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タイのエタノールをめぐる情勢

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最終更新日:2012年5月10日

タイのエタノールをめぐる情勢〜政策動向による大きな変化〜

2012年5月

調査情報部
 

【要約】

 タイでは、エネルギーの安定供給を確保するために、原油燃料の輸入依存率を低下させることを国策としており、2008年には「15カ年再生可能エネルギー発展計画(15Years-Renewable Energy Development Plan、以下「REDP」という。)」を定めた。2008年以降のエタノール生産量は、堅調に推移しているものの、増加率は鈍化している。

 政権交代でガソリン価格引き上げの観点から価格縮小というやや逆行する方向性も示され不透明な面もあるが、REDPは引き続き拡充強化の改正がなされ、「10カ年再生可能エネルギー発展計画」が定められた。

 特に、2012年10月までにレギュラーガソリン販売中止などの政策が行われることが検討されており、今後、この政策によるエタノール消費量への影響を注視する必要がある。

はじめに

 2010年に我が国が輸入した天然でん粉14万4000トンのうち、タピオカでん粉はその7割以上を占め、そのほとんどがタイ産である。そのため、タイのエタノールをめぐる情勢、中でもキャッサバを原料としたエタノール生産の動向を把握することは、我が国のでん粉需給を考える上で重要と思われる。

 本稿では、このような最近の同国におけるエタノールの需給動向について報告する。

1.生産動向

〜2011年エタノール生産量は、前年に比べ20%増〜

 タイで生産されるエタノールの原料は、主にさとうきびから砂糖を生産する際に副産物として得られる糖みつである。2012年2月時点で稼働しているエタノール工場は、19工場である。このうち、14工場(223万5000リットル)は糖みつおよび糖汁を主原料としており、残りの5工場(88万リットル)はキャッサバを主原料としている。1日当たりの生産能力は、3工場が施設を増強したことから、前年比6.4%増の311万5000リットルであった(表1)。2011年はじめには、新たに7工場が年内に操業開始の予定であったが、実際に同年内に操業を開始した工場はなかった。これら7工場が操業を開始すれば、1日当たりの生産能力は、533万5000リットルに達するとされる(表2)。操業予定の工場は全て、主要原料をキャッサバもしくはキャッサバチップとしている。害虫発生による生産量の減少で、2010年、2011年のキャッサバ卸売価格はキロ当たり2バーツ以上の高値で推移しており、キャッサバを原料とするエタノール生産の収益は、糖みつを原料とする場合に比べ小さい。そのために、操業のメドが立たなかったと考えられる。
 
 
 
 
 タイの2010/11年度(10月〜翌9月)のさとうきび生産量が、約1億トンと前年度を約4割上回る大増産となったため、同年度の糖みつ生産量は423万5000トンと前年の1.4倍に増加した。この影響により、2011年のエタノール年間生産量は、前年比19.7%増の5億961万リットルであった。また、1日当たりの生産量は、140万リットルとなった(表3)。
 
 

2.価格動向

〜2011年1月をピークにエタノール価格は弱含み〜

 エタノール取引については、エネルギー省が定める参考価格(Reference Price)が指標となっている。当初の価格算出法は、国内のエタノール生産のコストを考慮した生産コスト積み上げ方式であったが、2007年2月より、ブラジルのエタノール輸出価格に輸送費、保険料、関税を加えて算出する方式を導入した。しかし、この方法では低価格による需要増は見込めるものの、マージンが低く抑えられてしまうため、国内製造業者の反発があり、2009年4月より生産コスト積み上げ方式に回帰した。

 2011年以降のエタノール参考価格は、1月に最高値1リットル当たり27.02バーツとなった後は緩やかに下降し、2012年4月に前年同月比13.3%安の同20.29バーツとなった(図1)。
 
 

3.消費動向

〜ガソリンの石油基金への拠出免除により、ガソホール販売量が減少〜

 タイでも、エタノールをガソリンに混合したものを「ガソホール(Gasohol)」と呼んでおり、エタノール混合割合に応じて、E10(エタノール混合割合10%)、E20(同20%)、E85(同85%)の3種類がある。流通の主流は、E10である。E10は、オクタン価(ガソリンのノッキング(異常燃焼)の起こりにくさを表す指標)95と91の2種類(以下、「ガソホール95E10」、「ガソホール91E10」とする。)があり、E20およびE85は、オクタン価95のみである。オクタン価95がいわゆるハイオクガソリン(以下、「ハイオク」とする。)で、オクタン価91がレギュラーガソリン(以下、「レギュラー」とする。)である。

 2011年におけるレギュラーとガソホール91E10の1日当たりの販売量についてみると、ガソホール91E10については、増加傾向で推移していたが、8月に減少に転じ、11月には1日当たり437万7000リットル(前年比14.8%増)となった。

 ハイオクとガソホール95E10の1日当たりの販売量については、2007年4月に初めてガソホール95E10がハイオクを上回った。これはハイオクの販売を制限する政策的誘導によるもので、その後もハイオクの販売量は減少し、最低水準にまで落ち込んでいる。ガソホール95E10の販売量は、ガソホール91E10の販売量が減少したのとほぼ同時期の2011年9月に前月比29.1%減と大幅に落ち込み、8月以前の水準まで回復することなく、11月は1日当たり372万3000リットル(前年同月比39.2%減)であった。

 ガソホール95、91E10の販売量が減少した2011年8−9月と同時期、レギュラーについては、前月比19.3%増と大幅に増加し、11月には同979万4千リットル(同2.9%減)となった。ガソホール95、91E10の減少分が、レギュラー増加分であると考えられる(図2)。
 
 
 E20は2008年1月から販売が開始され、順調に販売量を伸ばしてきたが、ガソホール95E10と同様に、2011年9月減少に転じ、11月は同49万5000リットル(同13.6%増)となった。E85は2008年9月に販売が開始されたが、インフラ整備や使用可能な車が限定されていることから、需要はほかと比べてわずかである。しかしながら、2011年11月には、同2万6000リットルと少量ではあるが、前年同月の3倍であった(図3)。
 
 
 ガソホール95E10およびガソホール91E10の販売量が同時期の2011年8−9月に落ち込んだ背景には、レギュラーとの価格差が小さくなったことが考えられる。ハイオクとガソホールの95E108−9月価格差はリットル当たり9.17バーツから3.91バーツに、レギュラーとガソホール91E10の8−9月価格差は同8.47バーツから3.02バーツとなった。同期間に、ガソホール95E10は1日当たり605万リットルから429万リットルに、ガソホール91E10は同529万リットルから508万リットルと減少した(図4)。
 
 
 これら価格差の縮小は、後述のような政策によるものである。

 ガソリンおよびガソホールの価格は、精油価格+物品税+地方税+石油基金+エネルギー保護基金+付加価値税+市場マージンから構成されている。このシステムは、ハイオク、レギュラーとガソホール95、91E10について石油基金への拠出を義務づけている。(但し、ガソホール95、91E10の拠出額はハイオク、レギュラーよりも小さい。)一方で、エタノール混合割合が高いE20およびE85については石油基金から補助金を交付している。

 2011年8月、現政権のタイ貢献党は、同年7月に行われた総選挙の際のガソリンにおける石油基金への拠出額を免除する公約を実行に移した。同年8月26日に行われた委員会では、ハイオク1リットル当たり7.5バーツ、レギュラー同6.7バーツの拠出を廃止した。これにより、ハイオクとガソホール95E10の価格差は同10.3バーツから同2.28バーツに、レギュラーとガソホール91E10の価格差は同7.4バーツから同0.23バーツとなり、価格差が大幅に縮まった(図5、6)。
 
 
 
 
 この決定は、エタノール普及を目指す政策に矛盾するとして、わずか4日後の30日、ガソホールE10の拠出額を同2.4バーツから同1.4バーツに下げ、E20の補助金を同1.3バーツから同2.8バーツに上げることとした。これにより、ハイオクとガソホール95E10の価格差は同0.23バーツから同3.03バーツに、レギュラーとガソホール91E10の価格差は同2.28バーツから同4.55バーツとなり、26日以降の価格差より大きくなった(図7、8)。
 
 
 
 
 しかし、この価格差は、公約実行前の8月25日以前の半分以下であり、ガソホールの価格優位性が薄れたことを意味する。結果、ガソホール91E10とガソホール95E10の販売減退を招くこととなった。

4.輸出動向

〜2010/11年度の砂糖の記録的増産により、エタノール輸出量も増加〜

 2011年のエタノール輸出量は、前年比175.2%増となる1億2448万リットルであった。これは、タイの2010/11年度(10月〜翌9月)のさとうきび増産によるものである。主な輸出先は、フィリピン、シンガポールであり、この2カ国で全体の輸出量の60%以上占める。
 
 

5.今後の見通し

〜レギュラーガソリン販売中止を検討〜

 タイ政府は、国家レベルで再生可能エネルギー(天然ガス、バイオ燃料、水力、風力、太陽光発電、バイオマスなど)の生産と利用の奨励に取り組んでおり、2011年11月30日REDPを改定した。その内容は、2012年からの10年で、エネルギー使用総量に占める再生可能エネルギーの目標比率を従前に政府が方策した20.3%から25%に増加させる。ただし、エタノールの目標消費量は、1日当たり900万リットルで、従来の目標値のまま据え置かれた。

 以下は、エタノール生産と消費の拡大を達成するために、「10カ年再生可能エネルギー発展計画」において政府が掲げた方策である。


〈生産について〉

・原料となるさとうきびおよびキャッサバの単収増による生産量の増加。
・さとうきびおよびキャッサバ以外の原料作物(アワなど)の生産奨励。


〈消費について〉

・2012年10月までにレギュラーの販売を中止。
・E85利用可能にする技術研究への助成。
・E20に価格優位性を付与することで販売を促進。
・ガソホール91E10、ガソホール95E10、E20、E85の消費者への啓蒙活動。
・自動車メーカーへの物品税の引き下げによるフレックス車生産の奨励。
・政府公用車におけるガソホールE85の使用。・法改正による、エタノール売買の自由化。


 レギュラーの販売中止により、レギュラーが全てガソホール91E10に置き換わると仮定し、試算をすると、1日当たり約80万リットルがエタノールの消費量として増加する。2011年国内消費量は、2011年のエタノール生産量(同140万リットル)の約6割に相当する。

 (試算式) 
828万リットル(2011年1〜11月におけるレギュラーの月平均1日当たり販売量)×97/100(ガソホール91E10燃費/レギュラー燃費)×10%≒80万リットル

 この場合、2011年のエタノール消費量(同約110万リットル)に予想される増加分約80万リットルを加えた約190万リットルが予想される消費量となり、2011年のエタノール生産量に約50万リットル不足することとなる。この不足分のエタノール原料の確保が課題となるであろう。そして、この原料確保の点で、でん粉需給に影響を及ぼす可能性がある。今後もこの政策動向について、注視すべきであろう。
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