海外編 |
■■■ IV 東南アジア ■■■ |
表1 主要経済指標 |
表2 アセアン諸国の主要穀物及び畜産物生産量
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3. 畜産の動向 |
東南アジア諸国では、一般に牛乳・乳製品は、伝統的食文化としての位置付けが低く、また、気候条件が酪農にあまり適していないことや良質な飼料を得にくいことなどもあり、酪農・乳業は欧米諸国に比べて盛んではなかった。従来から、乳製品の主体は全粉乳などの粉乳類か、缶入り加糖れん乳であったが、冷蔵施設の普及や経済発展に伴い、特に都市部およびその周辺では飲用乳製品の需要も高まりつつある。 |
2006年の乳牛の飼養頭数は、インドネシア、フィリピンでは増加し、マレーシア(2005年、半島部のみ)、タイでは減少した。 |
表3 乳用牛の飼養頭数と生乳生産動向 |
表4 牛乳・乳製品の需給 |
生乳換算で見た場合、牛乳・乳製品の輸入量が国内消費量に占める割合は、最も低いタイでも約84%を占めている。東南アジアにおける輸入乳製品の中心となるのは粉乳であり、そのまま小分けして販売されるほか、LL牛乳や缶入り加糖れん乳なども、全粉乳や脱脂粉乳から還元製造されるものが多い。 |
アセアン諸国では、2003年から2004年にかけて鳥インフルエンザ(AI)の発生が確認された。このため、鶏肉需要の一部は他の食肉へ代替がみられたとしている。ただし、牛肉需要についてみると、1人当たり消費量は横ばいないし微減で推移しており、AI発生による鶏肉需要からの代替はみられなかった。アセアン諸国では、牛肉消費については、各国における食習慣や経済状況の影響が大きいものと考えられる。 |
牛(肉用牛・乳用牛含む)の飼養頭数は、アセアン諸国の中ではミャンマーの飼養頭数が最も多く、次いでインドネシア、ベトナムの順になっている。アセアン先進4カ国の肉牛の飼養頭数では、インドネシアの飼養頭数が最大で、タイ、フィリピン、マレーシアの順になっている。 |
図1 牛・水牛の飼養頭数の推移 |
表5 肉牛の飼養頭数と牛肉生産動向 |
インドネシアにおける牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉、水牛肉合わせて前年比7%増の2.5キログラムとなった。同国における牛肉消費量は、ジャカルタなど一部地域に集中しており、また、食肉全体の消費についても民族・宗教によって慣習が異なることなどから消費動向における地域差が大きいとされている。 |
図2 牛肉・水牛肉の生産量の推移 |
表6 牛肉の需給 |
タイにおける牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉が約1.8キログラム、水牛肉が約0.4キログラムの合計2.2キログラムとなり、前年比11%増となった。牛肉の輸入量は約4千トンとなっており前年よりは増加しているものの消費量に占める割合は少なく、輸入先はその大部分が豪州とNZとなっている。 |
アセアン諸国では、インドネシアをはじめ宗教上の理由から豚肉を消費しないイスラム教徒の人口が多い。このため、国によって食肉における豚肉の重要度には大きな格差があり、国の政策上の位置付けもさまざまである。しかし、イスラム教徒の多い国においても、中国系住民などの豚肉需要をまったく無視することはできず、種々の規制は設けながらも養豚を許容している。 |
図3 豚の飼養頭数の推移 |
表7 養豚の現状と豚肉生産動向 |
東南アジアで豚の飼養頭数が最も多いのはベトナムで、2005年の飼養頭数は2,743万4千頭となっている。2006年については、同年1月以降に発生した口蹄疫の影響により前年比2%減の2,685万5千頭となっているものの、フィリピンの約2倍の飼養規模となっており東南アジアでは最多である。同国では、畜産振興計画を策定し、豚などの増頭に取り組んでいる。しかし、飼料の約6割を輸入に依存しているほか、口蹄疫などが継続して発生していることもあり、飼料の増産のほか家畜衛生対策の強化が必要となっている。 |
2006年のインドネシアの豚肉生産量は、前年比13%増の19万6千トン、フィリピンは同4%増の146万7千トン、タイは同13%増の45万1千トンとなった。また、2005年のマレーシアの豚肉生産量は、同1%増の20万6千トンとなった。 |
図4 豚肉の生産量の推移 |
表8 豚肉の需給 |
(4)養鶏・鶏肉産業 |
東南アジアでは、ブロイラーの飼養が盛んであるが、在来鶏や採卵鶏、アヒルなどの家きんの飼養も盛んに行われている。ブロイラーや在来鶏、採卵鶏など鶏の飼養羽数は、インドネシアが最も多く、タイ、マレーシアの順となっている。2006年におけるインドネシアの鶏飼養羽数は11億8千8百万羽で、このうちブロイラーの飼養割合は67%、在来鶏は24%となっている。タイの鶏飼養羽数は1億8千4百万羽で、ブロイラーの飼養割合が55%、在来鶏が29%となっている。フィリピンの鶏飼養羽数は1億3千4百万羽であるが、このうち57%を在来鶏が占めており、ブロイラーの飼養割合は27%となっている。また、アヒルについては、ベトナムが最も多く6千4百万羽、インドネシアが3千3百万羽、タイが2千百万羽の順となっている。 |
図5 ブロイラーの飼養羽数の推移
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表9 鶏の飼養状況と鶏卵・肉の生産動向
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鶏肉消費に関しては宗教上の制約が少なく、庭先での飼養による環境保全的機能も果たすため、東南アジアでは最も身近で重要な食肉となっている。 |
図6 ブロイラー肉の生産量の推移
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表10 ブロイラー肉の需給
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東南アジアでは、2003年から2004年にかけて、インドネシア、カンボジア、タイ、ベトナム、マレーシアおよびラオスの各国で高病原性鳥インフルエンザ(AI)の発生が確認され、2005年にも、タイ、ベトナム、インドネシアでAIが発生した。その後、AIの発生については、継続して発生が確認されているインドネシアを除きいったんは沈静化したものの、2006年2月のマレーシアを皮切りに、7月にはタイとラオス、8月にはカンボジアとベトナムでそれぞれ発生が確認された。また、同年3月にはミャンマーでもAIの発生が初めて確認されたため、東南アジアにおけるAI未発生国はブルネイとシンガポールのみとなった。なお、フィリピンについては、2005年7月にアヒルで弱毒性のAIウイルスの検出が報告されているが、鶏での発生は確認されていない。各国政府の対応は、殺処分を中心とした対策を推進しているが、インドネシアについては殺処分とワクチン接種を併用する対策がとられている。同国では財源不足により、家きんを殺処分した際の補償金額が少ないため、ワクチン接種による疾病抑制が必要としている。また、同国が広大な領土を有することや、多民族国家で多数の言語が使用されている点も、AIの知識を普及する際の阻害要因であるとしている。 |
タイ農業協同組合省は2006年8月上旬、これまで、順調な需要の伸びとともに年々生乳生産が増加してきたが、原油価格の高騰に伴う生乳生産コストの上昇により、既に全酪農家の15%に相当する3千戸の酪農家が乳牛の飼養を中止したと発表した。原油価格の上昇は、特に飼料価格の上昇と輸送費の増加を招いており、現行の販売基準価格である1キログラム当たり12.5バーツでは生産コストを賄えない酪農家が経営をあきらめたとしている。当時は、畜産開発局は、酪農をやめた農家の乳牛はほかの酪農家へ売り渡されるのが一般的で、酪農家の減少そのものが乳牛の減少や生乳生産の減少に直接にはつながらないとしていた。 |