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でん粉から作る生分解性緩衝材

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最終更新日:2011年12月9日

でん粉から作る生分解性緩衝材

2011年12月

イージェイ株式会社 生産技術室 室長 阿部 克仁

はじめに

 私たち、イージェイ株式会社は「でん粉」を主原料とし環境負荷の少ない緩衝材の開発・製造・販売を行っています。

 ここでは、当社が何故「でん粉」を使用し緩衝材を作ることに思い至ったのか、今後どのような課題や可能性が「でん粉」にあるのか、などについてお話させて頂きたいと思います。

1.開発の経緯

 当社は以前、塩化ビニル押出製品のパッキン・フレーム加工、フレーム接着・溶着加工や絶縁保護チューブの押出成形製造などを請け負い事業として行っていました。

 しかし、世の中で環境への関心が高まって行く中、環境負荷の高い塩ビなどの製品を作る事よりも、これからは環境負荷の少ない製品を独自に作りたい、下請け事業から脱却し生き残っていくために自社商品を作り環境配慮型製造メーカーとなりたい、と模索した結果、でん粉を使用した生分解性緩衝材に着目するに至ったのです。

 当社は、もともと押出成形技術を保有していたことから、生分解性緩衝材は非常に取り組みやすい開発課題であった事や、市場的にも発泡スチロールなどに変わる環境に優しい商品のニーズが高まりつつあったという事もあり、この緩衝材の独自開発を開始しました。

 しかし、「でん粉」を主原料とする生分解性緩衝材を開発すると決めた段階で、まず問題だったのは、あらかじめでん粉と樹脂を混合し、ペレット状にして市販されている原料ポリマーが高価格だということでした。このまま市販ポリマーを使用したのでは市場競争力の乏しい製品になってしまい、商売にならないとの懸念がありました。そこで私たちは、市販ポリマーは使用せず自社にて比較的安価で購入できる素体原料(でん粉・PVA(注1)・PP(注2)など)を個別に入手し、独自に配合し成形を行う事としました。

 ですから、開発開始当初は主原料に使用する「でん粉」の選定で随分と頭を悩ませました。

 小麦粉・ばれいしょなどを主原料に検討したのですが、成形品表面の色が焦げたように茶色になるという問題や、たんぱく質が多く含まれていて虫が発生しやすいという事で使用を断念したりしました。

 開発を重ね、幾つもの試行錯誤を繰り返す中、「コーンスターチ」では成形品表面の色も白くなる事、他のでん粉と比較して熱に対する安定度がある事、たんぱく質が小麦粉の1/10と非常に少なく虫が発生しにくいという特性がある事が分かりました。

 そうして当社で成形する生分解性緩衝材の主原料を「コーンスターチ」として開発を進めて現在に至っているのです。

(注1)PVA(ポリビニールアルコール)は、親水性が非常に高く、温水に可溶という特徴を持った合成樹脂。
(注2)PP(ポリプロピレン)は、熱可塑性樹脂で、比重が最も小さく水に浮き、強度が高く吸湿性がなく耐薬品性に優れた合成樹脂。

2.製造法とでん粉の役割

 生分解性緩衝材の製造法としては、図のように押出機を使用し、混合した原料を発泡体として成形しています。
 
 
 当社の緩衝材は、緩衝力を得る為に発泡体として繭玉状に成形するのですが、成形の際に従来から使用されているガスや化学発泡剤を使用せず、原料である「でん粉」に混合した水の力によって発泡させる事を特徴としています。この水発泡という製法により製造時の環境負荷が軽減されることとなります。

 また、地中などに廃棄しても分解が早く、焼却した場合でも残留する化学物質に由来する有毒ガスが発生しないことから、使用後も環境にやさしい緩衝材であるといえます。

 主原料であるコーンスターチがミキサーで混合される際に、その分子の中に水分を閉じ込めてくれます。そうして水分を含んだ「でん粉」は押出機内でスクリューにより混練・加熱され圧縮されて行き、先端のノズルから開放される瞬間に小さなセルの皮膜となり連続的な発泡体となります。

 白色から半透明の皮膜によって「でん粉」は発泡体のセルを形成してくれます。しかし、「でん粉」だけの発泡では緩衝材に必要な弾力・反発力に乏しい硬くもろい発泡体になってしまいます。

 そこで、「でん粉」に若干の樹脂を混合しバインダーとする製法を取っています。使用するのは、PVAなどです。

 樹脂を使用する事により、でん粉皮膜に柔軟な伸びを付加し、発泡時にも破泡が少なく弾力があるセルが形成されます。熱に対して脆弱な「でん粉」の機械混粘時の熱安定性や流動性を高めてくれる役割もあります。当然ですが、「でん粉」に混合し使用する樹脂の量は、容器包装リサイクル法や市町村での燃えるゴミとしての分別基準における非プラスチック扱いに準ずる49%以下に抑えています。

 「でん粉」は加熱により粘度の低下(ブレイクダウン)が起こり、その現象はでん粉粒子の膨潤の程度と相関関係にあると言われています。穀物でん粉であるコーンスターチは膨潤しにくく最高粘度が低くブレイクダウンも小さいので発泡に適しています。それでも押出機による連続的なせん断力などで劣化してしまう性質を維持し成形させるには若干の樹脂の混合が必要不可欠となるのです。

3.製品の機能・特性

 当社製緩衝材は、「でん粉」を主原料としている為、廃棄時の環境負荷が他のプラスチック製品に比べ大幅に軽減されている事に特徴があります。

 廃棄時に地中に埋めた場合は、約半年で原型をとどめなくなり約一年後には微生物によって分解されてしまいます。また、PVAも土中約一年間程度で分解します。
 
 
 また、焼却の場合でも燃えるごみとして廃棄することができ、その燃焼カロリーも従来のプラスチック製品の約半分で済みます。そして、ダイオキシンなどの有害物質の発生もありません。石油原料使用によるCO2排出の抑制や低減にも貢献するものと当社では考えています。

 また、従来のプラスチック製品のように帯電する事もほとんど無く、静電気も発生しにくいので、精密機器や電子部品などにも安心して使用していただけます。これは、「でん粉」を主原料とする事により成形品自体が乾燥時でも10〜15%程度の水分が保たれているからではないかと考えています。

4.最近の市場動向

 生分解性プラスチックは、原料が高価である事でコストが合わず実用化・製品化に至らないケースも多いものの、地球環境への負荷を軽減できる素材としてリサイクルが難しい分野への応用が期待されています。

 確実に環境への配慮は世界規模で高まっていますし、徐々にではありますが身の回りの小さな所から生分解性に変わった物が見られる様にもなってきています。今後どのようなきっかけで生分解性という市場が再度注目されるか分かりません。常に環境に配慮した技術と精神で、この生分解性品市場の動向を見極めて行かなければならないものと考えています。

5.今後の課題と可能性

 「でん粉」使用の当社製品の課題といえば耐水性ということが1番に挙げられます。

 現在は、湿度が高い状態でも20%程度製品の収縮が起こってしまいます。又、製品に水が掛かってしまうと、吸水しボロボロに崩れてしまいます。ですから、水濡れの可能性がある状況だけではなく結露しやすい製品又はその状況下での使用が制限されてしまうのが現状です。そのため、輸出時に当社緩衝材を使用されるユーザーに対しても性能維持の観点から船便・コンテナでの使用は極力避けて頂いています。

 この耐水性という問題こそが「でん粉」由来の発泡緩衝材の課題であり、発泡スチロールや他のプラスチック緩衝材ほど普及が進んでいない最大の要因でもあります。

 「でん粉」の分子構造や特性をもっと理解し、化工でん粉などの特性を応用することなどによって製品の弱点を解決することができれば、「でん粉」主原料の緩衝材でも新たなユーザー・用途開拓の道が開けて行くものと思っています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713