海外編 |
東南アジア諸国連合(アセアン)加盟国の2007年の経済は、タイやミャンマーの政局の混乱などの影響があったものの、おおむね堅調に推移した。加盟国の実質国内総生産(GDP)の伸びは、おおむね前年と同程度か、前年を上回った。また、2007年11月にシンガポールで開催された第13回アセアン首脳会議において、民主主義の強化や人権監視機関の創設、地域統合の推進などを盛り込んだアセアン憲章が採択された。引き続きアセアン10カ国、日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド(NZ)の計16カ国により開催された第3回東アジア首脳会議では、気候変動、エネルギー、環境問題について討議された。 2005年4月に交渉が開始された日・アセアン包括的経済連携協定は、2007年11月に交渉が妥結、2008年4月に署名が完了し、12月に日本とシンガポール、ラオス、ベトナムおよびミャンマーとの間で発効した。その後2009年1月にブルネイ、2月にマレーシア、6月にタイとの間で発効している。 ブルネイでは、原油、石油製品および液化天然ガスなどが輸出総額の9割を占めるという天然資源への過度の依存からの脱却を目指して、経済の多角化を図るため、国家開発五カ年計画が進められている。2006年6月に交渉が開始され、同年12月に大筋合意に達した日本との経済連携協定(EPA)は、2007年6月に署名され、2008年7月に発効した。2007年の実質GDP成長率は前年の4.4%から0.6%に低下した。 カンボジアでは、フン・セン政権が2004年7月の成立以降、「四辺形戦略」と呼ばれる戦略に基づいた国家開発を行っている。これは、中心部に「グッド・ガバナンス(汚職追放、司法改革、行政改革、国軍改革)」を掲げて最優先課題とし、四辺に(1)農業セクターの強化、(2)インフラ復興と建設、(3)民間セクター開発と雇用創出、(4)人材開発などを掲げて優先課題を明確にした国家戦略である。安定した政権運営を反映し、2007年の実質GDP成長率は前年の10.8%を下回るものの、10.2%と二ケタ成長を維持した。 インドネシアでは、2006年5月に起こったジャワ島中部地震や石油燃料補助金の削減および金利引き上げの影響により、同年前半は消費が低迷したが、物価の安定、政策金利の段階的引き下げや好調な輸出により、同年後半には消費も徐々に回復した。2007年も、政策金利の引き下げや好調な民間消費、輸出に支えられ、実質GDP成長率は前年の5.5%から6.3%に上昇した。2005年7月から交渉が開始され、2006年11月に大筋合意に至った日本とのEPAについては、2007年8月に署名され、2008年7月に発効した。一方、2005年7月に鳥インフルエンザ感染による初のヒト死亡例が確認されて以来、国内でのヒトの死亡例は継続して発生している。アチェでは特別自治のための特別法の制定や首長選挙の実施といった進展があったものの、パプアでの分離独立運動や中部スラウェシなどでのテロによる不安定な情勢は継続している。 ラオスは、人民革命党が引き続き一党独裁下での市場経済化路線を推進している。2006年12月には、メコン川流域開発計画の中心プロジェクトの一つ、ベトナムとミャンマーを結ぶ「東西経済回廊」上のラオス―タイ間の第2メコン国際架橋(第2友好橋)が完成し、2007年には、ラオスを通過する貿易は増加したものの、これは主にタイ―ベトナム間の経済取引によるものであり、ラオスへの波及効果は限定的であった。2007年の実質GDP成長率は7.5%と、前年の8.3%を下回った。 マレーシアは、2006年に国会に上程された、2020年までの先進国入りと2010年までの年平均6.0%のGDP成長率を目標とする第9次マレーシア計画に基づく地域開発プロジェクトが本格的に始動したこともあり、2007年の実質GDP成長率は6.3%と、前年の5.9%を上回った。 ミャンマーは、1988年9月にクーデターで誕生した軍事政権が、2003年5月に非暴力民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー女史を再度自宅軟禁下に置いた状況が継続している。また、2007年9月には大規模なデモが発生し、多数の死傷者が生じた。これに伴い、米国やEUの対ミャンマー制裁措置が強化された。2007年の実質GDP成長率は不明だが、2006年の推定値は12.7%と、2005年の13.6%を下回った。 フィリピンは、2005年6月に浮上したアロヨ大統領の選挙不正疑惑により辞任要求運動が発生した。その後も大統領の支持率は低い水準で推移している。2007年5月の中間選挙では、下院は与党が優勢を維持したものの、上院では野党優位に逆転した。2006年9月に署名された日本とのEPAは、上院の審議が長引いたことから、2007年には発効しなかったものの、2008年12月に発効した。サービス産業や農業の好調もあり、実質GDP成長率は7.2%と、前年の5.4%を上回った。 シンガポールは、2006年5月の総選挙での与党の圧勝を受け、引き続き安定した内政状況を反映した結果、2007年の実質GDP成長率は、前年の8.2%には及ばなかったものの、7.7%となった。2002年11月に発効した日本とのEPAについては、2007年1月に改正議定書が大筋で合意、3月に署名され、9月に発効した。 タイは、2006年9月に発生した軍部クーデターの結果、同年10月にスラユット暫定政権が誕生した。スラユット暫定政権は民政移管を確約し、2007年8月に国民投票により新憲法を成立させ、同年12月に下院議員選挙を行った。この下院選挙では、クーデターにより追放されたタクシン前政権派が第一党となった。また、スラユット暫定政権は、開かれた経済政策は不変であるとしたものの、前タクシン政権下での経済拡大路線を見直す姿勢を打ち出した。こうした政局不安もあり、2007年の実質GDP成長率は4.8%と、前年の5.1%を下回った。2005年9月に大筋合意された日本とのEPAについては、2007年4月に署名、同年11月に発効した。 ベトナムは、1986年から導入されたドイモイ(刷新)政策に基づき、社会主義市場経済を推進している。2006年4月の共産党大会でドイモイ政策20年が総括され、ドイモイ路線の継続、汚職追放への決意などが確認された。2007年5月に行われた国会議員選挙において、首脳陣はいずれも再選され、同年の国会でグエン・ミン・チェット国家主席、グエン・タン・ズン首相の再任が承認された。また、同年1月にWTOに正式に加盟した。日本とのEPAは、同年1月に正式交渉が開始、2008年12月に署名され、2009年10月に発効した。2007年の実質GDP成長率は8.5%と、前年の8.2%を上回った。 インドは、1947年の独立以来、輸入代替工業化政策を進めてきたが、1991年の外貨危機を契機として経済自由化路線に転換し、経済改革に取り組んできた。この結果、高い経済成長率を達成しており、2004年に発足したマンモハン・シン首相の政権下で、2005年度には9.4%、2006年度には9.6%と2年続けて9%台の実質GDP成長率を達成した。2007年度の実質GDP成長率は、鉱工業部門の低下の影響を受けて、8.7%と前年を下回ったが、シン政権では引き続き高い経済成長を目標に掲げており、2007年12月に発表された第11次5カ年計画では、目標経済成長率を9.0%に設定している。 |
表1 主要経済指標
|
アセアン10カ国のうち、シンガポールとブルネイは、GDPに占める農業の割合が1%以下と低い。一方、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンは、GDPに占める農業の割合が10%〜14%台となっている。ベトナムは20.3%となっているが、製造業の発展により、これらアセアン先進4カ国の状況に近づきつつある。先進4カ国にベトナムを加えた5カ国では、都市と農村の社会格差が顕著になる一方で、農村が失業者の緩衝機能を果たしているといわれている。 また、これら5カ国では、米などの主要作物の価格が政策的に低く抑えられているため、農業分野の生産額が高くならないという特徴も有している。上記以外の3カ国のGDPに占める農業の割合については、カンボジアが31.9%、ラオスが42.6%(2006年)、ミャンマーは48.4%(2004年)となっている。 政情不安が長引いたこれら3カ国では、ほかの産業の発展が遅れているため相対的に農業の比重が高いが、3カ国ともGDPに占める農業の割合が、程度の差はあるものの、政情の安定化や経済の発展に伴って低下傾向で推移している。 マレーシアは、油ヤシ、ゴムなど永年性作物の栽培が多く、油ヤシの下草などを利用した畜産物の生産拡大の可能性はあるものの、将来的に食用作物栽培が増え、飼料資源が拡大するとは考えにくい。一方、フィリピンは、トウモロコシ、米などの食用作物が中心となっている。アセアン諸国中、ベトナム、タイ、ミャンマーは米の輸出国である。 畜産物の生産量は、食習慣、宗教、農業の形態などを反映して、各国ごとに畜種の重要度が異なっているため、国ごとに大きな差がある。 インドは、GDPに占める農業の割合は17.6%に過ぎないが、非都市人口が人口の70.8%を占め、農業労働力人口が全労働力人口の約54%(2005年度)を占める農業大国である。 |
表2 アセアン諸国・インドの主要穀物および畜産物生産量
|
2007年の乳用牛の飼養頭数は、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア(2006年、半島部のみ)でともに増加した。 インドネシアの乳用牛飼養頭数はタイに次ぐ規模であり、2007年の飼養頭数は前年比1%増の37万4千頭となっている。同国における乳用牛は、ほとんどがジャカルタなど大消費地に隣接するジャワ島の冷涼な気候の山岳地域で飼養されている。同国では、政府が乳用牛増頭計画を掲げており、また豪州からの繁殖牛の輸入も行われているものの、遺伝的能力の高い繁殖牛の普及がまだ十分ではなく、零細な経営が多くを占めているという課題もある。同年の生乳生産量は、同8%減の約56万8千トンとなっている。 |
表3 乳用牛の飼養頭数と生乳生産動向
|
マレーシアの乳用牛は大半が半島部で飼養されており、2006年の乳用牛飼養頭数(半島部)は前年比10%増の約2万8千頭となっている。州別の飼養頭数の割合は、シンガポールに国境を接するジョホール州が約19%、首都クアラルンプール近郊のスランゴール州が約21%、北西部のペラク州が約13%となっている。また、同国の乳用牛は約79%がホルスタインとの交雑種であり、ほかはインド原産種となっている。同年の生乳生産量は、同11%増の4万4千トンとなっており、このうち約84%が半島部で生産されている。能力が低いインド原産種はおおむね減少傾向で推移しており、全体の飼養頭数が減少しているにもかかわらず生産量が増加している要因の1つと考えられる。同国は歴史的に天然ゴムや油ヤシのプランテーションのための土地開発が多く、反すう家畜のための飼料基盤の不足から政府の振興策ははかどっていない。 フィリピンの乳用牛飼養頭数は、前年比7%増の約1万2千頭と増加傾向で推移している。同国では、乳用水牛の飼養頭数が約1万4千頭と乳用牛の飼養頭数より多い。生乳生産量は、同5%増の1万3千トンで牛乳のほか水牛乳とヤギ乳も含まれる。生乳生産量に占める牛乳の割合は約6割で、残りの4割は水牛乳とヤギ乳となっている。同国の生乳換算による自給率は1%未満で、消費量のほぼ全量が輸入品および輸入品を原料とした加工品となっている。 タイの乳用牛飼養頭数は前年比19%増の約49万頭と大幅に増加した。飼養頭数は99年以降、2005年まで増加傾向で推移していたが、2006年は原油高などによる酪農家戸数の減少に伴って、大きく減少した。しかし、2007年は再び増加に転じている。同年の乳業工場における処理量(表4の国内生産量)は同12%減の68万4千トンで、このうちの約9割は飲用乳に加工され、残りはヨーグルトなどに加工されている。2001年より学校供給用牛乳への国産生乳の100%使用義務付など酪農振興施策を実施しているものの、前年における飼養頭数の減少の影響を受けて生乳生産量も減少したと考えられる。 ベトナムの乳用牛飼養頭数は前年比13%減の約9万9千頭となった。主な飼養地域は、南部ホーチミン周辺で全体の69%を占めている。また、生乳生産量は同9%増の23万4千トンとなっている。同国では2001年以降、豪州やオランダから乳用牛の雌子牛を導入すると同時にホルスタイン種などの精液を用いて在来種に人工授精を行い、交雑種作出を活発化するなど、酪農振興に取り組んでいる。 |
生乳換算で見た場合、牛乳・乳製品の輸入量が国内消費量に占める割合は、最も低い国がマレーシアで約25%、そのほかの国は8割以上を占めている。東南アジアにおける輸入乳製品の中心となるのは粉乳であり、そのまま小分けして販売されるほか、LL牛乳や缶入り加糖れん乳なども、全粉乳や脱脂粉乳から還元製造されるものが多い。 |
表4 牛乳・乳製品の需給動向
|
インドネシアにおける牛乳・乳製品の1人当たり消費量は、前年比6%増の11.1キログラムで、前年よりは増加しているものの消費量は少ない。 マレーシアの2006年における牛乳・乳製品の1人当たり消費量は、36.6キログラムで東南アジア最大となっている。また、地域別では半島部における消費量が多く、同45.5キログラムとなっている。同国は、牛乳・乳製品の輸出量が約3億8千万リットルとなっており国内生産量の約8倍となっているが、ほとんどが輸入原料から生産された調製品および加工食品に含まれる乳成分である。 フィリピンにおける牛乳・乳製品の1人当たり消費量は、前年比4%減の16.6キログラムとなった。同国の生乳換算による自給率は1%未満で、消費量のほぼ全量が輸入品および輸入品を原料とした加工品となっており、フレッシュ牛乳の飲用習慣は希薄とされている。同国における乳製品の主な輸入先はNZ、アメリカ、豪州となっており、この3カ国で全輸入量の約7割を占めている タイにおける牛乳・乳製品の1人当たりの消費量は、飲用牛乳が前年比8%減の17.5キログラム、乳製品が同4%増の15.1キログラムとなっており、学乳制度の導入や政府や民間企業による乳製品の消費拡大運動などにより、乳製品の消費量は増加傾向で推移している。また、牛乳・乳製品の輸出量は約46万トンとなっている。これは、豪州などから脱脂粉乳などの原料を輸入し、還元乳やれん乳などへ再加工の上、周辺国などへ輸出しているものである。 |
タイの気候風土に合わせて作出された交雑牛
「カンペンセン牛」 |
道端の空き地に放牧される在来牛(タイ) |
ベトナムの牛(乳用牛を含む)飼養頭数は前年比3%増の672万頭、水牛は同3%増の300万頭となっており、飼養頭数は増加傾向で推移している。水牛は1995年から2001年の間に一時頭数が減少したものの、2002年以降は微増傾向で推移している。従来、水牛肉は食用としては重要視されていなかったものの、今後はホーチミンやハノイなどの消費地への供給を目指すとしている。 |
図1 牛・水牛の飼養頭数の推移
|
表5 肉用牛の飼養頭数と牛肉生産動向
|
まだ役牛としても利用されるベトナムの水牛
|
インドネシアにおける牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉、水牛肉合わせて前年比53%増の0.6キログラムとなった。同国における牛肉消費量は、ジャカルタなど一部地域に集中しており、また、食肉全体の消費についても民族・宗教によって慣習が異なることなどから消費動向における地域差が大きいとされている。 マレーシアでは、牛肉消費量に占める輸入品の割合が高いのが特徴であり、国内消費量に占める輸入品の割合は約8割とアセアン先進4カ国中最大となっている。牛肉の1人当たり消費量についても地域差が大きく、2006年は半島部が6.3キログラムとアセアン諸国の中でも突出しているが、ボルネオ島のサバ州では2.1キログラム、サラワク州で3.1キログラムとなっている。 フィリピンにおける牛肉自給率は約7割で輸入の割合が約3割を占めている。同国の牛肉輸入量は、アセアン先進4カ国のうちマレーシアに次ぐ規模となっており、ブラジル、インド、豪州などからの輸入量が多い。2007年の牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉が2.3キログラム、水牛肉が1.8キログラムの合計4.1キログラムとなり前年を9%上回った。同国の水牛肉需要については安定的に推移している。牛肉需要については2000年の3.1キログラムをピークに、2001年以降は減少傾向で推移していたが、2007年は増加に転じている。 タイにおける牛肉および水牛肉の1人当たり消費量は、牛肉が2.2キログラム、水牛肉が0.3キログラムの合計2.5キログラムとなり、前年比11%増となった。牛肉の輸入量は6千トンとなっており前年よりは増加しているものの消費量に占める割合は少なく、輸入先はその大部分が豪州とNZとなっている。 |
図2 牛肉・水牛肉の生産量の推移 表6 牛肉の需給動向
|
アセアン諸国では、インドネシアをはじめ宗教上の理由から豚肉を消費しないイスラム教徒の人口が多い。このため、国によって食肉における豚肉の重要度には大きな格差があり、政策上の位置付けもさまざまである。しかし、イスラム教徒の多い国においても、中国系住民などの豚肉需要をまったく無視することはできず、種々の規制は設けながらも養豚を許容している。 |
図3 豚の飼養頭数の推移
|
表7 豚の飼養頭数と豚肉生産動向
|
東南アジアで豚の飼養頭数が最も多いのはベトナムで、2007年の飼養頭数は2,656万1千頭と、フィリピンの約2倍の飼養規模となっている。同国では、畜産振興計画を策定し、豚などの増頭に取り組んでいる。しかし、飼料の約6割を輸入に依存しているほか、口蹄疫や豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)などが継続して発生していることもあり、飼料の増産のほか家畜衛生対策の強化が必要となっている。 インドネシアでは97年以降、飼養頭数の減少が続き2000年には535万7千頭となった。しかし、98年後半にマレーシアの半島部諸州で豚のウイルス性脳炎が発生したため、シンガポールは同国からの生体豚と豚肉の輸入を全面的に禁止し、輸入先をインドネシアのリアウ州に切り替えた。この影響などにより、2001年以降の飼養頭数はおおむね増加傾向で推移した。2006年は同国内でアフリカ豚コレラが発生した影響もあり、飼養頭数は前年比9%減の621万8千頭となったが、2007年は同8%増の677万1千頭と増加した。 |
ウェットマーケットでかごに入れられて販売される豚(ラオス)
|
2006年のマレーシアの豚飼養頭数は、半島部で全体の約7割を占めている。主要生産地である半島部において、ウイルス性脳炎が98年から99年にかけて発生し、大量と畜や廃業などが発生したため、99年の飼養頭数は240万頭台から130万頭台まで減少した。その後、99年以降は飼養頭数が微増傾向となり、2001年以降は140万頭台で推移しており、2006年の飼養頭数は前年比1%減の151万4千頭となった。しかし、ボルネオ島部の飼養頭数が同6%増加したこともあり、マレーシア全体の飼養頭数は、同1%増の205万3千頭となった。 フィリピンは宗教的な制約が少ないこともあり、東南アジアではベトナムに次いで飼養頭数が多く、94年以降、増加傾向で推移しており、2007年は同3%増の1,345万9千頭となった。 タイは、ブロイラーに次ぐ輸出産業として養豚振興を推進しており、97年には飼養頭数が1,014万頭となりフィリピンを抜いたものの、98年以降は政策意図とは逆に、飼養頭数が増減を繰り返す状態が続いている。98年以降は、おおむね700万頭から800万頭台で推移しており、2005年は同30%増の817万5千頭となったが、2006年は同13%減の715万4千頭となり、2007年は同30%増の930万頭となった。 |
2007年のインドネシアの豚肉生産量は、前年比15%増の22万6千トン、フィリピンは同3%増の161万7千トン、タイは同14%増の51万6千トンとなった。また、2006年のマレーシアの豚肉生産量は、同1%減の21万7千トンとなった。 2007年のインドネシアの豚肉消費量は、同15%増の22万8千トン、フィリピンは同4%増の166万9千トン、タイは同14%増の52万1千トンとなった。また、2006年のマレーシアの豚肉消費量は、同1%減の22万4千トンとなった。このうち、半島部の消費量は18万2千トンとなっている。 アセアン諸国における豚肉の消費動向は宗教の影響を強く受けており、2007年の1人当たり豚肉消費量は、イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアが0.3キログラムと前年を下回ったのに対し、食肉に関する宗教的制約の少ないフィリピンでは18.6キログラム、同様にタイで8.3キログラムとなり、それぞれ前年より増加している。 一方、マレーシアでは、イスラム教を国教と位置付けているものの、伝統的に豚肉食を好む中国系住民(非ムスリム)などが4割程度存在していることから、1人当たり豚肉消費量は8.4キログラムとタイを上回っている。このうち、中国系住民などの非ムスリムにおける1人当たり豚肉消費量は21.0キログラムとなり、同国では鶏肉に次ぐ消費量となっている。 |
図4 豚肉の生産量の推移
|
表8 豚肉の需給動向
|
東南アジアでは、ブロイラーの飼養が盛んであるが、在来鶏や採卵鶏、アヒルなどの家きんの飼養も盛んに行われている。これら鶏の飼養羽数は、インドネシアが最も多く、タイ、マレーシアの順となっている。2007年におけるインドネシアの鶏飼養羽数は約12億7千5百万羽で、このうちブロイラーの飼養割合は約70%、在来鶏は約21%となっており、2006年がそれぞれ約67%、約24%だったのと比較して、ブロイラーの飼養割合が増加している。タイの鶏飼養羽数は約2億8千3百万羽で、ブロイラーの飼養割合が約60%、在来鶏が約22%と、やはり2006年の約55%、約29%と比較して、ブロイラーの飼養割合が増加している。フィリピンにおいては、鶏飼養羽数約1億3千6百万羽のうち約54%を在来鶏が占めており、ブロイラーの飼養割合は約28%と、在来鶏の方が割合が大きくなっているが、それでも2006年の約55%、約29%と比較して、ブロイラーの飼養割合がわずかではあるが増加している。また、アヒルについては、ベトナムが最も多く約6千8百万羽、インドネシアが約3千6百万羽、タイが約2千5百万羽の順となっている。 インドネシアのブロイラー飼養羽数は、2006年に前年比2%減の7億9千8百万羽となったが、2007年には同12%増の約8億9千2百万羽となった。2007年の生産量については、同9%増の94万3千トンとなった。同国のブロイラー飼養羽数は、2003年に同6%増の約9億2千百万羽となり、その後はAI発生の影響を受け大幅に減少しているものの、依然として東南アジア地域では最多となっている。また、採卵鶏の飼養羽数は同11%増の約1億1千百羽、鶏卵の生産は同16%増の94万4千トンとなった。AIの発生による影響はあるものの、同国における鶏卵・鶏肉の安価なタンパク源としての重要性は変わっていない。 マレーシアの2006年のブロイラー飼養羽数は、前年比3%増の約1億2千5百万羽となり、このうち半島部では約8割の約1億4百万羽が飼養されている。採卵鶏は前年同の約3千6百万羽となり、ブロイラーと同様に半島部で約9割の約3千2百万羽が飼養されている。ボルネオ島部のブロイラーと採卵鶏の飼養羽数は、サラワク州で残りの2割程度、サバ州ではわずかな飼養となっている。ブロイラーの生産量は同6%増の103万5千トン、鶏卵の生産量は同5%増の45万トンとなった。マレーシアでは、2007年6月にAIが発生したが、3回目の発生であり、対応が迅速であったことから、生産量への影響は少なかったと考えられる。 |
図5 ブロイラーの飼養羽数の推移
|
表9 鶏の飼養状況と鶏卵・肉の生産動向
|
フィリピンについては、2006年にブロイラーの主要産地であるルソン島が大型台風による被害を受けたこともあり、同国のブロイラー飼養羽数は前年比11%減の約3千6百万羽、採卵鶏の飼養羽数は同1%減の約2千百万羽となったが、2007年にはそれぞれ同7%増の約3千8百万羽、同9%増の約2千3百万羽となった。生産量については、ブロイラーが同1%増の66万2千トン、鶏卵も同1%増の33万5千トンとなった。 タイのブロイラーと採卵鶏の飼養羽数は、2004年1月に発生したAIの影響により、同年以降の飼養羽数は大きな増減を繰り返している。ブロイラーについては、2004年が前年比38%減の約1億3百万羽、2005年が同44%増の約1億4千8百万羽、2006年が同32%減の約1億羽、2007年が同70%増の約1億7千万羽となっている。採卵鶏については、2004年が同14%減の約2千百万羽、2005年が同98%増の約4千百万羽、2006年が同28%減の増の約3千万羽、2007年が同67%増の約4千9百万羽となった。また、生産量については、ブロイラーが同5%増の109万3千トン、鶏卵が同1%増の52万1千トンとなった。 |
鶏肉消費に関しては宗教上の制約が少なく、庭先での飼養による環境保全的機能も果たすため、東南アジアでは最も身近で重要な食肉となっている。 インドネシアにおけるブロイラーの飼養羽数はタイの約5倍であるにもかかわらず、ブロイラー肉の生産量はタイの約9割という状況となっている。この要因としては、インドネシアに限ったことではないが、ブロイラーを食鳥処理場で処理した場合には少額ながら課税や手数料徴収の対象になることやコールドチェーンが未発達であることなどにより、食鳥処理場以外で処理したり生きたまま販売したりするケースが多数を占めるため、かなりの生産量が統計で把握できないことが考えられる。従って、食鳥処理場以外での処理が簡単に行える鶏肉については、インテグレーターの市場占有度が高いタイを除き、統計上から需給動向を正確に把握することは困難である。 |
生きたまま販売される在来鶏(タイ)
|
また、インドネシアとフィリピンは、在来鶏の飼養羽数が多く、価格はブロイラーより高いものの、一般には在来鶏肉の方が好まれる傾向がある。このことも、需給動向を詳細に統計的に捉えることが困難である一因となっている。 2004年1月以降、タイ産鶏肉の主要輸出先である日本およびEU各国が、相次いで同国からの家きん肉などの輸入一時停止措置を実施した。その後、加熱処理された鶏肉調製品については、主要国に輸入再開を認められたものの、非加熱鶏肉の輸入停止措置は継続して行われている。そのため、同国の輸出は非加熱鶏肉から加熱処理された鶏肉調製品へとシフトしており、冷凍鶏肉の輸出量は2003年では37万1千トンであったが2007年には1万9千トンとなっている。鶏肉調製品の輸出量については、2003年の12万8千トンから2007年には27万8千トンへ増加している。 |
図6 ブロイラー肉の生産量の推移
|
表10 ブロイラー肉の需給動向
|
東南アジア各国には鶏卵を粉卵や液卵に加工する施設がほとんどないため、市場動向に応じて価格が乱高下しやすい傾向がある。また、価格の変動に伴って生産量を調整する需給安定システムがうまく機能していないため、頻繁に供給過剰の問題を抱えることとなる。2007年の1人1年当たりの鶏卵消費量は、インドネシアが6.1キログラム、フィリピンが3.5キログラム、タイが8.1キログラムとなっており、特にインドネシアの鶏卵消費量は前年比20%増加となっている。同国の鶏卵消費量が大幅に増加した理由として、AIなどの家畜の疾病などの影響により、消費者が鶏卵をタンパク源として選ぶ傾向にあることが指摘されている。また、2006年のマレーシアにおける1人1年当たりの鶏卵消費量は同3%増の15.5キログラムとなった。 |
東南アジアでは、タイとマレーシアを除き、鶏卵の輸出入の実績はほとんど無い。タイの鶏卵輸出量は、AIが発生した2004年は3千3百トンであったが、需給調整対策として輸出を奨励していることもあり、2005年には同101%増の6千6百トンとなり、2006年は同65%増の1万1千トン、2007年は同37%増の約1万5千トンと増加傾向で推移している。マレーシアの2007年鶏卵輸出量は、同16%減の約6万3千トンとなった。 |
表11 鶏卵の需給動向
|