EUのばれいしょでん粉に係るCAP改革
(注5)は2015年で3年目となったが、現在のところ、業界は廃業もなく変化に順応しているように見える。しかし、ばれいしょでん粉はそもそも生産コストが高い上に、EUと競合するような生産地域が他になかったことなどから、一層のコスト高を招いてきた。このため、長期的に見れば、生産コストの高い工場などは、整理・合理化が避けられないであろうから、CAP改革の影響を判断するのは時期尚早である。
米国では、EUから年間7万トン程度のばれいしょでん粉が輸入されているが、イングレディオン社
(注6)が2015年3月にペンフォード社
(注7)を買収し、ばれいしょでん粉生産へ注力することが計画されている。このため、将来的にはEUから米国への輸出も変化を受ける可能性がある。
今後の需要は、中国がけん引すると予想されている。中国国内のばれいしょでん粉の製造能力は年1万トン以上と公表されているものの、原料不足や設備の老朽化によって、実際の生産量はかなり少ない。そのため、中国は生産量を伸ばそうとしているものの、EUを凌駕するような兆候は今のところ見当たらず、依然として、ばれいしょでん粉生産の主産地はEUに他ならない。
しかし、EUとタイやベトナムとのFTAにより、EUへのタピオカでん粉の輸入関税が軽減されることがあれば、EUのばれいしょでん粉に深刻な脅威をもたらすこととなり得る。ばれいしょでん粉は他の天然でん粉と比較して割高であるため、大口需要者がより安価な選択肢を選ぶことは十分考えられることから、今後のEUのばれいしょでん粉の動向には注視する必要がある。
(注5)ばれいしょでん粉の生産量は、各国ごとに割当数量が設定され、ばれいしょ生産者およびでん粉製造事業者は、割当数量内で生産されたばれいしょおよびばれいしょでん粉に対する補助金を受けることができたが、2012年に廃止された。
(注6)イリノイ州に本社を置く。でん粉製品等製造企業。
(注7)コロラド州に本社を置く。でん粉製品等製造企業。
(4)小麦でん粉
2014年の地域別生産量は、ヨーロッパが84万トン(前年比8.0%増)、アジアが48万トン(同6.9%増)、北アメリカが10万トン(同1.0%増)、オセアニアが9万トン(同6.3%減)であり、全体の半分以上をヨーロッパが占めている(
表4)。
2014年の地域別消費量は、ヨーロッパが82万トン(前年比7.9%増)、アジアが55万トン(同6.8%増)、北アメリカが9万トン(同2.2%減)であり、生産量と同様に最大のシェアを占めるヨーロッパが最大の伸びを示した。