海外編

 II EU 




1. 一般経済の概況

  EU経済は、2004年後半からの世界経済の減速、原油価格の高騰、ユーロ高の影響から低迷していたが、2006年の欧州連合(EU25カ国)のGDPの成長率は、EU経済の回復を受けて、輸出入額とも2000年以来となる2ケタ台の伸びにより、3.0%と2000年(3.9%)以来の好況となった。

 また、雇用創出が続いていることから、2006年のEUの失業率は8.2%と前年より0.6ポイント改善された。

 なお、EUでは、99年1月より単一通貨ユーロが導入され、2006年時点では、EU25カ国のうち12カ国でユーロが流通している。2006年のユーロの対円為替相場は1ユーロ=146.02円で、日本との金利格差などを背景に、ユーロ導入後の2000年時点の1ユーロ=99.47円より大幅な円安傾向で推移している。


表1 主要経済指標
 
欧州連合の加盟国等(2006年12月時点)



2. 農・畜産業の概況

 EUは、加盟国全体で1億6,280万ヘクタール(2006年)の農用地面積を有し、農業経営体数は968万8千戸(2005年)、1戸当たりの農用地面積は、16.0ヘクタール(2005年)である。

 2006年におけるGDPのうち、農業生産の占める割合は、1.2%と前年の1.3%よりわずかに減少した。また、同年の(以下同じ)労働人口に占める農業従事者の割合は4.7%であり、他の先進国と同様に、その割合は高くない。農業生産額は3,088億9千万ユーロとなり、前年を0.9%下回った。このうちの約42%に相当する1,300億2千万ユーロを畜産が占めており、EU農業の主要部門となっている。畜産の内訳を見ると、生乳が420億8千ユーロ(農業全体の約14%)、牛肉・子牛肉が286億7千万ユーロ(同約9%)、豚肉が304億ユーロ(同約10%)、卵・家きんが183億4千万ユーロ(同約6%)である。

 2006年のEU農業を概観すると、干ばつや多雨に見舞われたものの、秋には好天に恵まれ、穀物生産の好調が挙げられる。

 2006年のEU25および加盟候補国のブルガリア、ルーマニア(以下「27カ国ベース」という。)の農業経済を部門別に見ると、畜産部門では、生乳や家きん肉の価格が下落した一方、牛肉、豚肉および鶏卵の価格が上昇したことにより、生産者価格は前年比0.5%高となったものの、生産額は全体的に生産量が伸びなかったことから前年比2.2%減となった。また、耕種作物部門においては、生産量は前年を2.7%下回り、生産額も前年比4.3%減となった。

 農業者1人当たりの農業所得(実質)は、アイルランド(前年比13.3%減)、フィンランド(同7.8%減)など7カ国が前年を下回ったものの、オランダ(同15.1%増)、ポーランド(同10.6%増)、ベルギー(同9.2%増)、フランス(同8.5%増)など主要農業国が前年をかなりの程度上回ったことから、EU27カ国ベースでは前年を3.8%上回ることとなった。


図1 農業生産額に占める畜産のシェア(2006年)
 
図2 畜産生産額に占める畜種別のシェア(2006年)
 
表2 主要農業経済指標



3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

 2006年のEUの生乳生産量は、全世界(約5億4,970万トン:FAO資料)の約26%を占め、これは、単一国としては世界最大である米国の生産量の約1.7倍に相当する。EUは、牛乳・乳製品の自給率が113%の純輸出市場であり、国際乳製品市場に大きな影響力を持っている。2006年において、EUが世界の乳製品貿易量に占める割合は、チーズが37%と依然世界最大となったが、バターや脱脂粉乳は生産量の減少に伴う輸出量の減少によりそれぞれ27%、8%となり、バターはニュージーランドに次いで2番目、脱脂粉乳は4番目のシェアとなっている。



(1)主要な政策

ア.生乳生産割当(クオータ)制度
 国別に生産割当枠(クオータ)を定め、クオータ超過に対しては、指標価格の115%の課徴金が課せられる。加盟国間でのクオータの譲渡は認められていないが、農家間では、売却・リースや加盟国によるクオータの買い上げ・再配分などを通じて移動・調整することができる。 この制度の終了年度は、「アジェンダ2000」において2007/08年度(毎年4月〜3月)と定められていたが、2003年6月に合意した共通農業政策(CAP)改革において、2014/15年度まで継続されることとなった。

イ.乳製品の介入買入れ
 バターや脱脂粉乳の介入買入れを通じた乳製品の価格支持により、間接的に生乳価格を支持している。この介入価格は、CAP改革により、バターについては、4年間で25%、脱脂粉乳については、3年間で15%段階的に引き下げることとなった。

 バターの市場価格が介入価格(100キログラム当たり259.52ユーロ(2006年7月1日〜2007年6月30日))の92%を下回った場合、加盟国の介入機関により、入札方式による一定規格のバターの介入買入れが行われる。なお、CAP改革により、バターの介入買入限度数量を新たに設定し、2004年に7万トン、その後毎年1万トンずつ削減し、2008年に3万トンまで削減することとなった。

 また、一定規格の脱脂粉乳については、3月1日〜8月31日の間、加盟国の介入機関が介入価格(100キログラム当たり179.69ユーロ(2006年7月1日〜2007年6月30日))で買入れる。なお、その年の介入買入れ数量が10万9千トンを超えた場合、介入買入れは停止され、入札による買入れが実施できることとなっている。

ウ.酪農奨励金
 2004年度からバターおよび脱脂粉乳の介入買入れ価格の引下げが始まったことに伴い、その代償として酪農分野における直接支払いである酪農奨励金が導入されている。これは、2005年から導入されることとなっていたが、2003年のCAP改革で介入価格の引下げが1年早まったことから酪農奨励金の導入も1年前倒した2004年から導入されている。酪農奨励金単価は、生乳出荷量1トン当たり2004年が11.81ユーロ、2005年が23.65ユーロ、2006年が35.5ユーロと定められており、介入価格の引下げを補う形で次第に引き上げられることになっている。

 なお、本奨励金は、CAP改革で導入された生産とリンクしない直接支払い(デカップリング)に2008年から統合されることとなっているが、加盟国はより早い時期に統合することができる。

エ.輸出補助金
 EU産乳製品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、チーズ、バター、脱脂粉乳などの輸出に対して輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに販売・輸送コストなどを勘案して設定される。

オ.域内消費の促進
 脱脂乳、脱脂粉乳の飼料用消費やバターのアイスクリームおよびベーカリー用消費に対する補助のほか、牛乳の学校給食用消費に対する補助などが行われている。



(2)生乳の生産動向

ア.酪農経営体数
 EUの酪農経営体数は、小規模層を中心に減少傾向にあり、2005年には152万7千戸となった。2003年のEU25カ国ベースの参考データ(179万8千戸)と比較すると、2年間で15.1%減少している。

イ.飼養頭数
 2006年12月現在の乳用経産牛飼養頭数は、前年を2.8%下回る2,234万頭となり、前年に引き続き減少した。クオータ制度の下で生乳生産の増加が抑えられている一方、経産牛1頭当たりの乳量が着実に増加していることが、飼養頭数減少の要因となっている。

 2005年の1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は15頭で、2003年調査の13頭から増加した。しかし、最も飼養規模の大きいキプロスが105頭であるのに対し、規模が小さいラトビア、リトアニアでは3頭など、加盟国間で差が大きい。

ウ.経産牛1頭当たり乳量
 2006年の経産牛1頭当たり乳量は、遺伝的能力や飼養管理技術の向上などにより、前年比2.5%増の6,359キログラムとなった。ただし、加盟国間での差は大きく、デンマークの8,337キログラム(前年比1.4%増)、スウェーデンの8,187キログラム(同0.4%増)に対し、ラトビアは4,452キログラム(同2.2%増)と約2倍程度の開きがある。

エ.生乳生産量
 EUでは、CAPによるクオータ制度により安定的に推移していた生乳生産量が、2003年にクオータを超過したため、2004年はこれらの国において生乳の生産を削減した結果前年を下回り、2005年はほぼ前年並みとなった。2006年の生乳生産量も、前年比0.4%減の1億4,202万トンとほぼ前年並みとなった。国別では、ドイツ、フランス、イギリス、ポーランド、オランダ、イタリアの6カ国がいずれも1千万トンを超えており、これらの合計はEU全体の生産量の約7割を占める。


表3 酪農経営体数、乳用経産牛飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移
 
図3 酪農経営体数(2005年)および乳用経産牛飼養頭数(2006年12月)
 
図4 生乳生産量(2006年)および経産牛1頭当たり乳量(2006年)


(3)牛乳・乳製品の需給動向

ア.飲用乳
 2006年の飲用乳生産量(販売量)は、ほぼ前年並みの3,325万トンであった。2006年の国別の1人当たりの飲用乳(乳飲料、ヨーグルトなどを含む)消費量は、フィンランドの183.9キログラムからポーランドの54.0キログラムまで、加盟国間でかなりの差がある。近年の飲用乳消費は、全脂乳の割合が5割以下に減少する一方、低脂肪乳の割合が増加する傾向となっている。また、発酵乳などの消費は引き続き増加している。

イ.バター
 2006年のバター生産量は、世界の主要生産国の生産量(約700万トン:USDA資料)の約3割を占める。EUはインドに次ぐ世界第2位のバター生産地域である。

 2006年のバター生産量(バターオイルを含む)は、204万トンで前年を4.4%下回った。これは加工原料乳が付加価値の高いチーズにより仕向けられていることによるものであった。

 2006年のEU域外への輸出量は、25万3千トンであった。主な輸出先は、ロシアやモロッコおよびエジプトなどの中東諸国である。一方、域外からの輸入量は8万2千トンであった。

 1人当たりのバター消費量は、消費者の健康に対する関心の高まりにより90年代から減少傾向で推移しており、2006年は前年比2.4%減の4.1キログラムとなった。国別では、フランス(7.3キログラム)、ドイツ(6.6キログラム)での消費が多いが、マーガリンやデイリースプレッドの消費が多いデンマーク(1.6キログラム)などの北欧の国や、オリーブ油など植物油脂の消費が多い南欧の国では少ない。

表4 1人当たり飲用乳消費量の推移

表5 バター需給の推移
表6 1人当たりバター消費量の推移
   
 
図5 バターの国別生産量(2006年)

ウ.脱脂粉乳
 EUは、脱脂粉乳の生産量では世界の主要生産国の(約307万トン:USDA資料)の約3割のシェアを占める世界最大の生産地域である。

 2006年の生産量(バターミルクパウダーなどを含む)は104万トンで、前年を6.9%下回った。これは生乳生産量の減少に加え、加工向けの生乳が付加価値の高いチーズにより仕向けられていることによるものである。

 2006年のEU域外への輸出量は、8万4千トンとなった。主な輸出先は、アルジェリア(3万2千トン)やナイジェリア(1万トン)などのアフリカやベトナム(8千トン)、タイ(7千トン)やインドネシア(5千トン)などの東南アジアなどである。

 2002年には脱脂粉乳の生産量が伸びたこともあり、2002年3月以降介入在庫が生じたが、生産量の減少に加えEU域内需要が好調に推移したことから2006年期末在庫量はゼロとなった。


表7 脱脂粉乳需給の推移
図6 脱脂粉乳の国別生産量(2006年)


エ.チーズ
 EUは、チーズの生産量では主要生産国の約5割のシェアを占める世界最大の生産地域である。

 チーズ生産量は、堅調な域内需要に加え、世界的な需要増加を背景に95年から2004年までの10年間で、EU15カ国で約16%増加した。99年には、ロシアの経済悪化による同国向け輸出の停滞の影響で一時的に生産の伸びが鈍化したものの、その後回復している。2001年には、BSE問題の再燃による代替需要に対する生産の拡大により、最近では最大の伸びを示したが、その後落ち着き、2006年の生産量は前年比1.3%増の869万4千トンとなった。このうち主に牛乳を原料として乳業工場で製造されるものは800万4千トンとなっている。


表8 チーズ需給の推移
図7 チーズの国別生産量(2006年)

 2006年のEU域外への輸出量は58万2千トンであった。堅調なチーズの国際価格および最大の輸出先であるロシアの経済発展により、着実に増加が見られている。主な輸出先はロシア(15万7千トン)、米国(11万1千トン)、日本(4万8千トン)である。

 一方、EU域外からの輸入量は、10万7千トンであった。主な輸入先は、スイス(4万1千トン)、ニュージーランド(3万7千トン)、豪州(1万1千トン)である。

 2006年のチーズ消費量は848万3千トンで、1人当たりの消費量は18.4キログラムであった。国別の1人当たりの消費量には、加盟国間でかなりの差があり、フランス(22.5キログラム)、ドイツ(21.7キログラム)などで多く、スペイン(9.6キログラム)、スロバキア(9.6キログラム)などで少なくなっている。


図8 チーズの輸出先国(2006年)
表9 1人当たりチーズ消費量の推移

(4)生乳および牛乳・乳製品の価格動向

ア.生乳生産者価格
 生乳については、バターや脱脂粉乳の介入買い上げ措置を通じて、間接的に価格を支持するための目標となる生乳指標価格が設定されていたが、2003年のCAP改革により、2004年4月1日に廃止された。

 2006年の国別生乳生産者価格(農家渡し、脂肪分3.7%)は、CAP改革によるバターや脱脂粉乳の介入価格の削減により、前年度を3.3%下回る100キログラム当たり26.50ユーロとなった。国別ではEU15のほとんどの国で前年度を下回った。

イ.牛乳小売価格
 ドイツの2006年の全脂乳(回収ビン)の小売価格は、1リットル当たり0.86ユーロと前年比3.6%高であった。

表11 ドイツにおける牛乳小売価格の推移




ウ.バター卸売価格
 2006年のEU各国のバター卸売価格(工場渡しまたは倉庫渡し)は、介入価格の引き下げなどにより、主要国では前年を下回った(イギリス:前年比9.4%安、フランス:同9.1%安)
表10 主要国の生乳生産者価格

表12 主要国のバター卸売価格


エ.脱脂粉乳卸売価格
 2006年のEU各国の脱脂粉乳卸売価格(工場渡し)は、近年に需要が伸びているチーズやそのほかの高付加価値乳製品の生産が増加し、脱脂粉乳の生産が減少したが、域内での食品産業での需要が増加したため、主要国では前年を上回った(ドイツ:前年比7.8%高、オランダ:同7.6%高)


表13 主要国の脱脂粉乳卸売価格


オ.チーズ卸売価格
 2006年のEU各国のチーズ卸売価格(工場渡し)は、全体的に生産量の増加により低下している。


表14 主要国のチーズ卸売価格



(2)肉牛・牛肉産業

 2006年のEUの牛肉生産量は、FAOによると世界の牛肉生産量(約6,103万トン)の約13%を占めている。幅広い気候・地理・歴史的条件の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や生産する牛のタイプ(子牛、経産牛、去勢牛、雄牛など)は、国によってかなり異なっている。このような中、EUにおける牛肉自給率は2001年までは、100%を超えていたが、2000年末のBSE問題の再燃によって低下した消費が回復し、消費量が生産量を上回ったことから、2003年以降、牛肉の純輸入地域となっている。


(1)主な政策

ア.介入買い入れ
 域内の牛肉価格が下落した場合、加盟国の介入機関を通じ、一定基準を満たす牛肉を買い入れ、市場から隔離することにより、価格を一定以上に維持している。2002年6月30日までは、域内または加盟国・地域の牛肉市場平均価格がそれぞれ介入価格の84%または80%の水準を2週間連続して下回った場合に発動される通常介入(買い入れ数量上限あり)と、価格が極端に低下した場合に実施されるセーフティーネット介入(買い入れ数量上限なし)の2つの方式が実施されていたが、通常介入については、2002年6月30日に廃止され、同年7月1日以降、民間在庫補助に移行した。

 セーフティーネット介入は、規則(EC/1208/87)に基づく枝肉の欧州平均市場価格が、2週間にわたって1,560ユーロ/トンを下回る場合に実施される。

イ.民間在庫補助
 EU市場で格付等級R3とされた雄牛の枝肉基本価格を100キログラム当たり222.4ユーロと定め、EU平均市場価格が基本価格の103%を下回り、それが継続する可能性がある場合に、一定量の牛肉を一定期間、自己負担により在庫する業者に対し助成が行われる。

ウ.直接支払い
 2000年度からの介入価格の引き下げにより減少した農業所得を補償するため、繁殖雌牛奨励金などの奨励金について、単価が引き上げられたほか、2000年には新たにと畜奨励金が新設された。

 なお、2003年のCAP改革により、これらの生産にリンクした直接支払いは、原則、生産とはリンクしない直接支払い(デカップリング)へと統合された。ただし、加盟国は、これらの生産と結びついた直接支払いについてもデカップリングと併せて継続することが可能となっている。

(ア)繁殖雌牛奨励金(Suckler cow premium)
 繁殖雌牛を飼養する肉用牛生産者(生乳出荷量がゼロまたは生乳生産枠(クオータ)が120トン以下の生産者)に対し、1頭当たり200ユーロの奨励金が交付される。

(イ)特別奨励金(Beef special premium)
 雄牛や去勢牛を飼養する生産者に対し、肉牛の生存中に2回(10カ月齢および22カ月齢(雄牛は1回のみ))まで、各農家90頭を限度として、去勢牛1頭当たり150ユーロ、雄牛1頭当たり210ユーロの奨励金が交付される。

(ウ)と畜奨励金
 牛を一定期間飼養後、と畜または域外に輸出した生産者に対し、8カ月齢以上の牛1頭当たり80ユーロ、1カ月齢超7カ月齢未満の子牛1頭当たり50ユーロの奨励金が交付される。


エ.輸出補助金
 EU産牛肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。 

オ.BSE関連対策
 動物性たんぱく質の飼料利用全面禁止、食肉に供される牛からの特定危険部位の除去などのBSE撲滅対策、講じられる対策の有効性を検証するための30カ月齢超の食用向けの健康な牛に対するBSEモニタリング検査などが実施されている。



(2)肉牛の生産動向

ア.牛飼養経営体数
 2005年の牛飼養経営体数(乳牛飼養を含む)は235万5千戸で、2003年のEU25カ国ベースの参考データ(266万1千戸)に比べ11.7%減となっている。

 牛飼養経営体数は、2005年のEU全農業経営体数(969万戸)の24%を占めていることから、EU全農業経営体の4分の1は何らかの形で牛を飼養していることになる。牛飼養経営体数(2005年)の多い国は、ポーランド(78万3千戸)、フランス(23万8千戸)、ドイツ(18万3千戸)、リトアニア(18万1千戸)、イタリア(14万4千戸)の順となっている。

図9−1 国別牛飼養頭数(2006年12月)
表15 牛(乳牛を含む)飼養経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

イ.飼養頭数
 2006年12月現在の牛飼養頭数は8,489万3千頭(乳用経産牛を含む)で、前年同期比1.5%減となった。

 2005年の1戸当たりの飼養頭数は36.6頭で、2003年のEU25カ国ベースの参考データと比較して3.8頭減少している。ルクセンブルクは118.7頭、オランダは101.8頭、デンマークは93.1頭となっている。

 また、新規加盟国では、最も牛飼養経営体数が多いポーランドで7.3頭となっており、飼養規模が相対的に小さいことがうかがえる。


図9−2 国別タイプ別牛飼養割合


(3)牛肉の需給動向

ア.牛と畜頭数および牛肉生産量
 2006年の牛と畜頭数は、2,790万頭となった。国別のと畜頭数を見ると、フランス(517万頭)、イタリア(406万頭)、ドイツ(381万頭)、イギリス(264万頭)、スペイン(251万頭)の順で、これら5カ国でEUの全と畜頭数の約7割を占めている。

 また、牛肉生産量は、過去最高の866万トン(枝肉換算)を記録した91年(12カ国)以降減少傾向にあるが、2006年は791万3千トン(枝肉換算)とほぼ前年並みとなった。

 1頭当たりの平均枝肉重量は、成牛で318.4キログラム、子牛は140.2キログラムであった。

表16 牛肉需給の推移(枝肉換算)

イ.輸入および輸出
 輸入については、ガット・ウルグアイラウンド合意に基づき、さまざまな関税割当や近隣国との特恵制度が設けられている。2006年のEU域外からの輸入量は、前年比6.2%減の48万8千トン(枝肉換算)となった。主な輸入先は、ブラジル、アルゼンチンなどである。

 輸出については、従来からアフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。しかし、2001年秋以降のBSE問題の再燃や2002年2月の口蹄疫(FMD)の発生により、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が講じられている一方、域内の牛肉生産量が減少したことから、2006年のEU域外への輸出量は、前年比13.3%減の18万9千トン(枝肉換算)と大きく減少している。

ウ.消費
 2000年10月のフランスでのBSE感染牛の販売疑惑や同年11月にドイツ、スペインでBSEの初発例が発見されたことなどにより、牛肉の安全性に対する疑念がEUの消費者に広がったことから、2001年のEU15カ国の消費量は前年比5.8%減の686万3千トンとやや落ち込んだ。しかし、2002年以降回復し、2003年より牛肉の消費は99年(749万9千トン)の水準を超えて推移しており、2006年の消費量は前年比0.5%増の818万6千トンであった。

 1人当たりの牛肉消費量も同様に2001年は落ち込んだが、2003年には2001年レベルから1.9キログラム増加し、20.2キログラムと回復している。しかし、新規加盟国での牛肉消費量は、まだそれほど高くないことから、2004年のEU25カ国の1人当たりの消費量(18.0キログラム)と2003年のEU15カ国(20.2キログラム)と比べて減少し、2006年も17.7キログラムとなっている。

エ.介入在庫
 96、97年にBSE問題の影響による価格下落に伴い、介入買い入れが実施されたことにより急激に増加した介入在庫も、98年末の50万4千トンをピークに減少し、2000年末にはわずか2千トンにまで減少した。しかし、2000年末のBSE問題の再燃により、牛肉価格が落ち込んだため、通常介入だけでなくセーフティーネット介入も実施された。また、従来、介入買い上げの対象となっていなかった経産牛を買上対象とした特別買い上げも実施された結果、2001年末の介入在庫量は前年同月の22万2千トンに達していた。その後消費の回復により、在庫は減少し、2004年以降ゼロとなっている。

表17 主要国の成牛1頭当たり平均枝肉重量

表18 主要国の成牛参考価格の推移


(4)肉牛・牛肉の価格動向

ア.枝肉卸売価格
 2006年の枝肉卸売価格は、牛肉の安定した供給に対し、輸出量が低下したことにより主要国では前年を下回った。

イ.小売価格
 2006年の小売価格は、イギリスでは牛肉の消費量が増加したのに対し、供給量が不足したことにより前年を上回った。


表19 牛枝肉卸売価格の推移

表20 牛肉小売価格の推移



(3)養豚・豚肉産業

 2006年のEUの豚肉生産量は、世界の豚肉生産量(約1億56万トン:FAO資料)の約20%を占めている。EUは豚肉自給率108.2%の純輸出地域である。特に、デンマークの輸出量はEU全体の輸出量の約3割を占め、米国の輸出量の約1.4倍に相当する。EUでは、加盟国間で差が大きいものの、食肉消費量に占める割合は豚肉が最も大きい。

(1)主な政策

ア.民間在庫補助
 域内の豚肉価格が下落した場合、特定の豚肉を一定期間在庫する者に対し補助金が交付される。

イ.輸出補助金
 EU産豚肉および加工品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。


(2)肉豚の生産動向

ア.養豚経営体数
 2005年の養豚経営体数は、2003年のEU25カ国ベースの参考データ(216万5千戸)に比べ13.3%減の187万8千戸で、減少が続いている。2005年のEU全農業経営体数(969万戸)に占める豚飼養経営体数の割合は19%である。国別では、ポーランド(70万2千戸)、ハンガリー(31万6千戸)、リトアニア(15万2千戸)、スペイン(11万6千戸)、イタリア(10万3千戸)が上位である。


表21 養豚経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移


イ.飼養頭数
 2006年12月現在の豚飼養頭数は1億5,369万9千頭で1.4%増加した。

 2005年の1戸当たりの飼養頭数は80.7頭と、2003年のEU25カ国ベースの1戸当たりの飼養頭数(70.2頭)と比較して10.5頭増となった。国別では、規模が大きいデンマークの1,515.6頭やオランダの1,167.8頭からリトアニアの7.3頭まで加盟国間で大きな差が見られる。新規加盟国では小規模の経営体が多く、飼養経営体数が多いポーランドは31.3頭となっている。

図10 国別豚飼養頭数(2006年12月)


(3)豚肉の需給動向

ア.と畜頭数と豚肉生産量
  2006年の豚と畜頭数は2億4,249万頭となり、豚肉生産量は2,136万3千トン(枝肉換算)となっている。

 2006年の1頭当たりの平均枝肉重量は、88.2キログラムであった。

イ.輸入および輸出
 2006年のEU域外からの豚肉(生体豚、調製品を含む)の輸入量は2万トンとなった。

 一方、2006年のEU域外への輸出量(生体豚、調製品を含む)は、159万1千トンとなった。

ウ.消費
 2006年の消費量は、1,979万3千トンであった。また、1人当たりの豚肉消費量は、42.9キログラムであった。

表23 主要国の豚1頭当たり平均枝肉重量

表22 豚肉需給の推移(枝肉換算)
図11 豚肉の輸出相手国(2006年)


(4)肥育豚、豚肉の価格動向

ア.豚肉の市場参考価格
 豚枝肉市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における豚枝肉の加重平均価格をベースとして算出される。

 2000年末に発生したBSE問題の再燃により参考価格は上昇したものの、その沈静化により下落に転じた。この下落は、2003年に下げ止まり、2004年には、日本の米国産牛肉輸入停止による代替需要での、EU産豚肉の需要の増加、ドイツでの供給不足、年初の価格の低迷に対する民間在庫補助や輸出補助金の導入などにより上昇した。2006年の参考価格は、100キログラム当たり145.37ユーロと前年比4.5%高となった。


表24 主要国の豚枝肉参考価格の推移

イ.小売価格
 2006年の豚肉の小売価格は、卸売価格の上昇に伴い上昇した。


表25 豚肉小売価格の推移




EUで高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)を確認

 2006年2月13日、アジア諸国などで猛威を振るっていた高病原性のH5N1型鳥インフルエンザウイルスに感染した野鳥がギリシャ、イタリアで確認され、同型のウイルスがEU域内で確認された初めてのケースとなった。それ以降、スロベニア、オーストリア、ドイツ、ハンガリー、フランス、スロバキアで相次いで同様の事例が確認された。

 また、フランスでは、同国中東部の家きん農場で同型の高病原性鳥インフルエンザウイルス感染が確認され、EU域内で同型のウイルスによる家きんへの感染が確認された初めての事例となった。


新たな鳥インフルエンザ対策の適用

 フードチェーン・家畜衛生常設委員会は同年2月16日、欧州委員会による高病原性鳥インフルエンザ対策の提案を承認した。

 承認された鳥インフルエンザ対策は、野鳥において感染を確認した場合の対策と、さらに家きんにおいて感染を確認した場合の二つの対策からなる。これまでの理事会指令92/40/EECおよび2005/94/EECは、家きんでの感染を想定して講じるべき対策などを規定したものであり、野鳥での感染を想定したものとはなっていなかった。このため、各加盟国において野鳥および家きんの両方の感染に関する対策を理事会指令に加えて対応できるよう提案したものである。


・野鳥において感染を確認した場合の対策

 これまでは、同疾病の拡大を防ぐため、防疫措置を加盟国ごとに決定し順次適用していたが、相次ぐ感染の確認から、国境を越えて移動する野鳥から家きんへの感染を防ぐにはEU全体での対応が必要となっていた。このため、欧州委員会は同年2月17日、この承認を受けて、加盟国ごとに規定していた委員会決定を廃止し、高病原性鳥インフルエンザの発生国が即座に適用する委員会決定2006/115/ECを新たに施行した。本決定では、加盟国で取り組む防疫措置に加え、発生国においては、欧州委員会やほかの加盟国に対し必要な情報を定期的に報告することなどが規定されている。


・家きんにおいて感染を確認した場合の対策


 これまでの理事会指令では、家きんにおいて高病原性鳥インフルエンザの感染が確認または疑われる場合には、野鳥での感染で設定された場合と同様の防疫区域および監視区域を設定するとともに、感染が確認された農場や感染が疑われる周辺農場の家きんの処分などが規定されていたが、今回の対策では、この二つの区域設定に加え、さらに広範な二つのリスク管理のための地域設定が盛り込まれている。まず、A地域として監視区域を取り囲む地域、そしてその周辺に感染が確認されていない地域との緩衝地域となるB地域を設定するとしている。なお、これらの地域には具体的な設定距離に関する規定はなく、例えばA地域を関連する県や郡全域と設定すれば、B地域をA地域を除く国内全域や周辺国とすることを想定している。追加されたこの二つのリスク地域においては、厳しい管理下のものを除き、生きた家きんなどの区域外への移動の禁止や、それぞれの地域の家きん産品を移動する場合に流通や販売の過程において区別して管理するなどとした。本対策は同年2月22日付け委員会決定2006/135/ECに規定された。



英国産牛肉の域内流通が10年ぶりに再開

 欧州委員会は、英国産の生体牛および牛から生産されるすべての製品に対する輸出の制限措置を廃止する委員会規則を2006年5月2日から施行した。これを受けて、英国の国内規則が翌5月3日に施行され、この結果、同日から英国産牛肉などのEU域内への輸出が再開された。これまでも、一定の条件を満たした牛肉などの輸出は可能であったが、96年8月1日以降に生まれた牛から生産された牛肉であり、と畜月齢が6カ月齢から30カ月齢で、9カ月齢以上の場合は除骨されていることなどの非常に厳しい条件を満たしたものに限定されており、その制限がなくなるという点で、96年3月以来、10年ぶりの本格的な輸出再開となった。

 2005年11月の30カ月齢を超える(OTM)牛の食肉流通の開始、2006年1月の96年8月1日以前に生まれた牛を対象とした新たな老齢牛対策(OCDS)の開始、牛肉などの本格的な輸出再開と、英国産牛肉をめぐる制度変更が次々と行われた。

 乳雄子牛は子牛肉(veal)の生産に適しているものの、英国では歴史的にこれを食する習慣がほとんどないため、輸出が禁止されていた間は、生後まもなく処分していた。この生体牛の輸出再開により、これらを生産用素牛として輸出することが可能となり、この結果、2006年の5〜12月の生体牛の輸出頭数は19,172頭となった。また、2006年(1〜12月)の牛肉輸出量は41,241トンと前年の約3.5倍となった。



北緯50度以北でブルータングの感染を初めて確認

 2006年8月18日、オランダ南部でブルータングに感染した羊が発見された。同疾病は、吸血昆虫が媒介するウイルスが反すう動物に感染することにより起こる疾病で、牛やヤギでは症状が現れない場合が多いが、羊では、発熱、舌・口腔のチアノーゼ、死流産などの症状が現れ、死に至る場合もある。なお、本疾病はヒトには感染せず、また、肉や牛乳などの畜産物により感染が拡大することはない。

 これまで、EUでは、イタリアやスペインなどの比較的緯度の低い国でその発生が確認されていたが、北緯50度以北での感染確認は初めてとなる。オランダ政府では、この感染確認について、ウイルスを媒介する吸血昆虫の生息域が最近の地球温暖化により北に移動してきた結果と見ている。

 この確認を受け、ブルータングのまん延防止・撲滅に関する理事会指令(2000/75/EC)に基づき、発生を確認した農場から半径20キロメートル以内を移動停止区域とし、すべての家畜の移動の禁止、すべての反すう動物の夜間の屋外飼育の禁止、感染拡大防止のための殺虫作業の実施などの措置を講じた。さらに同100キロメートル以内に防疫区域、同150キロメートル以内に監視区域を設定し、反すう動物や精液などの区域外への移動制限などを課した。

 今回、ブルータングが発生したオランダ南部の地区は、ベルギーおよびドイツ国境にかなり近く、2006年8月21日には、オランダの発生農場から半径50キロメートル以内に位置する、ベルギーの11農場の羊、ドイツの8農場の牛と1農場の羊で、相次いで感染が確認された。このため、両国政府は、オランダ政府と同様の防疫区域などの設定を行い感染拡大の防止に努めた。

 この結果、オランダおよびベルギーの大部分、ルクセンブルクの全域、ドイツの西部地域が監視区域となり、自国内のと畜場に直接出荷する場合を除き、区域外への反すう動物などの移動は、ウイルスの撲滅および疾病の沈静化まで制限されることとなった。