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固形製剤におけるでん粉の役割

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最終更新日:2010年11月4日

固形製剤におけるでん粉の役割

2010年11月

日本製薬工業協会 企画部長 草井 章

 でん粉は古くからくすり、特に経口投与用の代表といえる錠剤に対する添加剤の一つとして汎用されてきています。身近に存在していたこと、主食の主要構成成分の一つであることなどが理由であると思われますが、ここでは、でん粉がどのような特性によって、錠剤に使用されているか、また、医薬品製剤に使用されるにはどのような制約があるのか、錠剤はどのように製造されているか、でん粉の機能をさらに向上させるための工夫と、その結果どのような特性が賦与されたかなど、なるべくわかり易く書いてみました。
 
 なお、本文中で「でん粉」と「デンプン」が混在していますが、一般的に記載する場合は「でん粉」、特定の名称、例えばトウモロコシデンプンを記す場合は、後に述べます日本薬局方に記載されたている名称で記しますので「デンプン」を使用します。
 

錠剤の構成成分

 固形製剤の剤形には、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などがありますが、患者様や薬剤師らユーザー側の取り扱い性・服用性と、製薬企業など供給側の生産性の要求とが一致した錠剤が、固形剤の50%以上を占めています。
 
 くすりには、通常有効成分(くすりとしての作用を発現する物質)が含まれていますが、その構成成分について考えたことはあるでしょうか。患者様や薬剤師が取り扱いやすいサイズとするため、大体、直径を6〜9ミリメートルとしており、そのため質量(以前は重量と記載していましたが、最近、質量と記載することに変更とされました)が80〜300ミリグラムのものが多くなっています。
 
 このうち、有効成分の量は、くすりによって異なりますが、通常1〜150ミリグラム程度となっています。それでは、そのほかには、一体何が、どのような目的で加えられているのでしょうか。
 

医薬品添加剤とその役割

 くすりの有効成分以外は、一括して医薬品添加剤(用語解説1)とよばれています。錠剤の場合、その機能から、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、コーティング剤などが用いられます。
 
 賦形剤は、文字通り形を賦与するものであり、有効成分のみですと微量で取り扱いに困難なため、不活性成分を添加し希釈することにより、取り扱うことが容易な嵩(かさ)・質量にします。有効成分と反応せず、品質がいつも一定で、比較的安価で、入手性が安定していることが必要です。有効成分と混合したときに、どこを採っても有効成分が均一に分布している(混合均一性といいます)ことも重要です。でん粉、乳糖、結晶セルロースなどがその代表です。
 
 結合剤ですが、くすりの成分は基本的には粉末ですので、粒にしたり、固めたりする際に、粉末同士をくっつける必要があります。その作用をするものが結合剤で、のりのような作用をする成分といえます。でん粉を冷水に分散させ、加熱溶解したでん粉糊にはこの作用があることは、ご存知のとおりです。
 
 次に崩壊剤です。くすりが作用を発揮するためには、有効成分が体内の作用するところ(作用部位)に送り届けられる(送達される)必要があります。もちろん作用部位に送達するのは血液ですが、その血流に乗るためには、錠剤はコップ一杯(150〜200ミリリットル)の水または白湯で服用された後、胃内で崩れ(崩壊といいます)、次いで、胃内や消化管を移動中にその崩れた断片から有効成分が溶け出し(溶出といいます)、主として小腸上部から吸収され、その部位の毛細血管から血液に溶解した状態で血流とともに肝臓を経由し、全身静脈血流とともに心臓へ流入し、肺を経由したのち動脈血とともに全身に流れ、作用部位に届けられることが求められます。
 
 つまり、強固に固められた錠剤が、崩れ、有効成分が溶解することが必要であり、固めれらた錠剤が水分を吸収して崩れやすくする作用を有するものを崩壊剤といいます。当然ですが、水を吸って膨潤する性質のあるものが使用されます。でん粉や結晶セルロースもその作用を持っています。なお、消化管の中で溶解する際や、解毒作用を有する肝臓を通過する際には、有効成分が多少分解され活性を失うことがあり、服用した有効成分の全部が、作用部位に届けられるわけではありません。
(生物薬剤学では製剤に含まれている有効成分量に対する、全身血に取込まれた薬物量の割合を生物学的利用能Bioavailabilityという言葉で表しています)
 
 流動化剤ですが、これは読んで字のごとく、粉末の混合物が製剤加工する際に、機器などの中でスムーズに流れ、閉塞しないように粉末を滑りやすくし、混合された状態をそのまま維持する、つまり混合均一性を保持するために添加します。
 
 滑沢剤は、粉体を圧縮して錠剤に成形する際に、原材料が錠剤機の臼や杵へ付着することを防止する作用があるものです。
 コーティング剤は、苦味をマスクしたり、外気や湿気から内部を保護したり、体内での崩壊・溶出の調節(胃内で崩壊しないように腸でのみ溶解する皮膜を用いる、あるいは徐々に有効成分を放出するように工夫するなど)したり、他の錠剤と区別し易く(色や印字により識別性を賦与)したり、錠剤の外観を美しくしたりするために使用されています。
 
 
 
 

でん粉 〜古くて新しい添加剤〜

 さて、でん粉は既に記したような理由、目的で、くすりに使用されていますが、どのようなでん粉でも使用可能なのでしょうか。
 
 日本薬局方(用語解説2)に収載されている、使用可能なでん粉は、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプンです。このうち汎用されているのはトウモロコシデンプンです。なお汎用されている理由は定かではありませんが、海外で錠剤に使用されていたことが背景にあるように思われます。「第十五改正日本薬局方」に、これらでん粉の規格が定められています。例えば、汎用されているトウモロコシデンプンには性状、確認試験、pH、純度試験、乾燥減量、強熱残分が定められており、貯法(保存方法)も密閉容器と定められています。
 
 
 
 
 汎用される添加剤については三極(欧州、米国、日本)で、順次局方の調和(用語解説3)作業も進行しており、トウモロコシデンプンについては性状と貯法以外は既に調和しています。医薬品添加剤として使用するには、使用前例があること、つまり、投与経路(経口、注射、外用など)ごとに、既に承認を受けたくすりで使用されている量を上回らないことが必要とされています。製剤設計担当者が常に考慮すべきことの一つが、この使用前例の有無と最大1日投与量です。
 
 でん粉の使用前例について見てみると、「医薬品添加物辞典2007」(日本医薬品添加剤協会編集、薬事日報社発行)には、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプンの経口における1日最大投与量はそれぞれ19グラム、31.5グラム、2グラム、2.5グラムと記されています。
 
 

錠剤の製造方法

 錠剤は、有効成分(混合均一性を確保するため粉砕機で粒を細かく砕くなどの処理を施します)と賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などの原料をV型混合機などで混合し、調製した混合末を、錠剤機でそのまま打錠する直接打錠法と、混合した原料を粒(顆粒と呼びます)に加工してから錠剤機で打錠する方法があります。
 
 直接打錠法は工程が簡単ですが、混合物の流動性が悪い(特に有効成分の粉末特性が悪い場合)と錠剤質量にばらつきが多くなり、個々の錠剤の含量のばらつきが大きくなり、含量均一性が悪くなります。
 
 これを防止するため、圧縮成形する前に、顆粒を調製します。顆粒の製造時にロールグラニュレーターなどにより乾燥状態のまま圧縮し粉砕する乾式造粒法、混合末をでん粉糊などの結合剤溶液で湿らし、高速攪拌造粒機で攪拌し流動層乾燥機で乾燥する攪拌造粒法や、流動層造粒機で粉末を流動状態にしておき、でん粉糊などの結合剤を噴霧しながら乾燥し顆粒を調製する流動層造粒法などの湿式造粒法があります。
 
 錠剤機で圧縮成形後、素錠のまま製品とするか、必要に応じて糖衣やフィルムコートを施します。最後に、瓶やPTP(用語解説4)に包装し、製品とします。もちろん、各工程間で、原料受け入れ試験(確認試験、含量、水分、粒度試験など)、工程管理試験(粒度、水分、重量偏差試験、硬度、摩損度、崩壊試験など)、さらに製品試験(確認試験、含量、含量均一性、水分、溶出試験など)を実施することにより、製品の品質確保に努め、最終的に出荷判定されます。
 
 一般的な錠剤の製造工程の概略を示しました。これらの詳細については、薬学部の授業で使用されている薬剤学、製剤学の教科書からその概要、「医薬品の開発 11. 製剤の単位操作と機械」(仲井由宣編集、廣川書店発行)、あるいは製剤機器企業のホームページをご覧戴くと詳細に示されていますので、関心のある方はご覧下さい。
 
 
 
 

新しいでん粉 〜機能性の付与〜

 製剤の機能性を高めるために、添加剤には色々と工夫されたものがあります。でん粉についても前述のとおり、定められた規格に適合するものを、そのまま医薬品添加物として使用されていますが、さらに、物理的、化学的加工により一層その機能性を高めたものがあります。これらを一覧表にまとめたのでご覧下さい。
 
 今後、でん粉を加工することにより、今までにない新たな機能性を有する医薬品添加剤が生まれてくることが期待されます。
 
 
 
 
 
 
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