独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター 専門員 村井 勝
【要約】 年間約10万トンにも達する北海道特産の農産副産物「ばれいしょでん粉粕」については、高水分、貯蔵中のカビ発生、そうか病の伝播等々から、飼料への利用はわずかであった。他方、国の指針として飼料自給率向上や資源循環型農業の振興などが強く叫ばれ、ばれいしょでん粉粕も飼料資源としての利用技術の開発が求められていた。
こうした状況の中、カビ防止の貯蔵技術、サイレージ調製、乳・肉用牛への給与技術及びそうか病の伝播防止技術について検討し、サイレージ調製による飼料利用がそうか病の伝播抑制に貢献できることなど、一定の成果を得た。
粉状そうか病での新たな課題の発生がある中、でん粉粕を核とする資源循環型の農業技術システム構築に向け、耕種部門と畜産部門とが共に益する技術という共通の視点を持って取り組んでいくことが、今もっとも大事である。
1.はじめに 日本国内で、でん粉粕が産生されている地域は、九州と北海道のみである。いずれも原料からでん粉を分離した時に産生する固形残渣物で、九州での原料はかんしょであり、北海道はばれいしょである。しかし、これまではこの副産物に大きな注目もなく、原料イモ集荷圏内で堆肥の資材にして畑地に還元する程度で、つい最近までは飼料としての利用も低いものであった。
ばれいしょでん粉粕の原料であるばれいしょは、北海道畑作の重要な基幹作物の一つで、全国生産量の約80%(200〜250万トン/年)を占めている。生野菜あるいは加工食品用以外に、でん粉用としては80〜90万トン/年 仕向けられ、ばれいしょでん粉粕が年間9〜10万トン産生されている。でん粉粕の産生は、ばれいしょの収穫期間である9月〜11月の3カ月間であり、季節限定となる。生産地も、大規模畑作地帯の網走と十勝地区に偏り、両地域で全体の95%前後を占めている(図1)。以前は北海道内各地にあったでん粉工場も、安価な輸入でん粉が増えるにつれ、現在は網走および十勝地区の大規模工場に集約されつつある。
ごく最近まで、ばれいしょでん粉粕は、(ア)高水分(75〜85%)かつ粘土質で扱いづらい(イ)カビが発生し腐敗し易く悪臭が発生する(ウ)そうか病の伝播−等々から、積極的な利用技術の開発が進まず、却って産業廃棄物扱いでの処理方法が検討される、という状況にあった。他方、国の指針として、飼料の自給率向上や、環境保全に配慮した資源循環型農業の振興が強く叫ばれ、ばれいしょでん粉粕も飼料資源としての活用が求められた。そこで、平成16〜18年にわたり農水省プロジェクト予算で集中的な技術開発研究が行われ、その後も新たな病害汚染伝搬防止についての検討が進められている。本稿では、これらの一連の検討成果を紹介するとともに、求められている資源循環型農業技術にはどんな視点が必要か、でん粉粕を核とした畑畜連携の一モデルとして紹介したい。