「平成26年度かんしょでん粉製造事業者と実需者との交流会」の開催について
最終更新日:2015年3月10日
「平成26年度かんしょでん粉製造事業者と実需者との交流会」の開催について
2015年3月
はじめに
当機構は、平成27年2月3日(火)、大阪市内のホテル、大阪ガーデンパレスにおいて「平成26年度かんしょでん粉製造事業者と実需者との交流会」を開催したので、その概要を紹介する。
同交流会は、でん粉原料用かんしょの新品種開発や、製造施設の刷新により、これまで以上に安心・安全・高品質の製品が製造されてきている中で、かんしょでん粉の利用分野を拡大することを目的としている。農林水産省と鹿児島県の後援のもと平成24年から毎年開催しており、今年が4回目、約100名の方に参加いただいた。
1. 第1部 講演会
交流会の第1部として、かんしょでん粉の特性や製造工程における品質管理、かんしょでん粉を利用した食品の特徴や可能性などについて、研究機関、でん粉製造事業者、実需者それぞれの立場から講演をいただいた。6名の講師の方それぞれの演題と主な内容は以下のとおり。
(1)かんしょでん粉の特性と食品への利用について
鹿児島県農業開発総合センター農産物加工研究指導センター研究専門員の時村金愛氏から、次のとおり報告があった。
各種植物でん粉は、粒子の形状や大きさ、でん粉を糊にした時の粘着性、透明度、でん粉ゲルの老化特性(硬くなりやすさ)などが種類によって異なる。
かんしょでん粉は、他のでん粉と比べて中間的な特性を示す。食品用途での利用は、従来わらびもちなど一部に限られていたが、近年、従来の植物のでん粉よりも低温で糊状になる新品種「こなみずき」が育成され、従来品種のかんしょでん粉も含め、多様な食品にかんしょでん粉を利用できることが明らかになってきている。また、従来品種と「こなみずき」のでん粉では、ゲル性菓子(わらびもちやういろうなど)や焼成菓子(スナック菓子、ボーロなど)の食感も異なることから、かんしょでん粉の組み合わせによって加工食品に多様な食感が生じる。
かんしょでん粉は品質が向上し、安心して食品に使用できる国内産でん粉で、ソフトな弾力感と口どけのよさが特徴であり、くずもち、わらびもち、春雨、麺類、水産練り製品、焼成菓子(スナック菓子、せんべい)などに利用できる。さらに、「こなみずき」でん粉は、しっとり感、弾力感など、独特の食感を有し、品質保持効果も高いことからプレミア感の付与も可能であり、ゲル性菓子、麺類、水産練り製品、ベーカリー製品、蒸し菓子、餅製品など、幅広い用途での利用が期待される。
(2)鹿児島ふるさと食材「さつまいもでん粉」の食品用途拡大の取り組みについて
鹿児島県さつまいもでん粉食品用途拡大推進協議会の園田悟士氏から、次のとおり報告があった。
さつまいもは、台風の常襲地帯である鹿児島県において、台風がきても被害が比較的少なく、火山性の土壌であっても生育できる特徴を持ち、古くから栽培されてきている。鹿児島県の多くの農家の所得のベースとなっている重要な作物である。
現在、日本国内のかんしょでん粉工場は、鹿児島県のみに存在するが、かつて(昭和31年)は、全国に1852もの工場が存在し、でん粉は私たちにとって身近なものであった。
「さつまいもでん粉」は、これまで、販売の大部分は糖化用であったが、でん粉事業の永続的安定のためには、食品用の需要を拡大することが重要である。
当協議会は、鹿児島県特産のさつまいもでん粉の食品利用、消費拡大などを目的として、生産者団体、消費者、管理栄養士、食品産業事業者、鹿児島県経済農業協同組合連合会、鹿児島県などから構成され、平成25年から活動を行っている。今年度は、関西地区の食品事業者に対するアンケート調査や、鹿児島県内での「さつまいもでん粉食品利用コンテスト」などの活動を行った。
(3)ISO22000とかんしょでん粉の品質管理について
株式会社廣八堂の鹿児島工場長の榎木靖氏から、次のとおり報告があった。
当社は、創業が明治8年、本年で140年になり、主に、本葛・わらび・かんしょでん粉の製造・加工・販売および冷凍食品の製造販売を行っている。福岡本社のほか、鹿児島に工場、大阪、東京に営業所を置いている。
平成12年2月に鹿児島工場、19年3月に本社工場でHACCP対応工場を建設し、20年8月に本社工場、21年8月に鹿児島工場でISO22000(注1)を取得している。
当社のかんしょでん粉の製造の特徴として、 1)原料の工場搬入後、即時処理を行うことで、原料の劣化を防ぎ、履歴を取りやすいようにしている、 2)日曜日は原則稼働しない(休み明けのタンク洗浄の手間が増大するものの、従業員が規則的に働くことができる)、 3)全製品のロット管理と菌検査の実施により先入れ、先出しと高度なユーザーの対応を行っている、が挙げられる。
品質管理については、赤外線水分計、pHメーター、白度計、色差計など機械的に測定するものと、色調や透明感など人の五感で測る官能検査により行っている。
今後も、ISO22000の食品安全システムを中心に、FSSC22000(注2)の取得を見据えつつ、品質のさらなる向上を目指していきたい。
(注1) ISO22000とは、食品安全マネジメントシステムの国際規格。
(注2)FSSC22000とは、ISO22000とそれを発展させたISO/TS22002-1(またはISO/TS22002-4)を統合し、国際食品安全イニシアテブ(GFSI)が認定したベンチマーク承認規格。
(4)かんしょでん粉を活用した食品利用の取り組みについて
鹿児島協同食品株式会社の製造部日配製造課長の池田智勇氏から、次のとおり報告があった。
当社はJA鹿児島県経済連のグループ会社であり、昨年で設立30年を迎えた。主にハム、惣菜、豆腐、麺類の製造販売を行っている。
かんしょでん粉の活用に至った経緯については、チルド麺の低迷、価格競争の激化、冷凍麺の拡大といった消費動向と、麺部門の取扱高減少、原材料費の高騰といった当社の事業環境の中で、かんしょでん粉の大規模高度化工場の建設といったJAグループ鹿児島の動きがあり、食品用かんしょでん粉の品質が向上したことを受けて、かんしょでん粉を活用した冷凍麺事業を始めた。
かんしょでん粉入り麺の一番の特徴は麺が伸びにくく、鍋料理にも最適であるとともに、味が馴染みやすく、焼いても湯がいても最適であることが挙げられる。また、かんしょでん粉の利用は「地産地消」や「鹿児島らしさ」のPR効果にもつながる。平成23年度から始まった冷凍麺事業は約3年間で1アイテムから23アイテムに増加し、かんしょでん粉入り麺の売上、使用量は約3倍に拡大した。
今後は、「こなみずき」でん粉を活用してワンランクアップを目指した商品開発、鹿児島フェア・海外輸出の取り組みの強化、麺類以外にも商品展開をしていく予定である。
(5)春雨(でん粉原料麺)について
森井食品株式会社の代表取締役会長の森井一晶氏から、次のとおり報告があった。
春雨は、でん粉以外の原料を一切使わずに作るため、商品需要が即、かんしょの消費につながる。
春雨の国内需要は、「ヘルシー」「ダイエット」の切り口で大手メーカーの商品を中心に広がり、現在2万〜2万2000トンで、潜在需要は3万トンとも見込まれる。ただ、約20年前まではすべて国内産いもでん粉(かんしょでん粉・ばれいしょでん粉)のみで製造していたが、次第に中国、台湾、ベトナム、タイからの輸入製品に取って代わられ、現在、国内産いもでん粉の使用量は1万トンを割っている。これは、国内の消費者が総じて安さを求めたためである。
しかし、最近は大幅な円安基調にあり、必ずしも中国産が安いとは言えない状況であり、この機をチャンスとして、何とか国内産いもでん粉に切り替えていきたいと考えている。
しかし、従来どおりの春雨を作っていたのでは、消費者が受け入れてはくれない。春雨は最近、料理の幅が非常に広がってきている。料理ごとに、それぞれのでん粉の特性を生かした使い分けが可能だと考える。
国内産かんしょでん粉の拡大について、業界一丸となって取り組んでいきたい。
(6)かんしょでん粉を利用したかりんとう「カリッと黒べい」の商品化について
食協株式会社の商品開発部商品開発課係長の山内陽子氏から、次のとおり報告があった。
「カリッと黒べい」は、米粉、かんしょでん粉、焚黒糖、こめ油など、数種類のこだわり国産原料を用いて作った点が評価され、昨年秋のフードアクションニッポンアワード2014で審査委員特別賞を受賞した。
「カリッと黒べい」は、上野砂糖株式会社、築野食品工業株式会社、岡部製菓株式会社、当社の4社の共同開発商品で、上野砂糖株式会社が焚黒糖、築野食品工業株式会社がこめ油、当社が米粉、かんしょでん粉を持ち寄り、大阪の老舗かりんとうメーカー岡部製菓株式会社で試作を重ねた。グルテンが豊富な小麦粉を減らし、米粉を増やしたところ、ボリュームが出ない、食感が固い、原価が高い、という課題があったが、小麦粉と米粉にかんしょでん粉を加えることで、ソフトな食感に改良できた上、ボリュームを維持しつつ、原価も数パーセント程度落とすことができた。
国内産かんしょでん粉は品質改良素材になり、食感だけでなく、焼き色を薄くするといった調整など他の和洋菓子への利用も考えられる。
国内産かんしょでん粉は安全安心で、しかも安価という2つの強みを兼ね備える素材であって、実需者の要望にマッチし、さまざまな用途に利用できる可能性がある。
2. 第2部 意見・情報交換会
講演会に続く第2部の意見・情報交換会では、鹿児島県農業開発総合センター農産物加工研究指導センター、鹿児島県さつまいもでん粉食品用途拡大推進協議会、鹿児島協同食品株式会社、全国澱粉協同組合連合会(株式会社廣八堂、日本澱粉工業株式会社、上原産業有限会社)、森井食品株式会社、食協株式会社、三河屋製菓株式会社の7者(当機構含む)がブースを出展した。
各ブースでは、かんしょでん粉やかんしょでん粉を使用したうどん、ちゃんぽん、そば、ラーメン、春雨、葛きり、漬物、お菓子などが展示され、かんしょでん粉を使用したお菓子、春雨、うどんの試食も行われた。
各ブースの周りでは、かんしょでん粉を使用した食品の風味や食感を確認しつつ、活発な意見・情報交換が行われた。
おわりに
交流会に参加した方にアンケート調査への協力をお願いしたところ、その結果は、次のとおりであった。
1) 講演会については、「参考になった」81% 「大いに参考になった」16%
2) 意見・情報交換会については、「役に立った」54% 「大いに役に立った」6% 無回答38%
3) 今後の開催については「参加したい」72% 「どちらとも言えない」24%
また、「試食ができ直接メーカーの方からお話が聞け、今後の商品開発に役立つと感じた」(実需者)、「麺、かりんとうなどを製品化している企業の開発、評価など、実需者のプレゼンが参考になった」(実需者)、「ユーザーの生の声が聞けて実りあるものだった」(JA関係者)とのコメントがあった。
今回の交流会は、かんしょでん粉製造事業者と実需者が交流し、多くの関係者の方にかんしょでん粉の特性・魅力などについて、理解を深めていただける場となったと考えている。
本交流会を契機として、かんしょでん粉の利用分野が拡大することを期待するとともに、今回、講演やブース出展をしていただいた方をはじめとする関係者の皆さま方に深く感謝申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713