海外編

 III オセアニア[豪州] 


1. 一般経済の動向

 豪州経済は、90年代に入り個人消費や住宅建設の増加などの内需の拡大を背景に、実質国内総生産額(GDP)の成長率は比較的高い水準で推移したが、2000年7月の物品サービス税(GST)導入の影響により、シドニーオリンピック終了後の2000年末、一時的にマイナス成長となった。しかし、個人消費や住宅建設などの内需回復、また、鉄鋼石、石炭などの第一次産品を中心とした輸出の増加も手伝って経済は回復に向かい、その後は順調に推移してきた。2007/08年度(7月〜6月)の実質GDP成長率は、前年度から0.4ポイント上昇の3.7%と安定した成長を持続している。また、GDPも1兆83億9千万豪ドルと前年度を上回った。

表1 主要経済指標

 2007/08年度の平均失業率は、安定した経済状況を反映し、前年度から0.5ポイント改善して4.0%と過去最低水準となった。平均失業率は、1994/95年度以降、1ケタ台を維持している。

 一方、貿易収支については、主要通貨に対して豪ドル高で推移する為替動向や旺盛な国内需要などにより、2007/08年度は215億8百万豪ドルの損失を計上し、6年連続での記録的な赤字となった。

 なお、日本は、輸出入を合わせた貿易総額で最大の貿易相手国であったが、2007/08年度はその地位を中国に譲り、第2位となった。


2. 農・畜産業の概況

 豪州の農業(林業、水産業を除く)は、GDPで全体の約2.1%(2007/08年度)、就業人口で全体の約3.4%(林業、水産業を含む)と、産業全体に占める割合は必ずしも高くない。しかし、2007/08年度の全商業輸出額に占める農産物の割合は16.3%と鉱物資源(62.8%)に次いで高く、輸出産業の中で重要な位置を占めている。

 豪州では、国土面積(約7億7千万ヘクタール)の54%に相当する約4億2千万ヘクタールが農業可能地であるが、そのうち94%は牛や羊の放牧に利用可能な自然草地および採草地であり、穀物や野菜などが栽培される耕地面積は、約2,400万ヘクタールにすぎない。豪州の農場数は、2004/05年度まで多少の増減はあるものの、減少傾向で推移してきた。しかし、2005/06年度は増加し、15万4千戸、2007/08年度(2008年6月末現在)は、約14万戸となっている。

表2 農場数などの推移

 一方、経営面では、肉牛、羊、酪農などの専業経営のみならず穀物などとの兼業も多いことから、農業従事者全体の約8割が何らかの形で畜産経営に携わっているとみられている。

 近年、増加傾向にあった農業粗生産額は、2002/03年度および2006/07年度の干ばつの際、大きな落ち込みをみせた。2007/08年度は畜産物および作物の両生産において前年度を上回ったため、前年度比15.5%増の約414億9千万豪ドルとなった。内訳を見ると、畜産物粗生産額が同8.4%増の197億8千万豪ドル、穀物など畜産以外の農産物の粗生産額は同22.9%増の217億6百万豪ドルとなっている。

 なお、畜産物粗生産額のうち、肉牛・牛肉(生体輸出を含む)は約75億9千万豪ドル(5.0%減)、前年度は干ばつの影響で生産額が減少した牛乳・乳製品は、高水準の生産者乳価を反映して、約45億8千万豪ドル(44.0%増)となった。

 2007/08年度の農産物総輸出額(FOB)は、前年度比0.9%減の約275億3千万豪ドルと、全体としては大きな変化は見られなかった。

 このうち、畜産物輸出額は、同2.1%減の約145億豪ドルとなった。内訳は、肉牛・牛肉が約46億豪ドル(8.5%減)、羊・羊肉が約15億豪ドル(2.5%増)、羊毛が約28億豪ドル(8.8%減)、牛乳・乳製品が約28億豪ドル(13.3%増)となり、牛乳・乳製品の輸出が堅調であった。

 2007/08年度の畜産物輸出額は、好調な輸出を背景に、農産物総輸出額全体の52.7%と、前年度に続き、過半数を上回る結果となっている。


図1 農業粗生産額(2007/08年度)
図2 農産物総輸出額(2007/08年度)

3. 畜産の動向

(1) 酪農・乳業
 豪州の酪農は、放牧を主体とする経営が大部分であり、気象条件に恵まれ、牧草生育に有利なビクトリア州を中心に行われてきた。しかし、近年では、そういった地域においても、度重なる干ばつを経て、穀物や乾草などの購入飼料の利用が必須となっている。

 生産される生乳の約8割が加工向けであり、さらに、製造される乳製品の約6割が輸出向けという輸出依存型産業である。

 従って、生乳生産量は気象条件や牧草の生育状況などによって大きく変動するとともに、酪農経営は乳製品の国際市況および為替変動の影響を受けやすいという特徴を有している。


(1) 主要な政策

 豪州では、かつて、加工原料乳に対する価格補てん政策(連邦制度)と飲用向け生乳に対する最低価格保証政策(各州の制度)を実施していたが、2000年7月1日に両制度がともに撤廃となり、生乳の販売・流通は完全に自由化された。このほか、2003年7月には酪農団体の再編が行われ、豪州酪農庁(ADC)とほかの研究機関が統合し新たにデイリー・オーストラリア(DA)が発足し、販売促進や研究開発、マーケット情報提供などを一括して行っている。

 なお、これらの事業財源の多くは、生乳の販売時に課される生産者課徴金(強制徴収)によるものである。


(2) 生乳の生産動向

 乳用経産牛の飼養頭数は、1957年の345万1千頭をピークに減少を続けてきたが、92年以降、好調な酪農市況を反映して増加に転じ、その後はおおむね増加基調で推移していた。しかし、2002/03年度の干ばつで飼養環境の悪化が進んだことから、減少に転じている。さらに、2006/07年度から2007/08年度にかけて度重なる干ばつに見舞われ、2008年6月末の乳用経産牛飼養頭数は、干ばつ発生前の2006年6月時点と比べ9.6%減の170万頭となった。また、同時点の酪農家戸数も、同10.1%減の7,953戸となった。一方、1戸当たりの経産牛飼養頭数は214頭と規模拡大が進んでいる。


表3 乳牛飼養頭数などの推移
図3 酪農家戸数と乳牛飼養規模の推移

 生乳生産量は、90年代に入りガット・ウルグアイラウンド合意に伴う乳製品輸出拡大への期待を背景に、増加傾向で推移してきた。

 2007/08年度の生乳生産量は、干ばつの影響から、2005/06年度と比べ8.6%減の922万3千キロリットルと減少した。

 豪州では、放牧に適した乳牛へと品種改良が進められたこともあり、日本や米国などと比較して経産牛1頭当たり乳量はそれほど多くない。しかし、近年は、遺伝的改良や飼養管理技術の向上などにより着実に増加し、2007/08年度の経産牛1頭当たり乳量は、過去最高の5,704リットルとなった。

豪州主要酪農地帯であるビクトリア州での搾乳風景

 生乳生産量に占める加工向けのシェアは、乳製品輸出の拡大に伴って徐々に上昇する傾向にあった。しかし、2007/08年度は、生乳生産量が3年連続して減少したことや国内の飲用乳需要が回復傾向にあることなどから、干ばつ前の2005/06年度と比べ、3.4ポイント減の76.1%となった。生乳生産量を州別に見ると、ビクトリア州が全体の66%を占めて他州を大きく引き離しており、豪州最大の酪農地域であることを示している。

 一方、飲用乳の処理量は、シドニーなど大消費地を擁するニューサウスウェールズ州が最も多く、ビクトリア州、クイーンズランド州と続いている。

 このように、生乳生産に占める飲用向けの割合が州によって大きく異なっているため、飲用向け割合が高い地域とそれ以外の地域とでは、乳業メーカーごとの平均生産者乳価にも差が生じている。


図4 生乳生産量と乳牛1頭当たり乳量の推移
図5 州別生乳生産量(2007/08年度)

(3) 牛乳・乳製品の需給動向

 主要乳製品の生産量は、乳製品の国際需要の拡大を反映して増加傾向にあったが、2002/03年度の干ばつの影響により減少に転じた。2007/08年度の生産量も干ばつの影響により、干ばつ前の2005/06年度と比べ、全体として下回った。品目別に見るとチーズが3.7%減の35万9千トン、脱脂粉乳が20.0%減の16万4千トン、全粉乳が10.3%減の14万2千トン、バター(バターオイルを含む)が12.5%減の12万8千トンとなった。また、チーズ生産の減少に伴い、ホエイパウダーの生産も減少した。

表4 牛乳・乳製品生産量の推移

 2007/08年度の主要乳製品の輸出量は、国際的な乳製品需要は多かったものの、前年度に続き生乳生産量が減少したことなどから、全品目において前年度の輸出量を下回った。中でもバター(バターオイルを含む)は、前年度比29.4%減と大きく減少した。

 2007/08年度の乳製品生産量に占める輸出量の割合は、全粉乳が88.1%、脱脂粉乳が72.9%、チーズが56.5%、バター(バターオイルを含む)が44.8%と、バターを除き、輸出量は生産量の過半を占めており、輸出依存度が高いことが読み取れる。

 乳製品の輸出先は、日本、東南アジアを含めたアジア地域向けの割合が高く、輸出額ベースで全体の68.5%と、圧倒的なシェアを占めた。

 特に粉乳類は、還元乳などの需要が多い東南アジア地域向けの輸出割合が高く、脱脂粉乳、全粉乳ともに輸出量全体の7〜8割がアジア地域向けに輸出されている。


表5 主要乳製品輸出量の推移
図6 地域別乳製品輸出額(2007/08年度)

 飲用乳の1人当たり消費量は、ほかの先進国と同様に飲用乳以外のさまざまな飲料が市場に投下されたことで、90年代中ごろから減少傾向で推移してきた。しかし、カフェ文化の浸透などに伴い飲用乳の間接消費が増えた結果、2003/04年度以降増加傾向で推移し、2007/08年度は104リットルとなった。また、近年、ヨーグルトの消費の伸びが目立っており、7キログラムとなっている。一方、チーズの1人当たり消費量は、ここ数年、伸び悩んでおり、12キログラムとなっている。

近年消費が伸びているヨーグルト(大手スーパーのヨーグルト売り場)
表6 1人当たり乳製品消費量の推移

(4) 乳価の動向

 生産者乳価は、1999/2000年度まで飲用乳価と加工原料乳価の差が2倍以上に拡大していたが、2000年6月末をもって飲用向け生乳に対する最低価格保証制度が廃止となり、それ以降、飲用向けの乳価は大きく低下した。しかし、2007/08年度の平均乳価は、国際的な乳製品価格の高騰を反映して、1リットル当たり49.6豪セントと、過去最高となった。


表7 生産者乳価の推移

(2) 肉牛・牛肉産業

 豪州の肉牛生産は、酪農生産と同様、牧草(放牧)に依存した生産構造となっており、また、牛肉生産量の6割以上を輸出に向ける輸出依存型産業となっている。

 肉牛は、乳牛に比べると粗放的な飼養管理が可能であり、また、利用可能な草地の範囲が広いことに加え、熱帯・乾燥地域などの自然条件が厳しい地域でも、これに適応する品種を選択的に導入することによって飼養が可能となることから、内陸部の極端な乾燥地帯を除き、ほぼ豪州全土でさまざまな品種による生産が行われている。


(1) 主要な政策

 肉牛や牛肉の需給を管理する制度・政策は特になく、生産者は国内外の市場動向を勘案しつつ経営を行っている。また、豪州家畜検疫検査局(AQIS)などの政府機関が防疫政策を、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)などの業界団体が販売促進、研究開発、市場情報の提供などを行っているが、これらの事業財源の多くは、生体の取引(販売)時に課される生産者課徴金(強制徴収)によるものである。

放牧風景

(2) 牛の飼養動向

 豪州における牛飼養頭数(乳牛を含む)の推移を中・長期的に見ると、1960年代後半から70年代半ばにかけて、世界的な牛肉需要の増大を背景に急速に増加し、76年には過去最高の3,343万頭を記録した。その後、第二次オイルショック(79年)などによる世界的な牛肉需要の減退や肉牛経営の悪化、大干ばつの発生(82年)などによりと畜頭数が急増し、84年には2,216万頭とピーク時である76年の飼養頭数に比べ約3分の2まで減少したが、それ以降は緩やかな増加に転じた。

 96年以降は、干ばつなどの影響による増減はみられたものの、全体として2,600〜2,700万頭台でほぼ安定的な推移となった。しかし、2002/03年度の干ばつの影響で頭数は再び落ち込みをみせた。その後の飼養頭数の回復により、05〜07年は、2,800万頭台で推移したが、2008年6月末の牛飼養頭数は、2年連続の干ばつの影響で減少し、2,780万頭となった。

図7 牛飼養頭数の長期的推移

表8 牛飼養頭数の推移

 肉用牛の飼養頭数を州別に見ると、クイーンズランド州(シェア47.5%)、ニューサウスウエールズ州(同21.8%)、ビクトリア州(同9.2%)の東部3州で全体の8割近くを占めている。また、近年は東南アジア向け生体牛輸出の拡大を背景に、クイーンズランド州北部や北部準州(同7.2%)の伸びが著しい。

図8 州別肉牛飼養頭数(2008年6月末現在)

(3) 牛肉の需給動向

 2007/08年度の牛と畜頭数(子牛を含む)は、前年度に続き干ばつの影響はあったものの、年度後半にはまとまった降雨があり、出荷頭数が減少したことから、前年度比3.1%減の879万6千頭となった。

 枝肉生産量についても、と畜頭数の減少により、前年度比3.2%減の215万4千トンとなった。

 また、牛肉の輸出量は、牛肉生産が減少したこと、主要輸出先である日本、韓国および米国において、他国産牛肉との競合および主要通貨に対する豪ドル高の影響などから、前年度比4.8%減の98万トン(船積み重量ベース)となった。

 2007/08年度の国別輸出量(船積み重量ベース)は、日本向けが、前年度比9%減の37万8千トン(シェア38.6%)、米国向けが、同20%減の24万7千トン(シェア25.1%)、韓国向けは、同7%減の16万2千トン(シェア16.5%)と軒並み減少した。日本向けについては、シェアは低下したものの、豪州にとって引き続き最大の輸出先となっている。

表9 牛肉需給の推移

表10 牛肉の国別輸出量の推移(船積み重量ベース)

 生体牛の輸出については、90年代中頃からインドネシア、フィリピンなど東南アジア向けの肥育素牛を中心に急増した。生体牛の輸出は、97年のアジア経済危機の影響により一時的に減少したものの、その後の順調な経済復興や中東諸国など新規市場の開拓もあって、再び増加基調に転じ、2002/03年度には、100万頭を超え史上最高となった。その後、輸出総頭数は、連続して減少していたが、2007/08年度は、2年連続して最大の相手国であるインドネシア向けが同国の経済成長などにより増加したことから、前年度比13.9%増の77万頭となった。


表11 生体牛の国別輸出頭数の推移
フィードロット農場

 2007/08年度の1人当たり牛肉消費量は、35.6キログラムとなった。近年、牛肉、羊肉の消費が伸び悩んでいる中、鶏肉の消費は、健康志向や低価格を反映して伸びている。食肉の中では鶏肉(39.2キログラム)の消費量が最も多く、次いで牛肉、豚肉(26.2キログラム)、羊肉(14.1キログラム)の順となっている。

表12 1人当り食肉消費量の推移

(4) 肉牛価格の動向

 肉牛の販売価格は、96〜97年にかけて、英国などにおけるBSE報道やアジア経済危機などによる世界的な牛肉需要減退の影響を受けて低迷した。その後は需要が回復した反面、供給がタイトであったことから、肉牛販売価格は回復基調に転じ、2001年9月には、過去最高水準の高値となった。

 2005年は、干ばつ(2002/03年度)の影響が緩和してきたことから肉牛生産者の出荷抑制傾向が見られた中で、豪州産牛肉に対する需要が引き続き旺盛であったことから、肉牛価格は上昇基調で推移し、再び最高水準に達した。2007年は、大干ばつの影響で早期出荷が進み肉牛価格が下落した前年に比べ、牛肉生産量は減少したものの、海外からの需要の低下を受けて、さらに下落した。

表13 肉牛価格の推移(枝肉換算)

家畜市場での肉牛取引(NSW州)