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でん粉の冷凍食品用途における最近の動向

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最終更新日:2010年12月3日

でん粉の冷凍食品用途における最近の動向

2010年12月

松谷化学工業株式会社研究所第二部3Gグループリーダー 岡崎 智一

はじめに

 現在の日本では、食の多様化が進んでおり、長期保存性や簡便性から、レトルト食品、冷凍食品、乾燥食品など様々な形態の食品が開発され流通している。中でも冷凍食品は鮮度やおいしさが長期間保たれることから、業務用・家庭用を問わず広く流通している。また調理済み、下ごしらえ済みということから、簡便性にも優れており、家事の軽減だけでなく、飲食店などでも品質の安定性と調理作業の軽減を目的に広く使用されている。
 
 一連の冷凍食品の安全性への不安や経済状況悪化の影響を受け、平成20年以降の日本での総消費量は減じていているものの、今年に入り回復の様相を見せている。またアメリカの国民1人あたりの冷凍食品の年間消費量が69.1kg(2007年)であるのに対し、日本は約20kg前後で推移しており、単純に比較はできないが、今後も伸びていくことが予想される。(*1)
 
 冷凍食品は水産物・農産物などの生鮮食品と調理食品に分類される。調理食品には、米飯、麺、パンなどの主食、フライ類、ハンバーグ、中華点心に代表される惣菜類やデザート・和菓子に至るまで、様々な食品がある。また、再調理方法・解凍方法も電子レンジ、フライ、オーブン、スティーム、など多岐に渡っており、最近ではより簡便さを求めて、自然解凍で食するものも増加している。
 
 さらに健康を意識した低カロリー食や、病院食・介護食といった分野の冷凍食品も開発されている。このように多岐に渡る食品の中には、従来からでん粉を使用するものも多いが、冷凍するだけでは、鮮度や美味しさを保つことが難しい食品も多く、加工でん粉などを用いて様々な改良がなされている。本稿では冷凍食品における加工でん粉が果たす役割をそれらの使用方法と共に紹介していく。
 
 

1.冷凍食品の課題

 冷凍食品は、水を固定し低温に保つことによって菌の繁殖を抑え長期間の保存を可能としている。しかし、でん粉を使用する食品は、冷凍時、解凍時にでん粉の老化が急激に進行し、離水や食味の低下など品質の劣化が起こる。でん粉の老化は十分に時間をかけ再加熱すると、ある程度もとの状態に戻るが、短時間で解凍する電子レンジ調理、流水解凍や自然解凍で食する場合は、品質に大きく影響する。
 
 糖類を加えたり、乳化剤を添加し、老化を抑制する方法もあるが、一般的に老化耐性を得るには加工でん粉が適している。加工でん粉にはでん粉に物理的処理を加えたもの、化学的処理を加えたもの、その組合せによるものなど多種類があるが、耐老化性に適しているのは、でん粉に酢酸基をエステル結合で付加・導入した酢酸デンプン(アセチル化でん粉)や、ヒドロキシプロピル基をエーテル結合により付加・導入したヒドロキシプロピルデンプン(エーテル化でん粉)である。これら官能基の付加・導入による老化の改善は、それにより親水性が増すとともに、老化の原因であるでん粉分子の再配列に付加された官能基により立体障害が生じるためと考えられている。
 
 加工でん粉は、老化耐性以外にも冷凍時の蛋白組織の変性の抑制や、調理加工時の物性の制御、食感改良といった新規テクスチャーの付与など幅広い分野で使用されている。次に個々の使用方法について説明する。
 
 

2.たれ・ソース類

 一般に中華のたれやホワイトソースなどはでん粉や小麦粉でとろみを付けている。しかし、生産時に過加熱や機械撹拌により粘度が低下し、求める粘度が得られないことがある。これは糊化時に膨潤したでん粉粒が熱や機械せん断力で崩壊することにより起こる粘度低下現象(ブレイクダウン)が原因である。また甘酢など低pHのたれの場合、酸による加水分解が起こり、やはり粘度低下の原因になる。
 
 これらを改善するには、架橋でん粉が適している。架橋でん粉は、でん粉分子中の水酸基間にリン酸やアジピン酸をエステル結合して架橋構造を取った加工でん粉であり、でん粉粒の膨潤を抑制することにより、耐熱・耐酸・耐機械せん断性を持つ。冷凍食品における、たれ・ソース類は、でん粉の老化による粘度低下や離水、ゲル化などを防止するために老化耐性も要求されるため、エーテル化・アセチル化と架橋、両方の加工を施した、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン(エーテル架橋でん粉)やアセチル化アジピン酸架橋デンプン(アセチル架橋でん粉)などが、適している。
 
 図1はワキシーコーンスターチとそれに処理を施したエーテル架橋でん粉の冷凍・解凍時の粘度安定性を示すグラフである。でん粉濃度5%、砂糖15%で糊化させ、でん粉糊液の冷凍・解凍を繰返しそれぞれの粘度を測定した。原料でん粉に比べエーテル架橋でん粉は、冷凍・解凍を繰り返しても粘度の低下が少ないことが示されている。原料でん粉は老化により保水性が低下し、粘度を維持できないのに対し、加工でん粉は保水力を維持し安定性に優れていることを示している。
 
 図2は、同様のでん粉を濃度5%で糊化し、その後ホモミキサー5000rpmで撹拌した時の粘度変化を示すグラフである。原料でん粉が撹拌により粘度低下しているのに対し、加工でん粉はその影響をほとんど受けていないことが分かる。
 
 
 
 
 
 最近の冷凍食品では、多種多様のたれ・ソース類が開発されており、求める物性やテクスチャーによって、使用される加工でん粉が選択されている。
 
 中華のたれは曳糸性の強いテクスチャーや透明感が求められるのでばれいしょでん粉を原料にした加工でん粉、ホワイトソースは滑らかなテクスチャーが求められることからワキシーコーンスターチを原料にした加工でん粉、味の薄い和風たれにはでん粉臭の少なく透明性に優れたタピオカでん粉原料の加工でん粉が適している。
 
 さらに最近では、カレーソースやホワイトソース類により滑らかなテクスチャーを追求して、もち米でん粉やもち種のばれいしょでん粉を原料にした加工でん粉なども試みられている。
 
 

3.水産ねり製品・ゲル状食品

 かまぼこなどにはアシ(かまぼこの持つ弾力の強い独特の食感)の補強として古くからでん粉が使用されている。季節商品である正月用のかまぼこや輸出用かまぼこは長期間の保存が必要なので冷凍かまぼこが利用されている。冷凍・解凍時に蛋白の変成やでん粉の老化が進行し、組織が層状に変成し離水などの現象が生じる。この劣化現象を耐老化性を持つ加工でん粉の利用によって抑制し、解凍後も粘弾性に富んだ良好な状態の商品設計を行っている。
 
 図3はこれらの条件に対応できるようにばれいしょ由来のアセチル化でん粉とタピオカ由来のアセチル化でん粉をすり身に対して20%添加しソーセージを作る時に用いるケーシング中でかまぼこを調整、−20℃で冷凍、自然解凍を繰り返した時の離水を10kgの加重をかけた圧出水分として測定した値を示している。冷凍による離水防止にアセチル化でん粉が効果的であることが顕著に示されている。離水が多いほど組織の変成が大きく、加工でん粉による効果が大きいことがわかる。
 
 
 
 
 卵製品、こんにゃく、豆腐などは、冷凍・解凍すると、離水が激しく、顕著なスポンジ化が起こるため、従来冷凍することが困難とされていた。しかし、優れた老化耐性を持つ置換度の高いエーテル化でん粉により、弾力感やきめ細かな食感が維持できる。
 
 実際の応用例としては、冷凍のだし巻き卵には小麦やワキシー原料のエーテル架橋でん粉を約3%添加するとよく、冷凍こんにゃくにはタピオカのエーテル化でん粉をこんにゃく粉の約2倍量、加えるとよい(*2)。また冷凍揚げ出し豆腐の豆腐には、タピオカのエーテル架橋でん粉を2%程度添加して冷凍耐性を付与している。
 
 

4.フライ類

 フライ食品は、手間がかかる、汚れるなどの理由により家庭で調理することが少なくなっており、フライ済み調理食品を電子レンジ解凍したり、スーパーなどの店頭で既にフライされたものを購入し電子レンジで暖め直すものが主流となっている。これらの食品の課題は、冷凍中や店頭陳列時、および電子レンジ調理中の衣への水分移行であり、揚げたてのサクサクとしたクリスピー感が損なわれてしまうことである。
 
 一般的に工場生産するコロッケなどのフライ物は、小麦粉、でん粉、蛋白などをミックスした粉を水溶きし、ペースト状にしたもの(バッター)に中種をつけた後パン粉をつけてフライする。衣への水分移行の問題を解決するために、バッター中に各社で開発している特種な油脂や蛋白を入れるなど、さまざまな工夫がなされているが、でん粉の粒形を保持することが重要であることが分かってきた。
 
 中種から衣への水分移行による問題を解決するために、バッターに使用されるでん粉としては、水分を吸収しにくく、また吸収したときに糊感がでたり、弾力がでたりしない特性が求められる。そこで最近ではでん粉粒の膨潤力を抑えた架橋でん粉が多く使用されている。架橋でん粉はフライによりでん粉粒が膨潤しにくく粘性が低いため、被膜ができにくくもろくて崩れやすいサクサクとした食感の衣を作る。
 
 また、水分吸収が小さくなるため、水分も移行しにくくなってクリスピーな食感の持続時間が長くなる。そのうえ、冷凍中に生じる衣の曳きなどを軽減させることもできる。フライの種類や中種、製造工程、流通工程などによって、好ましい架橋度やその原料でん粉に違いはあるものの、おおむねでん粉粒の膨潤度4〜15程度のものが効果的である(*3)。
 
 図4はタピオカの架橋でん粉で作ったコロッケの衣部分のでん粉粒を観察した光学顕微鏡写真である。架橋度が高くなるに従ってでん粉粒も膨化が抑えられていることがわかる。でん粉は粒が膨らめば膨らむほど粘性を生じ、吸水能力も高くなるので、膨潤が小さいほど粘らずサクサクとした食感となって吸水性も低くなり、架橋度の高いでん粉の方が目的の製品を作るのに適している。しかし、架橋度が高くなると粉っぽさがでたり、衣が脆くなりすぎ崩れやすくなったりするので、最適な加工度のでん粉を選ばなければならない。
 
 
 
 酸化デンプンやデキストリンもまた、低粘性でん粉でフライ食品に使用するとサクサクとしたクリスピーな食感の衣を得ることができる。天ぷらなどでは以前より使用されているが、パン粉付きフライのバッターでもクリスピーな食感を付与する目的や、さらに油脂との併用で衣の曳きが少なく、中種から衣へ水分移行しにくい被膜を作るために使用されるようになっている。
 
 そもそもクリスピーな食感は衣が乾燥していると生じるもので、揚げたての場合はフライ時に水抜けが良い方がよいし、フライ後は水分を吸収しにくいものがよい。この両方の観点からも架橋でん粉やでん粉分解物など低粘性のでん粉は効果があり、広くフライ食品に使用されている。低粘性のでん粉には、でん粉粒の膨潤を抑制することによって粘度を抑える架橋でん粉とでん粉分子を低分子化して低粘度としたでん粉分解物がある。両でん粉ともクリスピーな食感の衣を作るが、架橋でん粉は被膜性がなくもろい食感になり、でん粉分解物の場合はクリスピーな被膜性を持った食感になる。
 
 

5.その他

 冷凍のハンバーグや中華点心などにも加工でん粉を使用して様々な工夫がなされている。糊感が少ないアルファ化でん粉を5%程度配合することにより、電子レンジ解凍後でもジューシーでソフトな食感のハンバーグや肉団子を作ることができる。
 
 また冷凍餃子は、冷凍焼けと呼ばれる乾燥により耳が硬くなってしまい、電子レンジ調理では軟らかくなりにくい。これに対し、アルファ化でん粉を添加して生地への加水量を多くしたり、水和力を強めるためエーテル化でん粉を配合した上で、でん粉分解物水溶液で餃子表面を処理するなどの方法が考え出されている。(*4)
 
 
 以上、主に惣菜類に関して述べてきたが、主食関係やデザート関係への一例を以下にまとめる。
 
 冷凍麺は解凍すると小麦粉中のでん粉が老化によって粘弾性が低下し、ぼそついた食感になる。冷凍耐性を持つタピオカの加工でん粉を10〜20%使用することで、冷凍・解凍による老化を防止し、つるみと腰のある食感を維持することができる。流水解凍麺は解凍時に熱をかけないため、さらに強い老化耐性が求められるが、高置換度のエーテル化でん粉を使用することで対応できる。
 
 米飯類には艶だしを目的にでん粉分解物が使われることがあり、また焼きおにぎりの結着剤として加工でん粉が使われているものもある。
 
 くず桜などの和風デザートでは、もともとくず粉などを使用して作っているのだが、冷凍・解凍すると透明感が失われ白濁してしまう。ばれいしょでん粉原料のエーテル化でん粉もしくはエーテル架橋でん粉など耐老化性の加工でん粉を使用すると、透明でみずみずしい状態が保たれる。
 
 冷凍のワッフルや回転焼きなどの生地ものにおいても、老化耐性のあるでん粉で口溶け感を維持できるし、最近流行のモチモチ感を付与することもできる。また、ケーキ類なども自然解凍するとでん粉の老化により、ボソボソして口溶け感が悪くなるが、老化耐性のある加工でん粉で改善されている。
 
 

6.おわりに

 以上のように冷凍食品におけるでん粉や加工でん粉の役割は大きく、多種類の冷凍食品に、様々な目的を持って使用されており、必要不可欠な素材として認知されている。
 
 今後も利用方法のアイデアや機能性に優れた新しい加工でん粉により、さらに用途は広がり、新しい機能を持つ冷凍食品が増えていくと考えられる。
 
 

<参考文献>

(*1)社団法人日本冷凍食品協会調べ
(*2)坪本穂積:月刊フードケミカル3月号(2002)
(*3)特開平09−215478
(*4)特開2005−065533
 
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