マレーシアのでん粉事情
最終更新日:2012年8月10日
マレーシアのでん粉事情〜需要増加とともに輸入が増加〜
2012年8月
調査情報部
【要約】
マレーシアのサゴヤシは、ボルネオ島のサラワク州で約90%が生産されている。日本への輸出が多いサゴでん粉は、工業的生産地域がマレーシア・サラワク州のほか一部の地方に限られていることから、生産量は停滞している。
キャッサバは、機械化に適する農地の不足、でん粉生産コストの多くを占める原料コスト高から輸入タピオカでん粉との価格競争力が劣り、トウモロコシは、商業的トウモロコシ加工工場がないことなどから、キャッサバ、トウモロコシの国内生産は、でん粉および飼料用需要が大幅に増加しているにも関わらず停滞している。
でん粉原料作物のサゴヤシおよびキャッサバの生産量の停滞と、食品におけるでん粉需要の増加は、でん粉輸入量の大幅な増加をもたらすこととなった。また、トウモロコシは、畜産物の需要増加により安価な海外の飼料用トウモロコシの輸入が増加することとなった。
経済成長に伴う農産物需要の増加により、サゴでん粉、タピオカでん粉、飼料用トウモロコシの輸入量は今後も増加するであろう。現在、対日輸出が多いサゴでん粉は、国内の食品向け需要が増加していることから、国内価格の上昇により、輸出から国内市場への出荷にシフトする可能性があると推測される。
はじめに
2011年に我が国が輸入したサゴでん粉は、1万8285トンであり、その内マレーシアからの輸入量は1万4195トンと、我が国にとってマレーシアは最大の輸入先国となっている。近年、マレーシアにおいては、麺類などの食品向けキャッサバでん粉、サゴでん粉および飼料用トウモロコシの国内需要が増加していることから、マレーシアから我が国へのサゴでん粉輸出への影響が懸念される状況である。
このことから、本稿では、マレーシアにおけるでん粉の需給動向について、英国の調査会社LMC社の報告に基づき紹介する。
1.マレーシアの農業概要
マレーシアは、半島部の11州とボルネオ島のサバ州とサラワク州(東マレーシア)の全13 州からなっている。2010年においては、国土面積3300万ヘクタールの内、農地面積は787万ヘクタールである。農地面積は、1970年代、1980年代に行われた積極的な農地開発により、1970年から2000年の間に320万ヘクタールが開発され現在に至っている。
マレーシア農林漁業部門は、国際市場へ輸出されるゴム、オイルパーム、木材などの一次産品を生産・加工するエステート(大規模農園)農業と、一部の工芸作物、米、果実、野菜、畜産、漁業などの食料を生産する小規模家族経営(smallholder agriculture)からなる二重構造となっている。
(1)農業生産額および農業就業人口
2010年におけるGDP 5595億5000万RM(リンギット、2012年7月10日現在TTS 1RM=24.97円)の内、農林漁業部門が占める割合は7.3%とタイの8.3%を下回っており、サービス部門(57.7%)、製造業部門(27.6%)が80%以上を占めている。農林漁業部門においては、オイルパームが30.1%と最大の農業作物となっており、耕種作物部門が18.0%、漁業部門18.0%、林業部門17.6%、畜産部門11.5%となっている。
農林漁業部門の就業人口割合は、サービス部門および製造業部門の発展に伴い減少傾向にあり、1990年の26.0%から2010年では13.3%にまで減少している。
(2)主要農産物の作付面積
農地面積の内、オイルパームの作付面積が485万ヘクタールと61.7%を占めている。オイルパームに次ぐゴムは、価格低下や労働力不足により、オイルパームへの転換により減少傾向であるものの100万ヘクタールと12.7%を占めている。オイルパーム、ゴムに次ぐ水稲は、68万ヘクタールと8.6%を占め、安定して推移している。この三品目で、農地面積の83%を占めている。
一方、でん粉原料作物である、キャッサバ、トウモロコシ、サゴヤシは、各々0.5%、0.3%、0.7%にすぎない。
キャッサバ、トウモロコシ、サゴヤシの内、最大の作付面積を占め、輸出量の多いサゴヤシの主産地は、ボルネオ島のサラワク州であり、全体の作付面積の90%を占めている。
「サゴヤシは、赤道を挟んで南北±10度(緯度)の熱帯の泥炭低湿地多雨林地帯に繁殖し、その分布は、西はインドネシア・スマトラ島から東はパプアニューギニアまでに限定されている。この範囲で自生林および農民の管理しているサゴ林は合計約250万ヘクタールとされ、そのうちの大部分は自生林で、原始的な方法によりサゴでん粉を採取して住民の食用に供されており、サゴヤシ林は僻地が多いため、工業的サゴでん粉の原料に使用されているのは、マレーシア・サラワク州のほか一部の地方に限られている。」 (澱粉科学の辞典、2003年、朝倉書店より)
2.キャッサバ、トウモロコシ、サゴヤシの生産状況
キャッサバ、トウモロコシ、サゴヤシの作付面積は、サゴヤシが2005年に国内価格の下落などにより減少し、その後は緩やかな回復基調にとどまっており、キャッサバ、トウモロコシも停滞している。
サゴヤシは、工業的サゴでん粉の生産地域がマレーシア・サラワク州のほか一部の地方に限られていること、キャッサバは、機械化に適する農地の不足、でん粉生産コストの多くを占める原料コスト高から輸入タピオカでん粉との価格競争力が劣ること、トウモロコシは、商業的トウモロコシ加工工場がないことなどから、キャッサバ、トウモロコシ、サゴヤシの国内生産はいずれも、でん粉および飼料用需要が大幅に増加しているにも関わらず顕著な伸びを示していない。
サゴヤシおよびキャッサバのでん粉原料作物の生産量の停滞、食品におけるでん粉需要の増加は、でん粉輸入量の大幅な増加をもたらすこととなった。 また、トウモロコシは、畜産物の需要増加により安価な海外の飼料用トウモロコシの輸入が増加することとなった。
3.キャッサバ、トウモロコシの貿易動向
(1)キャッサバ、トウモロコシの貿易動向
キャッサバ製品は、ほとんどがタピオカでん粉として輸入されており、2010年では93%がタイからの輸入となっている。
また、トウモロコシでは、畜産業の発展により、養豚、養鶏に係る飼料用がほとんどで、ブラジル、アルゼンチン、インドから輸入されている。
(2)輸入関税
キャッサバ、トウモロコシ、サゴヤシにおける輸入関税は、最恵国待遇では免除されており、輸入ライセンスにおいてコントロールされている。
一方、でん粉における輸入関税は、加工でん粉の膠着剤(HSコード:3505.20)では25%であるが、天然でん粉(トウモロコシ、同:1108.12、キャッサバ、同:1108.14、サゴ、同:1108.19.1000)および化工でん粉(デキストリン等、同:3505.10)においては最恵国待遇では免除されている。
4.タピオカでん粉、サゴヤシでん粉の需給動向
(1)タピオカでん粉の需給動向
タピオカでん粉の国内生産は少なく、2010年における生産量は2万トンにとどまっており、そのほとんどが生産地域で消費されている。でん粉原料用キャッサバは、機械化された生産地がないため、でん粉生産コストの多くを占めるキャッサバ購入価格が高く、輸入タピオカでん粉に対する価格優位性がないことから、消費量が2000年の9万トンから2010年21万トンと急増する中、国内生産は停滞し、タピオカでん粉の輸入量は9万3000トンから19万トンと大幅に増加した。
タピオカでん粉は、主にグルタミン酸ナトリウム、スターチシロップや繊維製品、製紙用の工業原料として消費されている。
(2)サゴでん粉の需給動向
サゴでん粉の生産量は、年間6万トン前後と安定しているものの、消費は、主に麺類用のでん粉の需要増加により増加している。このため、輸入量は2000年3000トンから2010年1万5000トンへと大幅に増加している。
他方、サゴでん粉の輸出量は、日本などへの輸出が穏やかな増加傾向にある。マレーシアのサゴでん粉生産企業は、早くから華僑による商業的なでん粉工場が建設されていたことから、輸出用としてのサゴヤシおよびサゴでん粉生産が可能であったこと、輸出用の品質が確保できていたことなどから、日本を主体に輸出されている。サゴでん粉の国内需要の増加に対しては、タイなどからの輸入により対応している。
サゴでん粉の麺類以外での国内消費は、バーミセリ(細いパスタ)、ビスケット、糖化原料、グルタミン酸ナトリウム、化粧品向けなどである。
まとめ
マレーシアのでん粉生産は、食品部門などにおける需要が増加しているものの、機械化された商業的な原料の生産、商業的なでん粉生産工場の建設が進んでおらず、国内需要増加は、主にタイなどからの輸入に依存している。
輸出が多いサゴでん粉においても、国内需要に対応できず、国内消費の大部分を輸入に依存している。サゴヤシは、泥炭地において育てやすく、ヘクタール当たりのでん粉生産量も高い(でん粉含有率30%)ことから、生産量は増加してきたが、サゴヤシは収穫までの生育期が10〜15年と長いことから、経済作物としてサラワク州以外の地域の栽培は少ない。
マレーシア経済は、経済成長率が2010年には前年のマイナス成長から7.2%のプラス成長に転じ、2011年5.1%、2012年も4%を超えると見込まれている。経済成長に伴う農産物需要の増加により、サゴでん粉、タピオカでん粉、飼料用トウモロコシの輸入量は今後も増加するであろう。
日本輸出が多いサゴでん粉においても、国内の食品向け需要が増加していることから、国内価格の上昇により、輸出から国内市場への出荷にシフトする可能性があると推測される。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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