米国では、でん粉製品を対象とした支援政策・制度はなく、価格は市場原理によって決定されている。輸出に際しての補助金なども存在しない。
しかし、間接的には、穀物(特にとうもろこし)、また、甘味料として競合する砂糖、原料面で競合するエタノール政策の影響を受ける。2008年6月に「2008年農業・保全・エネルギー法」(Food,Conservation,and Energy Act,以下「2008年農業法」という。)が制定されたところであるが、以下にとうもろこし、砂糖およびエタノールに関する政策の概要を述べる。
とうもろこし
でん粉の主原料となっているとうもろこしに関しては、主な支援政策として(1)過去の作付面積に基づいた農家への直接支払(単価は、ブッシェル当たり28セント)(2)市場価格が政府の定める目標価格(ブッシェル当たり2.63ドル)を下回った場合に差額を補てんする価格変動対応型支払(CCP:Counter−Cyclical Payment)(3)作物を担保にした短期融資による価格支持制度(融資単価は、ブッシェル当たり1.95ドル)がある。
このうち(2)の不足払いについては、オプションとして、州の収入を基準とした平均作物収入・選択支払(ACRE:Average Crop Revenue Election Payment)が導入されており、生産者は従来のCCPかACREを選択することができることとなっている。
これらの支援政策は、2008年農業法では従来から実施されていたものからの大きな変更はなく、それぞれ定められた単価についても据え置きとなった。08年に穀物価格が高騰して以降、とうもろこしの市場価格は目標価格を上回っており、不足払い制度の発動がない状況である。
砂糖
甘味料として競合関係にある砂糖に関する主な政策には、(1)短期融資による砂糖価格の支持制度(2)販売割当(Marketing Allotments)による生産・流通の管理(3)関税割当(TRQ)による輸入管理―がある。
従来から実施されてきたこれら政策に加えて、2008年農業法では 新たな市場調整メカニズムとして、(4)砂糖・エタノールプログラム(Sugar for Ethanol)が導入された。これは国内需要を上回る砂糖の輸入が生じた場合は、エタノール製造業者へ販売処理するというものである。
従来から砂糖価格は制度によって高い水準を維持しており、そのためにでん粉製品の一つである異性化糖には価格面で魅力があった。
エタノール
エタノールに関する主な政策には、以下の3つが挙げられる。
(1)再生可能燃料基準(RFS:Renewable Fuels Standard)
2007年エネルギー自立・安全保障法(EISA : Energy Independence and Security Act of 2007)によって、再生可能燃料の使用量は、2022年までに年間360億ガロン(1363億リットル)になるよう義務付けられている。
その内訳は、とうもろこしを原料とするバイオエタノールが150億ガロン(568億リットル)とし、残り210億ガロン(795億リットル)がセルロース系エタノールなど非従来型のバイオマス原料から生産される先進バイオ燃料(Advanced Biofuel)と設定されている。この先進バイオ燃料の設定量については、当初の設定が適切であったかどうか毎年環境保護庁(EPA)が決定できるようにはなっているものの、野心的なものである。
(2)税額控除
ガソリンに混合されたエタノール1ガロンにつき45セント(リットル当たり12セント)の税額が控除される。従来は同51セント(リットル当たり14セント)であったが、2008年農業法により減額となった。
(3)輸入税
2008年農業法の下、エタノールの輸入関税1ガロン当たり54セント(リットル当たり14セント)は、2010年末まで延長となった。(ただし、カリブ海地域開発計画(CBI)に基づく免税国を除く)
今後の見通し
2008年農業法のうち砂糖政策がでん粉産業に与えた影響はほとんどなかったと言える。エタノール政策についても現在のところ限定的な影響である。今後、でん粉業界への影響が大きいと考えられるのは、エタノールのガソリンへの混合率の引き上げである。
EPAは当初、現行の10%から15%への引き上げを求めるエネルギー団体の要請に対し、2009年12月1日までに回答するとしていたが、この決定は2010年6月中旬まで延期された。この決定内容いかんによってはエタノール仕向けとうもろこしの需要がさらに増加することも考えられ、その動向に注目が集まっている。