海外編 |
EUは2007年1月1日に、新たにブルガリア、ルーマニアの2カ国が加盟し、27カ国へと拡大した。これにより、人口4億9,501万人、実質国内総生産(GDP)12兆3,551億ユーロの国家連合となった。 EU経済は、2006年以降回復傾向にあったが、金融市場の混乱や、一時産品価格の上昇に伴う商品価格の急騰などにより回復のペースが鈍り、2007年の欧州連合(EU27カ国)のGDPの成長率は前年(3.1%)を下回る2.9%となった。 2007年のEUの失業率は、引き続き雇用創出が続いていることから、7.1%と前年より1.0ポイント改善された。 なお、99年1月より導入された単一通貨ユーロは、2007年時点では、EU27カ国のうち13カ国で流通している。2007年のユーロの対円為替相場は1ユーロ=161.25円で、日本との金利格差などを背景に、ユーロ導入後の2000年時点の1ユーロ=99.47円より大幅な円安傾向で推移している。 |
表1 主要経済指標
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欧州連合の加盟国等(2007年12月時点)
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EUは、加盟国全体で1億8,226万ヘクタール(2007年)の農用地面積を有し、農業経営体数は1,447万9千戸(2005年)、1戸当たりの農用地面積は、11.9ヘクタール(2005年)である。 2007年におけるGDPのうち、農業生産の占める割合は、1.2%と前年と同じとなった。また、同年の(以下同じ)労働人口に占める農業従事者の割合は5.6%であり、ほかの先進国と同様に、その割合は高くない。農業生産額は3,558億1千万ユーロとなり、前年を8.9%上回った。このうちの約41%に相当する1,415億5千万ユーロを畜産が占めており、EU農業の主要部門となっている。畜産の内訳を見ると、生乳が486億4千ユーロ(農業全体の約14%)、牛肉・子牛肉が293億4千万ユーロ(同約8%)、豚肉が298億5千万ユーロ(同約9%)、卵・家きんが232億6千万ユーロ(同約7%)である。 |
図1 農業生産額に占める畜産のシェア(2007年)
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図2 畜産生産額に占める畜種別のシェア(2007年)
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表2 主要農業経済指標
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2007年のEU農業を概観すると、春の熱波や夏の西ヨーロッパを中心とした多雨による、穀物生産の滅産が挙げられる。 2007年の農業経済を部門別に見ると、畜産部門では、生乳、家きん肉および鶏卵の価格が上昇したが、牛肉、豚肉の価格が下落した結果、生産者価格は前年比0.5%安となった。しかし、牛肉、豚肉および家きん肉の生産量が前年を上回ったことや、生乳、家きん肉および鶏卵の価格の上昇率が大きかったことから、生産額は前年比0.6%増となった。また、耕種作物部門においては、生産量は前年を1.7%下回ったが、供給不足やバイオ燃料原料などの需要増により価格が高騰したことから生産額は前年比7.8%増となった。 農業者1人当たりの農業所得(実質)は、2007年1月に新たに加盟したルーマニア(前年比16.7%減)、ブルガリア(同8.5%減)を含む8カ国が前年を下回ったものの、リトアニア(同39.3%増)、エストニア(同22.5%増)、チェコ(20.9%増)、スウェーデン(同16.5%増)は前年を大幅に上回り、ほかの加盟国も前年をかなりの程度上回ったことから、EU27カ国全体では前年を5.4%上回ることとなった。 |
表3 酪農経営体数、乳用経産牛飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移
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イ.飼養頭数 2007年の1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は10頭で、2005年のEU27カ国ベースの参考データの9頭から増加した。最も飼養規模の大きいデンマークが102頭であるのに対し、2007年に加盟したブルガリア、ルーニアはそれぞれ3頭、2頭となり、加盟国間で差が大きい。 |
図3 酪農経営体数(2007年)および乳用経産牛飼養頭数(2007年12月)
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ウ.経産牛1頭当たり乳量 エ.生乳生産量 EUでは、CAPによるクオータ制度により安定的に推移していた生乳生産量が、2003年にクオータ(108万9,324トン)を超過したため、2004年はこれらの国において生乳の生産を削減した結果前年を下回り、2005年、2006年はほぼ前年並みとなった。2007年の生乳生産量も、前年比0.3%増の1億4,858万トンとほぼ前年並みとなった。国別では、ドイツ、フランスで2千万トン以上、英国、ポーランド、オランダ、イタリアで1千万トンを超えており、これらの合計はEU全体の生産量の約7割を占める。 |
図4 生乳生産量(2007年)および経産牛1頭当たり乳量(2007年)
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ア.飲用乳 2007年の飲用乳生産量(販売量)は3,373万トンとなり、国別の1人当たりの飲用乳(乳飲料、ヨーグルトなどを含む)消費量は、スウェーデンの141.4キログラムからブルガリアの21.8キログラムまで、加盟国間でかなりの差がある。近年の飲用乳消費は、全脂肪乳の割合が3割に減少する一方、低脂肪乳の割合が増加する傾向となっている。また、発酵乳などの消費は引き続き増加している。 |
表4 1人当たり飲用乳消費量の推移
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表5 バター需給の推移
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イ.バター 2007年のバター生産量は、世界の主要生産国の生産量(約742万トン:USDA資料)の約3割を占める。EUはインドに次ぐ世界第2位のバター生産地域である。 2007年のバター生産量(バターオイルを含む)は、206万5千トンで前年を1.1%上回った。これは、乳製品の好調な国際需要を受け在庫の減少が顕著だったため、チーズに仕向けられる生乳の一部が脱脂粉乳/バターに仕向けられたことによるものである。 2007年のEU域外への輸出量は、21万1千トンであった。主な輸出先は、ロシアやエジプト、日本などである。一方、域外からの輸入量は8万5千トンであった。 1人当たりのバター消費量は、消費者の嗜好の変化により90年代から減少傾向で推移しており、2007年は前年比4.8%減の4.0キログラムとなった。国別では、フランス(7.9キログラム)、ドイツ(6.4キログラム)での消費が多いが、マーガリンやデイリースプレッドの消費が多いデンマーク(1.7キログラム)などの北欧の国や、オリーブ油など植物油脂の消費が多いイタリア(2.2キログラム)など南欧の国では少ない。 |
図5 バターの国別生産量(2007年)
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表6 1人当たりバター消費量の推移
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ウ.脱脂粉乳 2007年の生産量(バターミルクパウダーなどを含む)は109万トンで、前年を5.2%上回った。これは、乳製品の好調な国際需要により需給がひっ迫したことから、チーズに仕向けられる生乳の一部が脱脂粉乳/バターに仕向けられたことによるものである。 2007年のEU域外への輸出量は、19万6千トンとなった。主な輸出先は、アルジェリアやナイジェリアなどのアフリカや、インドネシアやタイなどの東南アジアなどである。 世界的に需要が好調に推移したことから2007年期末在庫量は前年に引き続きゼロとなった。 |
表7 脱脂粉乳需給の推移
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図6 脱脂粉乳の国別生産量(2007年)
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エ.チーズ チーズ生産量は、2001年には、BSE問題の再燃による代替需要に対する生産の拡大により大きな伸びを見せ、その後引き続き増加傾向で推移し、2007年も堅調な域内需要に加え、世界的な需要増加により前年比3.3%増の897万8千トンとなった。このうち主に牛乳を原料として乳業工場で製造されるものは821万7千トンとなっている。 |
表8 チーズ需給の推移
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図7 チーズの国別生産量(2007年)
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2007年のEU域外への輸出量は59万4千トンであった。世界的に好調な需要を受けて、着実に増加している。主な輸出先はロシア(15万7千トン)、米国(11万9千トン)、日本(4万5千トン)である。 一方、EU域外からの輸入量は、9万4千トンであった。主な輸入先は、スイス(4万4千トン)、ニュージーランド(2万8千トン)、豪州(1万1千トン)である。 2007年のチーズ消費量は872万3千トンで、1人当たりの消費量は17.7キログラムであった。国別に見ると、加盟国間でかなりの差があり、ギリシャ(29.2キログラム)、フランス(24.3キログラム)、ドイツ(22.2キログラム)などで多く、アイルランド(6.1キログラム)、スペイン(7.3キログラム)などで少なくなっている。 図8 チーズの輸出先国(2007年)
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表9 1人当たりチーズ消費量の推移
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ア.生乳生産者価格 |
表10 生乳生産者価格
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チーズ消費の多い欧州では種類も豊富にある
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イ.牛乳小売価格 |
表11 ドイツにおける牛乳小売価格の推移
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ウ.バター卸売価格 |
表12 主要国のバター卸売価格
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エ.脱脂粉乳卸売価格 |
表13 主要国の脱脂粉乳卸売価格
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オ.チーズ卸売価格 |
表14 主要国のチーズ卸売価格
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表15 牛(乳牛を含む)飼養経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移
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イ.飼養頭数 2007年の1戸当たりの飼養頭数は26.7頭で、2005年のEU27カ国ベースの参考データと比較して1.7頭増加している。1戸当たりの飼養頭数の多い国は、ルクセンブルク(129.7頭)、オランダ(106.7頭)、チェコ(101.6頭)、デンマーク(100.3頭)の順となっている。一方、飼養頭数の少ない国では、リトアニアの5.9頭、ポーランドの8.2頭となっており、加盟国間で差が大きい。 |
図9 国別牛飼養頭数(2007年12月)
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図10 国別タイプ別牛飼養割合
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ア.牛と畜頭数および牛肉生産量 また、2007年の牛肉生産量は824万5千トン(枝肉換算)となった。 1頭当たりの平均枝肉重量は、成牛で320.8キログラム、子牛は143.6キログラムであった。 |
表16 牛肉需給の推移(枝肉換算)
ベルギー南部のオーガニック用肉牛(リムジン種)の放牧風景
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表17 成牛1頭当たり平均枝肉重量
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イ.輸入および輸出 輸出については、従来からアフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。しかし、2001年秋以降のBSE問題の再燃や2002年2月の口蹄疫(FMD)の発生により、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が講じられている一方、域内の牛肉生産量が減少したことから、2007年のEU域外への輸出量は11万3千トン(枝肉換算)と大きく減少している。 ウ.消費 1人当たりの牛肉消費量も同様に2001年は落ち込んだが、2003年には2001年レベルから1.9キログラム増加し、20.2キログラムと回復している。しかし、2004年に新たに加盟した国での牛肉消費量は多くなかったことから、2004年のEU25カ国の1人当たりの消費量(18.0キログラム)と2003年のEU15カ国(20.2キログラム)と比べて減少し、それ以降ほぼ横ばいとなった、これはEU27カ国になっても大きな変動はなく、2007年の1人当たりの牛肉消費量は17.6キログラムとなっている。 エ.介入在庫 |
イ.飼養頭数 2007年の1戸当たりの飼養頭数は45.5頭と、2005年のEU27カ国ベースの1戸当たりの飼養頭数(40.5頭)と比較して5.0頭増となった。国別では、規模が大きいアイルランドの2,007.0頭やデンマークの1,903.4頭からルーマニアの3.9頭まで加盟国間で大きな差が見られる。また、新規加盟国では小規模の経営体が多い。 |
イベリコ豚の放牧風景(スペイン)牛と一緒の放牧は珍しい風景だ
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表20 養豚経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移
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図11 国別豚飼養頭数(2007年12月)
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ア.と畜頭数と豚肉生産量 2007年の1頭当たりの平均枝肉重量は88.6キログラムであった。 イ.輸入および輸出 一方、2007年のEU域外への輸出量(生体豚、調製品を含む)は、138万4千トンとなった。主な輸出先は、ロシア(63万7千トン)、香港(24万トン)、日本(23万2千トン)などである。 ウ.消費 |
表22 豚1頭当たり平均枝肉重量
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表21 豚肉需給の推移(枝肉換算)
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ア.豚肉の市場参考価格 |
図12 豚肉の輸出相手国(2007年)
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表23 豚枝肉参考価格の推移
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表24 豚肉小売価格の推移
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2000年末に発生したBSE問題の再燃により参考価格は上昇したものの、その沈静化により下落に転じた。この下落は、2003年に下げ止まり、2004年には、日本の米国産牛肉輸入停止による代替需要でのEU産豚肉の需要の増加、ドイツでの供給不足、年初の価格の低迷に対する民間在庫補助や輸出補助金の導入などにより上昇した。2007年の参考価格は、新規加盟国の価格高により100キログラム当たり153.24ユーロとなったが、主要生産国の生産量の増加に伴う供給量の超過や、ユーロ高による輸出経費の増加により輸出量が減少したことから、ほとんど国で前年を下回っている。 イ.小売価格 |
日本でも人気のあるイベリコ生ハムの製造風景
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