過程において、それまで焦点の一つとなっていた石油会社などへの租税減免措置の引き下げなどバイオ燃料の振興施策は削除され、2008年農業法の中で、@2008年末で失効する予定だった1ガロン当たり54セントの輸入エタノール関税を2010年12月31日まで2年延長、Aエタノール混合燃料の製造業者に対する1ガロン当たり51セントの租税減免額を2009年1月1日からから1ガロン当たり45セントに減額、B農業廃棄物など非食用資源を原料とするエタノール製造業者に対し、新たに2012年までの租税減免措置(1ガロン当たり101セント)を新設−などの措置が講じられることとなっている。