海外編 |
■■■ VI 中国 ■■■ |
1. 一般経済の概況 |
中国の経済は、96年から2000年までのデフレ時代を経て、昨今の経済成長率は9〜11%という水準を維持している。その要因としては、工業生産の拡大、海外からの投資拡大や国民生活水準の向上による消費の伸びなどが挙げられる。2006年の経済成長率は、前年に引き続いて中国政府が「科学的な発展観」に基づき投資と消費の関係を合理的に調整するとした、いわゆるマクロコントロール政策による景気の引き締めなどがあったものの、投資や貿易などに支えられ、前年を1.2ポイント上回る11.6%と4年連続で10%以上の高い伸びを示した。2006年の都市部登録失業率は、国有企業改革の影響などで上昇を続けた2003年までに比べ、好調な経済と雇用創出により、前年を0.1ポイント下回る4.1%となった。 |
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2006年の消費者物価上昇率は、住宅、自動車、通信関連などの需要がおう盛であったものの、過熱投資に基づく供給過剰により、工業品を中心に価格が下落したことなどから、前年を0.3ポイント下回る1.5%となった。 |
表1 主要経済指標 |
2. 農・畜産業の概況 |
中国は、日本の約26倍に当たる960万平方キロメートルの国土を有しており、そのうち2006年の耕地面積は前年比0.25%減の1億2,178万ヘクタール(中国国土資源部「2006年中国国土資源公報」による)であった。 |
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農林牧漁業の総産出額および部門別の生産額の推移を見ると、総産出額は85年から95年の10年間で大幅な増加を見たが、95年以降は緩やかな増加で推移している。 |
表2 耕地面積と農業労働力の推移
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3. 畜産の動向 |
中国の酪農は、古くは中国北部や西部居住の少数民族地域の遊牧民が、黄牛(東南アジアから中国北部にまで分布する黄褐色の牛の総称)やヤクの乳を利用して乳製品に加工する自給自足型の農業であったが、改革開放政策が実施された以降、急速に発展している。また、経済発展に伴う生活水準の向上による都市部を中心とした食生活の西洋化や、中央・地方政府などによる栄養価値に関する普及啓もうなどもあり、牛乳の消費も拡大している。国連食糧農業機関(FAO)によると、2006年の中国の生乳生産量(牛のみ)は3,224万9千トンで世界第3位(全世界のシェア5.9%)となっているものの、生産拡大に向けた乳牛の改良や飼養管理、衛生管理、飼料確保、酪農家の集約化に加え、コールドチェーンほか流通体制の整備など、今後に向けての課題も多い。 |
イ.生乳生産量 |
表4 牛乳需給の推移
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ウ.地域別生産動向 |
図2 1人当たり牛乳・乳製品の消費量の推移 |
表5 1人当たり牛乳・乳製品の消費量の推移 |
イ.乳製品需給 |
表6 全粉乳需給の推移
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表7 脱脂粉乳需給の推移
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中国の肉牛生産の歴史は新しく、90年代に入りそれまでの役畜の飼養から本格的な牛肉生産への取り組みが始められた。FAOによると、2006年の中国の牛肉生産量は717万3千トンで、米国(1,191万トン)、ブラジル(777万4千トン)に次ぐ世界第3位であり、そのシェアは、全世界の11.8%を占めている。しかし、北京、四川、上海、広東の4大系統の中国料理において、その食材として牛肉が利用されることはあまりなく、肉類の消費の中で牛肉は比較的低い水準にあった。また、従前は牛肉のほとんどが役用老廃牛由来のものであったが、近年の肉牛改良に伴う肉質向上や所得向上により、生産、消費とも増加している。しかし、牛肉の消費量は、世界的に見ると依然として低い水準にある。 |
2006年の牛飼養頭数(乳牛を除き、水牛を含む)は、酪農・乳業の好調な発展を反映し、牛全体に占める乳牛の割合が増加したことなどから、1億2,581万頭と前年を2.8%下回った。牛のうち1億頭弱が黄牛(水牛およびヤクを除く在来種)と呼ばれる役肉兼用型で、全国の約4分の3を占めている。純粋種が少なく交雑種がほとんどであるため、改良面での制約が大きく、枝肉重量も小さいのが現状である。USDAによると、2006年の平均枝肉重量は134.4キログラムであった。黄牛のうち秦川牛、南陽牛、魯西牛、晋南牛が代表的な肉用品種とされており、これらは、主に中央平原地帯で飼養されている。 |
図3 肉牛飼養頭数と牛肉生産量の推移
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表8 肉用牛飼養頭数の推移
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豚肉は、食肉全体の消費量の3分の2を占めており、歴史的にも最も好まれている食肉である。FAOによると、2006年の中国の豚肉生産量は5,292万7千トンと世界第1位であり、そのシェアは、全世界の約半分を占めている。しかし、年間と畜頭数と飼養頭数との比は1.38で、欧米諸国では1.5以上となっているのに対し、近年その生産性は向上しているものの、依然として欧米水準には達していない。また、国民の赤肉志向と生活水準の向上に伴い、脂肪の多い中国在来種と赤肉の多い外来種との交雑による肉質改善が取り組まれている。 |
2006年の豚飼養頭数は、前半の豚肉価格下落により損失を恐れた養豚農家が、母豚のと畜や子豚の安売りをしたことや、夏場を中心に多発した高病原性豚繁殖・呼吸器障害症候群(PRRS)の影響などから、4億9,441万頭と前年を1.8%下回った。中国では、従来から農家の副業として2〜5頭程度の豚を飼養し、有機肥料としてのたい肥利用が行われている。近年は大規模な専業経営の養豚農場も都市近郊を中心に増加しているものの、このような副業経営が出荷頭数に占めるシェアは4分の3と、依然として豚肉生産において重要な地位を占めている。 |
図4 豚飼養頭数と豚肉生産量の推移 |
表11 豚飼養頭数の推移
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鶏肉輸出は、2001年後半以降、家畜衛生や飼養管理という困難な問題に直面している。すなわち、鳥インフルエンザ、ニューカッスル病など家きん感染症の発生に加え、抗生物質の残留問題などにより、EUや日本などにおいて中国産鶏肉などの輸入一時停止措置が講じられた。このため、鶏肉輸出量は2002年以降減少を続けたが、2005年は上半期を中心に香港などへの輸出が回復基調となって増加に転じた。 |
2006年の鶏肉の生体卸売価格は、2005年下半期の鳥インフルエンザ発生の影響などで上半期は下落を続けたが、堅調な鶏肉需要などに支えられ、5月になって底上げし、12月には年内最高を記録したものの、通年では前年比9.3%安の1キログラム当たり8.62元となった。また、2006年の鶏肉(丸どり)卸売価格は、同様に3.2%安の同8.35元となった。 |
表16 鶏肉価格の推移
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図5 鶏肉需給と卸売価格の推移 |
三農問題解決を社会の共通任務に位置付け 注)「規画」とは、中国語で総合的ガイドラインを示す言葉である。中国政府は、「国民経済・社会発展第10次5カ年計画(2001〜2005)」など、これまで「計画」という指令的な言葉を用いていたものについて、市場主義経済の導入などとも相まって、計画よりも数量化指標が減らされ、戦略的な方針や任務、対策など、よりマクロ的な政策に重点が置かれた「規画」という語を用いるようになってきている。 また、11次農業規画では、国民経済の発展と適切な経済状態にある社会の構築、そして農業・農村経済の発展に資するため、@食糧ほか農産物の効率的な供給の確保、A農業収益の向上と農民の持続的な増収の確保、B農村社会の調和のとれた発展の確保を「三大基本任務」と定め、その達成に向け努力する必要があるとしている。 食糧生産能力は5億トン、生乳生産量は5割増を目指す 11次農業規画では、自然・資源条件、産業基盤、発展潜在能力に基づき、全国の農業地域を、@優位開発区、A重点開発区およびB適度開発区の3タイプに大別している。畜産業に関する開発区別の指針については、以下の通りである。 1.優位開発区 酪農業、肉用牛産業、肉用綿・山羊産業、養豚業などの産業帯建設を推進し、継続的な畜産業の構造改革に努め、家きん生産の安定と酪農・乳業の強力な発展を図り、優良品種の導入などに加え、集約化や産業化、専業化のレベルを上昇させ、畜産物の品質と市場競争力を向上させる。 2.重点開発区 南部の中山間地の草資源の開発利用によって草地畜産を強力に推進し、畜産物の生産能力を増強する。 3.適度開発区 草原の保全と草地開発を強化し、禁牧・休牧および輪牧制度を効率的かつ積極的に活用するとともに、家畜・家きん群の構造の最適化や飼養方法の改善などにより資源の節約を図り、環境保全型の畜産業を発展させ、無公害・エコロジー・有機農法による畜産物生産を増強する。 一方、11次農業規画では、前期計画の最終年である2005年をベースとし、11次農業規画の最終年である2010年における主要指標=発展目標が定められている。これによると、食糧作付面積は年平均0.18%減の1億3百万ヘクタール、食糧総合生産能力は同0.65%増の5億トンを目指し、この二つの目標については、必ず達成しなければならない拘束性の指標とされ、単位面積当たりの収量増加を義務付けている。 このほか、食肉生産量の目標については年平均1.64%増の8千4百万トン、家きん卵生産量については同0.82%増の3千万トン、生乳生産量(牛、水牛、山羊などの乳を含むと思われる)については、同8.0%増の4千2百万トンとされ、中でも生乳生産量に関しては、2005年の2千9百万トンに比べ約1.5倍の成長が期待されており、優位開発区において酪農・乳業の強力な発展を図るとした中国政府の意気込みが感じられる。 |
2008年5月出版の中国国家統計局編「中国統計摘要2008」によると、「2006年の(農林畜水産業関係の)データについては、第二次全国農業センサス(2006年12月末現在)の結果に基づき調整が行われた」ことにより、同局編「中国統計年鑑2007」までに掲載されている2006年の関係データが大幅に修正された。 |