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でん粉利用製品の新しい形「黒蜜味付きのオブラート」

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最終更新日:2012年4月10日

でん粉利用製品の新しい形「黒蜜味付きのオブラート」
〜道産でん粉を用いたオブラートの高度利用〜

2012年4月

株式会社天狗堂宝船 代表取締役 千葉 仁
 

【要約】

 北海道銘菓である「きびだんご」は、製品の形状保持や包材との付着防止のためオブラートが必要です。このオブラートに黒蜜や醤油などの風味を添加することにより、オブラートの食材としての新たな機能付加ができ、きびだんご製品の新たな製品設計が可能となりました。

1.北海道の「きびだんご」とは

 北海道には北海道開拓の時期より「きびだんご」という銘菓が広く普及しています。北海道銘菓として道民に親しまれてきた「きびだんご」は、岡山県名物の餅粉やきび粉を使った羽二重餅の「吉備団子」とは全く異なる、北海道独自のお菓子です。では、なぜ「きびだんご」という名前を付けたのか?このお菓子は「事が起きる前に備え、団結して助け合う」という意味の「起備団合」という字を当てて発売されたのが始まりと言われています。北海道開拓にあたった屯田兵の携帯食に由来したことから、北海道開拓時の助け合いの精神と、「きびだんご」が誕生した大正12年に起こった関東大震災復興の願いが込められています。誕生当時は日持ちと腹持ちの良さから災害時用の非常食として重宝されていました。

2.きびだんご、餅シリーズ製品の製造工程

 当社は昭和43年より北海道銘菓である「きびだんご」製品の製造販売を行っています。また、きびだんご製品の製造技術をもとにガゴメ昆布(北海道道南地域で産する昆布の一種)、きなこ、くるみなど練り込み、素材生地を変えた餅シリーズ製品の製造も行っています。

 名前の由来でご紹介したとおり、「きびだんご」は北海道独自のもので「吉備団子」とは異なる原料、製法で作られます。北海道生まれの「きびだんご」や餅シリーズ製品が出来るまでを弊社の製造工程を例にご紹介します。


○工程1−原料を混ぜ合わせ、餅を作る。
 「きびだんご攪拌鍋」で餅粉や砂糖、水飴などの原材料を混ぜ合わせます。
 ガゴメ昆布やくるみなど、商品別に原料を練り込みベースの餅が出来上がります。
 
 
○工程2−餅をうすく伸ばし、餅を適合サイズに切る(選別)。
 餅をローラーで伸ばし縦横に切れ目を入れます。手作業で4辺の半端な部分をおおまかに取り除きます(写真左)。
 機械が一つずつの重さや形を正確に判別して、規格外のものを取り除きます(写真右)。
 
 
○工程3−包装して仕上げる。
 「オブラート」で製品を包み、その上からラミネート加工をした紙でくるんだ「きびだんご」を包装紙で包みます(写真左)。完成した「きびだんご」が次々と流れてきます(写真中央)。
 この最終工程の「オブラート」は、きびだんご製品にとても重要な材料です。
 
 

3.きびだんごにおけるオブラートの役割

 当社で製造販売している「きびだんご」及び餅菓子製品は、柔らかさをとても大切にしています。このため、製品は粘着性や流動性があります。このため、製品を紙で直接包装すると製品と包材がくっついてしまったり、保管中に製品変形の不安があるため、製品をオブラートで包んでから紙でくるみます。

 このように、きびだんご製品にとってオブラートは形状を保持し、包材との付着を防ぐ重要な役割を担っています。以前はさまざまな食品に用いられていたようですが、現在ではその使用食品群は少なく、オブラートを使用する食品の代表例の一つが「きびだんご」になっているようです。しかし、オブラート利用食品が減少する中でオブラートに馴染みのないユーザーは、まれにオブラートに違和感を感じる場合がありました。当社でも一時は、オブラートは不要と考え、オブラートに変わる形状を保持する方法や包材との粘着を防ぐ方法に取り組んだり、オブラートの厚みを出来るだけ薄くし、最低限の包装資材との付着防止機能や製品形状保持機能を持たせ、それ以外の部分、味や食感はできるだけ存在感を消すような取り組みも行いました。しかし、これらの取り組みを実現するのは容易ではなく、やはりきびだんご製品にはオブラートが必要である、との結論に達しています。
 
 

4.あらたな発想によるオブラートの活用

 平成18年に、「オブラートは、餅本来の味や食感を邪魔しないように極力薄くしたい」という従来の考えとは全く逆の発想で、「オブラートに味を付けて利用する」という新たな方針に転じました。

 当社では、北海道産のばれいしょでん粉を原料としたオブラートを使用しています。提携しているオブラート・メーカーとも連携し試行錯誤の中でいろいろなオブラートの試作を始めました。当初は単純にオブラートに甘みを付けることを試みました。でん粉など主原料も、仕上がりの薄さも従来品と同じで、異なるのは甘味を加えた点でした。しかし、でき上がったオブラートは簡単にパリンと割れ、従来のオブラートのような柔軟性やしっとり感は無くなっていました。原因は、糖が入ったことによる水分活性値の低下にありました。特に冬などの乾燥時期には糖の影響が大きく、きびだんごを包むことは出来ません。

 この対策として、糖度を指標に添加する糖の種類などの改善を行い、十数回の試作を繰り返し、糖の影響でオブラートが硬化する問題も改善されました。
 
 
 このあらたな風味添加オブラートに黒蜜味を添加し、きな粉を練りこんだ餅と組み合わせことにより、深い香りとコクのある風味が広がる新製品(商品名:黒蜜きな粉餅)が完成しました。黒蜜味のオブラートが口の中で溶け合い風味を深める、「インパクトのある味わい」の画期的な商品となりました。
 
 
 さらにオブラートに風味を添加した商品第2弾として、オブラートに醤油のフレバーを添加したオブラートの開発を行いました。蜜で培った経験のもと、糖分を塩分に変えた風味添加オブラートです。このオブラートと、当社のガゴメコンブ餅とを組み合わせた新製品(商品名:ガゴメ昆布醤油餅)を開発しました。
 
 

5.当社の取り組みと今後の展望

 過去には「要らない」という声もあったオブラートですが、味を付けるという今回の開発がみなさんに認められれば、これはもう邪魔ものではなく、必要不可欠なものになるはずです。当社では、このオブラートをきびだんご製品の重要なアイテムと考え、多目的に活用することに今後も取り組む予定です。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713