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油脂加工でん粉の特性と利用技術

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最終更新日:2011年7月8日

油脂加工でん粉の特性と利用技術

2011年7月

日本食品化工株式会社 研究所 安東 竜一


【要約】

 油脂加工でん粉は、でん粉に微量の食用油脂を付着させて処理することで製造される食品用でん粉である。加熱調理時にタンパク質成分と結着する機能を有していることから、フライ食品や水畜練り食品などの惣菜に広く使用されている。油脂加工でん粉の製造及び利用技術は日本で独自に培われたものであるが、海外でのニーズが急速に高まり、東南アジア、中国、欧州を中心として世界的に普及しつつある。

1.油脂加工でん粉とは

 油脂加工でん粉とは、でん粉粒の表面に微量の食用油脂を付着させて処理したでん粉であり、惣菜類を中心とした加工食品の原材料に用いられている。油脂加工でん粉の最大の特徴は、加熱調理時にタンパク質成分と結着することにある。

 例えば、フライ食品の製造において具材と衣の接着面に油脂加工でん粉が存在すると、肉や魚などの具材とフライ衣が良好に結着し、はがれが防止される(図1)。また、水畜練り食品の製造において魚すり身や挽肉に油脂加工でん粉を練り込むと、油脂加工でん粉がタンパク質と結着し、食品組織中からでん粉粒が分離・脱落しにくくなる。その結果、良好な弾力(練り食品では「アシ」と呼ぶ)が得られ、加水量を増やしても良好な食感を維持することから、コストダウンにも寄与できる(図2)。
 
 
 
 

2.油脂加工でん粉の製品別機能

 油脂加工でん粉製品は水畜練り食品向けとフライ食品向けに大別され、用途や求める食感・風味に応じ、使用する油脂や副素材の種類、油脂加工の度合い、原料となるでん粉の種類や加工方法が異なっている。例えば、油脂加工でん粉の原料となるでん粉にアセチル化やヒドロキシプロピル化を施すことで、でん粉の吸水性を高めると共に、でん粉糊の老化耐性を高め、冷蔵や冷凍後の食感変化や離水を抑制することができる。また、原料でん粉に架橋処理を施すことにより、加熱調理時のでん粉粒の膨潤や崩壊を抑制し、サクサクとしたクリスピーな食感を付与することができる(引用文献参照)。

 なお、油脂加工の処理そのものは物理的加工に分類されるため、原料でん粉が非化学修飾でん粉(食品)の場合は「食品」、原料でん粉が化学修飾でん粉(食品添加物)の場合には「食品添加物製剤」として区分される。

 日本食品化工株式会社は油脂加工でん粉のパイオニアであり、日本国内及び世界に先駆けて油脂加工でん粉の工業化にいち早く成功した。当社では、様々な顧客ニーズに対応できるよう、前述した水畜練り食品向けとフライ食品向けのそれぞれにおいて、数多くの油脂加工でん粉製品をラインナップしている。

3.油脂加工でん粉の利用技術

 通常、α化でん粉を除くでん粉は冷水に懸濁しただけでは粘度が発現しない。ところが油脂加工でん粉は、その加工度を高めることによって、冷水に懸濁した状態でも粘度を発現させることができる。これはでん粉の糊化によるものではなく、でん粉粒同士の密な凝集によるものであり、そのでん粉懸濁液はホイップ性に富む。

 フライ食品用途にでん粉を利用する際、具材の表面に打ち粉としてでん粉をまぶす方法と、でん粉を水に懸濁した液(フライ食品では「バッター」と呼ぶ)を具材に塗布する方法が挙げられる。バッターによってでん粉を具材に塗布する場合、加工度の高い油脂加工でん粉を用いることで、適度に粘度のあるバッターを調製することができ、具材へのでん粉の均一な塗布が容易になる(図3)。さらにこの粘度が高ければ、加水量を増すことでバッターの重量当たりの単価を下げることも可能になる。ただし、バッターに乳化剤や粉末タンパクなどを配合した場合、配合量によってはでん粉粒同士の凝集が解け、粘度が極端に低下することがあるので注意が必要である。

 また、油脂加工でん粉とタンパク質の結着は加熱時に発現するが、加熱肉やハムのようにすでに素材中のタンパク質が熱変性していると、十分な結着性が得られない場合がある。また、海老などのように表面が比較的滑らかな具材にも満足に結着しないことがある。これらの具材を難結着素材と呼んでいるが、難結着素材にも良好に結着する油脂加工でん粉も新たに開発されている。
 
 
 水畜練り食品向けの比較的加工度が低い油脂加工でん粉は、漬け込みや注入によって畜肉食品の風味を改良する調味液(畜肉食品において「ピックル液」と呼ぶ)にも用いることができる。ピックル液中に懸濁された油脂加工でん粉は、畜肉食品の加熱調理時に膨潤して水分を保持するとともにタンパク質と結着し、良好な硬さやジューシー感を付与する。

 このように、油脂加工でん粉は惣菜の内部組織と外部表面のいずれも改良することができる。従って、水畜練り食品向けの油脂加工でん粉によって肉の食感やジューシー感が優れ、フライ食品向けの油脂加工でん粉によって衣がはがれない究極のトンカツを作ることも可能である。

4.最近の市場動向

 でん粉の抽出技術や化学修飾に代表されるでん粉の加工技術は欧米で開発されたものが大半であるが、油脂加工でん粉の製造及び利用技術は日本で独自に開発され、国内のでん粉メーカー数社の技術競争によって発達した。近年は日本の食品メーカーの海外進出が目立つが、それに伴って油脂加工でん粉のニーズが海外で急速に高まっている。

 当社では、タイ国に合弁の加工でん粉メーカーを設立し、加工タピオカでん粉を原料とした油脂加工でん粉の製造・販売を行うことで、海外の顧客ニーズにいち早く対応している。さらに、油脂加工でん粉のニーズは日系企業に留まらず、海外における地場の食品メーカーからも注目されている。油脂加工でん粉は、東南アジア、中国、欧州を中心に急速に普及が進んでいるが、当社が開発した油脂加工でん粉製品は、海外においてブランドとして浸透し、各国の顧客から高い支持を得ている。

 また、2010年末に欧州で発生した大寒波を発端に、ばれいしょでん粉の供給量が世界的に不足し、価格も高騰している。ばれいしょでん粉は水練り食品の増量や食感改良にも多く用いられているが、水畜練り食品向けの油脂加工でん粉は、ばれいしょでん粉の代替もしくは一部置換にも利用可能である。

5.今後の展望

 日本国内のでん粉メーカーやその顧客である食品メーカーは、新規な油脂加工でん粉や新たな利用技術の開発に日々取り組んでおり、これは各社から出願される特許件数の多さからもうかがい知ることができる。今日では、「コストダウンが可能で、かつ冷凍耐性のある唐揚げの衣が得られる油脂加工でん粉」といったように、細やかな顧客ニーズを反映して明確なコンセプトを備えた油脂加工でん粉の開発が求められている。さらに、「難結着素材を具材に用いた場合でも満足のいく結着性が得られる」といった、従来の油脂加工でん粉では達成できなかった高度な機能も求められている。当社では、このような新規油脂加工でん粉の開発にも成功して顧客から高い評価を得ており、これらの開発品は将来の主力製品として大いに期待されている。

引用文献

安東竜一 コーンスターチの特性と新加工・利用技術 でん粉情報(2008年5号)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713