異性化糖(HFCS:High-fructose corn syrup)は、1960年代に日本で開発され、その後、米国で商業的生産が始まった。当初製造されたHFCS42
(注1)(果糖分42%のもの)は、甘味が不十分であるとの理由により、その消費量は多くはなかったが、1970年代に、より甘味の強いHFCS55
(注1)(果糖分55%のもの)が開発されると、砂糖に比べて安価であったことから大手の飲料メーカーが砂糖の代替品として使い始め、その後、清涼飲料の消費拡大に伴いHFCS55の消費量も増加し、1999年には米国の異性化糖消費量は、1400万トンまで増大した。
しかし、2000年代に入ると、消費者の自然志向の高まりを背景に食品に対しても「自然(Natural)」を求める傾向が強まったこと、米国砂糖協会が実施した消費拡大の取り組みなどが成果を上げたこと(詳細については、砂糖類情報2009年7月号
「米国で砂糖消費が拡大〜「Natural」をキーワードに展開する消費拡大活動」を参照)、2008年半ばにトウモロコシ価格の高騰により異性化糖価格が上昇したことなどの要因により、砂糖の消費量は減少から一転、増加に転じた。一方、砂糖の代替品として用いられていた異性化糖の生産量および消費量は、砂糖の消費拡大の影響を受け、減少することとなった。
本稿では、北米自由貿易協定(NAFTA)
(注2)の枠組みにおいて、異性化糖および砂糖貿易が完全自由化された2008年から最近までの動きを中心に、米国の異性化糖の生産、消費、輸出入などの需給動向および生産コストについて、英国の調査会社(LMC International)のレポートを基に紹介する。
なお、本文中の為替レートは、1米ドル123円(2015年6月末TTS相場)を使用した。
(注1)異性化糖は、トウモロコシなどのでん粉を分解して得られたブドウ糖に酵素を作用させ、ブドウ糖の約半分を果糖に変えて作られる。当初、果糖のできる割合は42%までにしかならず、甘味度は砂糖に比べ低いものであった。その後、砂糖の甘味度に合わせて果糖分を55%まで引き上げる製法が確立された(砂糖類情報2001年9月号「甘味料の甘さについて」より)。
(注2)カナダ、メキシコ、米国の3カ国によって1994年1月に発効された自由貿易協定。